1) クラブの慣性モーメントMs
スイング時のクラブの重さMsは簡略的には次式で表され、その値が大きいクラブほど
振り抜きが重く(負荷が大きく)なります。
Ms=W・(A−20)2/10000 (g・u)
Ms;クラブの慣性モーメント(g・u)
W ;クラブ質量(g)
A ;バランスアーム(cm){重心点からグリップエンドまでの長さ}
注;上式中‘20’は両手の握り部分の長さの定数(cm)
Aはクラブのグリップエンドからクラブの重心までの長さであり、スイングした時の
クラブの慣性モーメントMsはクラブの質量WとほぼAの二乗に比例しています。
重いクラブはバランスアームAを小さくしなければMsの値が大きくなって振切れなく
なります。
Msはスイング中のクラブの重さですが、スイング中にはWがクラブの重心に集中し、
シャフトをしならせるのです。この時重心の位置が遠い程(Aが大きいほど)シャフトは
しなり易くなり、シャフトのしなりを利用するスイングではAを大きくしたクラブが非常に
有効になるのです。
しかし、Aを大きくするとMsが大きくなりスイング中のクラブが重くなるので要注意です。
スイング中に身体が感じるクラブの重さ(負荷)の感覚は、Msではなく、
Ms/(A−20)表現されると考えて良いようです。勿論Msに直結した値です。
このMs/(A−20)の値が同じクラブは同じ重さ感覚でスイングができることを
示しており、この値をスイング感覚感覚値 α と呼ぶことにします。
パターを除けば、セットのクラブでは機能的・感覚的に互いに隣り合う番手が連続的に
関連性があるのが望ましいのは言うまでもありません。
その様子は、スイング中にクラブの長さを感じるバランスアームAを基準(横軸)に
スイング負荷Msと及びクラブの質量Wの値を縦軸(A−Ms図,A−W図)として
表せます。
これらの値は互いに関連しているので、夫々のグラフは同じ様子の曲線で描かれます。
一例として、以下にA−Ms図,A−W図を示します。グラフは以降全て5次関数です。
これは私のクラブセットの現在(2013.12.15)のデータに因るグラフです。
右から順に、1W,3W,5W,U4,5〜Pw,Aw,Sw,Lw,Ptですが、ウッド類は
シャフトのしなりをより多く利用したいためにAを長く、また、ウエッジは振り抜きを軽く
するためにシャフトを短くした上で、全てのクラブのグリップの質量調整と、併せて
若干のヘッドの質量調整を加味したものです。
シャフトは全てカーボンシャフトのフレックスはRですが、トルクはクラブ長さLに反比例
して、長いクラブほど大きく(しなりやすく)短いクラブほど小さく(しなり難い)
なっています。
黒いプロットデータは調整前のオリジナルのものです。
パターは、振り回すクラブではないのですが、クラブ全体との関連は無視できません。
グラフは全て5次元曲線です。
A−Ms図

全体的にオリジナル(黒色)に比べてバランスアームAが大幅に(右に)伸び、ウッドでは
慣性モーメントMsも大きく(上に)なっていて、全体的にクラブ間のバランスが整って
います。
アイアンの範囲の直線では、横軸のバランスアームAの間隔がほぼ一定になっています。
ウエッジ類は好みによって感覚的に微妙に差異があり、スイング時の手の感覚を重視して
身体への負荷を抑えて(Msを小さく)いますが、クラブ全体とのデータのバランスが
大切です。
特にティーアップして使用する1Wは、最大限の飛距離を期待してシャフトのしなりを
最大限発揮させて利用するためにAを大きく、直線延長上よりもMsを大きくしています。
これらは非力な75歳の私ならではのもので、体躯、技力、スイングパターン等によりる
シャフトの硬度(ねじれトルク)、質量、クラブ長さ等により異なってくるのは当然です。
A−W図

