姉歯建築士のマンション強度偽装



   9月に下記の情報を掲載したが、姉歯建築士によるマンションの耐震強度偽装事件に接した。検査会社イーホーム
ズの社長が国会でさかんに現行制度では意図的な偽装は見抜くことはできず、同社の責任というより制度の欠陥であ
ると主張していたが、そういう部分もあろう。国土交通省認定の設計プログラムが簡単に改ざんできてしまうとの報道が
最近なされており、国土交通省は建築士が意図的に改ざんするようなことは想定していなかったと述べている。

  ここで明らかになったことは、第一に、建築関連従事者は意図的に悪いことはしないという性善説に立った建築確
認制度であるということであり、第二に制度が消費者の権利や利益を確保するという視点に乏しいということである。


  建設業界にはそもそも消費者の利益確保の視点に乏しい。彼らには製造業という自覚はないように思う。いわゆ
る手配業である。仕事が入ると人夫をかき集めて仕事をやっつける。そのような、手配師のイメージを持つ。未だに「○
○組」などという社名があるのもそのようなものであるからか? 国土交通省も同様である。たとえば、交通機関の運
賃値上げ申請等を審議する運輸審議会は未だに利用者(交通消費者)を「利害関係人」ではないとしており、異議申し
立て権を排除しているのだ。

  今回の事件は、検査業務の民営化という政策の欠陥とも言われるが、民営化しなかったら起きなかった事件かとい
うとそうでもなさそうである。事実、検査で偽装を見逃した自治体も出てきている。イーホームズの社長が我が社だから
自ら公表できたと主張しているが、一年以上前に日本ERIという検査会社が偽装情報を得ていながらそれを隠蔽してい
たとされ(同社では情報が上層部まで報告されなかったとしている)、そうした面もあるかもしれない。今後、解明されな
ければならいない点は多いが、 やはり対策は違法行為を働く者はどこにも必ずいるという前提で、それを監視し、違
法行為が決してやり得にならないような制裁機能を強化することにつきるではないかと再認識した。



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             専門家が支える我々の消費生活
                                                                       
  

  現代社会においては衣食住のほとんどすべてで、人は消費するものを自らが作るのではなく、取引によって商品や
サービスとして購入して、暮らしている。一部自給自足の生活をしている人もいるが稀である。あるいは食事は自分で
作る、家をDIYで建てたというような話も聞くが、それとて必要な材料や資材のすべてを自分で生産することはできま
い。ケネディ大統領が言ったとおり、われわれすべてが消費者なのである。


  言い換えれば、我々は、生きていくために必要な多くのもの安全性や品質の確保をどこの誰とも知らない他人に任
せていることとなる。今日、昼に食堂で食べるたった一食の食事に有害物が入っていれば、たとえ、日本国の最高権力
者である総理大臣でさえ、生命身体が危険な状態になり得る。なぜならば消費者はだれでも生身の人間であるからで
ある。そして消費者は流通過程における最終段階に位置する者であるので、商品やサービスによる危害、あるいはカ
ルテルによる価格の吊り上げ等取引条件のリスクについて、次の取引相手にそれを転嫁するということはできず、その
すべてを引き受けなければならない立場にある。消費者政策が重要である所以である。


  消費者の安全・利益の確保のためには行政の規制も重要ではあるが、根本的な問題は専門家としての事業者が
モラルを守り、注意義務を尽くすことである。複雑化・高度化した商品・サービスの提供を受けて生きている現在の消費
者は自らがリスクを回避する能力や手段を持たない場合が多く、その責任は専門家たる事業者に課さざるを得ない。
「買主よ注意せよ!」(caveat emptor ,let the buyer beware )の時代から「売主よ注意せよ!」(caveat venditor ,
let the seller beware )の時代へと変化しているのである。

  しかしながら、最近、信じられないような専門家のモラル低下が起きている。全日空のジャンボ機の操縦マニュアル
がインターネットで販売された事件で、マニュアルは同社の機長が盗み、航空関連商品販売店の店員に売っていたこ
とが明らかとなった。同機長は42歳の男性で、数百万円の借金があり、「金が欲しかった。遊興費に使った」と供述して
いるという。

  調べでは、同機長は羽田空港内にある全日空乗務員の自習室の本棚に保管してあった操縦マニュアル「B747−
400飛行機運用規程」など6冊を盗み、マニュアルのほか副操縦士の制服など計15点を販売店の店員に渡し、約50
万円を受け取っていたという。報道によれば、同機長は42歳で年収2千万円という。このような高禄を食みながら一体
何を考えているいのであろうか?  このような幼稚な専門家に消費者は命を預けているのである。

  もう一件信じられない事件が起きた。カネボウの粉飾決算事件で、東京地検特捜部が、粉飾を指南し故意に見逃し
ていたとして、証券取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)容疑で、会計監査を担当した中央青山監査法人の代表
社員と3名の社員を逮捕した。調べによると同社員等はカネボウ元社長と共謀し、平成十四年と十五年の三月期連結
決算を粉飾し、それぞれ約八百十九億円の債務超過を資産超過と偽るなどした有価証券報告書を関東財務局に提出
した疑いがあるという。

  監査する側が粉飾決算を指南していたとすれば、証券市場の信頼性を失墜させる由々しき行為である。そもそも公
認会計士の社会的存在意義を自ら全面的に否定する行為である。


 消費者の安全や公正な取引は多くの専門家のモラルとそのスキルに支えられている。その維持のためには違法行
為を厳しく罰する法制度も必要であろう。




細川幸一

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