保険会社は、保険契約者に将来支払うこととなる保険金等に対して保険業法に基づく責任準備金等の積立の確保に努めなければならないことになっている。当局としては、自己責任原則の下で行われる責任準備金等の積立の確保を補完する役割を果たすものとして、オフサイト・モニタリングや適切な経理処理等の指針を通じ、保険財務の健全性の確保のための自主的な取組みを促していく必要がある。
(1) 法第3条第4項第1号に掲げる保険(以下、「第一分野」という。)及び同条同項第2号又は同条第5項第2号に掲げる保険(以下、「第三分野」という。)において、標準責任準備金対象契約については標準責任準備金を、標準責任準備金対象外契約(平成13年3月30日金融庁告示第24号第2号に規定する保険期間10年以下の積立傷害保険等を除く。)については平準純保険料式責任準備金を積み立てるものとなっているか。
(2) 第一分野及び第三分野において、保険会社の業務又は財産の状況及び保険契約の特性等に照らし特別な事情がある場合に、保険数理に基づき、合理的かつ妥当なものとして、いわゆるチルメル式責任準備金の積立てを行っている場合には、新契約費水準に照らしチルメル歩合が妥当なものとなっているか。
(3) 上記(2)の場合には、標準責任準備金・平準純保険料式責任準備金の積み立てに向け、計画的な積み増しを行うこととなっているか。
(4) 特定の疾病による所定の状態、所定の身体障害の状態、所定の要介護状態その他の保険料払込の免除事由に該当し、以後の保険料払込が免除されることとなった保険契約のうち、自動更新可能な保険契約に係る責任準備金については、最終の保険期間満了日まで全ての自動更新が行われるものとして計算した金額を積み立てることとなっているか。
(5) 危険準備金 T 及び Wにおける「その他のリスク」に係る積立基準並びに積立限度の設定については、手術給付、介護給付その他の保険給付のリスクに応じたものとなっているか。
(6) 第三分野保険のストレステストを使用しての危険準備金の算出にあたっては、平成10年6月8日大蔵省告示第231号の規定に基づき算出を行うものとし、危険準備金算出部門とは別の内部監査部その他の適切な部門と相互牽制機能を確保する態勢が、社内規程等において明確になっているか。
(7) ストレステスト及び負債十分性テストについては、その実施にあたり以下に留意するものとする。
@ 保険事故発生率が悪化する不確実性を適切に考慮したものとなっているか。
A 原則として基礎率を同じくする契約区分ごとに実施することとするが、次のア.、イ.の条件を満たす場合は、まとめて実施してよいこととする。
ア. 当該保険契約において、支払事由として規定される給付内容が給付事由及びリスク特性の観点から同等と考えられ、過去のデータ又は統計資料により同等性が確認されていること。
イ. 予定発生率の算出に用いた統計資料が同じであること。
なお、一契約(この際、主契約、特約があり、それぞれを選択して契約できる場合は、それぞれを一契約とする。)において、複数の給付事由を合せて給付しているケースにおいては給付事由ごとア.、イ.の条件を満たす必要がある。ただし、発生率が十分小さく、債務の履行に支障を来たすおそれが極めて低い保険給付においては、この限りではない。
B 被保険者数が少なく、統計的な取り扱いが困難なケースにおいては、以下の取り扱いも可とする。
ア. 発売後十分な期間が経過しておらず、ストレステスト又は負債十分性テストにおいて統計的な取り扱いが困難なケースにおいては、予定発生率の算出に用いた過去の実績又は統計資料を活用することにより、データの不足等を補うための適切な保険数理の方法を用いてよい。ただし、この場合にあっても実績データが予定発生率の算出に用いたデータとの間に大きな乖離がないか検証し、実績データを踏まえた適切な対応を行う必要がある。
イ. 新契約の募集を停止し、かつ被保険者数が少なくなったことにより、大数の法則が機能せず、結果として収支相等の原則の適用が困難なときは、当該契約集団の給付額(対象保険金を必ず支払うものとして算出した額)を、負債十分性テストにおける支出見込額として使用することができる。この場合においては、ストレステスト(危険準備金 Wの算出)は適用しないこととする。
C ストレステスト及び負債十分性テストの基礎率を同じくする契約区分は同一のものを使用することとする。
保険金等の額を最低保証する変額年金保険等については、将来にわたって債務の履行に支障を来たさないよう最低保証リスクの適切な管理及び評価を行うとともに、保険数理等に基づき、合理的かつ妥当な保険料積立金及び危険準備金 Vの積立並びにソルベンシーの確保を行う必要があるが、その際、以下の点に留意するものとする。
(1) 標準的方式
標準責任準備金の積立方式及び計算基礎率を定める件(平成8年2月29日大蔵省告示第48号。以下、U-2-1-3において「責任準備金告示」という。)第5項第1号の規定により、最低保証に係る保険料積立金(以下、U-2-1-3において「保険料積立金」という。)の積立方式として標準的方式を使用する場合に留意すべき事項は以下のとおり。
@ 通常予測されるリスクに対応するものとして、標準的な計算式(「一般勘定における最低保証に係る保険金等の支出現価」から「一般勘定における最低保証に係る純保険料の収入現価」を控除する形式の計算式)によって、概ね50%の事象をカバーできる水準に対応する額を算出するものとなっているか。
A 最低死亡保険金保証が付された保険契約については、標準死亡率(責任準備金告示第1項第2号に規定する指定法人が作成し、金融庁長官が検証した標準死亡率をいう。(2) Aにおいて同じ。)のうち死亡保険用のものを、最低年金原資保証(又は最低年金年額保証)が付された保険契約については、標準死亡率のうち年金開始後用のものを使用しているか。また、死亡保険金保証及び最低年金原資保証(又は最低年金年額保証)の両方が付された保険契約については、死亡保険用の標準死亡率又は年金開始後用の標準死亡率のうち、保険料積立金の積立が保守的となる方の標準死亡率を使用しているか。
B 割引率として、標準利率(責任準備金告示第4項に規定する率。(2) Bにおいて同じ。)を使用しているか。
C 期待収益率及びボラティリティとして、責任準備金告示第5項第1号ニに規定する率を使用しているか。また、同ニ列記以外の資産種類の場合は、当該ボラティリティが過去の実績等から合理的に定められたものとなっているか。
D 予定解約率を使用する場合は、当該予定解約率が過去の実績や商品性等から、合理的に定められたものとなっているか。例えば、以下の事例等に留意しているか。
