私も貴女もはじめての友達

私には、お嬢様育ちと思われる友達がいる。
なぜなら、彼女には彼女専属の付き人がいるからだ。

同じ家出仲間と言うことがあって、私と彼女はすぐに仲良くなった。
それでも、彼女はいつも10ばかり歳が上の人と一緒にいた。
私はてっきり一人で家出したのだと思っていたから、いつもそのことが不思議だった。
それである日、彼女に聞いてみることにした。

「さーちゃん、その人って何している人なの?」
彼女の名は小夜子と言う。私は彼女をさーちゃん、彼女は私のことをみーちゃん、と呼んでいた。
まさか、そう呼ぶのには身分が違いすぎることなど、当時の私には知る由もなかった。
「私の世話をしてくれる人…。それと護衛もするみたい。お父様とお母様が言っていたわ。
私が一人で歩くのは危ないんだって。それだったらみーちゃんはって聞いたの。
そうしたら、みーちゃんは私ほど危なくはないと言うの、瑠衣は。」
瑠衣と言うのは、彼女の付き人の名だ。
「しかし小夜子様、美鈴様は…。」
「違うって言うんでしょ。どこが違うのよ。みーちゃんは私のお友達です。違う筈がありません。」
瑠衣の話を遮り、感情に任せて彼女は言っているようだった。
瑠衣は反論しても無駄だと思ったのか、何も言わなかった。
さーちゃんは勝ち誇った顔をして、
「みーちゃん、何して遊ぶ?」
そう聞いたかと思うと、公園へ向って駆け出していた。


私が5歳になった頃だろうか。
その頃私は、いろいろな事情により、家を転々として暮らしていた。
私は男の人が苦手だった。
それだから、男の人の目につかないよう隠れて暮らしていた。
表通りは会社を行き来する男の人ばっかりだった。
誰も私に注意を向けてはいないことを知っていたが、それでも怖くて表通りを歩けなかった。
それだからいつも裏通りを歩いた。
裏通りは出会う人が少ない代わりに、会う人はみんな“変”な人だった。
“ドラッグ”というものをやっている人、酔っ払い…ヤバめの男やら女やら…見ていて吐き気がするものばかりだった。
それでも、人に会う可能性が低いから、裏通りしか歩かなかった。
強盗やら何やらに巻き込まれる覚悟も出来ていた。
それでも、やはり怖かった。
この日、私は、不良と呼ばれる男たちの、運悪くリーダーに当たる人にぶつかった。
「おい貴様!」
その男が叫んだ。その顔を見たとたん、私は思わず叫んでいた。
彼らが何を言ったのか、私の頭は真っ白になって、覚えてはいない。
殴りかかろうとしたのがわかる。
そのとき、誰かが私を守ってくれた。その男たちの拳から。
視界の隅で、私と同じくらいの少女が私を見ていたのを見た。
それから、私の意識は途切れた。

目を開けると、ベッドの中にいた。
「気づいた?」
少女が声を掛けてきた。
「ここは…?」
私が聞いた。
「ここは、とりあえず私の家。よかった、怪我がなくって。」
とりあえず、という言葉が引っかかったが、私は何も聞かなかった。

表通りを歩くと、家に連れ戻されるかもしれないから彼女は裏通りを歩いていたことを知ったのはだいぶ後のことだった。
いろいろと縛られた生活が嫌になって、召使しか相手にされない生活が嫌になって飛び出したのだと、そのとき知った。
友達はいなく、偶の外出時に見かける町の子供たちが楽しそうに遊んでいるのをうらやましく感じることがあったそうだ。
母親が、父親が、自分たちの子供を可愛がる姿を見たそうだ。
自分は召使たちしか世話してくれない、お母様は、お父様は、私のことをどう思っているのかしら、大事に思っているのかしら、跡継ぎとかそういうことしか思っていないのかしら。
―そう彼女は言っていた。
そのとき私は、『さーちゃんは私の友達だよ。』と言ったのを覚えている。
彼女は怪訝そうに『さーちゃん?』と聞いていた。
私は、瑠衣がさーちゃんのことを、小夜子様と言っていたのを何度か聞いていた。
だから彼女が名乗らずとも彼女の名前を知っていたのだ。
『うん、小夜子ちゃんだからさーちゃん。』
と何事もなかったかのように答えた。
今思えば、相当な身分知らずで恥知らずな人間だっただろう。
『そっか。あなたの名前は?』
『美鈴。』
『美鈴ちゃんね、それじゃ、みーちゃんだね。』
さーちゃんは笑顔を向けて私に手を差し出した。
意味が分からず少し戸惑い、私も手を出した。
『よろしくね、みーちゃん。』
さーちゃんがそう言った。
『うん。』
私もそう答えて、握手した。

