立売り茶屋
「甘口辛口」新潟日報
2008.9.24掲載

 狩野永徳作「洛中洛外図屏風(びょうぶ)」は上杉謙信が織田信長から贈られた屏風で、京都の町とその周辺が描かれている。

 絵は離れて見るものと思っているとこの絵は金雲しか見えない。しかし、近づくと金雲の中から都のにぎわいが聞こえてくる。金閣寺、清水寺、渡月橋、立ち並ぶ商店、一人ひとりの表情まで描かれた人々の様子などは見飽きることが無い。

 その中にお茶を売る男がいる。てんびん棒の前後に炭をくべた茶釜と茶器を積んだ水桶(おけ)が取り付けてある。男の手には茶わんと茶せん、向かいに大きな茶わんでお茶を口に運ぶ客がいる。店主は立ったまま抹茶をたて、客は立ったまま飲む。立売りと言うらしい。このお茶売りは、神社の境内にもいる。抹茶が1500年代半ばにこのように飲まれていたと思うと面白い。他にも御所や有力者の屋敷、年中行事などが描かれ、京都の風俗や政情がわかる。

 冬、雪に閉ざされた城の中で謙信はこの屏風をどんな気持ちで眺めたのだろう。