台風
ぼくは彼女を海に誘うため、M君も誘った。M君は助手席に座り、彼女は後部座席に座っていた。彼女を気にしながら、ぼくはずっとM君ととりとめもない話をしていた。
その日は、台風が近づいていたため、ぼくたちが海に着いたころには強い風と小粒の雨が降っていた。そのため、浜辺にいる人たちはごくわずかだ。彼女は水着をつけるのをいやがり泳がなかった。ぼくとM君は、小雨の降るなか、──せっかく来たんだから泳ごう──と云い、広い海を占領した。波はきつかった。泳ぐというより、水と戯れるという感じだった。彼女は海の家の軒下でそんなぼくらを眺めていた。ぼくは彼女の水着姿を見たかった。水平線は雨の向こうに見えなかった。海は濁っていた。M君はいつもより陽気に見えた。ぼくも陽気だった。彼女はこんなぼくたちを見て、いったい何を考えていたのだろうか?
ぼくは秋も近いなと思った。
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