ぼちぼちでんな

登場人物紹介

ベルモント  人間・男・35歳
 ジョンスタウンに住む没落貴族の交易商人。イサリーズはゴールデンタンの信者にして、この本の主人公。借金を抱えて窮地に立たされているが、果たして巻き返しはできるのか!!

ミリア  人間・女・19歳
 もう一人の主人公。ベルモントと同じくイサリーズ・ゴールデンタンの信者で、彼のもとで働く商人見習い。将来大金持ちになることを運命づけられた美少女(本人談)、だそうだ。

イヴァン  犬・オス・4歳(覚醒後)
 アズリーリアの女祭ユンの同盟精霊。グローランサでもっとも不遇な同盟精霊の一人。ご主人様の無体な命令のため、増える枝毛に悩んでいる。

ユン  人間・女・24歳(自称)
 アズリーリアの女祭にして非道の高利貸し。どこからみても美女なのだが、彼女に恨みを抱いている者は千人は下らない。ベルモントは不幸なことに彼女からお金を借りてしまった。

タバーン  人間・男・38歳
 エティリーズの交易商人。なんとかベルモントの借金返済を邪魔して彼の交易ルートを手に入れようと企む成金おやじ。金歯が自慢。


[前回までのあらすじ]

 昨年の暮れ。  交易商人ベルモントの屋敷の戸をたたくものがいた。借金の取り立てにやってきたアズリーリアの高利貸し、ユンである。  なんと、ベルモントは、あの悪名高きアズリーリアカルトから借金をしていたのだ。商売の資金として借りた金は、ライバル商人タバーンの妨害により、返すことができず、ベルモントとその弟子のミリアは、ユンに捕まってしまう。  ベルモントは、ミリアともども、あわや借金奴隷として売り飛ばされそうになるのだが、ちょうどそのとき、タバーンがやってきて、借金を肩代わりしてやろうかと申しでる。しかしそれは、ベルモントのもつ交易ルートをだまし取るための策略であった。  そのことを見抜いたミリアは、機転を効かせて、タバーンに利息の一部を払わせ、ユンに借金の期限を1年のばして貰うことに成功する。  そんなわけで、急いでお金を作らねばならないのだが……

 ユンが見張り代わりに置いていった同盟精霊のイヴァンとともに、タバーンの妨害も予想される中、果たして、ベルモントたちは期日までに借金を返済することはできるのか!?

 返すお金は6万ルナー。借金返済まで、あと294日。


「むむ、傘張りではだめか?」 

 ……そして、半年が過ぎた

ミリア「え? ちょっとぉ、これはいったい何なのよぉ!」
ベルモント「これこれ、落ち着くのだ」
ミリア「これが落ち着いていられますか!! どうして、いきなり半年も経ってるんですかぁ!?」
ベルモント「まぁまぁ、過ぎてしまったものは仕方がないではないか」
イヴァン「そうそう。光陰矢のごとし、などと申しますし」
ミリア「だぁー、ベルモント様、自分の立場がどうなってるのかわかってるんですか!!」
ベルモント「もちろんわかっておるとも。6万ルナーの借金を抱えて困っておるのだ」
ミリア「胸張って言わないでください」
ベルモント「ははは、すまんすまん」
イヴァン「まあまあ、ミリアお嬢様、そんなに旦那様を責めないであげてくださいまし。何も半年遊んでいただけではないのでございますぞ。借金を返すため、懸命に働いていたではございませんか」
ベルモント「おお、その通りだ。イヴァンよ、良いことを言うのぉ」
イヴァン「ええ、もちろんでございますとも。旦那様にはこれまですっかりお世話になってしまいましたから。こちらで毎日のように白いおまんまを食べさせていただけるのは、すべてベルモント様のおかげでごさいます。ユン様のところにいたころなんて、食事抜きなんて日常茶飯事、その上、白いおまんまなんて夢のまた夢。この銀色の輝きにどれほど憧れていたことか……」
ベルモント「ううう、苦労しておるのだのぉ。ささ、遠慮せず、どんどんおかわりしてくれぃ」
イヴァン「ううう、旦那様〜」
ベルモント「イヴァンよぉ〜」
ミリア「はいはい。で、半年働いてどれだけ儲けたんですか?」
ベルモント「ふっふっふ。聞いて驚くでないぞ。1万ルナーだ」
ミリア「全然足りないじゃないですか」
ベルモント「いや、しかしだな、半年で1万ルナーも稼ぐなど、途方もないことなのだぞ」
ミリア「たしかに、それはそうですけど……」
イヴァン「族長に匹敵するほどの収入でございますな」
ベルモント「ふっふっふ。わしの実力を思い知ったか」
イヴァン「寝る間も惜しんで、造花のバイトをしただけのことはございましたな」
ベルモント「うむ。まったく」
ミリア「で、どうやってあと半年の間に残りの5万ルナーを稼ぐつもりなんですか?」
ベルモント「むむぅ、今度は傘張りのバイトでもするか」
イヴァン「小生も微力ながらお手伝いしますぞ」
ベルモント「おおぉ、やってくれるか」
イヴァン「もちろんでございますとも。旦那様〜」
ミリア「だーかーらー、そうじゃなくってぇ、そんなちまちましたことばかりやっててもだめですってば!! もっとこう、ぱーっと儲かることをしなくちゃ」
ベルモント「むむ、傘張りではだめか? ならば、ここは一つ思い切って、ミルクの配達でも……」
ミリア「ちが〜う!!」
  ベルモント「むぅ。なら、どうしろというのだ?」
ミリア「だからぁ、商売ですよ、商売。どかーんと大きな商売をして、どかーんと儲けましょうよ」
ベルモント「いや、しかしだなぁ、地道に働いた方が……」
ミリア「そんなことじゃ、とても期日までに返済できませんよ」
ベルモント「うむむ、そうかのぉ。しかし、それほどおいしい話があるのか?」
ミリア「そ、それは……これから探すんです!! 大丈夫、なんとかなりますって、きっと」
イヴァン「そんなに世の中甘くないと思いますが」
ベルモント「わしもそう思うぞ」
ミリア「しょうがないでょ! 他に方法が無いんですから。まったく誰のせいでこんなに苦労してると思ってるんですか!!」
ベルモント「いやはや、面目ない」


「めけめけ魚の薫製ではないか」 

ベルモント「で、とりあえず、市場に来てはみたのだが……」
イヴァン「おいしい話というのはありませんなぁ」
ミリア「何言ってるんです、まだ来たばかりじゃないですか」
ベルモント「そうはいってもなぁ」
ミリア「商売で成功する秘訣は、市場のニーズを的確につかむことです!! さぁ、頑張って商売のネタを探しましょう」
ベルモント「ほぉ、結構にぎわっておるのぉ」
ミリア「そうですね、あちこちから商人が集まってきているみたいですし」
イヴァン「主要な商売カルトはほとんどが来ておりますな」
ミリア「主要な商売カルト? 商売カルトってイサリーズとエティリーズだけじゃないんですか?」
ベルモント「うむ、実は違うのだ。純粋に商売をなりわいとしているのは、その二つだけなのだが、他にもあるのだな。それぞれの神殿に一つづつあると思って良かろう」
イヴァン「まとめるとこのようになるのでございます」

商売カルト
 イサリーズ
 エティリーズ
 ロカーノウス
 アーガン・アーガー
 アズリーリア

ミリア「なぁるほど。ロカーノウスはイェルム神殿の、アーガン・アーガーはトロウルの、ってわけですか」
ベルモント「うむ。エティリーズはルナー神殿であるしな。それに、強いて言うならイサリーズはオーランス神殿ということになる」
ミリア「強いて、ですか?」
ベルモント「そう。クラロレラやマルキオニーの連中のところにもイサリーズカルトは広まっておってな、確かにイサリーズはライトブリンガーズの一員ではあるが、もはやオーランシーのものだけではない、というわけなのだ」
ミリア「世界に広がるイサリーズ ってことなんですね」
ベルモント「そのとおりである。そのおかげで交易語が共通語となっておるのだ」
イヴァン「ジェナーテラの方だけではございますが」
ベルモント「むぅ。パマールテラの連中は交易語を知らぬから、野蛮人と呼ばれてしまうのだ」
ミリア「ベルモント様、問題発言ですよ、それ。人権擁護団体からクレームが来たらどうするんですか」
ベルモント「む? そ、そうなのか? うむむむ」
イヴァン「大丈夫でございましょう。所詮は蛮族のいうことでございますから」
ミリア「あんたねぇ」

ベルモント「では、実際に市場を回ってみることとするか」
ミリア「はい、そうしましょう……えーと、この一画は食品関係みたいですね。穀物や果物、お肉がならんでます」
ベルモント「おお、あれはフォックスホロウ名産、めけめけ魚の薫製ではないか。あれは、ブランデーのつまみに最高なのだ。ミリアよ、少し待っておるのだ。ちと買ってくる」
ミリア「あ、ちょっとベルモントさま〜。はぁ、いってしまった。まったくもう、ただでさえお金がないっていうのに、あんな高いものを……」
イヴァン「まぁ、よいではございませんか。この半年で1万ルナーも蓄えたのです。少しくらい褒美をさしあげても」
ミリア「まぁ、それもそうね。ベルモント様がんばったものね」
イヴァン「そうでございますよ。というわけで、小生めは、レッドカウのビーフジャーキーを食したいのでございますが」
ミリア「あんたはだめ」
イヴァン「な、なぜでございますかぁぁぁぁ」
ベルモント「うむ。待たせたな。おや? なぜ、イヴァンが泣いておるのだ?」
ミリア「さぁ? ところでベルモント様、食料品を運ぶってのはどうですか? 食料といえば人が生きていくためにまず必要なものですし、消耗品ですから絶対に売れますよ」
ベルモント「うーむ、だがなぁ、食料は日持ちしないのだ。それに単価も安いし。大儲けは期待できんなぁ」
ミリア「えー、なぜですかぁ?」
ベルモント「うむ。では、簡単に説明しておくとしよう」

