猫を助ける話
 人間なんてつまらない、そう思っていた日曜日、俺は、女の子が猫を助ける所を見た。迫る大型トラックに、彼女は何のちゅうちょも見せずに飛び込んだ。白い子猫を抱え上げしなやかに駆ける彼女の、その動きひとつひとつが、俺にはスローモーションで見えた。猫も女の子も無事だった。勇敢なヒーローを、トラックの運転手は怒鳴りつけた。彼女はそれを無視して、抱えていた猫を放してやった。猫はお礼を言わなかった。
 俺はその場に固まってしまった。彼女はすごい。彼女は偉い。彼女は格好いい。けれど人通りのない道の上で、勇敢な少女は何の称賛も受けずに立っている。俺はどうしたらいいのだろう?彼女に駆け寄って、何か言うべきだろうか?それとも、それは俺が言っていいことなんだろうか?俺はぐるぐると思考して、しかし結論の前に走り出していた。
「すごいよ、君。勇気があるんだね。」
 俺は彼女の背中に叫んだ。彼女は振り向き、俺を視界に納めると、少し驚いて見せた。
「あなた、見てたの?」
 俺は大きく頷いた。
「そう……私のこと、誉めてくれるのね。」
「当然だよ。君はそれだけのことをした。」
 俺がそう言うと、女の子は何がそんなにおかしいのか、くすくすと笑った。
「人間も、捨てたもんじゃない、ね。」
 その言葉に、俺は胸がドキリとした。彼女の瞳が輝いていた。


(この女の子は人間じゃないのだと言われました)

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