ホントの強さって…?

それは沁也がまだ幼稚園の年長さんだった頃。
幼稚園では面倒見の良いお兄ちゃんとして他の園児からも慕われていた。
そんな沁也だったからかもしれない。
自分の力量を省みず、喧嘩を買ったのは。

それは沁也が近所の公園で遊び終え、帰ろうと帰路についた頃だった。
小学校二、三年生位の男の子達が輪になっているのをたまたま見掛けた。
中心にいるのはガキ大将として、この地域の子ども達に恐れられている子。
小さい子なら誰もが相手にしたくない子で、だからみんな彼には楯突かない。
沁也も基本的には一切接触を持たないよう心がけていた。
しかし。輪になる彼等に何らかの予感を抱いていたのか、このときばかりは放っておくことができずにいた。
そっと、そっと、彼等の意識に入らないよう細心の注意を払って近付く。
そっと覗いて見てみると、一人の女の子が彼等に囲まれていた。
沁也の知らない子で、沁也よりも幼く見える。
腰が抜けたように地面に座り込んでいる彼女は恐怖に竦みあがって動けずにいた。
何があったか分からない。
けれど彼女を助けなければいけない。
「やめろ!」
何も考えずに、気が付いたときには沁也は近くにいた男の子に襲いかかっていた。

「お兄ちゃん、お兄ちゃん、正也お兄ちゃーん!!」
黒いランドセルをしょった正也の正面には、正也を呼ぶ沢山の園児が駆けてくるところだった。
何か沁也に大変なことがあったと正也は思う反面、駆けてくる園児達が車に轢かれやしないか心配だった。
通学路とはいえここは車道。
朝の時間なら車の通行が禁じられているが今は放課後。
「わかったからお前等はそこで待ってろ。」
正也は園児達に向かってそう叫び、自分が走った。
安全確認をしつつ最速の速さで走る。
四年生と言うこともあって当然園児達の倍も速い。
すぐに園児達の元にたどり着いた。
「で、沁也がどうしたんだ?」
正也が聞いた。
基本的に沁也を頼る彼等が正也を頼るのは沁也に関することのみ。
沁也は正也の四つ年下の弟だから、園児達は沁也のことになると正也にしか頼らない。
そしてこんなに慌てていると言うことは沁也の身に何かがあったと言うこと。
「うん、沁也お兄ちゃんがね、あの怖いお兄ちゃん達に殴られているの。」
正也に声掛けられて落ち着きを取り戻した一人が答えた。
他の子達はそのときの様子を思い出したのか体をブルッと震わせた。
「わかったわかった。なーに、大丈夫だよ。」
正也は努めて明るく言った。
「ホント?」
園児達は希望に満ちた目を向けて聞いた。
「ああ、勿論だ。」
正也は親指を立てて見せた。
ったく、沁也のヤツは何首突っ込んでいるんだか。
園児達に聞こえないよう正也はそう悪態ついたけれど。
その後正也は園児達に場所を聞き、彼等にはそのまま真っ直ぐ家に帰るよう促した。
園児達の背中を見送ってから正也は駆け出した。
目指すは沁也と——ガキ大将のいる場所。

おもいっきり地面に叩き付けられ、沁也は勢いだけで飛び出たことを後悔した。
地面にぶつかったところがずきずき痛む。
悔しさと痛みに歯をくいしばってキッとリーダ格の男を睨めつける
口の中に生ぬるい液体の感触がするがあえて気にしない。
視線の先にはニヤニヤ笑う男達が沁也を取り囲んでいる。
二人、座り込んで動けなくなっているのは沁也が押さえた二人だ。
沁也の後ろでは相変わらず少女が腰を抜かして震えていた。
男の足が沁也の腹に入る。
口に溜った血を吐き、再び沁也は地面に体をぶつけた。
体のあちこちに擦り傷と痣をこさえ、音をあげている。
頭がぐらぐらして視界がぶれてきている。
自分がなんとかしないと同じ目に会うのは彼女。
彼女だけは守らなければならない、その意識だけが沁也を立たせた。
意識が朦朧とするなか、沁也はひとつの聞き覚えのある声を聞いた。
もう大丈夫、そう思ったとき、張りつめた緊張が一気に緩み、沁也の意識は途切れた。

