人と森と

利奈はこの地に昨日引っ越してきた。
彼女は弟と二人だけでこの地にきた。
彼女に親はいない。親は共働きでめったに利奈たちと顔をあわせなかった。
そんな親も数年前に姿を消した。
彼女たちは森の奥で暮らしていたためにこの都会の雰囲気に戸惑いの色を隠せなかった。
まず何より空気がまずかった。これからこの地で中学生活を送るなんて考えたくなかった。

利奈たちはこの地に住んでいるおじいさんとおばあさんの家に泊めてもらった。
実は利奈はここに来たのが初めてだった。
家があまりにも遠かったし、親が忙しかったからだ。
「利奈ちゃんに磋輝兎さきと君ね。よくきたね。」
おばあさんはそういって彼女たちを迎え入れた。
その後のことはすごく疲れていたので覚えていなかった。
ただ知っていることは今日からここの中学校で勉強することだった。
そして今、自己紹介のためにみんなの前に立っていた。
「春雨利奈です。」
教室中に彼女の声が響いた。
利奈の席は窓側だった。窓からは道しか見えない。
木も花も草も見えなかった。なんだか、とても寂しい感じがした。
利奈は自分の家から見えた景色と比べながら見ていた。
そしてぼそりと呟いた。誰にも聞こえないくらい小さな声で。
「つまらないところだ。人も空気も...」

早く夏が来ないかな、そう利奈は思っていた。
夏になればみんなで昔すんでいたところに行くからだ。
交通は不便でも環境が利奈にはあっていた。
都会ではいたるところにごみが捨てられていた。
ごみであふれかえった汚いところだった。
人間が、生物が、何事もなかったかのように過ごせるのが不思議だった。
もう、人間はごみと共存するようになったのか、と利奈は思った。
ごみによって生態系が崩れているのがよくわかった。
利奈の目には異常なまでに発達し、増えたカラスが映っていた。
これも自業自得なのだろうか。
小さい赤子がカラスに襲われた光景を見た。
母親は子をかばいながらもごみを路上に捨てていた。
多分あのカラスは食べ物をねだっているのだろう。
捨てられたごみの中に残っている食べ物のかすをカラスは食べていた。
利奈はその場を立ち去った。

かなりの月日が流れ、夏が来た。
この都会生活の中利奈たち姉弟はさまざまな光景を見てきた。
家でごろごろしている者。お菓子しか食べない者。
軽犯罪を起こす者。ごみをポイ捨てする者。
ゴルフ場を作るべくたくさんの木を伐る企業。
とても健康な都市とは思えなかった。
そんなことはさておき、彼女たちは今、約束どおり森にいた。
森についた彼女たちを待っていたのは失望だった。
この森もゴルフ場にすべく木を伐ることになったそうだった。
それだから木はほとんど伐られ、もう森でもなんでもなくなっていたのだ。
さらにその森のいたるところにごみが捨てられていた。
都会人と思われる若い観光客が利奈の目の前でぽいとごみを捨てた。
まるでそれが当たり前のような行動だった。
この地もまた都会の餌食になったのだ。ここまた変わってしまったのだ。
利奈の気持ちは曇っていた。いや、晴れなかったというべきだろう。
彼女は都会で曇ってしまった気持ちを晴らしに着ていたのだから。
磋輝兎はそんな利奈の気持ちが一番よくわかっていた。
彼はこの風が変わったことによって何かが変わるのを感じた。
利奈も感じていた。何か悪いことが起こるのを。
「お姉さん、あれはもしかして。」
磋輝兎は森のほうをさしていた。
その先にはたくさんの動物が移動している姿がかすかに見えた。
それは住む家がなくなった動物たちだった。
「磋輝兎!」
利奈が叫んだ。磋輝兎は“わかっているよ”という顔をして走り出した。
利奈はその後を追った。彼女たちはとある大きな川へ向かっていた。
雨が少しでも強く降れば川が氾濫して洪水になる可能性があるかもしれなかった。
川の水があふれれば木のなくなったこの地は水に使ってしまう。

雲行きがだんだん怪しくなってきていた。
そろそろ雨が降るような天気だった。
川辺に着いたとき雨が降り出した。
川の水はどんどん増えていった。利奈たちは帰り道を走った。
早く帰らないと危険だった。
雨がさらに強くなったので仕方なく途中で雨宿りすることにした。
とはいえ、木が伐られていたので雨宿りするところ自体なかなか見つけられなかった。
彼女たちはまだわずかに残っていた木々の下で雨宿りをすることになった。
その間も川の水かさはどんどん増えていった。
今まで耐えていた木々にもそろそろ限界が見えてきた。
「お姉さん。お姉さん。」
上から声がした。いつの間にか磋輝兎が木に登っていた。
「もう地上では危険です。すぐに水に流されてしまいます。
早く大きな木に登ってください。もう限界を超えています。」
利奈はすぐに磋輝兎のいるところまで登った。
水が流れ込む音が聞こえた。と、すぐに水が流れてきた。
それは大量の土砂を含み土石流と化していた。
それでも雨は降り続いていた。
人のいるところから悲鳴が聞こえた。家々が壊れる音が聞こえた。

土石流は予想よりはるかに威力が上回っていた。
弱い木々が次々と倒され、利奈たちのいる木も水に飲み込まれそうになっていた。
きっともう、人家のほうは全滅しただろう。
人家のあったところは泥で覆われていた。
やがて利奈たちも木から振り落とされてしまった。
そのまま土石流に乗って流された。
ほかの木々や逃げ遅れた森の動物たちとともに。
それから数時間後にはおさまった。辺りは静まり返っていた。
そんな静かな空気をかき消すかのようにひとつの大きな声が響いた。
「お姉さん!利奈お姉さん!」
磋輝兎の声だった。どうやら無事に助かったようだった。
そして、利奈も無事だった。倒れこんで気絶していたが。
磋輝兎は利奈を見つけた。
「お姉さん、お姉さん。」
利奈に向かって呼びかけた。少し経って、利奈は意識を取り戻した。
「磋...輝...兎。助かったのね、私たち。」
家族や仲間と離れ離れになった動物たちが集まってきた。
彼らはみんな昔の友達の利奈と磋輝兎のことを覚えていた。

今回の出来事は利奈たち姉弟に森での生活があっていたことを知らされた。
都会にも木のなくなった故郷にも、彼女たちにあう居場所はなかったのだ。
彼女たちは森の動物たちと先に逃げた動物たちとわずかに残った森で生きていた。
今のほうが何倍も幸せそうに見えた。
彼女たちはあれ以来人家のあったところへ戻っていない。
たとえ戻ったとしても時間の無駄になっただけだろう。
彼女たちは今の生活に満足していたのだった。
これ以上幸せな生活を願ってはいなかった。

人と森が共存できますように。

それが唯一の願いだった。


初めて書いたオールオリジナル設定の小説です。
ちなみにこれはタイトルを自分でデザインしたのがあったり…
後日公開します。(スキャンしなきゃならないし・・・)
ちなみに続編も書いていくつもりです♪
本当は出そうと思っていたキャラがいるのですが・・・
すっかり出し忘れたがために“青空と”のほうで出したような・・・
アレは気に入っていないから、内容自体変わりそう・・・^^:;
ではでは、読んでくれてありがとうございました♪
感想いただけると泣いて喜びます(ぇ

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