人はきれいに生きようとする。
悲しいほどきれいにな。
そうすると人を許せなくなる。
滑稽なほどに。無責任なほどにな。



年をとると、人間は変われぬようになる。
年をとるほど、
変わるために捨てねばならぬ物が
増えてゆくのに、
年をとるほどに、そういう物を捨てるのに必要な
勇気とか無分別という物が枯渇してゆくのじゃ。



…人は誰しも胸の内に怪物を飼っておる。
人が怪物を憎むのはな、
そいつを通して自分が胸の内に押し込んでいた
醜いものの存在を感じるからじゃ。
外の怪物を殺そうとも、
内の怪物を殺そうとも、
解放にも解決にもならぬのにな。



わしには予言の力がある。
人の不幸が言葉となって頭に浮かぶのじゃ。
じゃが、運命は変えられぬ。
わしは不幸をくいとめようとしたがムダなことじゃった。
最後には、わし自身が不幸を呼ぶ者として
うとまれ村を追い出された。
まだ10才じゃった。
あのときの母親の形相は今でも忘れぬ。
あのときの気持ちもな。
自分は奴らの言うような
不幸を呼ぶ者ではないんだと
そう強烈に思うた。
その思いは老境にあって
まだ忘れぬのに、
わしは今でもこうして
世界を恐怖させておる。
運命だったのじゃよ…。
誰も運命からは逃げられぬ。
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