第3回 ジャンケンについて熱く語る

 

 ジャンケン。至極単純なルール。誰でも知っている、ゲームの元祖。単純でありながら、これほどに奥が深く味わいのあるゲームは他に類を見ない。いつの日も、ジャンケンは我々ゲーマーを虜にしてきた。

 

 ジャンケンを他のゲームと比べて大きく特徴付けているのが、ジャンケンは単にそれだけでゲームとして楽しむのではなく、その勝敗に何らかの付加価値、つまり罰ゲームや順番決めなどがついてくるという点にある。そして、ジャンケンの勝敗は他のゲームとは比較にならないほどの強制力をもつ。時にジャンケンは人の人生をも左右することさえあるのだ。そういう意味で、ジャンケンは限りなくギャンブルに近い。

 

 しかしながら、今までジャンケンに関して、実戦的・系統的な攻略が行われたことはほとんど皆無といっていいだろう。ジャンケンというゲームは不思議なもので、勝ちたいという思いが強ければ強いほど、負けたくないという思いが強ければ強いほど、人の思考はワンパターンになりやすいものである。ジャンケンが単に運だけのものだと思っている人がいるなら、それは間違いである。そしてそのような人は、これから私が述べる「戦術」をもつ人と対戦したときに、(絶対負けたくないときに限って)、極めて高い確率で敗北するであろう。ジャンケンは「戦術」を用いることで飛躍的に勝率がアップするゲームである。

 

1.気軽な局面(プレッシャーはほとんど皆無の場面)での攻略法

 

(1)先手必勝

 

 これはプレッシャーの無い場面において極めて有効な作戦である。「せ〜の、ジャンケン、ぽい。」とかやっているようでは甘い。先制攻撃である。いきなり(大きな声で、かつ早口で)「ジャンケンポーイ!」と叫び、相手を強引に(心の準備が整わぬうちに)勝負させてしまうのだ。このような場合、相手は心の準備ができていないために、出す手は極めてワンパターンになる。大部分の人はグーを出す。したがって、パーを出しておけばまず負けることはあるまい。

 

 しかしこの作戦には欠点がある。まず、相手が反応してくれない場合。相手が手を出してくれればほとんどの場合グーを出すが、出してくれなければ、勝負は無効となる。そして、この作戦最大の弱点は、ジャンケンに懸かった付加価値(罰ゲーム、おごり、その他)が大きければ大きいほど、「ズリイよ」と言われて勝負が無効になってしまうことである。したがってこの作戦は、負けてもそれほど損をしない、被害を被らないような気軽な局面でこそ使うべきである。

 

 この作戦は、ジャンケンで勝つためにはいかに自分のリズム(間合い)で勝負すべきか、ということを我々に教えてくれる。これはジャンケンに限らず、あらゆる勝負事において重要なことである。身近な例を挙げると、プロ野球がある。ピッチャー(もしくはバッター)が、自分のリズム(間合い)でないために、タイムをとって間を空けることは良くある光景である。

 

(2)グーを見せてグー

 

 これは、ジャンケンをするときに最初にさりげなく手をそのままグーにして出しておく。(つまり、振りかぶらない、と言うことだ。)すると、相手は自分がグーを出しているにも関らず、チョキを出してくれることが多い、もしくは相手がパーを出してそのまま負けるということが少ない、という作戦である。

 

 これにはいくつかの理由が考えられる。まず、相手はグーが出されているのを見て、「このままグーを出しつづけるはずが無い」、と考えることで、パーを出す確率が減少すること。そして、同様の理由で、「グーを出しつづけているはずがないから、チョキで負けになることはあるまい」、という思考から、チョキを出す確率が上昇すること、などである。

 

 しかし、正直なところ、この作戦は実際に私が以前試してみたときに、それほど勝率は良くなかった。これにはいくつかの理由が考えられ、それがそのままこの作戦を用いる上での注意点になると考える。

 

 まず、最初にグーを見せるときにさりげなく見せることである。「いいか、見てろよ、オレはこれからグーを出すぞ〜。」っていう感じをプンプン漂わせているようでは駄目である。それでは相手は必要以上に警戒感を強めてしまうことで、前述したような思考パターンに相手をもっていけなくなる。さりげなく相手の視界の中に自分のグーを見せることで、相手が無意識のうちにワンパターンの思考をさせるのである。

 

 ということは、この作戦はプレッシャーのかかった重大な局面でのジャンケンには不向きであることが示唆される。なぜなら、そのジャンケンの勝負の重みが重ければ重いほど、相手は必死になってこちらの思考パターンを推理し、自分の出す手を吟味してくるからだ。この作戦のような単純な思考はしてくれなくなる。それに普通、重要なジャンケンになればなるほど、振りかぶるモーションというのは大きくなるもので、全く振りかぶらないこの作戦はそれだけで相手に警戒感を与えてしまう。

 

2.重大な局面(きわめてプレッシャーのかかった場面)での攻略法

 

(1)Hunter×Hunter理論

 

