ティアナ:●●様、
…今日はおひとりですのね。
安心しました。
いえ、お酒とバクチに明け暮れた
あの野蛮な人とご一緒かと思って。
いいのです。あの人の
肩を持つ必要はありませんわ。
だいたい
私、あの人を婚約者だなんて
認めておりません。
お母様が勝手に決めたことです。
…お母様にとって、ティアナは
勢力拡大のための道具にすぎない。
私の幸せなんて
取るに足らないことなのです。
だから、あんな男と…。
…ごめんなさい。
みっともない話を聞かせてしまって。
でも…王宮なんて、そんな所です。
外見は立派でも、中身は…。
ティアナ:
あの方は、今日もどこかで、
飲んでおいでですの?
決まっています。
ファーロス総司令のことですわ。
仮にも私の婚約者でありながら
めったに王宮に顔を
出さないんですもの。
もちろん、
あの方の妻になる気など
少しもありませんけど。
ああ…、考えただけで
気分が悪くなってきたわ。
ごめんなさい。
せっかく●●様が
来てくださったというのに…。
あ…、もうお帰りなのですか?
また、いらしてくださいね。
先ほど、レムオン様が
いらっしゃったのです。
●●様のことを
本当に得意げに
お話しされてゆかれました。
レムオン様は
とても妹思いなのですね。
妹の前では素直になれないのですね。
レムオン様らしい…。ふふふ。
ティアナ:
●●様、
ようこそ、おいでくださいました。
今日は、●●様が
いらしてくださるような気が
していました。どうぞこちらへ。
エリス:
ティアナ、邪魔をする。
ティアナ:
…お母様。
何かご用ですか?
エリス:
実の母親が娘のもとを訪ねるのに
用などいるのか?
ただ、そなたの顔を見に
ここまで来たまでだ。
ティアナ:
それは意外ですわ。
ファーロスの雌狐の動きには
ひとつの無駄もない。すべてが
権謀術数につながっている…
そのように
誰もが噂しておりましたので。
エリス:
誰もが?
レムオン坊やであろう?
他の者はくだらぬ噂はできても、
私を批判するだけの気概は
持ち合わせてはおらぬ。
エリス:
少しのどが渇いた。
飲み物を持ってくるように
言ってくれぬか。
ティアナ:
雌狐の娘ですもの。
毒を盛るかもしれませんわ、お母様。
エリス:
フフ、そなたに殺されるなら本望よ。
エリス:
そなた、ティアナの部屋にも
顔を出しておったのか。
これからもティアナのこと、
守ってやってほしい。
母親である私は国のため、家のため、
このようなザマだ。
あれにもつらい思いをさせていよう。
ティアナの心を
少しでも助けてやってくれ。
フフ、私も親バカなことよ。
よろしく頼むぞ、●●。
エリス:
ティアナ、邪魔をしたな。
飲み物は、毒が入っておらぬなら、
供の者にでもやるとよい。
ティアナ:
お母様は、私を外に追い出して、
あなたに何をお話しだったのです?
…そう。
お母様はとてもお美しい。
ですが、お父様は…
あまりパッとしません。
…釣り合いませんよね。
たとえ、お父様の他に誰かがいても、
不思議はありませんよね?
男の人は、美人には弱いのですね…。
…今日は…気分がすぐれません。
お引き取りいただけませんか?
ティアナ:これは公爵様。
よくぞ、お越しくださいました。
レムオン:
ティアナ様もご機嫌うるわしく。
ティアナ:
さぁ、遠慮なさらずに
奥へお入りくださいませ。
レムオン:
ずいぶん丁重な
もてなしようではないか?
ティアナ:
お母様ですら一目置く
レムオン様のおいでですもの。
当然のおもてなしですわ。
レムオン:
笑える冗談だ。
しかし、どういうものかな?
俺のような者を部屋に入れるとは。
フィアンセが聞いたら
怒るのではないか?
ティアナ:
婚約者といっても
お母様が勝手に決めたこと。
幼なじみのレムオン様との関係と
とやかく言われる筋合いは
ありません。
だいたい、酒とバクチにおぼれて
宮廷に近寄ろうともしない方を、
ティアナは婚約者とは認めません。
それに私は、ファーロス家を
発展させるための道具ではありません。
レムオン:
やれやれ、エリスも哀れだな。
ファーロス家発展のために
知略の限りを尽くしたところが、
娘のわがままのせいで
その綿密な計画も水の泡か。
ティアナ:
ひどいわ、レムオン様!
わがまま、だなんて。
これでも、国のことは、
いろいろと考えているつもりです。
レムオン:
これは失礼、ティアナ王女。
さすがは、ファーロスの…
ティアナ:
ええ、ファーロスの雌狐の娘です!
レムオン:
俺はいつかエリスの専政を打ち破る、
そして広場の千年樹に記されたとおり
貴族共和の政治を復活させる。
ティアナ:
悲しいですわ。
ティアナはそのとき…
お母様と一緒にファーロスの一族として、
粛清されてしまうのですね…。
レムオン:
心配するな。幼なじみのよしみで
特別に大きな墓を建ててやる。
ティアナ:
もう、レムオン様!
レムオン:
冗談だ。王家と排除すべき敵の
区別は付いている。
ティアナをどうこうするつもりはない。
ティアナ:
ふふ、大事な幼なじみですものね。
レムオン:
そうだな。
大事な幼なじみ…だからな。
おっと、そういえば侍従長殿から
伝言があったのを忘れていた。
いつまでたっても王女が
来られないから呼んでくるようにと
言われていたのだ。
ティアナ:
あ! うっかりしてましたわ。
うふふ。もうカンカンに
怒っているでしょうね。
レムオン:
ああ、それはもう。
早く行かれた方がよいだろうな。
…長居した。
今日はこれで失礼する。
ティアナ:
レムオン様。
どうぞ、またいらしてください。
ティアナ:
ルリル様は、レムオン様と
似ていらっしゃらないのですね。
でも、その方がよろしかったですわ。
レムオン様みたいに口が悪くては
敵ばかり作ってしまう…。
ふふふ。レムオン様には
今の話は内緒ですよ。
戻る