 《ベルモンちゃんのワンポイント交易講座 》

ベルモント「ちゃーちゃらかちゃーちゃらっちゃちーちゃーちゃ」
ミリア「なんです? それ?」
ベルモント「もちろん、オープニング曲である」
ミリア「は、はぁ」
ベルモント「さて、まず、儲け、すなわち利益を得るためにはどうすればよいかだが、わかるか?」
ミリア「えーと、仕入れた値段よりも高い値で売ればいいんですよね?」
ベルモント「うむ。基本はそうだが、輸送費も考えねばならん」
ミリア「あ、そっか」
ベルモント「われわれ交易商人はかなり長い距離、品物を運ぶので、輸送にかかるコストも馬鹿にならんのだ」
ミリア「ふむふむ」
ベルモント「では、交易に適した商品に必要な条件というのは何だと思う?」
ミリア「えーと、売れること、ですか?」
ベルモント「いや違う。高く売れること、なのだ」
ミリア「同じじゃないですかぁ」
ベルモント「いや、違うぞ。売れることと高く売れることは違う、とそう書いてあるのだ」
ミリア「???」
ベルモント「では、高く売るにはどうすればいい?」
ミリア「えーと……単価の高いものを扱うんですか?」
ベルモント「ふむ……ふむ……。えーと……なんであったか、むぅ……。ちと待っているのだ(ぱらぱら)」
ミリア「あれ? ベルモント様、何を見てるんですか?」
ベルモント「あ、こら、こっちを覗くんじゃない」
イヴァン「えー、どれどれ、『ベルモント家秘伝・基礎からできる交易講座《初級編》これであなたも交易商人』。ほほう、旦那様のご先祖様がお書きになった書物でございますな」
ベルモント「あ、こら、解説などするんじゃなーい」
ミリア「なーんだ、ベルモント様もよくわかってなかったんじゃないですかぁ」
ベルモント「いやはや、面目ない」
ミリア「ベルモント様が真面目に商売のことについて語ってるものだから、いったいどうしたのかと思ってしまいましたぁ。そうですよね、そんなはずはないですよねぇ」
ベルモント「なにも、そこまで言わなくとも」
ミリア「で、物を高く売る秘訣について、その本にはなんて書いてあるんですか?」
ベルモント「ん? えーとだな、
 1.供給が少なく需要が多い
 2.単価が高い
 3.かさばらない
 4.長距離を運ぶ
 5.めずらしい
 6.独占する
ということだ」
ミリア「1番は当然ですね。市場原理の基礎の基礎です。でも、2番はなぜですか? 元値が高ければ高く売れるのは当たり前じゃありませんか」
ベルモント「えー、なになに、ふむふむ。おお、なぁるほど。よいか、ミリアよ、例えばだな、ここに3ルナーのりんごと1000ルナーの首飾りがあったとする。で、このりんごが100ルナーであったら買うか?」
ミリア「まさか!? そんなに高い物買うわけありませんよ」
ベルモント「うむ。では、首飾りが1100ルナーだったらどうだ?」
ミリア「はぁ。まぁそれくらいだったら買ってもいいかな、と」
ベルモント「であろう? どちらも同じ100ルナーの儲けを見込んでいるわけだが、単価の高いものを扱った方が儲けを得やすいのだ」
ミリア「ああ、そういうことでしたか。次、3番のかさばらないというのは、輸送にかかるコストのためですね」
ベルモント「それもあるが、かさばるものは大量に運ぶことができないという欠点もあるためでもある。それでもペイするのであれば話は別であるがな」
ミリア「4番の長距離を運ぶって?」
ベルモント「これは、次の5番と6番とに密接に関わっていて、ある土地でしかとれないものなどは、遠くへ運べば運ぶほど高い値がつく、のだ。なぜなら、それは遠方でしか手に入らないために珍品としての希少価値がつく上に、長距離を運ぶことで商売敵が少なくなり、その結果独占状態となって、売り手の方で自由に値をつけられるようになる、からなのだな」
ミリア「ベルモント様すごーい。よくご存じなんですねぇ、見直してしまいました。でも、台詞が棒読みですよ」
ベルモント「うっ。だ、だからといって、けっしてこの本にあるのをそのまま読んでおったわけではないぞ」
ミリア「はいはい」
ベルモント「あ、信じておらんな」
ミリア「はいはい」
ベルモント「……」
ミリア「さて、どんな商品が交易に向いているかがわかったところで、もう一度、市場を回ってさがしてみることにしましょう」
ベルモント「いや、だからな、おーい、ミリア〜」

 -あるアーガン・アーガーのお店-

ミリア「おや? ベルモント様、あそこでトロウルがなにか売ってますよ」
トロウル「へい、らっしゃい」
ミリア「トロウルさん、ここでは何を売ってるの?」
トロウル「何って? みりゃあ、わかるだろ、マッシュルームに決まってるじゃねぇか。人間の嬢ちゃん」
ミリア「マッシュルーム?」
ベルモント「というと、魔力をもつといわれるあれか?」
トロウル「そうとおり。ここにあるマッシュルームはそんじょそこらにあるものとはちと違う。みなマジックマッシュルームときたもんだ。赤石洞でとれたブランド品だぜ。ま、その分、少々値段は張るがな」
ミリア「どれどれ? ひゃー、一本5万ボルグ!? 高いわよ」
トロウル「そ、そんなこたぁねぇ。これが相場ってぇもんだ」
ミリア「えー、そうなのぉ。ところで、ボルグって何?」
トロウル「ボルグってのは鉛の貨幣のことなんだよ、嬢ちゃん」
イヴァン「交換レートではクラック銅貨の1/10となっております」
トロウル「そのとおりだ。それに、手前味噌になっちまうがぁ、そのボルグ貨幣を造っているのは、何を隠そう、わがアーガン・アーガーカルトなんだぜ」
ミリア「へぇ」
トロウル「それに、ボルグは貨幣の中でももっとも実用的だ、ってことも忘れちゃいけねぇ。スリングの弾として使うこともできりゃあ、腹が減ったら食うこともできる。どうでぃ、すげぇだろう」
ミリア「あはは、食う方は置いとくとしても、スリングの弾になるって、なんだかすごい」
イヴァン「4ボルグ貨なら1D4ダメージ、8ボルグ貨なら1D8ダメージを与えることができるといわれております」
トロウル「いいや、それは違うぞ。正確にいうんなら、1D8ダメージを与えることができれば、8ボルグ貨なのだ」
ミリア「あはは、トロウルらしい。ところで、ダメージに上限はないの?」
トロウル「さすがに、ふつうのスリングでは8ボルグ貨くらいまでしか投げられねぇ。スタッフスリングを使っても10ボルグ貨が限界だな。とはいえ、100ボルグ貨の鋳造依頼が来たこともあるってぇから、D100スリングを投げられる強者も探しゃあ、いるのかもしれねぇ」
ミリア「う、想像したくない」
イヴァン「ドラゴンも一撃でございますな」
ミリア「ねぇねぇ、ベルモント様、マッシュルームを扱うのはどうです? そこそこ高いし、希少価値はありますよ」
ベルモント「うむ、そうだのぉ」
トロウル「ん? あんたら、マッシュルームの仲買をしてぇ、っていうのかい?」
ベルモント「いや、どちらかというと交易なのだが」
トロウル「なら、悪いことはいわねぇ、やめときな。マッシュルームはアーガン・アーガーカルトが独占的に扱ってるんでい。どこへ持っていったって、うちより安くは売れねえぜ」
ベルモント「それもそうだのぉ」
ミリア「でも、アーガン・アーガーカルトの手の及ばないところへ持っていけば……例えばサンドームとか」
ベルモント「おお、確かにそれならほぼ独占状態である!」
トロウル「だがな、あんたらがマッシュルーム売りに向かない理由はもう一つあるんだよ。ここだけの話なんだが、マッシュルームの効果ってのは、ものによって結構ばらつきがあってな、ほとんど効かねえもんもありゃ、効きすぎてぽっくりいっちまうもんもあるんだ。だが、そういったはずれののもんに対しても、客に文句をいわせちゃいけねぇ。そんだけの迫力が、マッシュルーム売りには必要ってわけなのさ。果たして、あんたらにそれがあるかな?」
ミリア「(じぃー)」
ベルモント「ど、どうしてわしをみるのだ?」
ミリア「無理だわ。他を当たりましょう」
ベルモント「おい、どうしたのだ、待ってくれぃ〜」

 -あるエティリーズのお店-

ミリア「えーと、この一画は武器のお店のようですね」
ベルモント「うむ。そのようだな」
ミリア「武器にも名産地ってのがあるんでしょ?」
ベルモント「うむ。材料である青銅のいいのがとれるところは、武器の名産地となっていることが多いのぉ」
ミリア「へー」
ベルモント「それとは別にドワーフブランドというのもあるがな」
ミリア「どわーふぶらんど?」
ベルモント「鉄製の武器や防具というのは数あるが、ドワーフの作る物に比べれば、こどものおもちゃみたいなものなのだ。ただでさえ鉄製品は高い上にドワーフ製ともなれば、それこそ信じられぬほどの値がつくのだぞ」
イヴァン「ドワーフ製品はほとんど流通してございませんから」
ミリア「ふーん。あ、ベルモント様、あのお店『ドワーフ製品あります』っていうのれんが出てますよ」
ベルモント「ほほぉ。し、しかし、あの華美な装飾の店構えは趣味がいいとはいえんのぉ」
タバーン「さぁ、いらはいいらはい。武器、防具が安いでっせぇ。3割、4割あたりまえですがな。それに、あのドワーフ製の武具までおいてありまっせ。命を預けるもんですよって、少々値が張っても信頼性の高いモンをこうといた方がよろしおまっせ。さぁさ、いらはいいらはい」
ベルモント「げっ、タバーンではないか」
ミリア「道理で、店の趣味が悪いと思った」
ベルモント「うーむ、奴に見つかると話がややこしくなる。とっとと行こう」
ミリア「そうですね」
タバーン「おや? そこを行くのはベルモンはんやないか。元気にしてましたかいな? なんや、地道に稼いどるっちゅう話ですけど、そうそう、人間地道が一番や」
ベルモント「ええい、うるさい、貴様にだけは言われたくないわ。いつも詐欺紛いな商売ばかりしておるくせに」
タバーン「人聞きの悪いこといわんといてや。わいは真っ正直に商いさせてもらっとりますのや」
ベルモント「ふん、勝手に言っておれ。しかし、貴様、いつの間にドワーフランとの通商を始めたのだ?」
タバーン「ああ、こののれんのことですか。ま、武器商人たるもん、ドワーフ製品を扱って初めて一人前といえるんですわ」
ミリア「あんた、先週まで武器商人じゃなかったじゃない」
タバーン「まま、そないな些細なこと気にしてましたら、立派なあきんどにはなれまへんで」
ミリア「あんたねぇ……」
ベルモント「タバーン、そのドワーフ製の武具とやらを見せてくれぬか」
タバーン「いやですわ。なんで、商売敵であるベルモンはんに見せんとあきまへんのや?」
ベルモント「むむ」
ミリア「じゃあ、客として見せてよ。それならいいんでしょ」
タバーン「お客さんですかぁ、ならよろしおまっせ。ささ、存分に見てってや」
ベルモント「うむむ、確かに良い武器を揃えてはいるが、どれも高くないか?」
タバーン「何言ってますのや、うちに置いてあるんはすべて最高級品や、それでも安いくらいやで。ルナー当局への登録料金込みでその値段なんや。それに、今うちでこうてくれたら、武具税1年間免除、てな特典もありますのや。ほら、お買い得でっしゃろ?」
ベルモント「う、うーむ、確かに……」
ミリア「ふん。素人はそれでごまかせても、あたしたちはごまかせませんからね。そんなことより、ドワーフ製の武具ってのを早く見せなさいよ」
タバーン「ほんま、せっかちなお人ですなぁ。よいしょっと。これが、ドワーフ製のリングメイルですわ」
ベルモント「ん? ドワーフ製にしては、やけに不細工ではないか?」
タバーン「なにいってますのや? これがドワーフ流の機能美っちゅう奴ですがな」
ベルモント「いや、違うな。わしの目はごまかせんぞ。これは断じてドワーフ製ではない!! このガーゼーンのバザーで詐欺商売をするとは許せん。司祭に言って追い出してやる」
タバーン「ちょ、ちょっと待ちいな。ほれ、ここ、このリングをようみてみぃ」
ベルモント「ん? どれどれ。むぅ、こ、これは!? この完全な円弧、美しい金属表面、よく見なければ気づかないくらいの継ぎ目、間違いないドワーフ製のものだ」
タバーン「そうでっしゃろ? で、こことこことここ。ほれ、このリングメイルにはドワーフ製のリングが3カ所も使われてますんや。どや、これで文句ありまへんやろ。正真正銘ドワーフ製品や」
ベルモント「むぅ。相変わらず詐欺紛いな商売しおって」
タバーン「商品長所のちょっとした強調といって欲しいわ」
ベルモント「ああいえば、こういう奴め」
タバーン「ほれ、買わへんのならとっとといっとくれや。冷やかしはごめんやで」
ベルモント「ふん。言われずとも行くわい。行くぞ、ミリア、イヴァン」
タバーン「あ、そうそう、借金のこと忘れんといてや。半年後にはきっちり払って貰うさかいな」
ベルモント「わかっておるわい。払ってやるから安心しておれ」
タバーン「それから、造花づくりの手が足りへんのやったら貸したるでぇ。いつでも言うとくれや」
ベルモント「ええい、うるさい」