 言わずと知れた有名な理論であり、単純な理論であるにも関らず、きわめて有効。しかも、重大な局面でこそ有用。これは週刊少年ジャンプに連載中である「Hunter×Hunter」(冨樫義博作)を読んでいる人なら知っていると思われるが、その要旨を以下に述べる。

 

 この理論は、ジャンケンにおいてあいこになったときに、迷ったり弱気な人が陥る思考パターンについて考察したもので、あいこのときに弱気な人は心理的に安定を望んで前と同じ手を出すか、自信回復しようとして前の手より強い手を出そうとする傾向が強いとしたものである。

 

 分かりやすい例を挙げるならば、例えばグーとグーであいこになったとする。このとき、迷っている相手は、心理的に安定を望んで前と同じ手(グー)を出すか、自信回復しようとして前の手より強い手を(パー)を出す。したがって、あなたはパーを出しておけば、少なくとも負けは無い。

 

 これはぜひマスターしてほしい理論の一つである。はっきり言って、これだけでもあなたのジャンケンの勝率は飛躍的にアップすることだろう。しかし、この理論にも活用する上での注意点がある。

 

 この理論は、相手が迷ったり弱気になっていることを前提にした心理的考察がそのバックグラウンドとなっている。したがって、気軽な局面ではかえって逆効果なこともある。あくまで、プレッシャーのかかった場面でのみ使用したい。また、いくらプレッシャーがかかっていようと、相手が迷わなければ意味がない。「ジャンケンポーイ!」のあとで、考える時間もなく、「あいこでショー!」と勢いに任せてやってしまうようではむしろ負ける危険性のほうが大きい。相手が、「あいこで…」と、身構えたときに「ちょっと待って!」と一呼吸置いて、自分のリズムを作ることが、この理論を生かす上でのちょっとしたコツである。これにより、前述した自分のリズムで勝負できる有利さに加え、「何かやってくるかも」という迷いを相手に生じさせることができるのだ。この「迷い」を相手に芽生えさせることができたなら、もう勝ったも同然だ。

 

(2)最初はチョキ!

 

 普通、人は目標に向かって努力する。これは付加価値のかかったジャンケンにおいても同様である。勝負にかける思いが強ければ強いほど、人は勝利に向かって「努力」する。では、この「努力」とは何か?

 

 人が普通、ジャンケンをするときの「構え」は手に握りこぶしを作る。つまり、グーである。ここから振りかぶって、グーを出すなら、手はそのままで、チョキやパーなら手を振り出し、止まる直前にグーの握りこぶしをチョキかパーに変える。この、グーの握りこぶしをチョキかパーに変える作業こそ、人が行う「努力」である。

 

 早い話が、気合の入ったジャンケンでは、最初に出す手はチョキかパーが多く、グーは少ない。勝負にかける人が、グーの握りこぶしをそのまま出すことは非常に勇気のいることなのであろう。ほとんどの場合に、グー(握りこぶし)からチョキorパーに変えてくる。重要なジャンケンにおいて、1回目の手出しで勝負が決する場合、ほとんどがチョキ・パーの決まり手でチョキが勝つ。したがって、重要なジャンケンでは1手目にチョキを出すべきだ。そうすれば、少なくとも負けは無い。

 

 (1)(2)を組み合わせることによって、あなたは重要なジャンケンにおいてほとんど負けることは無いであろう。最初にチョキを出し、それで勝てれば言うことはないし、もしあいこならHunter×Hunter理論を使えばよい。

 

(3)消去法

 

 上記の(1)(2)の基本的な考え方は非常に有効だが、理論を知っている人に対しては効果がないし、長期戦になったときもワンパターンの戦略は読まれやすい。結局はその場の駆け引きが重要になるのだが、そこでこの消去法という基本原理は非常に有用である。

 

<例>

1手目:グー・グー

2手目:チョキ・チョキ

3手目:パー・パー

4手目:グー・グー

5手目:チョキ・チョキ

6手目:?

 

 さて、ここであなたは次に何を出すか?私ならここでチョキを出す。流れ的にはここでパーが来る流れである。(無論、相手もこのことを知っている。)ここで予想される相手の思考は、次の2つが考えられる。流れに従い、パーを出す。(ここには、グー・チョキ・パー・グー・チョキ…と続いた流れならさすがに次はもうパーはないだろう、という考えの裏をかくという相手側の作戦がある。)もう1つは、流れに逆らいチョキを出す。(ここには、おそらく次も流れに従いパーで来るだろうから、ここでチョキを出そう、という相手側の作戦がある。)相手がグーを出す可能性はきわめて低い。これは流れ的にお互いに相手が流れに身を任せてパーを出す可能性が否定できないからである。

 

 したがって、相手が次に出す手はパーかチョキに絞られるので、自分はチョキを出しておけば少なくとも負けはない。

 

 本来、ジャンケンで負ける確率はわずか33%である。67%の確率で負けはない。しかし実戦では、相手の次に出す手はグー・チョキ・パーで、どれも平均的に33%ずつではない。その場の状況や心理状態、その人個人の性格やジャンケンの傾向などによって、偏りが見られるものである。そこで、最も出す確率が少ないと思われるものを推定し、「少なくとも負けはない」確率を上げようというのがこの「消去法」理論である。

 

 「Hunter×Hunter理論」や「最初はチョキ!理論」もこの「消去法」を応用したものである。ばらしてしまうが、実はこれが私が実際にジャンケンをする上での軸となる基本的戦略であり、この考え方はジャンケンをする上で非常に重要だと思う。

 

3.大人数でのジャンケン

 

(1)やっぱり最初はチョキ!