ア. 特別勘定の残高が最低保証額を下回る状態にあるときの解約率が、特別勘定の残高が最低保証額を超える状態にあるときの解約率より低い率となっているか。
イ. 解約控除期間における解約率が、解約控除期間終了後の解約率と比べ、低い率となっているか。
ウ. 最低年金原資保証が付された保険契約で、年金開始前における特別勘定の残高が最低保証額を下回る状態にある場合において解約率を保守的に設定しているか。
エ. 設定された予定解約率について、解約実績との比較などにより、検証を行うこととなっているか。
E その他の計算基礎率を使用する場合は、当該計算基礎率が過去の実績や商品性等から合理的に定められたものとなっているか。
F 商品の仕組上、やむを得ず @の標準的な計算式を使用することができないときは、当該計算式との差異が軽微である場合に限り、近似的な計算式を使用することを可能とする。
(2) 代替的方式
保険料積立金の積立方式として代替的方式を使用する場合に留意すべき事項は以下のとおり。
@ 通常予測されるリスクに対応するものとして、標準的方式により計算される保険料積立金の債務履行を担保する水準と同等であることが認められる代替的方式によって、概ね50%の事象をカバーできる水準に対応する額を算出するものとなっているか。
A 最低死亡保険金保証が付された保険契約については、標準死亡率のうち死亡保険用のものを、最低年金原資保証(又は最低年金年額保証)が付された保険契約については、標準死亡率のうち年金開始後用のものを使用しているか。また、死亡保険金保証及び最低年金原資保証(又は最低年金年額保証)の両方が付された保険契約については、死亡保険用の標準死亡率又は年金開始後用の標準死亡率のうち、保険料積立金の積立が保守的となる方の標準死亡率を使用しているか。
B 割引率として、標準利率を使用しているか。
C 期待収益率及びボラティリティ(責任準備金告示第5項第1号ニに列記するものに限る。以下、この Cにおいて同じ。)は、同ニに定めるものを使用する場合を除き、標準的方式により計算される責任準備金の債務履行を担保する水準と同等となるものとして、次のア.からウ.までの条件を満たすものとなっているか。同ニ列記以外の資産種類の場合は、当該ボラティリティが過去の実績等から合理的に定められたものとなっているか。
ア. 期待収益率及びボラティリティは、過去の実績や将来の資産運用環境の見通し、リスク中立の観点等から、合理的かつ客観的根拠に基づき定められたものであること。
イ. 期待収益率及びボラティリティを決定する際の前提となる観測期間が適切に設定されていること。例えば、株価や金利が長期にわたって高水準で続いたような昭和30年から昭和48年までの期間を含めないこと。
ウ. 代替的方式によって計算される保険料積立金の額が、代替的方式において使用することとした計算基礎率(期待収益率及びボラティリティを除く。以下、このウにおいて同じ。)を基に標準的方式によって計算される保険料積立金の額と10%以上乖離しないこと。ただし、代替的方式で使用することとした計算基礎率を標準的方式の計算式に反映できない等、代替的方式による計算結果と標準的方式による計算結果を単純に比較できない場合は、標準的方式に反映できない計算基礎率を除外して比較するなど、比較可能なレベルまで計算基礎率を絞り込んで比較して差し支えない。
D 予定解約率を使用する場合は、当該予定解約率が過去の実績や商品性等から、合理的に定められたものとなっているか。例えば、以下の事例等に留意しているか。
ア. 特別勘定の残高が最低保証額を下回る状態にあるときの解約率が、特別勘定の残高が最低保証額を超える状態にあるときの解約率より低い率となっているか。
イ. 解約控除期間における解約率が、解約控除期間終了後の解約率と比べ、低い率となっているか。
ウ. 最低年金原資保証が付された保険契約で、年金開始前における特別勘定の残高が最低保証額を下回る状態にある場合において解約率を保守的に設定しているか。
エ. 設定された予定解約率について、解約実績との比較などにより、検証を行うこととなっているか。
E その他の計算基礎率を使用する場合は、当該計算基礎率が過去の実績や商品性等から合理的に定められたものとなっているか。
(3) 平成17年3月31日以前に締結された保険契約に関する取扱い
平成17年3月31日以前に締結された変額年金保険契約等であって、標準責任準備金の対象契約とならないものについては、(1)及び(2)が適用されないが、このうち保険金等の額を最低保証している保険契約については、平成17年度以降、毎決算期において将来収支分析を行い、保険料積立金に不足を生ずることが見込まれる場合には必要な積立を行うことによって、保険契約者保護に努めるものとする。
(4) ヘッジ・再保険の取扱い
@ ヘッジ適用の有無に関わらず、標準的方式又は代替的方式により算出した保険料積立金を積み立てるものとなっているか。
A 最低保証する保険金等を再保険の対象とし、当該保険金等に係る危険保険金額をベースとして保有・出再額が決定される方式の再保険に付した場合においては、標準的方式又は代替的方式により算出した保険料積立金を積み立てるものとなっているか。
危険準備金 Vの積立にあたり、留意すべき事項は次のとおり。
(1) 平成17年3月31日以前に締結した変額年金保険契約等のうち保険金等の額を最低保証している保険契約についても、危険準備金 Vの積立を行うものとしているか。
(2) ヘッジ適用の有無に関わらず、規則第69条第7項などの規定に基づき金融庁長官が定める積立て及び取崩しに関する基準(平成10年6月8日大蔵省告示第231号)第3条の2に定めるところにより危険準備金 Vの積立を行うものとしているか。
(3) 再保険を付している場合の危険準備金 Vの積立にあたっては、出再により移転する部分を超えない範囲で控除するものとなっているか。
責任準備金等の積立に関し、保険会社が適正な経理処理を行うにあたり留意すべき事項は次のとおり。
(1) 将来収支分析について
@ 保険計理人が、平成12年6月23日金融監督庁・大蔵省告示第22号第2条に規定する認定基準に基づいて法第121条第1項第1号及び同項第3号(法第199条において準用する場合を含む。)に掲げる事項の確認に関する将来収支分析を行うに際して、当該認定基準に定める基本シナリオと異なるシナリオを使用した場合は、どのようなシナリオを用いたのか、またそれが合理的である根拠等を適切に開示していること。
A 規則第59条の2第1項第4号ハに掲げる事項を開示するにあたっては、少なくとも以下に掲げる事項を分かりやすく開示すること。
ア. 第三分野における責任準備金の積立の適切性を確保するための考え方
