ウサギを追いかける話
 いつも気が荒く、私たちを困らせる灰色のウサギが逃げた。目を離したのは一瞬だったのに、ウサギはめざとく逃げ出した。大変だ。驚いている場合じゃない。私はウサギを追いかけた。
 校庭を突っ切るウサギを私は必死で追いかけた。後ろから同じ飼育委員の竹田君も駆けてくる。ウサギは校庭の端まで来ると、校舎の裏に回って見えなくなった。私は一旦止まって、息を整える。
 好きで飼育委員になった訳じゃない。幼なじみで引っ込み思案のユカが、竹田君が飼育委員になったのを見て、私を誘ったんだ。ユカの考えはいつも見え見えだった。
 その竹田君は私に追いつくと、そのまま追い越し校舎裏へ走っていった。私もまた走り出す。校舎の裏はガケになっていて、フェンス越しの夕日がまぶしい。私が校舎裏につくと、竹田君がちょうどウサギを捕まえようとしていた。走り疲れたのか少し大人しくしているウサギに、背後からそっと手を伸ばす。私は心臓がドキドキして、ゴクリとツバを飲んだ。一瞬の速技で、竹田君はウサギを捕まえた。驚いてジタバタするウサギを押さえ込む。
 「やったね!」妙に弾んだ気持ちで、私は竹田君に声をかけた。彼も手にしたウサギを掲げて誇らしげだ。私は彼に駆け寄り、笑顔を見せた。彼もニカッと笑う。その笑顔が夕日に照らされて、私は少しドキリとした。飼育小屋で待っているはずのユカに、なんだか申し訳ない気がした。


(私ってつくづく夕日好きですよね)

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