ベルモント「全く、あいかわらず嫌みな奴である」
ミリア「でも、あの様子じゃ、すっかり油断してるみたいね。あたしたちに借金を返せるはずがない、と思ってるみたい。逆にこれはチャンスだわ」
ベルモント「でものぉ、未だ商売のネタが見つかっておらんからのぉ」
ミリア「はぁ、確かにそうですけど。あ、そうだ、武器ってのはどうなんですか? 辺境へ行けば金属製の武器は結構高値で売れるんじゃないですか?」
イヴァン「武器が辺境で高く売れるというのは、ルールブックにも書いてあることでございますし」
ミリア「保証の限りでは無いけどね」
ベルモント「うむ。確かに武器は結構な値段で売れる。さっきのタバーンの台詞ではないが安売りの防具など買いたくはないし、最近はルナー統治のおかげで少なくなったが、1昔前なら戦闘は日常茶飯事だったからのぉ」
ミリア「じゃ、武器で決まりですね」
ベルモント「いや、それがそうもいかぬのだな。武器関係の輸送はルナーがうるさくてな、いろいろと面倒なのだ」
ミリア「うーん、なかなか難しいものですねぇ」

 -あるロカーノウスのお店-

ミリア「あ! また、タバーンの店がありますよ」
ベルモント「ん? どれどれ、おお、あの黄色に塗りたくられた趣味の悪い店構えはまさしく、タバーンのもの……」
イヴァン「それにしては、客層が少々変でございますが」
ミリア「ほんと、イヴァンの言うとおりね。客は髭を生やした金髪碧眼のおじさんやらあんちゃん達ばかりだわ」
ロカーノウス「さぁ、いらっしゃい。うちで扱ってる品物はサンドーム御用達のものばかりだ。もちろん、ホイール単位で売ってるよ。太陽の御威光にあやかりたければ、うちでかわなくっちゃねぇ」
ベルモント「おお、なるほど。ロカーノウスの商人であったか」
ミリア「ロカーノウス?」
ベルモント「うむ。イェルム神殿に属する荷馬車の神でな、それが転じて交易やら商売の神となっておる」
ロカーノウス「そのとおりさ。うちのカルトはサンドームやサンカウンティといったイェルマリオカルトの土地で、独占的に商売をさせてもらってるんだ。奴らの排他性は筋金入りだからな」
ベルモント「その証拠にサンカウンティ領内での轍のあとは、よそと幅がちがうのだ。つまり、車軸の長さが違うのだな。おかげで領内に入るときには、車軸を交換しなければならんのだ」
ロカーノウス「それは何も余所から来るものにとって不便なだけじゃねぇ。俺達が外へ出ていくときにも面倒な手間がかかるんだ。まったくあいつらは何を考えているんだか」
ミリア「そりゃそうかもしれないけど、そんなこと言っちゃっていいの?」
ロカーノウス「別に構わしねぇよ。とはいえ、ロカーノウスが商売の神としてやっていけるのも、イェルマリオンのおかげなんだがね」
ミリア「どういうこと?」
ロカーノウス「あんたも知ってるだろうが、ロカーノウスは、こと商売に関する限り、イサリーズやエティリーズに遠く及ばない。商談に関するノウハウもほとんどないしな」
ミリア「うんうん」
ロカーノウス「だが、イェルマリオの連中と来たら、排他的というか臆病というか、うちからしかものを買わねぇ、ときた。それに、公的にはホイールしか使わないから、まったくもって好都合、てな訳なのよ」
ミリア「どうして?」
ロカーノウス「ホイールを造ってるのは、わがロカーノウスカルトなんだぜ」
ミリア「なぁるほど」
ロカーノウス「交易もうちの独占状態だから、多少相場より値段が高くたって、うちから買うしかないわけだ。だから、仕入れの時にイサリーズの連中から少しくらい高く売りつけられようが、十分儲けることができるのさ」
ミリア「へぇー、イェルマリオンってつくづくマゾよねぇ」
ロカーノウス「ははは、ちげぇねぇや」
ミリア「でも、あなたそんなこと言っていいの? 一応はお得意さまなんでしょ?」
ロカーノウス「ああ、もちろん感謝しているよ。イェルマリオ様々さ。おっといけねぇ客がきた。今の話は内緒だぜ。へぃ、らっしゃい、旦那がた」
ミリア「それにしても、噂にたがわず、必ず3人以上でいっしょに来るのね、イェルマリオンって……」

ベルモント「ロカーノウスは楽な商売ができてうらやましいのぉ」
ミリア「独占ってすばらしいんですねぇ」
ベルモント「うむ。だが、ロカーノウスの場合、それだけでなく、客にも恵まれているところが大きい」
イヴァン「特殊な例でございますな」
ミリア「参考にならないわね」

 -あるアズリーリアのお店-

ユン「ほーほほほ。あんたたちが大きな商売を始めるというから来てみましたけど、どうやらまだ何も決まっていないみたいですわね。ほーんと、お馬鹿さんねぇ」
ミリア「うるさいわね、地道な市場調査が成功を生むのよ」
ユン「ほーっほほほほ。で、何か得られたのかしら?」
ミリア「ぐっ」
ベルモント「しかし、なぜおまえがこんな市場などにおるのだ? 買い物か?」
ユン「違うわよ。アズリーリアといえばアースカルト唯一の商売カルトですもの、お店を出していても不思議はないでしょ」
ミリア「ただの高利貸しじゃなかったのね」
ベルモント「ふつうは、財産を預けておくところ、とか思うものだが」
イヴァン「アズリーリアカルトでは、入信者なら年間600ルナー、侍祭で年間5000、女祭になると年間6000ルナーをカルトに納めなくてはいけないのでございます。そのためにみな必死なのでございますよ」
ベルモント「年間6000ルナーだと!? どれだけの造花をつくらねばならぬことか……」
ミリア「6000ルナーもカルトに払うなんて、ばかばかしいわ。そんなに稼げるのなら十分独立してやっていけるじゃないの」
ユン「ほっーほほほほほ。これだから貧乏人は困るわね。そんなことでは、わたくしの年間の収入を知ったら気絶するわよ」
ベルモント「そんなに稼いでおるのか?」
ユン「もちろん、それだけの収入を得られるのはカルトのおかげですけど。でも、女祭といえばカルトも同じ。女祭になればカルトの資産を好きなように運用できるのよ。資産の大きなアズリーリアカルトのこと、もちろん収入もそれに応じて多くなりますわ。そういうわけだから、カルトに年間6000づつ納めるといっても大したことではないし、それさえも、女祭にとっては貯蓄するようなものなのよ」
ベルモント「むぅ。とんでもないのぉ」
ユン「それに、労働力も入信者を使えばただ同然。少なくとも600ルナー分はただ働きさせられますもの」
ミリア「なるほど。入信者がどうやって年間600ルナーも払っているのかと思ったら、カルトの事業にこき使ってるわけね」
ユン「失礼な。かわいい入信者たちを助けてあげてるんじゃないの。年間600ルナー払うのって、けっこう大変なのよ。ま、あなた方はそんなこと、とっくにご承知でしょうけど。ほっーほほほ」
ミリア「なぜ、そこで笑うのよ」
イヴァン「カルトと女祭は一心同体。それ故に、女祭の才覚一つで、その地方のアズリーリアカルトの力が決まるといっても過言ではないのでございます。とはいえ、アズリーリアの女祭といえば、すべからく金儲けの天才であると言われてはおりますが」
ミリア「天災の間違いじゃないの」
ユン「ほーっほほほ。ま、あなた達はわたくしとは違って、才能がないのですから、懸命に焦った方がよろしいんじゃなくて?」
ベルモント「むむ。ならば、貴様になら儲けられるのか?」
ユン「ほーっほほほ。当たり前ですわ」
ミリア「ふん。口だけならどうとでもいえるわよ、ね、ベルモント様」
ベルモント「ならば、ユンよ。その儲けるための秘訣というのを教えてくれ〜」

