若よ、これが真の渓流じゃ、ほんでもって乾杯じゃ


 舗装されていない荒れた道を進み、カーブを曲がった瞬間、叫んでしまった。
「うぉーっ、道が無〜い。」車を止め、若と顔を見合わせた。土砂崩れで、道がゴソッとえぐられているのだ。秘密のポイントはこの奥なのに...
 
 前回の管理釣り場へのお遊び釣行の時、若に今度、本当の渓流を教えてやろうか等と言うと、「ぜ、是非、行きたいっす!」と言うので、頭の片隅に留めていたのである。
 土曜日のスケジュールがぽっかり空き、若も暇だというので釣行することにした。が、2,3日前に、物凄い豪雨が紀伊半島を襲っていて、やや不安があった。
 村役場に問い合わせてみると、村の生命線の国道で崖崩れがあり、片側交互通行になっているらしい。山奥の道については、正直わかりませんと言われた。むむむっ。もし行けなかったら、バス狙いか温泉ツアーにすることにしよう。

 現地付近の川沿いに車を走らせていると、目に付くのはいたるところの落石と川の濁流である。こんなに濁っているのは初めてのことだ。上流に行けば大丈夫だろうと思ったが、なかなか濁りは取れないようだ。笹濁りなら上出来なのだが、こんなに濁っていては釣りにならん。

 とっておきの最奥部の秘密のポイントに行ってみようと、アスファルト舗装から外れて林道に入った。
 しばらく行くと、なんと道が無くなっている。そこで、車は断念した。あとは歩きだ。
 入渓するまでにもう1ヶ所、釣り終わって駐車地点に戻るまでに3ヶ所の崖崩れがあった。

 秘密のポイントに到着するとさすがに水は笹濁りでいい感じである。ここまで苦労して来た甲斐があるというものだ。水の勢いが凄く、流れを渡る時にはかなり注意しなければならない。
 この時期には釣り切られている可能性が大だと若に話しながら竿を出した。餌は私がブドウ虫、若がミミズだ。

 それでも、竿抜けしているような所を丁寧に攻めていく。少し遡行した所でアタリがあり、合わせるときれいなアマゴが上がってきた。

 こんなポイントで釣りました。流心は流れが強すぎるのでやや緩いところを狙って大正解。

 

 その後もポツリポツリとアマゴが上がりました。若もアマゴを釣り上げて、ご満悦です。

 鉄砲水のでた跡がいたるところに残されていた。
 立ち木は、流れる岩が当たり、はがしていったのか、木の下の方の皮が剥げていた。当たり一面にむせ返るような生木の香りが充満している。

 私も大概、竿抜けするようなところを攻める方だと思っていたけど、若がこんなに、ねちっこい、やらしい攻め方をするとは思わなかった。
いや、これは誉めてるねんで。
 私も攻めずに飛ばしていくような、仕掛けの引っかかりそうなところを若は丹念に攻めていた。それは正直、脱帽ものである。
 その成果か、21pというこの谷にとっては記録物のアマゴを若がゲットした。やたら元気がよくて、跳ね回るので、ややピンぼけっぽいが、背の辺りに大物の風格がうかがえる。

 この1匹には若よ、乾杯じゃ。イヤっ、完敗ではないぞ。あくまで乾杯じゃ。く、くっそー、若に渓流教えるんじゃなかった。

 この日の釣果は、お互い7,8匹であった。針を飲んでしまい、キープした4匹の腹をさばいたところ、胃のなかは小さな甲虫がほとんどであった。やはり、夏はテレストリアルでんなあ。
 びっくりしたのは、殿様バッタの幼生が出てきたのと、カメムシが出てきたことであった。指に臭みが付いて難儀した。

 この谷は、うっそうと木々が生い茂って雰囲気はばっちりだ。本当に昼なお暗いって感じなのだ。若は、初めての源流っぽい渓流で満足したようである。「是非、また来たいっす!」また一人、渓流地獄にはまったようだ。ふっふっふ