イ. 負債十分性テスト・ストレステストにおける危険発生率等の設定水準の合理性及び妥当性
ウ. テストの結果(追加責任準備金(保険料積立金・未経過保険料)、危険準備金の額)
(2) 保険計理人意見書
将来収支分析は、責任準備金が、将来にわたって不足が生じないよう健全な保険数理に基づいて適切に積み立てられているかどうかを確認するものであり、保険会社の将来収支分析に係る意見書に関して保険計理人から説明を求める場合、並びに経営者から同意見書に対する見解及び対応についての説明を求める場合の着眼点として以下の点が考えられる。
@ 保険計理人が、法第121条の規定に基づく確認業務において金融庁長官が認定した基準(以下、「実務基準」という。)に則って適切に確認しているか。
A 実務基準に定める基本シナリオと異なるシナリオを使用する場合、保険会社の経営実態を踏まえた合理的なものか。
B 将来収支分析により、現在の責任準備金が将来の債務の履行に支障を来たすおそれがあると認められない水準であると判断されない場合であって、経営政策の変更により当該責任準備金不足相当額の一部又は全部を積み立てなくともよい旨意見書に記載されている場合、当該経営政策の変更が、ただちに行われるものであるかどうかの根拠(計画等)が示されているかどうか。この場合、翌年度以降の意見書において、当該経営政策の変更が実現されている旨示されているかどうか。
C 将来収支分析により、現在の責任準備金が将来の債務の履行に支障を来たすおそれがあると認められない水準であると判断されない場合であって経営政策の変更によっても当該責任準備金不足額が解消できず、規則第69条第5項又は規則第70条第3項の規定に基づき追加して責任準備金を積み立てる必要がある場合、保険会社の経営実態を踏まえた合理的な責任準備金の積立計画を策定し、法第4条第2項第4号に掲げる書類を変更することにより積み立てるなど適切な措置がとられているか。
(3) 再保険料又は再保険金の額が事後的に調整される再保険の取扱い
保険会社が保険契約を再保険料又は再保険金の額が事後的に調整される再保険に付した場合において、再保険料の追加支払又は再保険金の返戻(以下、「再保険料の追加支払等」という。)が確定した場合、再保険料の追加支払等に相当する負債が当該決算期において全額計上(将来における再保険料の追加支払等の発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積もることができる場合に、所要の引当が行われていることを含む。)されているか(当該再保険契約において、事後的な調整が重要な要素でない場合を除く。)。
(4) 保険料積立金
以下の @又は Aに該当する保険契約又はその部分に係る責任準備金の計算にあたっては、当分の間、規則第69条第1項第1号、第70条第1項第1号イ、第150条第1項第1号及び第151条第1項第1号イに規定する「保険料積立金」には区分せず、規則第69条第1項第2号、第70条第1項第1号ロ、第150条第1項第2号及び第151条第1項第1号ロに規定する未経過保険料として区分するものとする。
@ 平準的に収入する保険料を基準に残存期間に依存する係数を乗じて得られる金額を責任準備金として積み立てる保険契約で、契約消滅時に同様の方法で計算される金額を払い戻す保険契約
A 法第3条第5項第1号に掲げる保険に係る保険契約(法第3条第5項第2号及び第3号に掲げる保険との組み合わせによる保険契約で保険料を区分できないものを除く。)
(6) 価格変動準備金の取崩し
@ 保険会社における価格変動準備金の取崩額については、当該取崩額が、法第115条第2項に規定する株式等の売買等による損失の額(以下、「株式売買等損失額」という。)から同項に規定する株式等の売買等による利益の額(以下、「株式売買等利益額」という。)を控除した額(負数のときは零とする。)を超えるときは、法第115条第2項ただし書に基づき金融庁長官の認可を受けて取り崩すものとなっていること。
なお、損害保険会社における価格変動準備金の取崩額については、次に掲げる額の合計額を取り崩すものとなっていること。
また、保険会社における価格変動準備金の取崩額は、前期末残高を超え ないものとなっていること。
ア. 株式売買等損失額から株式売買等利益額を控除した額と、契約者(社員)配当準備金等に繰り入れる額のうち下記に定める額(損害保険会社にあっては(ア)に定める額、損害保険相互会社にあっては(イ)に定める額)との合計額。ただし、負数のときは零とする。
(ア) 規則第63条において準用する規則第30条の3第1項に規定する積立勘定を設けている場合における、当該勘定内の価格変動準備金対象資産について、当該勘定において把握される法第115条第2項に規定する株式等の売買等による利益の額から同項に規定する株式等の売買等による損失の額を控除した額
(イ) 社員配当準備金繰入額を限度とする額
イ. 価格変動準備金の前期末残高から上記ア.の額を控除した額が、規則第66条後段において規定する限度額を超えるときの当該超える額
ウ. 上記のほか、やむを得ない相当の理由がある額
A 価格変動準備金の株式売買等損失額及び株式売買等利益額の計算には、次の額を含めるものとする。
ア. 価格変動準備金対象資産に係る金融商品取引法第156条の24第1項に規定する信用取引及び規則第47条第9号(又は規則第139条)から第12号までに掲げる取引その他これらに準ずる取引(金利関連の金融派生商品取引を除く。)により生じた売却(損)益、評価(損)益及び為替差(損)益の額
イ. 信託設定時に計上される退職給付信託設定益(損)の額
B 法第115条第1項ただし書に基づく認可の申請を受けようとする場合は、以下のいずれかに該当するかどうかに留意する。
ア. 上記 @のア.からウ.までの合計額が価格変動準備金の前期末残高を超えるときの当該超える額
イ. 損害保険会社においては、地震保険について、その責任準備金等に対応する資産を他の資産と区分して経理している場合における当該責任準備金等に対応する資産に係る積立相当額(この場合において、当該責任準備金等に対応する資産に係る株式売買等損失額及び株式売買等利益額は、上記 @の取崩額の計算から除くものとし、また、当該責任準備金等に対応する資産は、規則第66条後段において規定する限度額の計算から除くものとする。)
ウ. 上記のほか、やむを得ない相当の理由がある額
(8) 保険契約を再保険に付した場合の責任準備金の不積立てについて