ミリア「ベ、ベルモント様……情けない」
ユン「ほーっほほほ。高いわよ」
ベルモント「なにぃ〜。金を取るのか〜?」
ユン「あたりまえでしょ。アズリーリアの女祭が、儲けの秘訣を教える講義をするのよ、受講料に1人1000ルナーとったとしても、申し込みが多すぎて困るくらいに人が集まってしまうわ」
ベルモント「なにぃ〜、1000ルナーだと〜!?」
ユン「安すぎたかしら?」
ミリア「金銭感覚がまるっきり、あたしたちとは違う……」
イヴァン「しかし、1クラックでも足りないと、小生は晩御飯抜きなのでございますよ」
ミリア「あんたの夕食は1クラックの価値しかないのね」
イヴァン「しくしくしくしく」
ユン「とはいえ、わたくしも鬼ではありませんから、儲けるための秘訣のさわりの部分だけでも教えて差し上げてもよろしくてよ」
ベルモント「おお、本当か!!」
ユン「そうね、交易商人であるあなたが、楽して儲けるための秘訣といったら、2つですわ。それは……」
ベルモント「それは?」
ユン「一つは違法行為をすること、そしてもう一つは、人をだますこと」
ミリア「なによ、それ!!」
ユン「あーら、疑ってますの?」
ミリア「そういうわけじゃないけど……」
ユン「ならいいじゃない」
ミリア「よくないわよ。悪いことじゃないの!!」
ユン「その通りよ。でもね、ミリア、よく覚えておきなさい。商売の世界にいる人間には、悪人と偽善者しかいないの。商取引一つとったって、すべてコンゲームなの、おわかり? 善人や正直者なんて敗者になるしかないのよ! ぐすっ」
ミリア「ユ、ユン……泣いてるの?」
ユン「あ、あら、少し話し過ぎてしまったみたいね。もうわたくし行くわ。じゃあね、ミリア、それにベルモント」
ミリア「ユンさん……」
ベルモント「うーむ、あやつにもいろいろあったのかのぉ」
イヴァン「そういえば、ユン様の昔の話などは、小生まったく知りませぬです」
ミリア「ふつうに生きていては、あそこまで非道にはなれないと思ってたけれど、やっぱり何かあったのね」
ベルモント「人に歴史ありとはよく言ったものだな」
ミリア「そうですねぇ……なぁんて、人の詮索してても仕方がないわ。ところで、ベルモント様、ユンの言ってた儲けるための秘訣って……」
ベルモント「うむ。たしかにユンのいっておることは正しい。どこの世界でも、悪事をすれば儲かるのだ」
ミリア「やっぱりそうなんですかぁ」
ベルモント「だがな、あやつの言ったことには一つ間違いがあっての」
ミリア「間違い?」
ベルモント「そう。残念ながら、わたしにとっては、悪事は決して、楽して、儲かる手段ではないのだ」
ミリア「そうなんですかぁ?」
ベルモント「うむ。ミリアよ、わしの顔が悪人の顔に見えるか?」
ミリア「いいえ。どこをどう見ても、人のいいとぼけたおっちゃんにしか見えません」
ベルモント「で、その本性はどうだと思う?」
ミリア「やっぱり、人のいいとぼけたおっちゃん、だと思います」
ベルモント「であろ? つまり、わたしが悪事をするためには多大な努力が必要となるのだ。だから、決して楽な方法ではないのだな」
ミリア「はぁ。喜んでいいのか、悲しんでいいのか……でも、やっぱり商人としては致命的な気がする」


「つまらなかったか?」

  かぁかぁ

イヴァン「もうすっかり夕暮れ時となってしまいましたな」
ミリア「あーあ。結局何も得られずじまいかぁ」
ベルモント「なぁに、そう落胆するものではない。まだ始めたばかりではないか」
ミリア「それはそうですけど……。ところでベルモント様、仮になにかおいしい商品が見つかったとして、どこへ運ぶつもりなんですか?」
ベルモント「ん? うーむ、そうさのぉ。わたしが日頃使っている交易ルートでは、あまり儲かりそうにないからのぉ」
ミリア「固定客はついてますけど、山の中の小さな村をいくつか回っているんですものねぇ」
ベルモント「これでは大儲けはできぬわなぁ」
ミリア「じゃあ、どこか別のところへ運びますか?」
ベルモント「そうなるかのぉ」
ミリア「どこです?」
ベルモント「そうさのぉ……」
ミリア「どこ?」
ベルモント「もちろん、まだ決めておらん」
ミリア「あ、やっぱり」
ベルモント「しかし、ジョンスタウンからの交易を考えるなら、4方向だな」
ミリア「4方向ですか?」
ベルモント「うむ。北と南と東と西である」
ミリア「それじゃぁ、全部じゃないですか!」
ベルモント「おお、それもそうだな」
イヴァン「北ルートは、アルダチュールを越え、ターシュ街道を通りターシュへ、またはその先のルナーへと続く交易路でございますな。南ルートは、王の道を通ってボールドホーム、ホワイトウォールへ行き、そこから街道を通ってカーシーへと抜ける交易路でございます」
ミリア「カーシーっていったら、聖王国の港湾都市でしょ。1619年にルナーに急襲されて落ちたという」
ベルモント「うむ。しかしまぁ、ルナーの占領地であるというのは、ここジョンスタウンも同じだ」
ミリア「そうでしたね。ところで、東のルートというのは、スウェンズタウンのことですよね」
ベルモント「ちゃうちゃう、そんな近場ではない。もっと遠く、パヴィスへ行くのだ」
イヴァン「いったんへロングリーンまで王の道を通って北上した後、パヴィス街道を通って東へ向かう交易路なのでございますよ」
ミリア「ふーん、じゃあ西は?」
イヴァン「西ルートは街道が整備させておりませんので、あまり大規模なキャラバンが通ることはないのでございますが、まずジョンスタウンから山岳地を通ってルーンゲイトへ出、そこから冬の峰の麓を経てグレイズランドへと続く交易路でございますな。甚だ簡単ではございますが、小生めが地図を書かせていただきました」

ベルモント「お、距離も入っておるのか。これは便利だのう」
イヴァン「はい、自信作でございます」
ミリア「にしては、へたくそな絵ね」
イヴァン「がーん、どうせ小生には絵の才能なんてございませんよ、ええ、ええ」
ベルモント「ミリアよ、イヌが絵を描いたのだぞ。そちらの方を評価してやらねばいかんな」
ミリア「はっ、そういえば。あの肉球でいったいどうやって……」
イヴァン「ようやく、小生の非凡さに気づきましたか。こうみえても小生は天才なのでございますよ。そこいらのイヌと一緒にしていただきたくないものでございますな」
ミリア「見せ物小屋になら高く売れるかも」
イヴァン「そ、それだけはごかんべんを〜、お嬢様ぁ」
ベルモント「世にも珍しい絵を描くイヌか、うむ、良いかもしれぬ」
イヴァン「がーん、旦那様まで〜」
ミリア「冗談はともかくとして、どこにします?」
ベルモント「お? 冗談だったのか?」
イヴァン「も、もちろん冗談でごさいますよ。いやですなぁ、旦那様」
ベルモント「そうか? 結構いい案だと思ったのだがなぁ」
イヴァン「ほらほら、そんなことよりも、どのルートにするか決めないと。ね、お嬢様」
ミリア「そうね。どれにします? ベルモント様」
ベルモント「うむ。まず、北ルートだが、ルナーで商売をしようとは思わぬ方がよかろう」
ミリア「エティリーズの勢力が強いからですね」
ベルモント「うむ。まぁ、ルナーではなくターシュあたりで商売をするならまだよいのだが、とはいっても、ターシュはここドラゴンパスよりも肥沃であるし、ルナーから物資は流れてきているしで、物はなんでもあるのだな。それに、金持ち連中はほとんどルナーの息のかかった者たち、というのもイサリーズ商人にはマイナス要素となっておる」
ミリア「つまり、北ルートはおいしくない、と」
ベルモント「そういうことだな」
ミリア「他はどうなんですか?」
ベルモント「うむ。さきほども述べたが西ルートの道はあまり整備させておらんので、あまり大規模なキャラバンは組めぬ。山賊も出没するという話であるしな。東ルートは、広大な砂漠を越えなければならないというリスクがある。特に火の季に砂漠を越えるのはたいへんなのだ」
ミリア「そろそろ終わりとはいえ、まだまだ火の季ですから、きつそうですねぇ。じゃあ南は?」
ベルモント「南に行くのはあまりおいしくないのだが、逆に南から帰ってくるときに、おいしい話があるかもしれん。カーシーはマニリア最大級の港湾都市であるゆえ、海路からいろいろと珍しいものが入ってくるのだ。それを北に運べば、それなりに利益を期待できる」
ミリア「いいですね、ベルモント様、それにしましょう。目指すはカーシー!!」
イヴァン「しかしでございます……」
ベルモント「うまいぞ、イヴァンよ。カーシーとしかしをかけたのだな。うむ、褒美に菓子をやろう」
ミリア&イヴァン「……」
ベルモント「つまらなかったか? カーシーと菓子をかけたのだが。なら、これはどうだ、カーシーの船は何の木でできてるか知ってるかい? かーしー(樫)」

 ひゅるるるるる〜

ベルモント「こ、これもだめかのぉ。自信作だったのだがなぁ。ならば、カーシーの温度はファーレンハイト……」

ミリア「あ、あの、ベルモント様、イヴァンがなにか言いかけてたんですけど、聞いてあげましょうよ、ね」
ベルモント「ん? おお、そうであったのか。どうしたのだ、イヴァン」
イヴァン「えー、なんでございましたか、あまりにも旦那様のだじゃれがすごすぎたものですから忘れてしまいました」
ベルモント「そうか、それほどおもしろかったか」
ミリア「違うと思いますよ」

イヴァン「あ、思い出しました。えー、カーシー方面への交易は競争が激しいということでございます。よっぽど強いコネクションがあれば別でございますが、なかなか大儲けというわけにはいかないのではないでしょうか」
ベルモント「むぅ、そうなのか?」
イヴァン「はい。小生のご主人様であるユン様もこのルートに手をだしているのでございますよ」
ベルモント「だが、ユンは交易商人ではないのだし、競争が激しければ、ますます不利であろうに」
イヴァン「いえいえ、カーシーのアズリーリアカルトと協力しているのでございますよ。カーシーのような大都市では、財産や物が集まりますゆえ、アズリーリアカルトの力もそれだけ大きくなるのでございますなぁ」
ミリア「あいかわらず卑怯な女ね」
ベルモント「よっぽど強いコネクション、があるわけだな」