 

 今までは一対一のジャンケンについて考察してきたが、ここからは複数の人が同時に参加するジャンケンについて攻略法を探る。

 

 大人数参加ジャンケンには大きな特徴がある。それはジャンケンに付帯する付加価値がサシの勝負に比べて特殊かつ甚大であることだ。すなわち、一番勝ちが得をする、というパターンに比べ、一番負け(もしくは負け数人)が何らかの罰ゲーム、希望を変える、などの大きな損害を被るパターンの方が、はるかに多いことである。つまり、大人数ジャンケンでは、(サシでは二人のうち一人が負けるのに比べ)、負けるのは複数人のうちたった一人である。ゆえに負けたときの被害が大きい。

 

 したがって、「負けたくない」という気持ちはやはり、一対一に比べ大きくなる。そうなると、先ほど述べた「最初はチョキ理論」が有効だ。私自身の経験上、やはりチョキ・パーの決まり手が断然多いように感じる。(あいこになるときはあまりやる気のない人が一人ぽつんとグーを出してあいこになるケースが多い。)

 

(2)「決まり手」に着目し、流行に乗れ!

 

 私は大人数ジャンケンに参加するときは、常に「決まり手」に注目するようにしている。参加する人数が多ければ多いほど、その決まり手に明らかな流れが存在する。これは勝負の付かないあいこのときでも言えることだ。例えば前述の、最初はチョキ・パーの決まり手が多いというのは、勝負が付くときだけでなく、あいこのときにも、グーが極めて少ないのだ。個々の出す手は毎回違うのだが、全体で見ると最初のあいこ3回くらいはグーが少なく、チョキ・パーの割合が大きい。よって、まずチョキを続けて出しておけば負けはない。自分一人の出す手に注目してる人なんてまずいない。

 

 しかし注意してほしいのは、「潮の変わり目」が存在することだ。例で言えば、チョキ・パーの流れが続くと、大部分の人はそのことに気付く。すると、パーを出す人が減って、グーとチョキが多くなる。(当たり前だ。パーを出すと負けてしまうからだ。)そうなると、決まり手は今度はグー・チョキが多くなってくる。つまり、「潮の変わり目」に気付かずに、ずっとチョキを出しつづけていた人はここで負けてしまうのだ。これは運でもなんでもなく、自分の注意力不足が原因である。ここで「潮の変わり目」に気付き、チョキからグーに移行することができるかが、大人数ジャンケンする上での勝負の分かれ目である。ちなみに私は大人数ジャンケンで負けたことは(つまりビリになったことは)ほとんどない。

 

<まとめ>

 

 さて、読者の皆さんはジャンケンというゲームがいかに相手の心理を読みその傾向を探る駆け引きのゲームか、そしていかに場の流れを読む注意力のゲームか、ということが分かったであろう。そしてこのことは、何もジャンケンだけに限ったことではない。

 

 例えば、軟庭について言えば、前衛と後衛の勝負はきわめてジャンケンに近いものがある。大雑把に言って、前衛の選択肢は「ポーチに出る」「サイドを守る」「スマッシュを張る」であり、後衛の選択肢は「相手後衛前にクロス」「サイドパス」「前衛オーバーのロブ」である。この3つの選択肢はジャンケンの「グー」「チョキ」「パー」の概念に近く、前衛と後衛との駆け引きはまさにジャンケン的な心理戦である。したがって、対外試合において(ほとんど)未対戦の相手と試合をするときに、いかに相手の心理・傾向をいち早くつかむことができるか、が重要であるのは言うまでもなく、そうするための訓練法としてもジャンケンは非常に有用であるといえよう。(なんかハイパー軟庭学みたいになってしまった。)

 

<参考文献>

 

 世間では割と軽んじられている感のあるジャンケンだが、ジャンケンにおける心理状態について詳しく考察した名著が存在する。ぜひ一読を。

 

Hunter×Hunter(冨樫義博)

 

 現在週刊少年ジャンプ連載中。「幽遊白書」「レベルE」などで知られる冨樫氏の最高傑作。ジャンケン界に「Hunter×Hunter理論」を展開した功績は大きい。

 

JoJoの奇妙な冒険:第4部(荒木飛呂彦)

 

 現在週刊少年ジャンプで第6部が連載中。第4部中盤でのジャンケン小僧との対決は、ジャンケンにおける息詰まる心理状態を克明に描写!

 

・カイジ(福本伸行)

 

 週刊ヤングマガジン連載中。ギャンブルに潜む敗北への恐怖を圧倒的現実感で描く!圧巻のストーリー展開!

 

 ちなみに私は、この3人の漫画家は手塚治虫級の偉大な「アーティスト」であると思います。

 

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