@ 保険契約を再保険に付した場合に、当該再保険を付した部分に相当する責任準備金を積み立てないことができるとされているが、この取扱いの可否は、当該再保険契約がリスクを将来にわたって確実に移転する性質のものであるかどうかや、当該再保険契約に係る再保険金等の回収の蓋然性が高いかどうかに着目して判断すべきであること。
なお、回収の蓋然性の評価にあたっては、少なくとも再保険契約を引き受けた保険会社又は外国保険業者の財務状況について、できる限り詳細に把握する必要があること。
A 規則第71条第1項第4号に規定する「保険会社の経営の健全性を損なうおそれがない者」とは、例えば、次に該当する外国保険業者をいうものであること。
ア. 保険契約を再保険に付した保険会社(以下、「出再会社」という。)の総資産に占める外国保険業者が当該出再会社から引き受けた一の再保険契約に係る一の保険事故により当該外国保険業者が支払う再保険金の限度額の割合が1%未満である当該外国保険業者(当該外国保険業者が再保険金の支払を停止するおそれがあること又は再保険金の支払を停止したことが明らかな場合を除く。)
イ. 出再会社が再保険に付した部分に相当する責任準備金を積み立てなかったことがある場合の当該再保険を引き受けた外国保険業者(当該外国保険業者が、再保険金の支払を停止するおそれがあること又は再保険金の支払を停止したことが明らかな場合を除く。)
(12) 出再責任準備金の開示
規則別紙様式第7号、第7号の2、第12号及び第12号の2に規定する出再責任準備金の金額の注記にあたっては、保険料積立金及び未経過保険料並びに払戻積立金の計算上差し引かれた再保険に付した部分(以下、「出再部分」という。)に相当する金額を注記するものとすること。
この場合において、出再部分を控除した計数を基に未経過保険料を計算しており、かつ、出再部分に相当する未経過保険料(以下、「出再未経過保険料」という。)の把握が困難な場合は、次の算式により計算した金額を出再未経過保険料の金額として注記することができること。
出再未経過保険料=出再正味保険料×未経過保険料/正味収入保険料
ただし、一般に公正妥当と認められる会計基準に照らし、より合理的かつ妥当な計算方法がある場合には、上記算式にかかわらず、当該計算方法により計算した金額を出再未経過保険料の金額として注記することができること。
(13) 出再支払備金の開示
規則別紙様式第7号、第7号の2、第12号及び第12号の2に規定する出再支払備金の金額の注記にあたって、まだ支払事由の発生の報告を受けていないが保険契約に規定する支払事由が既に発生したと認める保険金等の金額(以下、「既発生未報告損害支払備金」という。)を平成10年6月8日大蔵省告示第234号(以下、(13)において「告示」という。)第2条第3項により出再部分を控除した計数を基に計算しており、かつ、出再部分に相当する既発生未報告損害支払備金の金額の把握が困難な場合は、以下により計算した額を出再既発生未報告損害支払備金として注記することができること。
ただし、一般に公正妥当と認められる会計基準に照らし、より合理的かつ妥当な計算方法がある場合には、以下の算式にかかわらず、当該計算方法により計算した金額を出再既発生未報告損害支払備金の金額として注記することができること。
出再既発生未報告損害支払備金
=正味既発生未報告損害支払備金×出再普通支払備金/正味普通支払備金
保険会社は、保険契約者等の信認を確保するため、資本の充実や内部留保の確保を図り、リスクに応じた十分な財務基盤を保有することは極めて重要である。財務内容の改善が必要とされる保険会社にあっては、自己責任原則に基づき主体的に改善を図ることが求められている。当局としても、それを補完する役割を果たすものとして、保険会社の経営の健全性を確保するため、「保険金等の支払能力の充実を示す比率」という客観的な基準を用い、必要な是正措置命令を迅速かつ適切に発動していくことで、保険会社の経営の早期是正を促していく必要がある。
保険会社の経営の健全性を確保していくための監督手法である早期是正措置については、「保険業法第百三十二条第二項に規定する区分等を定める命令」(平成12年6月29日総理府令・大蔵省令第45号。以下、U-2-2において、「区分等を定める命令」という。)において、具体的な措置内容等を規定しているところであるが、その運用基準については下記のとおりとする。
(1) 命令発動の前提となるソルベンシー・マージン比率
「区分等を定める命令」第2条第1項の表の区分に係る「保険金等の支払能力の充実の状況を示す比率」(以下、「ソルベンシー・マージン比率」という。)は、次のソルベンシー・マージン比率によるものとする。
@ 決算状況表(中間期にあっては中間(決算)状況表)により報告されたソルベンシー・マージン比率(ただし、業務報告書(中間期にあっては中間業務報告書)の提出後は、これにより報告されたソルベンシー・マージン比率)
A 上記 @が報告された時期以外に、当局の検査結果等を踏まえた保険会社と監査法人等との協議の後、当該保険会社から報告されたソルベンシー・マージン比率
(2) 「区分等を定める命令」第2条第1項の表の区分に基づく命令
@ 第1区分の命令及び第2区分の命令の相違
第1区分の「経営の健全性を確保するための合理的と認められる改善計画の提出の求め及びその実行の命令」は、経営の健全性が確保されている基準としてソルベンシー・マージン比率200%以上の水準の達成を着実に図るためのものである。したがって、計画全体として経営の健全性が確保されるものであることを重視し、その実行にあたっては、基本的に保険会社の自主性を尊重することとする。
第2区分の「次の各号に掲げる保険金等の支払能力の充実に資する措置に係る命令」は、ソルベンシー・マージン比率が、経営の健全性を確保する水準をかなり下回っており、これを早期に改善するためのものである。したがって、個々の措置は、当該保険会社の経営実態を踏まえたものにする必要があることから当該保険会社の意見は踏まえるものの、当局の判断によって措置内容を定めることとする。なお、保険会社が当該措置を実行するにあたっては、基本的に個々の措置毎に命令を達成する必要がある。
A 第1区分に係る改善計画の内容
「経営の健全性を確保するための合理的と認められる改善計画」とは、当該改善計画を実行することにより、原則として1年以内にソルベンシー・マージン比率が200%以上の水準を達成する内容の計画とする。
B 第2区分に係る改善計画の内容
「保険金等の支払能力の充実に資する措置」とは、ソルベンシー・マージン比率が、原則として1年以内に少なくとも100%以上の水準を達成するための措置とする。
C 改善までの期間
