ティアナ:
これは…、●●様。
あの…
ティアナのお願いをきいてください。
寝室に…来ていただきたいのです…。
ティアナ:
タルテュバ様です。
倒れていらっしゃったのを
お運びしたのです。
ええ。あのとき確かに
タルテュバ様は怪物になられ、
退治されました。
それが、どういうわけか、
元のお姿で、衰弱しきって
発見されたのです。
タルテュバ様のお体はボロボロです。
日頃から大酒を飲まれ、
不摂生をしていたこともあって…。
その上、今までどうなさっていたのか。
とにかく、衰弱がひどくてかなり危険な容態です。
意識も…戻りません。
いつどうなってもおかしくないのです。
ですから…。
タルテュバ様の治療のため、
生命のかけらを
分けていただきたいのです。
…●●様、
確かにタルテュバ様は
善人ではありませんでした。
ですが、こうなってしまっては
もう、悪人も善人もありません。
違うでしょうか?
●●様、
どうか、お願いします…。
(…でも、衰弱がひどい。
生命のかけらを与えても
治るだろうか…)
タルテュバ:
…待て。
…俺みたいな奴を
なぜ、助ける?
…俺で…さえ、俺自身で…さえ、
俺のことが…好きに…なれなかった。
だのに…なぜ…? ゲホッ、ゲホッ!
…あ…あいにくだな。
まだ…もうしばらくは…くたばらん。
もう少しは…持つ。フフ…。
き…気休めか…?
フン…、俺はもう貴族様では…ない。
へつらう…必要は…ゲホッ! ゲホッ!
…なぜだ? なぜ?
打算も見返りもなしにやさしくなれる?
どうして、…俺みたいな…奴に?
ティアナ…あ、あんたもだ。
…俺は…最低な…男だ。
いとこたちの…ような才もない。
愛されるところなど…何も…ない。
ティアナ:
そんなこと…。
タルテュバ:
な、慰めはいい。
俺だって自分のことぐらいはわかる。
人より優れたところなど…家柄だけ。
俺は、だからその家柄にだけすがって
かろうじて自尊心を維持していた。
はたから見れば、イヤな貴族の典型だ。
俺はそれがわかっていたから
いっそう荒れずにいられなかった。
酒におぼれ…弱いものをいじめ…
乱暴を働く…皆、俺を嫌いぬいていた。
そんな俺を…誰よりも俺が憎んでいた。
…意外か? 俺に内省力があったなど…
誰でもない自分のことだ、
気にしない…わけがない。
お前…農民なんだ…ろ…?
レ、レムオンの領地で暴れ回ってた…。
俺は…お前のことを…貴族だから嫌い、
貴族だから…憎むっていう…奴だと…
思ってた…。だのに俺を…助ける…。
ティアナ…にだって
俺はひどいことをした。
覚えているだろう?
俺には助けられるだけの価値はない…
…だのに、なぜ…
あんたらは、俺を助ける?
俺は何もかも…決めてかかっていた。
憎けりゃ、殺したくなる。
愛されない奴は憎まれるしかない。
…そう、思っていた。
だが…すべては…人の心にあるんだな。
人の心が状況を変えるのだな。
俺も…、変われたのかもしれない。
もっと早く…おのことに気づいていれば
俺が…お前の…ゲホッゴホッ!
き、気づいたときには時間切れか。。
ふ、ふふ…、俺らしい…。
…あばよ。
…ロクな人生じゃなかった…が…
おかげで…少しは救われ…た…。
ティアナ:
タルテュバ様…。
人の死に慣れてしまったのでしょうか。
幼いときから一緒にいた方の死なのに
感慨がありません…。
でも、安らかなお顔でしたね。
セバスチャン:
タルテュバ様も思えば、
おかわいそうな方です。
何かにつけて、いとこの
レムオン様、エスト様に比べられ、
あげつらわれてきたのですから。
タルテュバ様も貴族に生まれなければ…
このような悲しいことには
ならなかったのかもしれません…。
タルテュバ様…。
ティアナ:
●●様…少しだけ、一人にさせて下さい…。
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