老婆「もし、いきなりですまんのじゃが、おまえさんたちは交易商人かぇ?」
ベルモント「はぁ、そうですが」
ミリア「ベルモント様、このおばあさん、知り合いですか?」
ベルモント「いや、知らん。と思う。たぶん」
ミリア「あいかわらず鶏のような記憶力ですね」
ベルモント「ははは、面目ない」
老婆「もしや、近々パヴィスへ向かう予定はないかのぉ? もし、パヴィスへ向かうのなら頼み事があるのじゃが」
ベルモント「いや、まだどこへ向かうかは決めてはおらぬのだが」
ミリア「でも、この季節にパヴィスへ行くのは大変なんでしょう」
ベルモント「うむ。途中で水を補給できなければかなり厳しいからなぁ」
老婆「ああ、そのことなら大丈夫じゃよ。昨日パヴィスからやってきたという青年の話では、この季節には珍しく河が流れておったそうじゃ」
ベルモント「え? それは本当ですか、ばあさま」
老婆「うむ。わしの聞いたところではそうじゃった」
ミリア「で、そのことは他にも知っている人は多いんですか?」
老婆「いんや、旅人はあの若者1人じゃったし、すぐにボールドホームへと旅立っていきおった故、あまり知っておる者はおらぬと思うがの」
ミリア「ベルモント様……」
ベルモント「うむ、これイサリーズ様がくださったチャンスに違いない」
ミリア「パヴィスへ行きましょう 」
老婆「おお、パヴィスへ行ってくれるのか」
ベルモント「うむ。わたしたちはパヴィスへ向かうこととなった」
老婆「ならば、この手紙をわしの息子に届けてくれんか。ギンピー亭という宿屋におるでのぉ。金はたいしてないが、 30ルナーでよいかの」
ベルモント「おお、十分ですぞ。では、この交易商人ベルモントに、どーんとお任せくだされ」
老婆「では、頼んだぞい。よいしょ、と」
イヴァン「行ってしまわれましたな。しかし、どこかで見覚えがあるような気がするのでございますが……」
ミリア「さぁさぁ、そうと決まれば急いで準備しなくちゃ。ライバルを出し抜いて、独占するんだから」
ベルモント「うむ。善は急げだ」
ミリア「そうですね、ではさっそく……」
ベルモント「というわけで、明日から準備にとりかかるとしよう。いやぁ、疲れた疲れた」
ミリア「ちょ、ちょっと、ベルモントさま〜」


「560kgほど積めることになりますね」

ベルモント「うーむ、良い朝である」
ミリア「何言ってるんですか、もう昼ですよ」
ベルモント「む、そ、それはその、そうそう、店は昼頃からしか開かんからのぉ、はははは」
ミリア「いいわけにしては苦しいですね」
ベルモント「はははは」
ミリア「さて、そんなことより、交易の準備準備。まずは、何を運ぶかですけど……」
ベルモント「うむ。ドラゴンパスで手に入れやすくて、パヴィスにないものがよいぞ。金属製品などがよく運ばれておるな」
ミリア「んー、そうですねぇ……あ、そういえば、あのおばあさんに手紙といっしょに届け物を頼まれていたんですよ。えーと、これに書いてあるんですけど、なになに、ドラゴンパス名産のワインを一本届けて欲しい、だそうですよ」
ベルモント「うむ。このあたりのリンゴワインは絶品であるし、パヴィスではワインはとれぬからなぁ。時期的にもちょうど初物を届けることができるしの」
ミリア「絶品……初物……そうよ、それだわ」
ベルモント「ん? ミリアよ、どうしたのだ?」
ミリア「ワインですよ、パスのワインを運びましょう。ベルモント様、お酒にはうるさかったですよね」
ベルモント「うむ。なかでもワインは好物である。若い頃はソムリエを目指したこともあったのだぞ」
ミリア「じゃあ、品定めに関しても大丈夫だし、それでいきましょう」
ベルモント「しかし、ワインでそれほどの大儲けができるとは思えんがのぉ」
ミリア「大丈夫よ。パスのワインの初物を独占できるんだから、仕入れ値の5倍くらいで売れるんじゃないかしら」
ベルモント「うーむ、なるほどのぉ。よし、ならばワインを運ぶとしよう」
ミリア「最高級のにしましょうね、単価は高い方がいいんですから」
ベルモント「ワインを扱っておるガーゼーン商人を知っておるから、商品はそやつからなんとかしよう」
ミリア「じゃあ、あとはキャラバンをつくって、護衛をやとってぇ」
ベルモント「しかし、そのような元手はどこから」
ミリア「1万ルナーがあるじゃないですか。あー、こんな大規模な交易をマネージするなんて初めてなものだから、なんだかわくわくするわぁ。がんばらなくっちゃ」
ベルモント「あの1万は私たちが、こつこつと造花のバイトをして稼いだ金なのだぞ……なぁ、イヴァンよ」
イヴァン「そうでございますよ、旦那様」
ミリア「さぁて、まずは荷馬車を用意しなくちゃね。ラバは何頭必要かしら。他には食料と水と。さぁ、忙しくなるわよぉ」
ベルモント「聞いちゃおらんな」

ベルモント「さて、商品を運ぶのに必要な物だが……」
ミリア「荷役用の動物、荷馬車、旅の食料と水、傭兵といったところでしょうか。 右に各種値段をまとめてみました」
ベルモント「うむうむ」
ミリア「どうせ、食料もかいばも最低ランクを買うつもりですし、それだけでいいかとも思ったんですが、一応高級そうなところも載せてみました」
ベルモント「うむ。いずれは、高級な保存食を食べられるような、そんな交易をしたいのぉ」
ミリア「うう、そうですねぇ。貧乏なんて、貧乏なんて大嫌いだぁ」
ベルモント「ま、それはそれとして、パヴィスへ行くなら、荷役動物はラバがよかろう」
ミリア「なぜですか? 馬じゃダメなんですか?」
ベルモント「うむ。パヴィスの位置するプラックス地方の遊牧民は馬が大嫌いなのだ。それゆえ、馬を連れているというだけの理由で襲われることもあるのだな。その点、ラバならば馬ではないから大丈夫というわけなのだ」
ミリア「へぇー、そうだったんですか。でも、だったら無理にラバでなくても」
ベルモント「そう思うであろ。ところが、プラックスに入る前にポル・ジョニ族の土地を通るので仕方がないのだ」
イヴァン「ポル・ジョニ族は馬に乗る民なのでございますな」
ベルモント「そう。それゆえ、彼らの土地では馬以外の動物を連れていると嫌われるのだ。ところが、ラバは馬と同族だから大丈夫、というわけである。どうだ、ラバは偉大であろう」
ミリア「んんんん……偉大なのは、ラバじゃなくて、そう言い張る人間の方だと思う」
ベルモント「まぁ、細かいことはどうでもよろしい。というわけでラバがよいのだな」
ミリア「はぁ、わかりました。じゃあ、動物はラバ、と。でも、ラバの平均積載重量ってのがわからないんですが」
ベルモント「うーむ、確かに、これは困るのだなぁ。ラバは馬とロバのハーフであるわけだから、だいたい両者の間くらいの能力だとは思うのだが……」
イヴァン「肝心のロバの能力がわかりませぬな」
ベルモント「困ったことに、そうなのだ」
ミリア「じゃあ、勝手に決めちゃいましょうか。えーと、馬の平均積載重量は75kgだから……ロバ40kg、ラバ60kg。こんなもんでどうです?」
ベルモント「だいたいそのようなところであろう」
ミリア「えーと、チャリオットのルールによると、チャリオットや荷馬車だと重量は1/3扱いですから、結果として、3倍までの重さを運べますね。ですから……」
ベルモント「ラバ1頭あたり180kgか。しかし、これはラバがほとんどペナルティーをうけないで運べる重量と見るべきであろうな。最大積載重量ならば、その2倍くらいであろう。すると360kg。2頭だての荷馬車にすれば、一台で720kgまで運べる計算になる」
ミリア「そうですね。耐久性や安定性を考慮して、4輪の荷馬車を買うとして、これ自身の重量がだいたい100kgくらい。で、御者が1人60kgとすると、あと560kgほど積めることになりますね」
ベルモント「うむ。そうだな。ところで、これでいくらになる?」
ミリア「えーと、こんなところですね」

   ラバ 1200L×2頭
  荷馬車 500L
   計  2900L

ベルモント「荷馬車一台で3000ルナーかぁ。結構するのぉ」
ミリア「現在のところ、ベルモント様はラバを2頭と荷馬車1台を持ってますけど、今回は2台は欲しいですから、3000は投資しないといけませんね」
ベルモント「うーむ、やむをえんか」

ミリア「さて、お次は傭兵ですが」
ベルモント「うむ。さすがに我々だけでは心許ないからのぉ」
イヴァン「特にパヴィス街道はルナー兵のパトロールが少ないうえに、トロウルや遊牧民の襲撃が多いと聞き及んでおりますから、十分に備えておいた方がよいでしょうなぁ」
ベルモント「ジョンスタウンからパヴィスまで約260km。少なくとも10日はかかると見て良かろう。となると、傭兵代は1人いくらになる?」
ミリア「えーと、少し余裕をもって2週間雇うとして、1人1日8ルナーだから110ルナー。これに食料1日1ルナーがかかりますから、合計124ルナーですね」

  傭兵代  8L×14日 (-2)
 保存食(並) 1L×14日
   計    124L

ベルモント「うーむ、やはりここは10人くらい欲しいところではあるが、うむむむ、そんなことをすると1200ルナーかぁ」
ミリア「それに、彼らの分の食料や水を載せるとそれだけ商品が積めなくなってしまいますし」
ベルモント「うーむ、弱ったのぉ」
イヴァン「それならば、いっそのことキャラバンを組んでみたらいかがでございますか。そうすれば、少ない負担で多くの護衛を雇うことができるわけでございますし」
ベルモント「うむ。そうだな、イサリーズ商人の仲間に声をかけてみるとしよう。運ぶ品がかち合わなければ問題がないわけであるし」
ミリア「そうですね。でも、あのタバーンには知られないようにしなくちゃいけませんよ。どんな妨害をしてくるかわかりませんからね」
ベルモント「うむ。そうだな」
イヴァン「ところで、旦那様、どちらで傭兵を捜されるのですか?」
ベルモント「ん? そこいらの酒場に張り紙でもしようかと思っておるのだが」
ミリア「だめですよ! ベルモント様。そんなことしたら、あたしたちの計画がばれちゃうじゃないですか」
ベルモント「おおっと、そうであったな。では、フマクト寺院へいって傭兵を斡旋して貰うか」
イヴァン「確かにフマクトの剣士は接近戦には強いのでございますが、なにしろ、射撃戦がからきしダメでございますから……」
ミリア「相手が射撃戦を挑んできたら、はい、おしまい、なわけね」
イヴァン「そのとおりでございます。グレートソード使いは特にその傾向が強いようですな」
ベルモント「ならば、もう一つの傭兵カルト、イェルマリオ寺院で頼むか?」
ミリア「えー、イェルマリオン〜。弱いじゃないの」
イヴァン「一般にそういわれておりますが、こと集団戦ということになりますと、なかなか強力なのでございますよ。ホプライトによる防御は堅固でございますし、射撃戦もよくこなしますし。ただし、イェルマリオ寺院で傭兵を雇うとなると、8人とか16人とかで雇わされるので、結構な支出になるのが難点なのでございますな」
ミリア「十葉一絡げ、ってわけね」
ベルモント「抱き合わせ商法というやつだな」
イヴァン「しかし、まがりなりにも、フマクト同様、真実のルーンをもつカルトでございますから、いきなり逃げ出したり、逆に襲ってきたりする心配はないので安心ではございます」
ミリア「えー、そんなことする傭兵なんているの?」
イヴァン「例えばでございますな、オーランシーなどは……」
ミリア「あはははは」