ソルベンシー・マージン比率を改善するための所要期間については上記 A及び Bを目処とするが、保険会社が策定する経営改善のための計画等が、当該保険会社に対する保険契約者、投資家、市場の信認を維持・回復するために十分なものでなければならないことは言うまでもない。したがって、当該保険会社の市場との関係の程度等によっては、市場の信認を早急に回復する必要があるため、上記の期間を大幅に縮減する必要がある。
なお、保険会社が、「区分等を定める命令」第3条第1項の規定により、そのソルベンシー・マージン比率を当該保険会社が該当する「区分等を定める命令」第2条第1項の表の区分に係るソルベンシー・マージン比率の範囲を超えて確実に改善するための合理的と認められる計画を提出した場合であって、当該保険会社に対し、当該保険会社が該当する同表の区分に係るソルベンシー・マージン比率の範囲を超えるソルベンシー・マージン比率に係る同表の区分に掲げる命令を発出するときは、上記 A及び Bのソルベンシー・マージン比率を改善するための所要期間には、下記 U-2-2-3のソルベンシー・マージン比率が当該保険会社が該当する同表の区分に係るソルベンシー・マージン比率の範囲を超えて確実に改善するための期間は含まないものとする。
「区分等を定める命令」第3条第1項の「保険金等の支払能力の充実の状況を示す比率の範囲を超えて確実に改善するための合理的と認められる計画」の合理性の判断基準は、次のとおりとする。
保険会社の業務の健全かつ適切な運営を図り当該保険会社に対する保険契約者等の信頼をつなぎ止めることができる具体的な資本増強計画等を含み、ソルベンシー・マージン比率が、原則として3ヵ月以内に当該保険会社が該当する「区分等を定める命令」第2条第1項の表の区分に係るソルベンシー・マージン比率の範囲を超えて確実に改善する内容の計画であること。
(注) 増資等の場合は、出資予定者等の意思が明確であることが必要である。
「区分等を定める命令」第3条第1項の適用にあたり「実施後に見込まれる当該保険会社の保険金等の支払能力の充実の状況を示す比率以下の保険金等の支払能力の充実の状況を示す比率に係る同表の区分(非対象区分を除く。)に掲げる命令」は、原則として3ヵ月後に確実に見込まれるソルベンシー・マージン比率の水準に係る区分(非対象区分を除く。)に掲げる命令とする。
計画の進捗状況は、毎期(中間期を含む。)報告させることとし、その後の実行 状況が計画と大幅に乖離していない場合は、原則として計画期間中新たな命令は行わないものとする。ただし、第2区分の命令を行った保険会社にあっては、その後ソルベンシー・マージン比率が100%以上200%未満の範囲に達したときは、当該時点において第1区分の命令を行うことができるものとする。
また、保険会社が、「区分等を定める命令」第3条第1項の規定により、そのソルベンシー・マージン比率を当該保険会社が該当する「区分等を定める命令」第2条第1項の表の区分に係るソルベンシー・マージン比率の範囲を超えて確実に改善するための合理的と認められる計画を提出し、当該保険会社に対し、当該保険会社が該当する同表の区分に係るソルベンシー・マージン比率の範囲を超えるソルベンシー・マージン比率に係る同表の区分に掲げる命令を発出した場合においては、原則として増資等の手続に要する期間の経過後直ちに、当該保険会社のソルベンシー・マージン比率が、当該保険会社が発出を受けた命令が掲げられた同表の区分に係るソルベンシー・マージン比率以上の水準を達成していないときは、当該時点におけるソルベンシー・マージン比率に係る同表の区分に掲げる命令を発出するものとする。
「区分等を定める命令」第3条第3項に該当する場合に、保険会社に対して行う命令には第3区分の命令を含むこととされているが、実質資産負債差額から、満期保有目的債券及び責任準備金対応債券の時価評価額と帳簿価額の差額を除いた額が正の値となり、かつ、流動性資産(注)が確保されている場合には、原則として同区分の命令は発出しないものとする。
ただし、解約の状況や流動性資産の確保の状況等を総合的に勘案し、必要があると認める場合には、契約管理の徹底、流動性の補完、資本の増強等につき業務改善命令を発出することがあることに留意するものとする。
(注) 流動性資産:現預金、コールローン、売買目的有価証券、その他有価証券(市場性がないもの及び保有目的等から直ちに売却等が困難なものを除く。)
(1) 「区分等を定める命令」第2条から第5条の規定に係る命令を行う場合は、行政手続法等の規定に従うこととし、同法第13条第1項第2号に基づく弁明の機会の付与等の適正な手続きを取る必要があることに留意する。
(2) ソルベンシー・マージン比率が100%未満の保険会社に対しては、原則として「区分等を定める命令」第3条第2項各号に掲げる資産について当該各号に定める方法により算出し、これにより修正した貸借対照表(様式は任意で可)を提出させるものとする。
(3) 早期是正措置は、ソルベンシー・マージン比率が保険会社の財務状況を適切に表していることを前提に発動されるものであることから、早期是正措置の発動を免れるための意図的なソルベンシー・マージン比率の操作を行うといったことがないよう保険会社に十分留意させることとする。
生命保険会社においては、利益還元の公平性・透明性の確保、保険種類相互間の内部補助の遮断、事業運営の効率化、商品設計や価格設定面での創意工夫などを図る観点から、一般勘定について保険商品の特性に応じた区分経理を行うことが重要である。各生命保険会社において自己責任原則のもと、保険経理の透明性、保険契約者間の公平性確保等の観点から、適切な区分経理が行われる必要がある。また、区分経理を導入するにあたっては、資産の配分方法、含み損益の配賦方法等について、アセットシェア等に基づき適切に配分方法が定められていることが重要である。
各生命保険会社においては、適切な区分経理を行うため、例えば、以下のような考えに基づく区分経理に関する管理方針を策定しているか。また、区分経理の状況が、取締役会その他これに準ずる機関に対して報告されているか。
(1) 商品区分
商品区分においては、損益及び負債の管理を行うものとする。商品区分は、各生命保険会社における商品の特性や保有状況に照らして、損益を把握する単位として適切なものとなっている必要があり、保険の性質の相違等により理論的・合理的な区分とする必要がある。従って、新商品の発売による当該保有契約の増大やある商品区分の中の一部の保険種類の契約の増大など、会社全体の収支に重大な影響を与えるような場合等は、新たな商品区分を設定して管理することが望ましい。また、設定した商品区分については、保有契約が減少し、商品区分の存在意義がなくなった場合等、合理的な理由がある場合を除き、その変更は行わないものとする。
