S.S.

昔、僕にはおばあちゃんがいた。
とても優しいおばあちゃんで、僕にいつも子供の頃の話をしてくれた。
今は…もういない。都会の渦に飲み込まれてしまったんだ。
今の世はモノの流れが速い。政治の流れは特に速い。
昨日まで消費税が15%だったのに、今日から20%…そんな風な毎日だった。
おばあちゃんは15%の時点で高いとよく言っていた…。
20%になったことを知ったら何と言うだろうか…?
でもそんなおばあちゃんも今はいない…。
最近は病院の利用が不便になったそうだ…。
よくお母さんたちがそう言っていた。
そして、おばあちゃんはその不便さのために病院に通えず亡くなってしまった…。

昔は年金と言うお金があったそうだ。どんなお金かよくわからないけれど、老後支給されるお金のようだった。
そのお金と言うのは若いうちに働いて、その一部をどこかに払って…
それを老いてから貰う…つまり預金みたいなものだろう。
おばあちゃんも必死に働いた。
だけど、僕が生まれた頃辺りにこの制度は廃止され、お金は貰えなくなってしまった。
しかも、医療費・交通費・ガス代などすべてのものの値段も上がった。
その割には、給料は減少の一途をたどっているらしい。
国民にとっても大変な国になっていたのだ。
それを老人にどうやって暮らせと言うのか?おばあちゃんはよく言っていた。

変わったのはそれだけではなかった。僕はまだ小さな子供だけれど、あと10年もすれば兵隊の訓練を受ける。
これは義務になっていた。
僕は兵隊の訓練なんか受けたくなかった。
おばあちゃんにしばしば聞かされた話が僕をそうさせたのだろう。
その話は今でも忘れたことがなかった。
昔は…平和主義を掲げた国だったと言うことを。
その前も軍事国家らしかったが…。
僕は平和主義の国と言う方針は非常にいいことだと思っている。
そしてその時代の政治のほうがよかったと思っている。
そこに住んでいる人々がのびのびと暮らしていられたのだと思った。
これが本来の国のあり方なのだと思った。

ある日、僕は新聞を見て驚いた。
この時代ではニュースの視聴率がかなり低く、ニュース番組はほぼないに等しかった。
人々がニュースに興味を持たなくなったのだ。
ニュースを見るよりも、アニメやドラマを見ているほうがいいと思っているのだ。
新聞のほうはかろうじてやってきていられた…と言う感じだった。
非常に薄く、なるべくお金をかけないようにやっているようだった。
情報なんてパソコンで調べる時代になっているためか、ニュースを見たり新聞を読んだりするのはかなり年配の人たちだけだった。
後二三年で、こういうものもなくなってしまうのだろうか…。
まあ、そんなことは置いておいて、その新聞の内容はと言うと…
賄賂がどうのこうのということだった。
そのときになって僕は、政治はこのお金を渡した人たちのためにあるのだと知った。
だから議員のやりたいように国が動いていたのだ。
彼らにとって政治に興味がない国民は都合がいいのだ。
何も知らない、何も気にしない、だから何も異変に気付かないのかもしれない。
変わればそれにあわせて変わっていく…誰も文句を言わない…。
それはロボットのような扱いであり存在だろう。

六年後…僕は中学生になっていた。
義務教育は残っていたものの、公民の授業はなかった。
教えても誰も政治に興味を持たないし時間が無駄になると言うのが理由だった。
いや、今の政治に不満を持たせてはまずいと感じていたからかもしれない。
気付けば歴史もほとんど習わなくなっていた。
本も、なくなっていたかもしれない…いつの間にか歴史書は姿を消していた。
みんな時間と必死に戦っていた…。
またさらに給料が減ったのだ。そして物価は上がる…。
もしかしたら時間と戦っているのではなく時間に流されているのだろう。
友達とも遊ばなくなった。
両親はどこも共働き。子供は近所の個人塾で余りの時間を過ごしていた。
僕は…いや僕一人ぐらいしかいないだろう…家にいた。
おばあちゃんが残したたくさんの本で勉強した。
だから、かなり古いものを学ぶことが出来た。
おばあちゃんのいた時代の経済を知ることが出来た。
その当時の社会は、やっぱり人と人とのつながりだな、と思った。
今は…ロボット化した人間が存在しているだけなのだと思った。
意思を持った人間はこの国に存在しないのだろうか…?
僕は海外へ出ることを決めた。
いや…この星を出ることを決めたのだった。

この醜い戦いが絶えず残る星を後にして…。
多分、そのときは何も後悔しないだろう。
僕は発つんだ、この星を。
もっと違う社会を見るために…。
もう戦争は嫌だ。
一部の人にだけ有利な社会も嫌だ。
―社会を変えるために…。

今の世の歯車は少しずつ狂いだしている。
時は前へ流れているのに社会は後ろへ流れている。
我々はだんだん時に離されていく…。
我々は未来へ進むべきではないのか?
時を追い越さなければ未来へはいけない…。

さぁ、外に出てもっと知ろう…
歯車を直すための手ががりを手に入れに…。


中三の頃書いたものです。
当時は…というか今も…憲法9条、平和主義についての論議がありました。
他にも、年金問題などがある反面、税金を使って建てた様々な施設を凄い安値で売ったりする問題もありました。
その割には、赤字続きで、国の借金は膨れるばかり…
それなのに汚職事件が後を絶たない…
そして、若者はあまり政治に参加しない…
そんなこんなを思って書いたものです。多分。きっと。(コラ
一応オリジナル三作品目です。
オリジナル初は、「上っ子」と言う題で書いたのがあるのですが、中途半端、と言うか難しくてそこで強制終了したので、初めて最後まで書ききった「人と森と」をオリジナル初の作品と数え、こちらは二番目です。
青空のほうは、もう少し後に書いたのですが、似た内容と言うことで順番はこれより上においていたりします^^;
今回、この作品を公開するに当たって約一年半ぶりに読みました。
「時の流れ」などその後の作品の軸になるようなものを、このときに既に書いていたことにただびっくりです。
ブログを見た人は知っているかと思いますが、「歯車」をこの作品でも書いていたことにも驚きました。
個人的には出来に不満があったので、書きあがってからは一度も読んだ記憶がありませんので、すっかりどんな話しか忘れていました。
っと、そんな話ですが、読んで何か感じることがあれば…いい意味で影響を受けたり感じたり出来れば…幸いです。
追伸:題名は最後まで思いつかなかったので、「社会科(Social Studies)」の短縮から取りました。

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