黒のオリジナルに比べて全体的に左右に伸びていて、全てのクラブが軽量になっている
のが分かります。
A−Ms図と同様に整然とプロットが並んでいるのが見て取れます。
あなたのクラブのA,Ms,Wのデータをグラフに描いてみると、感触の良いクラブ番手
を基準にして見ると、曲線から外れている番手のクラブが判明します。
もし曲線から外れているクラブがあればそのクラブのスイング感覚は他のクラブとは異なって
いるはずです。その原因は、シャフトの仕様(硬さやトルク)が異なるか、バランスアームA
番手順になっていない(Hw,Gw、Swの組み合わせが不適当)か、です。
勿論それでもショットの結果が良ければ構わないのですが、両隣の一連のクラブとしての
スイング感覚は異なってきますから、どうしてもクラブの連続性において違和感が残ります。
理想的にはどのクラブも同じようなスイング感覚でスイングできれば、それに越したことは
ないのですから、是非ともデータをグラフ化して確認されることをお勧めします。
2) クラブのバランスアームA
バランスアームAは、グリップエンドからクラブの重心位置までの長さであり、クラブ
全体としてはその重心点にクラブの全重量が集中していると考えてよいので、スイング
した時あたかもAの長さのクラブを振っているように感じるのです。
また、重心点には当然クラブの全重量が掛かりますからシャフトをしならせる力点とも
考えられます。
このように重心点の位置、言い換えればバランスアームAの値がスイング感覚と同時に
シャフトのしなりに重要な要件となっているのです。
ここで、バランスアームAを変化させる要因を考えてみましょう。
先の式 A=(Hw・L/W)+(Sw・L/2W)+(Gw・Gl/2W)
からクラブ長さLを固定するとヘッドの質量HwでバランスアームAの大きさの根幹が
決まることが分かります。
しかし、Hw,Sw,Gwの増減変化についてはどうでしょうか?
即ち、ヘッドを重くする場合、シャフトを軽くする場合、グリップを軽くする場合です。
いずれもAを大きくするのですが、一番大きくするのはグリップを軽くする場合で、
次にヘッドを重くする場合、次いでシャフトを軽くする場合となります。
ここで注目すべきことは、ヘッドの場合にはクラブ総重量の増減がグリップやシャフトの
場合とは反対になることです。
即ち、特にGwの増減がAの大きさの増減に大きく関与しており、クラブを重くして
Aを小さくし、クラブを軽くしてAを大きくするのです。
Hwの増減もAの増減に関与しますが、その影響はGwよりも遥かに少なく、しかも
クラブの総重量の変化が逆になり、クラブを重くしてAを大きくし、クラブを軽くして
Aを小さくするのです。
この現象はクラブの調整には非常に重要なことで、グリップとヘッドの質量調整で
クラブのスイング感覚に非常に重要なバランスアームAを効果的に調整することが
できるのです。
3) シャフトのしなり
ボールを遠くへ飛ばす一つの条件は、ボールヒット時のヘッドスピードを大きくする
ことですが、それにはスイングスピードを大きくすることの他に、シャフトのしなりを
利用してボールヒットの瞬間にヘッドスピードを加速させることです。
特に一般アマチュアから非力なシニアや女性にはこのシャフトのしなりを利用することは
非常に有効な要件となります。
ボールの飛距離と方向性に大きく関係するシャフトのしなりと捩じれの、特にしなりの
程度については次の三つの要因によります。
@ シャフトの材質によるしなり
材質の物性値により軟らかいもの(しなり易い)から硬いもの(しなり難い)まで
あります。材質はカーボンからスティールまであり、夫々に硬度の程度が表示されて
います。
A シャフトの構造によるしなり
シャフトを部分的に特にしなり易くした構造のもので、その場所により一般的に
先調子(ヘッドに近い部分)、中調子(シャフト中央部分)、手元調子(グリップ
に近い部分)と表示されていますが、最近はこの要素の研究が進み、更にきめ細かい
しなり性能の分布が解明されてきており、シャフト選びに非常に有効です。
B クラブの慣性力によるしなり
スイングした時のクラブ自体の慣性力によりシャフトがしなる現象であり、
バランスアーム(A)が大きく関与するしなりです。
以上、シャフトのしなりの三つの要因には夫々に特徴があり、@を基本として、
AとBの組み合わせを適切にすることにより最適なクラブに仕上げることができます。
ここで、バランスアーム(A)とクラブ全長(L)の関係について考えてみましょう。
スイングした時クラブの総重量が重心点に働きシャフトをしならせる効果があるので、
大きいAのクラブはそれだけ大きくシャフトをしならせることが期待できます。
クラブの構成要素であるヘッド、シャフト、グリップの最適組み合わせにおいて、
AとLの関係を永年探求して来ましたが、ほぼ次のような関係があるこに到達しました。
(A−60)/(L−70)の値が大きいほどシャフトをしならせ易い
この値をシャフトのしなり係数γと呼ぶことにします。
A−L図

オリジナルよりも、1Wはシャフト長くしています。ウエッジ類以下はシャフトを短めに
しています。
このグラフでも整然とデータが曲線上に並んでいるのがよく分かります。
以上、AとLの関係はシャフトのしなりを発揮させる上で非常に重要な要素です。
スイングでシャフトのしなりを最大限引出してヘッドが利くクラブの方法は、クラブの
全長Lに対してバランスアームAを最大限に大きくすることです。
しかし、Aを大きくすると前述のMsの値も大きくなってしまいそれなりの体力と
技量が必要となりますので、自分の限界のMs、Ms/(A−20)の値を確認しておき
その限度内でAを決める必要があります。
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