アルバム NO5
冷え込みにはや目覚めてか壁ひとつ隔てて妻の咳(しはぶき)聞こゆ
五十年隔てて友と相見しが『過去』はそのまま元へ戻せり
紫陽花は群れて咲きにき初めての二人の家の狭き庭にも
無為の日日悔みて止まずその頃も鴉は「ああ」と鳴きつるものを
ぎこつなく名を呼び捨てに替へたるは式の日近き頃なりしかな
満面に笑みを湛へて写れども二人の老いは紛れもあらず
感性の衰へ見ゆと妻の言ふ老いて疲れて居眠る吾に
三尺のツリー飾れりつつましく老いを重ぬる慰みとして
朧夜に親しむゆとりなかりしを惜しみて悔いて夜半を覚めをり
癌告知受けたる妻にもの言はず歩みを合はす振り返りつつ