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トロンボーンのスラーは難しいか
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吹奏楽をやっているとよく話題になります。
「トロンボーンって、スラーはどうやるの?」
だいたいのアマチュアTb奏者の答えは
「適当。あんまりやってない」
トロンボーンのスラー演奏法は、やり方が3通りもあって
スラーのかかっている音によって使い分けなければいけないので、面倒なのです。
@レガートタンギングによるスラー(”やさしく”舌をつく)
Aリップスラー(唇だけで音を変える)
Bロータリーによるスラー(左手親指のレバーを使う)
AとBが簡単なのですが、
残念ながら@でしか演奏できないパターンが多く、苦労します。
スラーの時にタンギングをしなければいけない管楽器なんて、トロンボーンくらいのものです。
早いテンポで「ドシラソファミレ・・・」みたいなスラーは、
トロンボーンには相当難しい、いや不可能と言っていいでしょう。笑
結局のところ、トロンボーン奏者にとって
スラーであろうがなかろうがどうせタンギングは必要なわけで、
スラーは「適当」ということになるわけです。
でも僕は、実はトロンボーンこそが
ある意味で最もスラーに適した楽器だと思っています。
多くの管楽器では、タンギングをせずに指使いを変える方法でスラーを演奏しますが
演奏方法が1通りで簡単なために
「スラー=タンギングせずに次の音へ移ること」
という誤解に陥りやすいと言えます。
今これを読んで「何が誤解?」と思った人、多いんじゃないでしょうか。
本来スラーとは、音から音へ切れ目なく移り変わる演奏を意味します。
大事なことは「どうやって吹くか」ではなく「どんな音として聞こえるか」です。
タンギングせずに指使いを変えたからといって、本当に音が切れ目なくつながっているのでしょうか。
多くの管楽器は、結果として出てきた音に目を向けることを忘れがちになります。
その点トロンボーンでは、@ABのすべての方法で
同じように聞こえる(聞き手に奏法の違いを感じさせない)ようトレーニングをします。
何を目標に@ABそれぞれの奏法のトレーニングをするかを考えるうちに
自然と「こういうスラーを吹きたい」というイメージを持つようになります。
イメージを持って演奏する分、完成すればトロンボーンのスラーの方が
スラーらしい演奏になる可能性があります。
ちなみに、僕がイメージする「理想のスラー」は、
声で「あ〜あ〜」と歌っているときの音の移り変わりです。
こんなことをいうと、歌手の人には「声のスラーにもいろいろあるんだ」と怒られそうですが・・
声によるスラーは、たぶんどの管楽器のスラーよりもなめらかできれいだと思います。
トロンボーンの音域は、テナーの場合ちょうど男性の声域とほぼ同じ範囲にあるので
僕の場合は、目標として非常にイメージしやすいのです。
管楽器奏者の皆さん、自分の声と楽器のスラーの違い
一度比べてみてはいかがでしょうか。
蛇足ですが・・・・
楽譜を書く立場からいえば、
スラーという同じ記譜法であっても、作曲者によってそのイメージはバラバラのはずです。
ジャズの作曲家とポップスの作曲家のイメージするスラーは、当然違うはずで
でも楽譜に書いてしまえば同じ記号です。
ですから、奏者はスラーを見たら
「どんなスラーを要求されているのか」を考えなければいけません。
それが正しい必要はありません。そもそも正しいかどうかなんてわかるものではなく
大切なことは音を出す前に「目標」を持っていることです。
あとは「目標」どおりに吹けたら言うことはないのですが・・・頑張りましょう。