「俺の弟になんか用か、智樹。」
正也はリーダ格の少年の肩を掴み言った。
その手にかなりの力がかかっているのだろう。
ビクリと震えた智樹の顔は真っ青で苦痛に歪めた顔を振り向かせた。
「ま、正也さん…。」
智樹の顔には驚きの色まで加わっていた。
正也は方眉をあげ驚いた風に演じたが、すぐに元の顔へ戻した。
正也を知らない人は、この辺りにそうそういない。
それは正也も沁也と同じく面倒見が良いと言うこともあるが、それだけではなく学校一強い人として恐れられているからだ。
その強さは大会で表彰されるほど。
しかし、正也は普段は力を出さない。
武術は喧嘩の道具ではないと言って、決して喧嘩は買うことも売ることもない。
だが…今のように力を暴力に使う輩を正也の目の前で好き勝手に野放しさせることもない。
正也のいないところの場合は証拠がないから取り合わないが、それでも正也をすがって来る子達のためなるべく早くその現場に駆け付け、解決させる。
それは自分の弟に対しても公平で…どちらの言い分も平等に聞くと言うスタンスを貫いている。
「えっ…お、弟、さん、です、か…?」
沁也と正也を交互に見比べながら智樹の顔は一層青くなった。
「そうだ。いったい何があって何をしている?」
この当時の沁也は園児には有名でも他の人にはあまり知られていなかった。
強くて優しい兄は自慢であって誇りでもあったことは補足しておく。
「えっと、その、奥にいるお嬢ちゃんとちょっといろいろありまして、たぶんそのことで弟さんがこの二人をやったんだと思います…。」
しどろもどろに答えるのは智樹。
肩を掴まれたときの力は完全に威嚇として捕えられていた。
「思います、じゃなくてお前の話を聞いているんだ、智樹。沁也の話なら後で沁也に聞く。それとも全面的に非を認めるのか?」
返す言葉のない智樹。
やがて絞り出すように答えた。
「彼女が俺にぶつかったんです。で、カッとなったところにこいつが来た。悪いのは認めます…。すみません。」
そう言って謝る姿は到底ガキ大将からは想像がつかない。
もしこの場に園児達がいたらきっと腹を抱えて笑っていただろう。
そしてこれは笑っていいものではない。彼等は等しく正也に叱られていただろう。
「実際この目で見たのは初めてだが、お前の噂はかねてから聞いている。お前にとって力とはなんなのか考えたことはあるか?」
「力…ですか…。」
真っ直ぐ見つめる正也にたじろぎながら返答に窮す智樹。
ふと正也は視線をはずしたかと思うと、その先へつかつかと歩き去った。
視線の先で横になっている弟の元へ。
「おい沁也、起きろ。」
その頬を叩きながら声を掛ける。
智樹達に背を向けていることにお構いなく。
しかし、その威厳に満ちた背中を襲うことなぞ彼等にはできなかった。
「あ…兄さん…。」
やっと、沁也が気付いたようだ。
「バカヤロウ!」
バシンと大きな音が響く。正也が沁也の頬を強くはたいた音だ。
沁也はヒリヒリする頬を摩りながら正也を見る。
「かっこよく飛び出たは良いが、何もできない。少し頼られたからっていい気になって、がむしゃらに攻撃して。お前はなんのために何をした?」
正也の問いに沁也は答えることが出来ない。
沁也が反論すると、その全てが言い訳のように聞こえてしまうからだ。
「守ることを口実に何をやってもいいわけじゃないと言っただろ?」
その問いに沁也はただ頷くのみ。
恐らくこの場にいた誰もが、正也はこと弟に対しては厳しくなるだろうと印象を改めただろう。
「さて、その子は大丈夫かな?」
正也が言うのは沁也が守ろうとした少女。
沁也が振り返ってみてみると、彼女の瞳は何も映していない。
「おい、しっかりしろよ!」
力強く振ることによってようやく彼女は気が付いたようだ。
しかし、何かとんでもない記憶を呼び起こしたのか急に激しく体が震えだした。
「あ…あ…あっ…。」
よく分からない声が彼女から漏れる。
その尋常でない行動に、沁也の手が緩む。
それを好機ととったのか、彼女は一目散に逃げていった。
体の体重移動をうまく行われる前に駆け出したために何度も転びそうになりながら。
「ったく、礼のひとつも言わないで。」
髪をかき揚げ正也が言う。
「仕方ないよ。あの子、なんか過去にありそうだし。」
正也の隣で彼女の背中を見送りながら沁也が言う。
彼女の錯乱した様子といい言動といい、謝れる状態にないことも過去に何か大きな傷を持ったことも容易に想像出来るのだが。
「そうだ智樹。力ってのは守るためにあるんだと俺は思うぜ。」
後ろを振り返ることなく正也が言う。
そして沁也を背負い家路についた。

「ねぇ、兄さん。」
正也の背中から沁也は声を掛けた。
「ん?なんだ?」
「僕ね、もっと強くなるよ。兄さんみたいに。あの子を守れるような人になる!」
「そうか…。それなら沁也、覚えとけ。ホントの強さは力だけじゃない。心の強さも大事だってことを。」
「うん。わかった。」
このときの沁也に、正也の言っている意味は理解できてはいなかった。
ただ幼心に、人一人も守れなかった自分を、この出来事を忘れまいと刻みつけたのみ。
心も体も強くなきゃいけないならどっちも強くなって守りたいものをちゃんと守ろう、そう強く決意したのだった。
えっと登場人物24のお題より兄弟。15作目
正也氏は大人になった後の話とかちゃんと考えていたんだけど、ノリで考えた自分の小説のパロディっぽいものの方がいろいろと書きやすいことが発覚し、そういう理由でこんな話を書いてしまったと言うわけです
ってか言いたいことがよく分からなくてすみませんorz
なんか今回、ガキ大将がめちゃくちゃ弱くなってしまったなぁ〜っと反省しております
ってか意外と正也君が強かったw(ヲィ
でもガキ大将とかって、少し上の年の子が相手しないからできるんだと思いますよー
相手したら絶対敵わないし

ってか、書いていて思ったのは正也君は絶対どこかで損をするタイプだと思うのですが…どうでしょう?
智樹は財力とか権力とかを駆使して将来生きていそうですー

あー正也氏の将来をちゃんと考えた(とゆーか元々はこっちで書くつもりだった)ので一応職業だけでも書いておこうかと…
小児科医です
眼鏡はかけているけれど伊達疑惑浮上中(笑)

まぁそんなこんなで長々とお付き合い、ありがとうございました


あ、作中の彼女ですが…
勿論“彼女”です
二週間ほど前にあの現場見てしまったとか

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