これが私とさーちゃんの出会いだった。
私の家がないことを知ったさーちゃんは、彼女の家に私を泊めてくれた。
しばらくして、瑠衣がいることを条件に、さーちゃんのお父様がさーちゃんの家出を認めてくれた。
そして、私とさーちゃんの仲も認めてくれた。


「ブランコ!」
そう言って私もさーちゃんの後を追って走った。
「待ってください、小夜子様!美鈴様!」
遅れて走り出した瑠衣が叫んだ。
「ブランコね!了解!」
先に到着したさーちゃんがブランコへと駆け出す。
私はさーちゃんの隣のブランコに乗った。

それでもいい、と私は思う。
友達に身分なんて関係ないと思う。
小中とさーちゃんのお父様が関与しているのか、私とさーちゃんはずっと同じクラスだった。
いよいよ来年は高校受験。
さーちゃんと同じ学校に行けるといいなと私は思っている。
だってさーちゃんがいればなんだって出来ちゃう気がするから。
さーちゃんがいれば、男の子だって怖くない、そんな気がする。
さーちゃんのおかげだよ、ほんと。
ありがとう、さーちゃん。
さーちゃん大好き!


一応女主人公は美鈴で確定しています。
こんにちは、五月雨です。今回はこのお題では二つ目の作品です。
実は僕の小説では、原則「わたし」と読む場合はひらがな表記をするようにしています。
二年ほど前までのものはすべて漢字表記だったと思いますが…。
まだ完結していない、White Cloud伝説のほうで、「わたし」と読む場合と「わたくし」と読む場合が出来てしまったのです。
それ以後の作品に関しては、「わたし」と読む場合はひらがな表記にするように心がけています。
しかし、今回のお題はすべて漢字表記です。
なんとなく直すのが面倒になったのがひとつと、漢字のほうが読みやすいかなと思ったのがひとつです。
それなので、この場で述べさせていただきますが、小夜子の「私」は「わたくし」と読みますが、他は全部「わたし」と読みます。
小夜子の言葉遣いですが、敬語の苦手な僕が書いているものですから、どうしても敬語じゃなくなってしまうところがいくつかあります。
それは、美鈴を安心させるためにわざわざ使っていることと、美鈴やクラスメートの影響を受けたことの二つが原因だと思っていただければ幸いです。
どうしても従者がいるとなると、お金持ちかそれに類する人物を思い浮かべてしまうので、家出人―美鈴―と引き合わせる方法がこれしか思いつきませんでした^^;
そもそも、リンク集のほうには、『human circle -フ レ ア イ-』などとたいそうな名前をつけてしまいましたので、(非常に後悔しています。)美鈴と沁也がいろいろな人に出会っていく話を書いていこうと思っています。
っと、今回の場面設定ですが、一応美鈴6歳の話です。
とはいえ、最初の二段落と最期の段落は、美鈴15歳ですがw
つまり、6歳の話は二段落しかないんですよね。非常に短いことに。
回想モードが長いので、5歳の話ととっていただいたほうがいいかもしれません。
今回もこのような話を読んでいただきありがとうございます。
純オリジナル作品は、いまだにキャラクター設定から頭を悩ませ、あんまり納得のいくようなものが書けないでいますが、それでもこの話を楽しみに読んでくれる方がいるのなら、それほどうれしいものが他にはありません。
…すみません、自分でも何が言いたいのか分からなくなってしまいました。
このまま意味不明なことを言わないよう、このあたりで感想(というよりあとがき)を終わりにします。

戻る