制作にあたって
  日々の生活を繰り返すうちにいつの間にか街が変化している。道が整備され、緑地や古い家が空き地になり新しい家やマンションが現れる。そして、以前そこに何があったのかということすら思い出せなくなっていく。
  ふいに変わっていく町並みの存在感の希薄さに、自分の存在感を見失うほどの不安に襲われる。しかし、人や車の行き交う音、商店から漂う匂いや客のあわただしい気配に現実味を感じて安堵する。人は、人と触れ合ったり語り合ったりしながら自分の存在を確立しているのだ。
  そして、その日常の風景の中にこそ美の世界への入り口が隠れているのではないだろうか。都市の存在の希薄さと身近な物の現実味の同居し対立し合う不安定な景色、不安と安堵の間を行き来する人々の微妙な心。物を作る者の仕事とはそんな揺れ動く心を見つめ、美の世界の入り口を見つけて形にすることではないかと考えている。