(2) 全社区分
例えば、次の機能を受け持つものとして、全社区分を設定する。
@ 死亡保障リスク等のリスクバッファー機能
A 新商品開発に係る事業運営資金提供機能
B 会社全体で共有する資産・共通する経費等の管理機能
C 現預金等の管理機能
(3) 資産区分
資産区分は、商品区分に対応した適切な区分を設定する。また、資産区分の資産が減少し、資産区分の存在意義がなくなった場合は、当該資産区分は廃止し、他の資産区分に統合する。この場合、いずれの契約にも帰属しない残余財産は全社区分に統合する。
(4) 負債・純資産の配賦方法
@ 商品区分への配賦
保険契約準備金(危険準備金を除く。)、再保険借等は各商品区分に直課する。直課できないものは、区分経理に関する管理方針に基づいて配賦する。
A 全社区分への配賦
純資産の部(繰越利益剰余金・未処分剰余金、評価・換算差額等を除く。)、価格変動準備金、危険準備金、その他商品区分に配賦されない負債を配賦する。
(5) 資産の配賦方法及び管理基準
@ 運用資産の配賦方法
運用資産は、原則として、資産の購入時に配賦する資産区分を決める。
A 運用資産の管理
運用資産は、資産区分ごとに、次に掲げる方式の中から適切な方式を選択し管理する。
ア. 資産分別管理方式…… |
個々の資産を銘柄ごとに、資産区分に直接帰属させる方式 |
イ. 資産単位別持分管理方式…… |
取引単位(例えば、不動産では物件ごと)ごとに、資産区分の持分で管理する方式 |
ウ. 資産持分管理方式…… |
投資対象資産ごとのマザーファンドを設定し、各資産のマザーファンドに対する持分を管理する方式 |
(注) 資産持分管理方式を用いる場合は、一般勘定資産(無配当保険に対応する資産を除く。)全体を一個のマザーファンドとして扱わない。
B 運用資産以外の配賦方法
再保険貸等、各資産区分に直課できるものは直課し、直課できないものは、区分経理に関する管理方針に基づいて配賦する。
C 全社区分の資産
営業用不動産、子会社・関連会社株式、現預金(現預金等の管理機能を持つ場合)、その他全社区分に配賦することが相応しい資産の全部又は一部を配賦するものとする。
(6) 損益の配賦
@ 保険関係損益
保険料等収入、保険金等支払金、責任準備金繰入額等は各商品区分に直課する。
A 運用資産関係損益
資産が帰属する資産区分に配賦し、更に対応する商品区分・全社区分に直課又は持分に応じて配賦する。なお、一つの資産区分で複数の商品区分を管理している場合は、区分経理に関する管理方針に基づいて配賦する。
(7) 各区分間の取引等
@ 資産区分間の取引
資金移動(流入・流出)管理、流動性確保、ポートフォリオの改善等、必要な取引とし、市場価格等の適正な価格をもって適切に管理する。
A 商品区分と全社区分との取引
ア. 現預金等の貸借
(ア) 商品区分又は全社区分毎に区別して管理する。
(イ) 借越しが継続しないよう限度額等を設ける。
イ. 現預金等以外の貸借
(ア) 全社区分から商品区分への貸付は、異常な保険金の支払い、新商品の販売に伴う事業運営資金、その他やむを得ない事情がある場合に限る。
(イ) 商品区分から全社区分への貸付は、全社区分の規模が小さいために、その機能を十分に果たすことができない場合に限る。
(ウ) 上記の貸借は、金額、利率(貸付期間に応じた市中金利等を基に設定すること)、期限その他の返済条件をあらかじめ定める。
(エ) 貸付条件の緩和や債務免除は、回収が不可能な損失が発生している場合等、やむを得ない事情がある場合を除き、行わない。なお、貸付条件の緩和等を行った後に利益が生じた場合は、当該利益を返済に充てるものとする。
ウ. 出資
(ア) 全社区分から商品区分への出資は、異常な保険金の支払い、新商品の販売に伴う事業運営資金、その他やむを得ない事情がある場合に限る。
(イ) 商品区分から全社区分への出資は、全社区分の規模が小さいために、その機能を十分に果たすことができない場合に限る。
(ウ) 出資を受けた商品区分又は全社区分において、剰余金が発生した場合は、出資に対応する金額を出資した商品区分又は全社区分に配分する。
(エ) 出資は返済することができる。
エ. その他の取引
(ア) 全社区分において、資本又は危険準備金等を積み増す際に、各商品区分からその負担する積み増し額を受け入れる取引
(イ) 資本又は危険準備金等を取崩し、その取崩し事由の発生した商品区分に、その対応する金額を支払う取引
(ウ) 転換等により、責任準備金等を転換等を行った後の商品区分に支払う取引
(エ) 新契約費を全社区分から支払う場合に、商品区分から全社区分に新契約費相当分を支払う取引
(オ) 全社区分における共有資産等に対する対価として、各商品区分が使用料等を支払う取引
(カ) 商品区分における特定のリスク発生による損失実現時に、全社区分から当該商品区分に当該損失実現額を支払う取引(あらかじめ保険数理的に定められた対価を支払ったものに限る。)
(キ) 商品区分において、将来回復が見込めない重大な損害が発生し、全社区分からその損害のてん補を受ける取引(全社区分が他の商品区分から当該損害のてん補のためにてん補を受ける場合を含む。)。ただし、この取引によりてん補を受けた場合は、受け入れた商品区分に係る商品についての新規募集停止や保険料の適正化等所要の措置を講じる。
(ク) 全社区分において、将来回復が見込めない重大な損害が発生し、商品区分からその損害のてん補を受ける取引
区分経理の状況について問題があると認められる場合には、必要に応じて法第128条に基づき報告を求め、重大な問題があると認められる場合には、法第132条に基づき行政処分を行うものとする。
保険会社は、将来の不利益が財務の健全性に与える影響をチェックし、必要に応じて、追加的に経営上又は財務上の対応をとって行く必要がある。そのためのツールとして、感応度テスト等を含むストレステスト(想定される将来の不利益が生じた場合の影響に関する分析)及びリバース・ストレステスト(経営危機に至る可能性が高いシナリオを特定し、そのようなリスクをコントロールすべく必要な方策を準備するためのストレステスト)が重要である。特に、市場が大きく変動しているような状況下では、VaRによるリスク管理には限界があることから、ストレステストの活用は極めて重要である。保険会社においては、市場の動向等も勘案しつつ、財務内容及び保有するリスクの状況に応じたストレステストを自主的に実施することが求められる。なお、ソルベンシー・マージン比率の算出、将来収支分析等他の法令等の規定がある場合は、以下の指針にかかわらず、当該法令等の規定に従うものとする。
