アルバム NO,2
へべれけになりたる記憶ほろにがく蘇りたり若かりしかな
遠花火聞こえてゐたり「父死す」のウナ電が扉(と)をたたきし夜は
新妻の夏の渚の残像はまざまざと在り老い就くいまも
『大志』とは軍人になることなりき拒みて吾は抱かざりけり
胡桃もむ母の麻痺の手ふれがたく離れてただに見詰めゐしのみ
秋場所は昨日終はりて黄昏の魔の空白をうむるものなし
ふるさとの潮騒に似てものかなしひねもす止まぬ吾が耳鳴りは
病みて臥す吾が目裏の道筋を使ひの妻が小走りに行く
『我在り』と心満ちたり桜咲く哲学の道妻と行きつつ
幾万の人と相見て来し顔か目・鼻・耳・口鏡に見詰む