星の降る夜

日は既に沈み、辺りはすっかり暗くなっていた。
星がつけられた、カーテンを下ろしたようだった。
都会では想像できないほどの数の星。
それほど多くの星が夜空に縫い付けられていること、人々は忘れてしまった。

綺羅と言う名の少女がいた。
空を見るのが大好きな少女で、特に星空を見るのが好きだった。
しかし、いくら彼女が夜空を、無数の星によって構成される星空を見たいと願っても、彼女には見ることが出来ない。
一等星ぐらいの明るさの星は見えるのだが、三等星になると見えるかどうかきわどかった。
なぜなら、街は夜を知らないほど明るいからだ。
車の、ビルの、マンションの、街灯の、広告看板の…
それらの明かりが点いているからだ。

いまや24時間営業はコンビニに限った話ではない。
24とは言わなくとも、真夜中までやっているところなら数は多い。
一部スーパーでは、夜中の0時でも開いているところはある。
そして、それらの明かりが点いている限り、街は明るい。

季節が夏に近づくにつれ、日の昇る時間が早くなる。
もう、朝の4時ごろでもだいぶ明るくなっていた。
綺羅は、星空を見るために朝の3時ごろに起きなくてはならなかった。
夜を知らない街に唯一訪れる夜…
それが大体朝の2時から3時の間の時間帯だった。

しかし、教科書に載っているような壮大さを、その空は持っていなかった。
綺羅は一人寂しそうな表情で空を見ていた。
彼女の見たかった空はこんなものじゃ――ない。
そのことを彼女は友達たちに話したことがある。
母親にも話したことがある。
しかし…誰も相手にしてはくれなかった。
みんな、夜空が明るいのを当たり前だと思っている。
何の厚みも感じられない、薄っすらと藍がかった空が当たり前だと思っている。

空に憧れ焦がれていたのはいつの話だろうか。
空の神秘さに、彗星の美しさに、空を見上げたのはいつの話だろうか。
いつからなのだろう。人々が空を見なくなったのは。
空と宇宙を同じものと結びつけたのは。
彗星と隕石は同じものではあるが、響きによってもたらされるイメージは異なる。
そのことを、多くの人が忘れたのだろう。
綺羅が、彗星が綺麗だから見ようと言ったところで、誰が見に行くだろうか。
隕石に綺麗も何もない、と言われて終わるだろう。

徐々に、人は外ばかりに目を向け始めていた。
地球の外へ飛び出すことを考えるために空を見上げることはなくなった。
宇宙へ飛び出し、さらにその先へ、目を向け始めた。
はじめは隣の星、火星を、それから木星を…
どんどん外へ外へと目を向けていった。
それと比例して、ビジネスでは人の外側しか見なくなった。
唯一反比例するもの…それは好みの異性のタイプだけだろう。
これだけは、人の内面を求めた。
求められた外側を演じ続けるがゆえに蝕まれる己の内面を癒すために。

そのような思いを抱えながら綺羅は育った。
中学に入ると、朝早く起きるのも難しくなり、空を見る機会が減った。
そしてある日、一人で旅行に行った日のことだった。
時刻は夜の10時、11時ごろ。
虫の音(ね)に誘われて綺羅は外を歩いていた。
こおろぎの音など、とうに聞こえないものになっていると思っていた綺羅にしてみればそれは非常に珍しいことだった。
そして、何かの拍子で空を見上げた。
そこには黒い空―墨を塗りつぶしただけではなく、重みと言うのか厚みと言うのかそんなものを含んだ空―があった。
青白い星、赤い星、少し大きい星、小さく光が弱い今にも消えそうな星、様々な星がちりばめられていた。
綺羅は自分が吸い込まれていくような感覚がした。

その時、一つの星が横を通り過ぎていった。
それを合図に、次々と星々が駆けていった。
だんだん大きく明るく輝いていく星。
それはまさに、星の雨だった。

綺羅はついに、夜空を見ることが出来たのだった。


メルマガ第一号です!
案自体は一年以上前(実は高校受験二週間ほど前)から存在していました。
書き上げたのは最近で、勢いのまま書いたので変なところが多々あります。
ちなみにメルマガに載せた二番目の小説は、もろバイト生活の自分そのままで、もともと部活の冊子に載せたものなのでこちらでは載せません。
いや、そのままといっても、別にそれが理由じゃないし、そもそも主人公社会人だし。
運がよければ(最新号のみ公開主義/謎)バックナンバーから見れます→まぐまぐ - Nature Together -

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