(1)ストレステストに際しては、ヒストリカルシナリオ(過去の主な危機のケースや最大損失事例の当てはめ)のみならず、仮想のストレスシナリオによる分析も行っているか。なお、仮想のストレスシナリオについては、内外の経済動向に関し、株式の価格、金利、為替、信用スプレッドなど、保険会社の保有するリスクに応じて、複数の要素についてストレスシナリオを作成しているか。さらに、これらの要素のうち、複数の要素が同時に変動するシナリオについて、前提となっている保有資産間の価格の相関関係が崩れるような事態も含めて検討を行っているか。こうしたストレスシナリオの設定において、保有する資産の市場流動性が低下する状況を勘案しているか。
また、変額年金保険のようなオプション・保証性の高い要素については、その特性を考慮した上で、適切なストレスシナリオを設定しているか。このほか、再保険やデリバティブ等によるリスクのヘッジを行っている場合には、カウンターパーティーリスクを考慮してストレスシナリオを設定しているか。
さらに、ストレステストに使用されるモデルの信頼性について、定期的に検証されているか。
(2)ストレステストの設定に際しては、取締役会において、保険会社におけるリスク管理の方針として、基本的な考え方を明確に定めているか。その際、基本的な考え方は、統合リスク管理との間に矛盾がなく、かつ、統合リスク管理の計量化手法で把握できないリスクを捉えるとの観点からの配慮がなされているか。また、取締役会等において、定期的に、かつ必要に応じ随時、保険会社の業務の内容等を踏まえ、設定内容を見直しているか。
(3)ストレステストを実施するにあたって、必要となる専門知識と技術を有する者が関与しているか。
(4)ストレステストの結果については、代表取締役又は担当取締役により定期的に十分な検証・分析が行われ、リスク管理に関する具体的な判断に活用される態勢が整備されているか。
(5)ストレステストを実施する部門とは独立に、会社全体でストレステストが的確に設計され、かつ実施されているかを確認する体制がとられているか(業務部門とは独立したリスク管理部門において、統括的にストレステストを実施している場合を除く。)。
(6)経営危機に至る可能性が高いシナリオを特定し、そのようなリスクをコントロールすべく必要な方策を準備するため、リバース・ストレステストを定期的に実施しているか。
(7)支店形態での免許を有する保険会社については、当該支店を対象としたストレステストを実施しているか。また、本店において実施されたストレステストをできる限り入手し、全体でのリスクの把握に努めているか。
規則第59条の2第1項第4号イに掲げるリスク管理の体制を開示するにあたっては、自主的に行われているストレステストの概要とその結果の活用方法についても分かりやすく開示するものとする。
ソルベンシー・マージン比率の正確性等については、規則第86条、第87条、第161条、第162条及び第190条の規定に基づき、保険会社の資本、基金、準備金等及び通常の予測を超える危険に相当する額の計算方法等を定める件(平成8年2月29日大蔵省告示第50号。以下、V-2-18において「告示」という。)の趣旨を十分に踏まえ、以下の点に留意してチェックするものとし、問題がある場合にはその内容を通知し、注意を喚起するものとする。
保険金等の額を最低保証する変額年金保険等については、将来にわたって債務の履行に支障を来たさないよう最低保証リスクの適切な管理及び評価を行うとともに、保険数理等に基づき、合理的かつ妥当な保険料積立金及び危険準備金 Vの積立並びにソルベンシーの確保を行う必要があるが、その際、以下の点に留意するものとする。
(1) 標準的方式
告示第2条第4項の規定により、最低保証リスク相当額の評価において標準的方式(保険料積立金と合わせて概ね90%の事象をカバーできる水準に対応する最低保証リスク相当額を定めるもの)を使用する場合に、平成17年3月31日以前に締結した変額年金保険契約等のうち保険金等の額を最低保証している保険契約についても、最低保証リスク相当額を算出するものとなっているか。
(2) 代替的方式
告示第2条第4項の規定により、最低保証リスク相当額の評価において代替的方式を使用する場合に留意すべき事項は以下のとおり。
@ 通常の予測を超えるリスクに対応するものとして、「U-2-1-3-1 保険料積立金の積立(2) Aから E」に留意し、保険料積立金と合わせて概ね90%の事象をカバーできる水準に対応する最低保証リスク相当額を定めるものとなっているか。
A 平成17年3月31日以前に締結した変額年金保険契約等のうち保険金等の額を最低保証している保険契約についても、最低保証リスク相当額を算出するものとなっているか。
B 代替的方式を使用してソルベンシー・マージン基準上の最低保証リスク相当額を算出する旨を、金融庁長官宛に届出する場合は、告示別表第6-2 U2に定める @からLの基準を満たすことを説明する書類を添付することとしているか。また、代替的方式の使用の中断又はリスク計量モデルに重大な変更を加える場合においても、その概要及び中断・変更を加えることの適切性を説明する書類を添付することとしているか。
(3) ヘッジ・再保険の取扱い
@ ヘッジによるリスク減殺の取扱いが、告示別表第6-2 U3に定めるところにより取扱われているか。
A 再保険を付している場合の最低保証リスクについては、出再により移転する部分を超えない範囲で控除するものとなっているか。
第三分野の商品審査にあたっては、特に以下の点に留意して審査することとする。
第三分野保険の基礎率変更権の設定に関し、規則第11条第1項第7号イに定める審査基準に基づいて審査を行う場合は、以下の点に留意して審査するものとする。
(1) その他これに準ずる給付を行う保険契約とは、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年10月2日法律第114号)に規定する一類感染症、二類感染症、三類感染症に対する人の状態等に対する給付を行う保険契約とする。
(2) 基礎率変更権行使基準の設定にあたっては、以下の要件を全て満たしているか。
@ 予定発生率に対する実績発生率の状況を示す指標については、予定発生率を変更して保険料又は保険金を変更するという趣旨に適合するものとして、次に掲げるいずれかの割合又は当該割合に準じたものとなっているか。
ア. 予定発生率に対する実績発生率の割合
イ. 保険料収入(責任準備金繰入・戻入調整をした当該年度の危険保険料と付加保険料の合計)に対する保険金の支出額の割合
A @に掲げる指標の設定にあたっては、実績発生率が悪化した場合の、当該保険契約の損益見込みに照らして、適切な水準となっているか。
