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別冊 「中世博物譚」

17世紀頃までは、古代著作の編纂が主たる学問の教科書でしたが、 それでも古代から中世、近世へ時代が進むにつれ、プリニウスやアリストテレス の著作では触れられなかった(知らなかった)内容の、奇妙な博物学が発生しました。

これらは、大真面目な本にも当たり前のように記載されましたが、当時の人々が 想像力で遊んでいただけなのか、自然の限界を知ろうとしたのか興味は尽きません。


極楽鳥(フウチョウ)

極楽鳥:フウチョウ科に属する鳥の総称で動物園に行けば会えると思います。
英 名:Bird of paradise
学 名:Paradisaea apoda
生息地:パプアニューギニアの一部地域

極楽鳥という不思議な名前の起源は古く、
トマ・ド・カンタンプレ(1186〜1263)著の「自然の事物について」(1228〜1244)から、 ヴァンサン・ド・ボーヴェ(1190?〜1264)が引用したのが最古といわれていますが、 この鳥がフウチョウだったのか否かは分かりません。(ヴァンサンは、余りの美しさに 極楽鳥と呼ばれると紹介しただけ)

極楽鳥=フウチョウが記録に見える最古は、マゼラン航海記(1521)にある。 実際には探検航海の記録を蒐集した、パーチャス著「巡歴記」(1625)に挿入され人々に知られたが・・・。

極楽鳥の不思議
「パーチャス巡歴記」から以下引用。
「それはこの上もなく美しいものだった。大きさはツグミくらいで、頭は小さく、嘴は長い。 足は長さが約9cmで、太さは普通の鳥の羽軸くらい。ツグミに似た尾をもち、翼はなかった、 ただ、翼のあるべきところに、さまざまな色の長い羽毛の房があった。その他の羽毛は黒色。
島民はこの鳥が極楽から来たという伝説をもっており、それでこれをマヌコディアータつまり 『神の鳥』と呼んでいる」
※フウチョウ=風鳥で「風を喰らって生きる」という文献もあり。

やがて18世紀頃ヨーロッパとの貿易が盛んになった時、島民は極楽鳥の足を切り落として 商人に渡し剥製にした。
それを見たヨーロッパ人たちは、「巡歴記」に脚の存在を明記しているの関わらず、 「この鳥には脚がない。きっと常に空を漂い天の露を吸って生きているんだ」という伝説を生み、 博物学者リンネにしてもアポーダ(無脚)という種小名を与えた(現在も学名に残る)。
このように、当時は記録よりも剥製を重視して誤った情報を認識することが多々あったらしいです。

生きている極楽鳥(フウチョウ)をはじめて見たのは、有名な科学探検船コキーユ号に船医として 乗船したレッソン(1794〜1849)である。 1824年にコキーユ号はニューギニアに13日間停泊し、その限られた時間内でレッソンは生きた フウチョウ=脚のあるフウチョウを見ることに成功した。
帰国後にレッソンは、実物に忠実な脚のある図版図鑑「フウチョウの自然史」(1834)を出版し、 人々を驚かせたと同時に人気博物学者となった。 そして極楽鳥の伝説は終焉した。

なお、当時のヨーロッパでは鳥類図譜の刊行が盛んで、フウチョウとハチドリが2大人気だった。


植物羊

植物羊の存在は数百年前は信じられていて、種類は主に以下の2種類です。

>タタールの植物子羊(ボロメッツ/Borometz)
「羊が茎とへそで繋がっている。茎は可動性があり、羊は茎の稼動範囲内にある草を食べる。 しかし草が食べつくされたり、茎が折れたりすると羊は死んでしまう。」
※「ボロメッツ/Borometz」は子羊を意味するタタール語に由来する?

>スキタイの羊(マンデヴィル「東方旅行記」より以下引用)
「カタイ(シナ)から大小のインドへ向かう人はカディルと呼ばれる 大きな王国を通りぬけるだろう。そこには、ひょうたんのように大きな果実がなり、 熟したものを割ると、中に肉も血も骨もある獣が一匹入っている。それはまるで毛の ない子羊みたいである。その国の住人はこの獣も果実も食用とするが、まことに不思議なことである。」

だが、私はかれらに向かって、自分にとってはちっとも不思議ではない。 なぜなら、自分の国では、ベルケナという鳥になる果実をつける樹木があるからで、 その果実は美味である、そして、水中に落ちるものは飛び去るが、地上に落ちるものは死んでしまう。 ・・・(これが中世博物学の最も奇妙な伝説「木から生まれる鳥」の一つの報告例)

結局正体は?
この伝説は次のように当時の多くの書物に記載されています。
 オドリコ「東洋紀行」1330(西洋での最古記録?)
 マンデヴィル「東方旅行記」1362
 デュ・バルタス「聖週間」1578
 クロード・デュレ「驚嘆すべき植物の物語」1605  等など。
現代では綿花や羊歯植物を初めて見た人が羊と見間違えたという見方で研究が進んでいる らしいのですがこれまた異説も結構あって難しいみたいです。

また、近世においては、
ボルヘス「幻想動物学提要」にて、「動物と植物の融合が特徴ある」
南方熊楠「十二支考」にて、「へそで茶を沸かせるほら話」などと言われてます。


エボシガイのガン

海水に落ちた木の実は鳥になる(工事中)


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