ベルモント
「うーむ、ならば、傭兵はイェルマリオ寺院とフマクト寺院の両方から斡旋して貰うとしよう。もともと10人以上雇うつもりであったのだから、問題あるまい」
ミリア「わかりました。さっそく手配しておきますね。イェルマリオのハーフファイルの分隊1つと、フマクトの剣士6人の合計14人雇いましょう。その半分の費用をうちがもつから……」

  イェルマリオ分隊 9人×124L-14
     フマクト剣士 6人×154L
      計      2036L

ベルモント「む? 計算がおかしくないか?」
ミリア「分隊長には2倍のお給金を払わなくちゃいけないんですって」
ベルモント「それで、イェルマリオンは8人なのに9人分なのだな。で、余計な食料費を引いているわけか。では、フマクト剣士の一人当たりのコストが高いのはなぜだ?」
ミリア「フマクト寺院で聞いてみたら、傭兵のランクには、甲乙丙とあって、乙ランクだと、一日10ルナーなんですって」
ベルモント「うーむ、さすがに丙ランクを雇うのには勇気がいるのぉ。ちなみに甲ランクは、いくらであった?」
ミリア「20ルナーです。さすがにこちらには手が出ませんでした。で、受付の人の話によると、実はその上にもランクがあるらしいんです。その場合の料金は人によってまちまちなんですけど、最低でも100ルナーはするらしいですよ」
ベルモント「うむむむ。しかし、フマクトカルトも人を売ってなんぼ、のカルトなわけであるから商売カルトといえなくもないのぉ」
イヴァン「まったくでごさいますな」
ミリア「というわけで、ベルモント様の分担する傭兵料金は1018ルナーでーす」
ベルモント「うむ。ここまでのところで3918ルナーだな」
ミリア「ふつうは他にも御者や人足なんかを雇ったりするんですが、今回は費用削減のために、あたしとベルモント様が御者です」
ベルモント「ううう、寂しいのぉ」

ミリア「お次は食料なんですけど、もう傭兵の分は計算してありますよね。ですから、あとはあたしたちの分とラバたちの分です」
ベルモント「わたしたちの分くらい、上等な保存食にせぬか? ここで、ちびーっと贅沢したところで、そうそう変わるものではあるまい」
ミリア「だめです。節約できるところは少しでも節約しなくちゃ。そんなお金があるのなら、商品を少しでも多く買った方がいいですから」
ベルモント「むぅ。だめか?」
ミリア「ダメです」
ベルモント「けちじゃのぉ」
ミリア「商人がけちじゃなくてどうするんですか。まったくもう。とにかく、予算はですね……」

 保存食 1L×14日×2人
 飼い葉 0.75L×14日×2頭
  計   49L

ミリア「……49ルナーです。これで、しめて3967ルナーとなりますね。あと、その他もろもろの生活必需品などがありますけど、これはすでに持ってるものを使えばいいので、買うことはないでしょう」
イヴァン「あのぉ、小生の食料はどうなっているのでございましょう?」
ミリア「え? あんたも食べるの? ネズミでもとって食べてればいいじゃない」
イヴァン「そんなぁ、小生は猫じゃないんですから……よよよよ」
ミリア「はいはい、わかったわよ。イヌ用に7ルナー余分に払ってあげるわよ、まったく、手間のかかるイヌねぇ」
イヴァン「ははぁ、ありがとうございます、お嬢様〜、よよよよよ」
ミリア「あー、うっとうしい。はい、これで3974ルナー。これで全部ね」
ベルモント「ところで、ミリアよ、道中、宿屋には泊まらぬのか?宿代が考慮されておらぬが」
ミリア「泊まりません」
ベルモント「えー、なぜだぁ〜。旅の楽しみと言ったら、宿屋でだされるその地方の名産料理だというのにぃ〜」
ミリア「貧乏なんですから、わがまま言わないでください」
ベルモント「し、しかしだな、宿はいいぞぉ、旅の疲れをとることができるぞぉ」
ミリア「傭兵たちにまで、宿をあてがう余裕なんてうちにはありません」
ベルモント「じゃあ、せめてわたしたちだけでも」
ミリア「ダメです」
ベルモント「けち」
ミリア「だいたいですねぇ、ベルモント様は自分がどういう立場にあるかわかってるんですか!!  そもそも、ベルモント様が……がみがみがみがみ」
ベルモント「う、うわぁぁぁ、すまん、ミリア、許してくれぃぃぃ」

ミリア「さてと、お金の計算がひとまず終わったところで、今度は重量の計算ですよ」
ベルモント「むぅー、まだ計算があるのか。面倒な話はもうやめにしようではないか」
ミリア「商人が計算を面倒がっていてどうするんですか。だいたい、いつもそうやって事前に細かく計算していかないから、うちは利益率が悪いんですよ。余所ではみんなやってるんですからね」
ベルモント「そうかぁ。では仕方がないのぉ」
ミリア「はいはい、では始めますよ。えーと、今のところ、荷馬車1台に560kg積むことができるんですよね。で、それが2台あるから、1120kgを輸送することができます」
ベルモント「では、1120kg分のワインを運ぶことができると言うわけだな」
ミリア「ベルモント様、あまーい 」
ベルモント「んん? わたしは確かに甘口の方が好きだが、辛口もなかなかのものなのだぞ」
ミリア「なにを訳のわかんないこといってるんですか。そうじゃなくて、荷馬車には食料も積まなくちゃいけないんですよ」
ベルモント「ん? それがどうかしたのか? 大した量ではあるまい」
ミリア「それがそんなこともないんですよ。いいですか、保存食が一日分で500g程度、砂漠をわたることを考えると、一日一人当たり最低2リットルの水は必要でしょう。とすると」

 保存食 0.5ENC
  水   2.0ENC
  計   2.5ENC

ミリア「1人1日分の食料と水で2.5kgの重さがあるわけです。地図を見ると、ポルジョニマーチの手前の森くらいまで、まぁ最悪でも『トーカン最後の砦』までは、水と食料の補給はできそうですからいいですけど、その先は、特に火の季では、河が干上がってしまっているために、基本的には水の補給はできません。ですから、プラックスを横断する間に必要な水はどうしても運ばなくてはいけないわけです」
ベルモント「ふむ。なるほど。で、プラックスを渡るのに何日くらいかかるのだ?」
ミリア「あたしの計算だと、早くて1週間、下手をすると10日かかるかもしれません」
ベルモント「ならば、大事をとって10日分運ぶとするとどうなるのだ?」
ミリア「えーと、人間が9人ぶんで225kgですね」
ベルモント「なに、そんなにするのか!?」
イヴァン「傭兵の分は各傭兵に持たせればよいのではございませんか?」
ミリア「んー、それもそうだけど、25kgも余分に持たせて、いざというときに頼りにならないようじゃ困るし。アンブッシュされたら、あっという間に壊滅ですよ」
ベルモント「では、半分の13kgを持たせることにしよう。それならば、なんとかなるであろう」
ミリア「そうですね、それくらいなら。じゃあ、もう一度計算し直してみます……」

 食料と水(ミリア&ベルモント) 25ENC×2人
 食料と水(傭兵)         12ENC×7人
     計             134ENC  

ミリア「134kgです」
ベルモント「やっぱり重いのぉ」
ミリア「これくらいは仕方がないですね」
ベルモント「じゃあ、あとはワインを……」
ミリア「そんなにあわてないでください。まだ、ラバたちの飼い葉と水を積んでないんですから。ところで、ラバが一日に必要な飼い葉と水の量って知ってます?」
ベルモント「いや、しらんぞ」
イヴァン「標準的な作業を行う馬は、1日あたり5kgの飼い葉と20〜60リットルの水を必要とする、平均的な日は24リットル。だそうでございますよ。ラバに関してはよくわかりませぬが」
ベルモント「むむ、そんなに水を飲むのか、馬というのは」
イヴァン「体がおおきゅうございますからなぁ」
ミリア「ラバはタフだから、馬の半分で済むとしても、それでも飼い葉2.5kg、水12リットルは必要。しかも、砂漠を渡るとなれば、最低でも水15リットルは必要でしょうね。それを10日分運ぶとなると……」

 飼い葉 2.5ENC×10日×4頭
  水   15ENC×10日×4頭
  計    700ENC

ミリア「ええっ!! 700kgですって!?。これじゃあ、286kg しか商品を運べないじゃないのぉ。なんてことなの」
ベルモント「がーん、だめなのかぁぁぁ」
イヴァン「あのぉ、旦那様、確か昨日の老婆の方が、河に水があるとおっしゃっていたのではありませんか?」
ベルモント「おお、そうであった。そういえば、その言葉を聞いたので、パヴィスへ向かおうと決めたのであったな。すっかり失念しておったぞ。よし、ミリアよ、アダーリ川で水を補給できるとして、計算してみるのだ」
ミリア「えーと、そうすると、水なしで旅しなければいけない区間は最大で80km弱。となれば、なんとか3日で渡れますから……ラバ4頭で210kgで済みます。とすると、ちょいちょいと、えー、776kgの荷を積めることになりますね」
ベルモント「おお、それならば大丈夫である」
ミリア「やりましたね、ベルモント様」
イヴァン「ただし、それは、あの老婆の方の言われたことが本当だったらの話でございますな。もし、アダーリ川に水がなければ、ラバは乾き死に。小生達は荷を放って徒歩でパヴィスへ向かうことになってしまいます」
ベルモント「うぐっ」
ミリア「もしかして、これがタバーンの罠だったとしたら……」
ベルモント「わたしたちは破滅であるな」
ミリア「でもでも……」
ベルモント「ここはひとつ……」
ミリア&ベルモント「賭けてみるしかない 」
イヴァン「おお、お二人とも燃えていらっしゃいますなぁ。頑張ってくだされ」