B @に掲げる指標に達した後、保険料又は保険金の変更を行う手続きが、明確になっているか。
(3) 実績発生率の管理や基礎率変更権の行使の意思決定を行う態勢が整備されているか。
第三分野保険の基礎率変更権の行使のための申請があった場合には、以下の点に留意して審査するものとする。
(1) 約款に定める基礎率変更権の規定(基礎率変更権行使基準等)に反しないものとなっているか。
(2) 社内において定められている基礎率変更権の行使の手続きが遵守されているか。
(3) 契約者に対して、契約締結時にあらかじめ十分な説明が行われ、その後も基礎率変更権行使基準に該当するかどうかの情報開示が定期的に行われていたか。
(4) 変更後の予定発生率が、実績発生率等に照らして保険数理に基づく合理的かつ妥当なものとなっているか。
第三分野の商品については、保険金等の支払時における保険契約者等の保護のための措置として以下の点に留意することとする。
(1) 被保険者を受取人とする保険契約において、保険金等の支払事由が発生し、被保険者が物理的に請求を行い得ない蓋然性が高い保険契約については、被保険者に代わる者が速やかに保険金等の請求を行えるように十分な措置を講じているか。
(2) 疾病、不慮の事故等の給付対象範囲を定めるにあたり、保険契約者等が参照することが困難な分類規定等を利用していないか。
(3) 契約更新前の給付金等の支払日数が契約更新後に引き継がれることについて、契約更新時等の機会に保険契約者等に適切に説明する措置を講じているか。
算出方法書の審査にあたっては、特に以下の点に留意することとする。
(1) 保険料の算出方法については、十分性や公平性等を考慮して、合理的かつ妥当なものとなっているか。
(2) 保険料については、被保険者群団間及び保険種類間等で、不当な差別的扱いをするものとなっていないか。
(3) 予定発生率・損害額又は予定解約率等については、基礎データに基づいて合理的に算出が行われ、かつ、基礎データの信頼度に応じた補整が行われているか。
(4) 予定利率については、保険種類、保険期間、保険料の払方、運用実績や将来の利回り予想等を基に、合理的かつ長期的な観点から適切な設定が行われているか。
(5) 予定利率変動型商品の予定利率については、保険契約者等の保護の観点から、恣意性のない合理的な見直しルールが定められているか。
(6) 付加保険料(事業費の割増引を含む。)の設定について、係数によらずに定性的な表現で記載するときは以下の条件を満たしているか。
@ 保険種類間の公平性が損なわれておらず、事業費の支出見込額に対して妥当であるなど適切なレベルとすることを明確にしているか。
A U-2-5-2(5) C (※ 社内規定等に定める付加保険料の算出方法が合理的かつ妥当なものであり、かつ、その算出された付加保険料が不当に差別的なものとなっていないことが確保されているか。特に、付加保険料の割増引きを設定する場合には、契約方法、保険料の払込方法等に基づいたものとなっており、事実上の特別利益の提供(法第300条第1項第5号)になっていないことに留意する。) の主旨に則り、明確に社内規定等で定めることとしているか。
B (1)(2)の観点を踏まえ、付加保険料の設定に応じ、その重要度を勘案した上で分類した保険種類及び販売経路などの別ごとのモニタリング資料を提出しているか。また、モニタリング資料の基礎となる資料を添付しているか。
(7) 保障等の内容の改定に伴って、料率の改定を行っていない場合において、料率改定の必要性について十分な検証を行っているか。
(1) 責任準備金の審査にあたっては、「U-2-1-2 積立方式」に規定する事項について、特に留意することとする。
(2) 商品の設計上、契約期間初期の給付を大きくすること若しくは将来の給付を減少させること又は保険料を後払いにすることについては、責任準備金が負値とならないように設定されているか。なお、責任準備金の計算上、負値となる契約に係る責任準備金をゼロとする対応をとる場合においては、財務の健全性確保に関する十分な検討がなされているかに留意する。
(3) マーケット・ヴァリュー・アジャストメントの仕組みを持つ商品の責任準備金については、保険料積立金と解約返戻金とのいずれか大きい額を積み立てることとなっているか。
解約返戻金については、支出した事業費及び投資上の損失、保険設計上の仕組み等に照らし、合理的かつ妥当に設定し、保険契約者にとって不当に不利益なものとなっていないか。
疾病系(医療、がん、介護等)の定額給付型保険(特約を含む。)について、過去の損害率(支払率を含む。)による割増引を適用することができる旨を算出方法書に定めようとする場合には、以下の点に留意して審査することとする。
(1) 割増引の対象保険(特約を含む。)が、企業等の団体を保険契約者とする保険期間1年以下の疾病系の定額給付型保険(特約を含む。)であるか。
(2) 割増引に使用する実績については、次の要件を全て満たす保険契約の1年以上の保険成績を確認する規定となっているか。
@ 当該団体を対象としている契約であること。
A 主たる担保危険が重複する定額給付型の団体保険契約(ただし、主たる担保危険が専ら傷害又は就業不能状態になることとなっている保険契約は除く。)であること。
(3) (2)の保険契約の引受保険会社が他社である場合には、次の要件を全て満たす場合に限り、引受保険会社等が作成した資料等(以下、「当該資料等」という。)により、自社の純保険料率で引受を行った場合の純保険料を算出し、この純保険料に基づき適用することが可能な規定となっているか。
@ 当該資料等が信頼性及び客観性を有すること。
A 当該資料等の前提となっている担保条件及び当該契約の過去の実績に基づき、自社の純保険料率で引受を行った場合の純保険料を算出すること。
B 当該資料等の前提となっている免責期間等の担保条件が自社の純保険料率の前提となっている担保条件と異なる場合は、自社の純保険料率の算出方法に準じて合理的な方法で修正を行うこと。
(1) 割引の新設(改定を含む。)については、当該割引が数理的にみて合理的であるとともに、他の割増引制度との整合性、割引導入後の収支均衡、保険契約者間の公平性確保等に照らして問題がないものとなっているか。
(2) 過去の保険金支払実績に基づく割増引制度(保険料の調整を行うものを含む。)については、恣意的なデータの選択を行うことなく、入手可能な実績データを合理的に勘案するものとなっているか。特に、入手可能な信頼性及び客観性の高い実績データが存在するにもかかわらず、これを使用せず、又は、実績データの信頼度に応じた補正を行わないものとなっていないか。