アルバム NO1
見はるかす裾野の村に夜の更けて遠く灯すはローソンの店
耳鳴りを互(かたみ)に病みて交はし合ふ老いの会話に躓き多し
慎ましく見し夢なればおほかたは準(なぞら)へてをり今日妻も古稀
憧れてあつく願ひし赤富士に相まみえたり秋晴れの朝
残りゐしわれには最後の知歯(おやしらず)抜かれて帰る日暮れの道を
間仕切りの硝子戸かすかに鳴りつづき老いを早むる秋深むらし
ひとり待つ昼の厨に冷えびえと煮凝りてあり一切れの鰤
坂ひとつ途中にありて年ごとに遠くなりたり駅までの道
ひざがしら何故に動くと妻が言ふ初老の吾のゆらぎて止まず
シナリオは《静かに幕》にて終はるなり吾が終焉もかくありてあれ