ハル
 王国の姫君は、魔女によって西の浮遊城へ幽閉された。姫君は王国の光だった。姫君を失い、王国の空から光が消えた。人は夢を見なくなった。長老たちは、姫を取り戻す勇者に、ハルを選んだ。浮遊城は純血の乙女のみが入城を許される場所。ハルは少女であった。
 ハルは勇んだ。ハルは猛き剣士であった。国中のどんな男も、ハルの豪快な剣の前に敗れた。ただひとり、ハルに剣を教えた彼女の父だけが、ハルを打ち負かすことができた。ハルを認めようとしない父を、ハルは見返してやりたいと考えていた。勇者の仕事は、父を見返すには絶好のチャンスだった。ハルは勇み、浮遊城へと旅立った。
 道は険しかったが、ハルは決して挫けなかった。長い旅路の果てに、ハルは浮遊城へ辿り着いた。ハルが門の前に立つと、門は独りでに開いた。城内は暗闇が充満していた。ハルは臆すことなく、中へと入っていった。暗闇の中、一歩一歩進みながら、ハルは姫君を捜した。しかし姫は見つからない。魔女の姿も見あたらない。とうとうハルは、最奥の間にたどり着いた。そこには、煌々と輝く光があった。言葉ではない言葉で、光はハルに語りかけた。それはまさに父の言葉であった。ハルは不意に振り向き、光に照らし出された自身の影が、淑やかな少女であるのを見た。身体の中で何かが輝いているのを感じた。
 ハルは光を取り戻した。王国の空は晴れ渡った。姫君は、ハル自身であったのだ。


(600字でこれはきついと言われました)

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