ミリア「では、肝心の商品の積み込みに入りまーす」
ベルモント「おお、いいぞぉ、ぱちぱちぱちぱち」
ミリア「えー、ワインは仕入れで1リットル10ルナー(樽、瓶代こみ)の高級ワイン。とすると776kg積めるわけですから、重量の約9割がワインだとして……700リットルのワインが積めることになります。とすると、7000ルナーが必要なわけですが……」
ベルモント「今手元には6000ルナーしかない」
ミリア「なんとかして1000ルナーつくりましょう。ぎりぎりまで積まないとその分損したことになっちゃいます」
ベルモント「そうはいってものぉ」
ミリア「そうだ、ベルモント様のお屋敷にある家財道具を売れば、それなりのお金になるわ。そうよ、そうしましょう」
ベルモント「いや、しかし、あれは爺様の代からある由緒正しい物たちでな……って、おい、こら、勝手にもっていくんじゃなーい。ああ、行ってしまった」
イヴァン「行ってしまわれましたな」
ベルモント「むぅ、最近のあやつ、ユンに似てきたのではないか?人の話を聞かないところとか強引なところとか、そっくりである」
イヴァン「何をおっしゃいます。そういう旦那様こそ、小生めに似てきておいでではないですか」
ベルモント「お、そうか。いやぁ、まいったのぉ、はははは」

ミリア「でも、ほんとよかったですねぇ。なんとか1000ルナー調達できましたよ」
ベルモント「わたしはあまりうれしくない」
ミリア「まあまあ、そんなにいつまでもすねてないで。これがうまく行ったら、晴れて借金返済ができるんですから」
ベルモント「そうなのか? 7000の物が5倍で売れたとしても3万5000にしかならんぞ」
ミリア「7万で売るんです、っていうのはさすがに無理でしょうけど、でも5万では売りたいとこですね」
ベルモント「うむ。難しいところであるな」
ミリア「とはいえ、これもみな、無事に荷をパヴィスまで運べたらの話ですよ。パヴィス街道は特にリスクが大きいところですから、気をつけていきましょうね」
ベルモント「よし。出発進行!!」


「めまいがしたぞ」

 そして、年末。約束の借金返済期限まで、残すところ数週間…… ミリアとベルモントは、懐かしのジョンスタウンへ向かい、パヴィス街道を西へ向かっていた。

ミリア「ベルモント様、良かったですねぇ。借金の6万ルナー、なんとか期日までに間に合いそうですね」
ベルモント「うむ。そうだなぁ。思い起こせば半年前、苦労してワインを運んだこともなつかしいのぉ」
ミリア「そうですねぇ。途中、セーブルライダーの襲撃があって、ベルモント様が矢をうけて倒れてしまって……」
ベルモント「うむ。あのときは死ぬかと思ったぞ」
ミリア「なにを大袈裟にいってるんですか、右足を少しかすっただけじゃありませんか」
ベルモント「え? そうであったか。ははははは、昔のことなのでよく覚えておらぬ」
ミリア「それに、プラックス平原を横断の途中、アダーリ川では参りましたね」
ベルモント「うむ。橋の下に広大な地面が剥き出しになっているのをみたときには、めまいがしたぞ」
ミリア「水なんて全然流れていませんでしたものね」
ベルモント「そのころまでに、ほとんど水は尽きておったし、このままラバを捨て、パヴィスへ逃げ込み、そのままのほほんと余生を送ろうかとも真剣に考えてしまったのぉ」

ミリア「あ、ベルモント様、そんなこと考えていたんですか」
ベルモント「仕方あるまい。アダーリ川で水を補給できなければ、ラバを捨てて行くしかなかったのだからのぉ」
ミリア「そうですねぇ。実際、少し先へ行ったところに、あたしたちと同じ境遇の人がいたみたいで、荷馬車が荷物ごと放置されてましたものね」
ベルモント「調べてみたら、その荷はわたしたちのと同じパスのワインで、びっくりしたのだが、どうやら、あの荷馬車はタバーンの差し金だったらしいのぉ」
ミリア「ええ、あぶないところでした。どこから聞きつけたのか、またあたしたちの先回りをして商売の邪魔をしようと企んでたんですよ」
ベルモント「ところが、奴もアダーリ川の水が干上がっていたので、しかたなく荷を放棄したのであろうな」
ミリア「そうでしょうね。でも、あたしたちはそうじゃなかった」
ベルモント「うむ。川に水が戻ることを信じて待つことにしたのだ」
ミリア「違うでしょ。あまりのショックにベルモント様が風邪をこじらせて寝込んでしまったんじゃありませんか。おかげで動くことができなくて……。危うく、あたしたちの水までなくなるところだったんですよ。傭兵にオーランシーがいたら、きっと暴れてますね」
ベルモント「まぁ、よいではないか。運良くその2日後、川に水が戻ってきたのだから」
ミリア「そうですよねぇ。あのときはイサリーズ様に感謝しました。なんの前触れもなく、いきなり川に水が流れ始めたんですから」
ベルモント「うむ。不思議なこともあるもんだのぉ。やはり、わたしの人徳なのだろうなぁ」
ミリア「違いますよ。パヴィスに着いてからいろいろ調べたところによりますと、どうやら、トロウルたちが、アダーリ川の水をせき止めていたのを解放したのが原因らしいですよ」
ベルモント「おお、そうであったのか。どうりで、急に水が流れてきたわけである。だが、まぁ、これもすべてわたしが風邪をこじらせたおかげなのだぞ。えへん」
ミリア「はいはい。確かにそのとおりです」
イヴァン「しかしまぁ、その後もついてございましたな」
ベルモント「うむ。結局積み荷は4万8000ルナーで売れたし、タバーンの捨てていったワインも1万5000で売れたので、結局6万3000ルナーの売り上げになったからのぉ」
ミリア「それに、今回のことでパヴィスにもコネクションができましたし、次回もこっちに商売に来ることができますね」
ベルモント「パヴィスからパスへは、革製品くらいしか運ぶ物は無いが、それでもそこそこの値にはなるはずではある。ションスタウンに着いて、この積み荷を売り払えば、借金を全て返しても、まだお釣りがくるぞ」
ミリア「ふふふ。タバーンの悔しがる顔が目に浮かぶわ」
ベルモント「……おまえ、やはり性格悪くなったな」


「ベルモント様、かっこいいです」

ミリア「ふぅ。これで、運んできたものはすべて換金できました。えーと、これで、今までに稼いだお金は、7万1000ルナーとなりまーす」
ベルモント「借金の6万ルナーを返してもまだ1万ルナー残るわけだな」
ミリア「はい。よかったですね、1万ルナーもあれば、これを元手にして、交易を続けることができますし」
ベルモント「うむうむ」
タバーン「こんちわ、ベルモンはん」
ベルモント「おおぅ、タバーンではないか。ちょうど良かった、今、貴様に礼を言いに行こうと思っておったところなのだ。借金の利息分を貸してくれたことに感謝するぞ。ほれ、ここに1万ルナーある。約束通り、返すぞ」
タバーン「なんと、1年足らずの間に、ほんまにあないな大金をつくってしまったんかいなぁ。うーむ、悔しいが、わいの負けや。あんさんがトロウルの情報まで押さえとるとは思いまへんでしたわ。あーあ、わいはつねづね、商売は情報が命や、ゆうとったんですがなぁ」
ベルモント「はっはっは。わたしの実力を思い知ったか」
ミリア「そうよ。何度も同じ手が通用するとは思わないことね」
タバーン「そうですな。少々あんさん方をみくびっとったようですわ。今回はおとなしゅう引き下がりますが、次はこうはいきまへんで」
ベルモント「ふん。また、返り討ちにしてくれるわ」
タバーン「ほな、悔しいですけど、約束どおり退散しますわ。さいならさいなら」
ベルモント「ふふふふ、はははは。うーむ、気持ちがよいのぉ。あのタバーンの悔しそうな顔」
ミリア「そうですねぇ。こんなにすがすがしい気分は久しぶりです。でも、ベルモント様、よくあれだけ、口から出任せが言えたものですね」
ベルモント「口から出任せというと?」
ミリア「タバーンに勝ったのが、実力だというところですよ」
ベルモント「なにを言う、わたしの実力だぞ」
ミリア「風邪をこじらせて寝込むことがですか?」
ベルモント「わはは、運も実力の内なのだ」
ミリア「……はいはい」
ベルモント「そうだ、礼といえば、あのばあさまにも礼を言わねばならぬな」
ミリア「アダーリが流れていることを教えてくれたおばあさんですか?」
ベルモント「うむ。そうである」
ミリア「でも、行ってみたらアダーリは流れていなかったじゃないですかぁ」
ベルモント「結果として2日後には流れていたし、あのばあさまの言葉がなければ、わたしたちはパヴィスへ向かうこともなかったのだ。もし、あの交易を行っていなかったら、きっと今頃は2人とも借金奴隷だったのだぞ」
ミリア「そうですね。それに、ワインを運ぶヒントをくれたのも、あのおばあさんですし……ええ、お礼を言いに行きましょう」

ルナー兵1「ええいうるせぇ、離しやがれ、このばばあ」
ルナー兵2「あのなぁ、ばあさん。仕方がねえんだよ、わりぃのはあいつらの親なんだからよ。それが気にいらねぇってんなら、金を払いな、金を」
老婆「そこをなんとか見逃してやってくれぬか。あの子たちにはなんの罪もないのじゃ」
ルナー兵1「離せって言ってるのが聞こえねぇのか、このばばあ!ぐだぐだ抜かしてるとぶった斬るぞ 」
老婆「ひぃぃぃー」
ルナー兵2「わりぃな、ばあさん。どちらにしろ、俺達下っ端じゃあ、なんの役にもたてねぇんでな」
老婆「ああぁ、まっとくれぇー」

