エリス:
よく来た、フリントの息子
●●よ。
もはや知っていようが…
そなたの父フリントは
ただの旅の商人ではない。
我が配下の諜報員だった。
今回は、ノーブルの代官ボルボラから
エリエナイ公レムオンの出生の秘密に
関わる手紙を運んでくる途中だった。
そのことを私の口から伝えておくのが
筋だと思い、こうして呼んだのだ。
そなたの父には世話になったゆえな。
私の娘ティアナが生まれるころ…
テジャワの変で私を救ってくれて以来
フリントは私によく仕えてくれた。
フリントのことは
心から残念に思っている。
そなたには気を落とすなとも言えぬ。
そなたは目の輝きが他人とは違う。
目の輝きは魂の輝きを示す。
そなたはよき魂を持っているようだ。
その魂を、今回のことで
曇らせぬようにしてほしい。
ただ、それを願うばかりだ。
わざわざ、すまなかったな。
そなたの元気な姿を見ることができて
安心した。
さがってよい。
フリントの子●●よ。
フリントの子●●よ。
父のように私に仕えろとは言わぬ。
だが、時には私の所に来るとよい。
門衛には、そなたのことは
申し伝えておく。
門衛に話をすれば通れるはずだ。
兄の死
エリス:
●●か。
先のディンガルとの戦で
兄、ノヴィンが死んだ。
気の利かぬ、察しの悪い男だった。
よく言えば、たくらみのない、
悪く言えば、ぼんくらな男だった。
凡庸だったが、
死んでみると、やはり悲しいものだ。
それが親族というものかもしれぬ。
自分のあり方に疑問を抱かなかった。
一切な。そういう人間は得てして
はた迷惑なものだが、兄もそうだった。
エリスの料理
エリス:
陛下、
ようこそお越しくださいました。
セルモノー
:王妃に逆らえる者など
このロストールにはおらぬ。
ふふ、その王妃のお呼びとあれば
足を運ばぬわけにはいくまい?
エリス:
陛下、本日はともに食事でもと…。
私が料理をいたしました。
すぐに運ばせましょう。
しばし、お待ちください。
セルモノー:
いかんな。王妃は忙しい身。
国の柱ではないか。
王妃に料理などさせておいては
国政はどうなる?
余のような頼りない王に任せる気か?
エリス:
おたわむれを。
陛下なくして
国政が立ち行きましょうか?
夫のために料理をするのは妻の役目。
私にとって、陛下のために
料理することは楽しみでございます。
セルモノー:
結婚以来、そなたの料理に
余が手をつけたことは
一度もなかったが、
それでも、余のために料理を
するのが楽しいか…。奇特なことよ。
ふふ、エリスは女の鑑よ。よい妻だ。
しかし、そこまでされると
かえって、人は勘ぐるものでな。
特にファーロスの雌狐の料理とあれば。
エリス:
毒をお懸念でしたら、
私が陛下の毒味をつとめましょう。
セルモノー:
ふっ、戯れ言よ。
余にはまだ利用価値がある。
ティアナとゼネテスが結婚するまでは
余に死なれては困るであろうからな。
…毒など考えられぬことじゃ。
エリス:
では、料理を運ばせましょう。
セルモノー:
それには及ばぬ。食欲がないのだ。
王妃よ。これ以上、用がないのなら
余は退出してもよいかな。
エリス:
…よろしゅうございます、陛下。
セルモノー:
ふふふ、下がれでよい。
王妃がこのロストールの主
なのだからな。ははは…。
エリス:
遠慮することはない。
入るがよい。
エリス:
気にすることはない。
…慣れた。
…さすがに嫁いですぐの時は
つらかったがな。
フフ、事情はわかっていると思う。
残り物ですまぬが、
料理を食べてくれぬか?
食べ物を捨てられぬ性分でな。
ひとりで食べてもよいが
それは、さすがにさびしい。
私は料理には自信があるのだ。
娘時分に、将来の夫のためと
みっちりと仕込まれたのでな。
裁縫も機織りも一生懸命覚えた。
意外であろう?
(首を振る)
フフフ、やさしいのだな。
それならば、ともに食べてくれるか?
ファーロスの雌狐の料理を。
(うなずく)
礼を言う。
さっそく料理を運ばせよう。
今日は…すまぬな。
●●。
テジャワの変
侍女:
王妃様、シドア侯が
面会を求めております。
エリス:
待たせておけ。
侍女:
3時間前からお待ちですが。
エリス:
構わぬ。
その程度の能しかない男だ。
4時間でも5時間でも待つだろう。
七竜家の当主であろうと、
いまや私に逆らうことはできない。
フフ…、望んでこうなったのではない。
私は権力を求めて
王室へ嫁いだのではないのだ。
陛下はファーロス家の力が
目当てだった。
仕方ない。大貴族の娘なのだからな。
だが、王室に入った当初、
あれほど陛下が冷たくされたのは…
つらかった…。
だからこそ、ティアナを
身ごもったときの喜びは大きかった。
ティアナこそ、
陛下と私とをつなぐ
きずなになるはずだった。
だが、ティアナの誕生を待たずに
王宮に政変が起こった。
…テジャワの変と呼ばれている。
ナグイゼ伯テジャワは、
国王を廃し、先代の王の娘、
幼いアトレイアを王位につけ…
政権をほしいままにしようと
したのだ。
私は、誰よりも先に陰謀に気づき、
これを阻止するため奔走した。
それまで、侍女としか口をきいたことの
なかった私が、独断で兵を動かし、
陰謀に加担した者全員を検挙した。
だがそれは、有力貴族全体を
敵に回すことを意味した。
当時、七竜家と呼ばれる有力貴族は
王室と肩を並べるほどの
力を誇っていた。
正面から戦っても勝ち目はない…。
そこで、各家の不和を誘うため
謀略に通じるようになった。
一方、クーデターの失敗を知った
前王妃は、娘のアトレイアを道連れに
服毒自殺を謀った。
私は、アトレイアを救うため、
毒にも詳しくなった。
家族を守りたいがため、
必死で戦った。
…そして、これがその結果だ。
貴族は力を失った。
ティアナは母を嫌悪している。
そして、私の夫は…
国王セルモノーは
政治から離れ、
すべてにおいてあの調子だ。
…いっそ、あの政変で殺されておけば
みな、幸せだったのかもしれぬ。
そう思いもしたものだ。
最善だったとは思わぬ。
だが、後悔はすまい…。
今はそう思っている。
さて、そろそろ
シドア侯の
愚痴に耳を貸してくれようか。
●●、
はずしてくれぬか?
ゼネテスのこと
エリス:
●●か。
ゼネテスとはうまくやっているか?
あれは器用で頭もいいが、
立ち回りがヘタだ。
…敵を作りやすい。
だが、そなたには
人を惹きつける力がある。
その魅力が
ゼネテスを救うこともあるだろう。
力になってやってほしい。
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