ミリア「あれは……あのおばあさんじゃないかしら?」
ベルモント「どれどれ、お、そのとうりである。むむ、なにやら、ルナー兵と揉めておるようだが。行くぞ、ミリア」
ミリア「はい」
ベルモント「おい、ばあさま、大丈夫か」
老婆「おお、これは確か、商人のベルモント殿であったか。恥ずかしいところをお見せしてしまったのぉ」
ミリア「こんな、市庁舎の前で何をしていたんですか?」
老婆「実はのぉ……いや、お主たちには関係のないことじゃ。気にせんでくだされ」
ベルモント「いえ、わたしたちは、ばあさまにお礼をいいに来たのだ。あなたのご助言で見事、われわれは窮地を脱することができたのですからな」
老婆「いや、しかしのぉ……」
ベルモント「なにをおっしゃいます。あなたはわれわれの恩人なのですぞ。どうか事情を話してくだされ。何かわれわれにお手伝いできることがあるかもしれぬ」
ミリア「ちょ、ちょっと、ベルモント様」
ベルモント「なんだ、今、忙しいのだ」
ミリア「さっき、かすかですけど、お金がどうの、と聞こえたんですが」
ベルモント「それがどうしたのだ。金銭トラブルなら、それこそ助けて差し上げることができるかもしれんではないか」
ミリア「で、でも……」
ベルモント「いいから、事情だけでも聞いてみようではないか」
ミリア「……はぁ。あーあ、トラブルには2種類あるのよ。金になるトラブルと金にならないトラブル。今回のは間違いなく金にならないトラブルだわ」
ベルモント「なにをぶつぶついっておるのだ、ミリアよ。まぁ、あやつは気にせず、どうか事情をお話くだされ、ばあさま」
老婆「そうまでいわれるのならお話しするが、実はわしには孫がおってな、とゆうても、本当の孫ではないのじゃが。親は反ルナーのレジスタンスで捕まってしまい、身寄りがなくなってしもうたために、わしが預かっておるのじゃ。ところが、ルナーの反ゲリラ政策で、ルナーに対して反抗した者はその家族までもが見せしめに捕まることになってしもうてのぉ、わしが預かっていた孫も捕まってしまったのじゃ」
イヴァン「噂では、クリムゾンバットの餌が足りないので、当人ばかりでなく家族までもがとらえられるという話でございますな」
老婆「な、なんと、それでは、何の罪もない年端も行かぬ子供が、あの忌まわしき混沌の化け物の贄にされてしまうというのか。なんと、嘆かわしいことじゃ」
ミリア「えー! ひどすぎる」
ベルモント「ばあさん、なんとかその子を救う方法はないのか?」
老婆「ないこともないのじゃが……」
ベルモント「どうすればよいのだ?」
老婆「贖罪金を払えばよいのだそうじゃ。が、わしにはそのような金はないからのぉ」
ベルモント「むむ、それで贖罪金はいくらなのだ?」
老婆「6000ルナーだそうじゃ」
ミリア「はぁ。よかった、それなら、借金を返した後に残ったお金でも十分に足りるわ。助けてあげましょうよ」
ベルモント「うむ。ばあさんよ、安心するのだ。贖罪金はわたしが払ってやろう」
老婆「じゃが、それは1人分で、わしの孫は10人が捕まっておるでのぉ」
ベルモント「な、なにぃ!? すると、6万ルナーだというのか。うーむ」
ミリア「ベルモント様、だめですよ! あたしたちだって借金があるんです。払えなかったら借金奴隷なんですよ!!」
ベルモント「いや、タバーンにわたしの交易ルートを譲ればよいのだ。そうすれば、借金奴隷とならずに済むぞ」
ミリア「で、でも、あの交易ルートは代々受け継がれてきた大切なものなのに……」
ベルモント「だがな、ミリアよ。もともと、6万ルナーも稼ぐことができたのは、このばあさまのおかげなのだ。そのばあさまが困っているというのに、ここで金を使わずどこで使うというのだ。それに、地方の交易ルートひとつで10人もの子供の命が救われるのだぞ、安いものだと思わぬか」
ミリア「でも……はぁ。こうなるとベルモント様は梃子でも動きませんからね。わかりました、あたしも賛成です」
イヴァン「うううう、泣ける話でございますなぁ。おろろーん」
ベルモント「ばあさまよ、ここに6万ルナーある。これでそなたの御孫さんたちを救ってやってくれ」
老婆「ぬ、こんなに大金、よいのかぇ」
ベルモント「もちろんだとも。さきほども言ったように、あなたはわれわれの恩人なのだ」
ミリア「ベルモント様、かっこいいです」
ベルモント「ははは、そうか?」
老婆「おおお、なんと、なんとお礼をいったらよいか。ありがたや、ありがたや」
ベルモント「気にせんでくだされ。それよりも、御孫さんたちを助けだされたら、もっと安全なところへ行かれた方がよいでしょうな。ことあるごとにルナーに目を付けられるといけませんからな」
老婆「ええ、そういたします」
ベルモント「それでは、ばあさま、達者で暮らすのだぞ」
ミリア「お元気でー」

ミリア「はぁーあ、お金なくなっちゃいましたね」
ベルモント「うむ」
ミリア「けど、あれはあれでよかったんですよね」
ベルモント「そのとおりである。一番の贅沢は人助けだ、と昔の偉い人もいっておる」
ミリア「それってフォローになってるんですか?」

ユン「ほーっほほほ」
ベルモント「む、あの高びーな笑い声は……」
ミリア「諸悪の根元、高利貸しのユン!!」
ユン「ちょっと、人のことをデビルやワクボスみたいに言わないでほしいわね」
ベルモント「ふっ、借金の取り立てに来たのだろうが、残念だったな。そんな金はない」
ミリア「そうよ、もう使っちゃったの、ぱーっと、ね」
ユン「そんなこと知ってるわよ。何のためにあんたたちのそばにイヴァンがいると思ってるのよ」
イヴァン「は! ユン様は小生めのことをお忘れになったわけではなかったのでございますね。うれしゅうございます。およよーん」
ミリア「で、なによ。人助けでお金を使っちゃったことを笑いに来たの? ふん、笑いたければ笑えばいいわ。あんたなんかには、ベルモント様のお気持ちなんか一生わかんないんだから」
ユン「ふん……そうでもないのよ。実はわたくし、うれしかったのだから」
ミリア「へ?」

ユン「あのおばあさんの話を聞いたとき、できることならわたくしもお金を払って差しあげたかったのよ。でも、カルトのお金を利益に結びつかないとわかっていて投資することはできないし。けれど、あなたたちは、自分たちが借金に追われているにも関わらず、快くおばあさんをたすけて差し上げた」
ミリア「うん」
ユン「ですから、わたくしは感動しているの。そして、あなたたちにお礼をいいにやってきたのよ。ありがとう、って」
ミリア「な、なんだか気持ちが悪いわね」
ベルモント「ユンにも、優しさがあったのだなぁ。見直したぞ」
ユン「ふ、ふん。わたくしは、誤解されやすいタイプなのよ」
ミリア「あー、照れてる照れてる」
ベルモント「では、借金をチャラにしてくれるのか?」
ユン「ほーっほほほ、それとこれとは話が別ですわ。借りたものはきっちり返して貰うわよ」
ミリア「えーん、やっぱり変わってないよぉ」
ユン「とはいえ、さっき言ったこともほんとう。だから(ボソボソ)借金の返済期限を無利子でのばしてあげるわ」
ミリア「え? なに?」
ユン「借金の返済期限を無利子で延ばしてあげるって言ったのよ」
ミリア「え? 本当!? やったー、じゃあ、もうベルモント様の交易ルートをタバーンに売らなくてもいいんだぁ」
ベルモント「うむ。かたじけない、ユンよ」
ユン「大したことじゃないわよ。気にしないで」
ベルモント「みよ、ミリアよ、人助けというのは周り回って自分のところへ帰ってくるものなのだ。商売の真の秘訣は、人情、なのだぞ」
ミリア「そうですね。イサリーズ様は、商売を通して人と人との触れ合いを、あたしたちに教えてくださっているんですよね」
ベルモント「うむ。そのとおりである」
ミリア「はぁ、なんだか、気が抜けたらお腹が空いちゃった。ベルモント様、なにか食べに行きましょうよぉ」
ベルモント「うむ。そうするか」
イヴァン「旦那様、小生はレッドカウのビーフジャーキーが……」
ユン「何を言ってるの、あんたはもう寺院に戻ってくるのよ」
イヴァン「は、小生、ユン様のもとへ戻ってもよいのでございますか、うれしゅうございますぅ。ですが……」
ユン「仕方がないわね。ベルモント、わたくしも食事につき合って差し上げるわ。イヴァンが名残惜しそうですからね」
イヴァン「ユン様……」
ミリア「じゃあ、みんなで行きましょう。でも、そのまえに。

 ここまで長い間、あたしたちにつき合ってくださった読者のみんさん、ありがとうございました。まだ借金は残ってるけど、ひとまず窮地は脱することができて、とりあえず一安心。  というわけで、名残惜しいですけど、あたしとベルモント様のお話は、ひとまずこれまでです。また、どこかでお会いできることもあるかもしれません、そのときまでお元気で 」

ベルモント「おーい、ミリアよ、いったいだれに向かってしゃべっておるのだ、先にいくぞ」
ユン「まったく、早くしなさいよね」
ミリア「あーん、みんな待ってよぉ」


エピローグ 「今日の儲けに乾杯、ですわ」

ユン「ほーっほほほ。ほーんとお馬鹿な人たちですこと」
大婆様「これこれ、お得意さまのことをそのようにゆうでない」
ユン「でも、あいかわらず大婆様の演技は大したものねぇ。あれなら、あの単純なベルモントでなくとも、ころっとだまされてしまいますわ」
大婆様「いやいや、バイトで雇ったルナー兵二人が、それなりにうまかったからじゃよ」
ユン「さすがは、アズリーリアカルトの大女祭だけのことはあるわね。やることがえげつないわ。借金で追いつめられた商人に、リスクが大きすぎて誰も手を出さないような商売をふっかけておいて、運良く成功したら、その儲けを詐欺でだまし取るとはねぇ」
大婆様「ほっほっほ。えげつなさでは、ぬしもなかなかのものじゃわい。相手にだまし取られたことを気づかせんばかりか、借金の期限を延ばして、もう一度あやつらから金をとる気でおる」
ユン「あーら、これは大婆様から教えられたことですのよ。金を貸した相手は生かさず殺さず」
大婆様「商売人には悪人か偽善者しかおらぬ、というわけじゃな」
ユン「もぉ、やめてください。その言葉を聞くと、大婆様に騙し勝負でいつも負けていたことを思い出してしまって、今でも悔し涙がでるのですわよ」
大婆様「ほっほっほ。その負けん気が大切じゃて」
ユン「なんにしろ、今日の儲けに乾杯、ですわ」

イヴァン「はっ。おそろしい会話を聞いてしまった気が……ここはひとつ、何も聞かなかったことにいたしまして、そろーりそろーり、と……。がたん、ああ、しまったぁぁぁ」

ユン「おや、イヴァン、こんなところで立ち聞きとはお行儀が良くないわねぇ。ちょっと中へいらっしゃぁい」
イヴァン「い、いえ、小生は何も聞いてございません、ほ、ほんとでございます。信じてください。うわー、いやー、でございまーす」
ユン「ふふふふふ」

 ぎぃー、ばたん

(おしまい)