偶然か罠か

学校が終わった後、たいていの場合はバイトがある。
俺が働いているところは家からは少し離れたところにあった。
何故か、自分でもわからないが、何故か気になるやつがいて、そいつの家の近くだと思われる場所だからだ。
ここしばらくそいつには会っていない…そのことが俺を不安にさせた。
仕事をすれば少しは気を紛らわせられるだろうと思ったが、そうでもなかったようだ。
この三年間弱、仕事をしているものの、気が紛れることは一時的ならあるものの結果としては紛れることはなかった。

俺は一応、レジをやっている。
一応と言うのは、レジ以外もやるからだ。
この日、俺はレジをやっていた。
「そう言えば沁也君、今度来た子、沁也君と同じ学校らしいよ。」
それなりにレジが暇になったとき、隣のレジに入っていたパートさんが言った。
「えっ…?」
「うん、とても可愛い子だったよ。」
驚いていた俺にパートさんはそう答えた。
「女性…なんですか?」
恐る恐る俺は聞いた。
同じ学校かどうかは知らないが、この近くに住んでいる大学生の女性と言えば彼女をまず思い浮かべてしまう。
まさか…と否定してみるものの、そうであってほしい、と言う思いも強かった。
「そうだよ、沁也君より二つぐらい年下なんじゃないかな。」
…年齢的にも彼女と一致する。
返答に困っている俺のところに、ちょうど一人の人が買い物籠を提げてやってきた。
そのことによって会話は強制的に打ち切られた。
俺はこのタイミングで来たこの客に内心感謝した。

その二時間ほど後、噂の“新入りさん”が来た。
先ほどのパートさんが彼女にどのレジに入ればいいか言っているようだった。
そして彼女はやってきた…俺のレジに。
俺は商品登録中だったので誰だかわからなかったのだが、
「あっ、あの…。…あっ!」
っと言う彼女の反応で誰だかわかってしまった。
「彼を知っているの?」
隣にいた例のパートさんが聞いた。
返事は聞こえない、しかし、そうなんだ〜と言うパートさんの声が聞こえたところによると、肯定したのだろう。
そして商品登録を終えた俺が見たのは…パートさんの隣に立っていた女性―美鈴だった。
「やっぱりお前か…。」
俺はそう小声で呟いた。

美鈴は俺の隣で商品登録作業をやった。
お金を預かったりするのは俺がやった。
忙しいときはそれでよかった。
暇になると…何もすることがなく沈黙だけが流れた。
「あの…お久しぶり…ですね。」
沈黙に耐え切れなかったのか、美鈴が口を開いた。
「ああ、三年ぶりだな。」
…そこで会話は終わった。
そういえば、美鈴が俺と同じ学校に通っていると言うことの真偽を聞いていなかった。
会話が途切れた気まずい空気の中、俺は意を決して美鈴の名を呼んだ。
そして彼女に聞いてみた、どの学校に通っているのかと。
彼女の答えた学校は、確かに俺が通っているところだった。
「沁也さんは?」
美鈴が興味津々と言った目で聞いた。
「俺もその学校だよ。」
素っ気無く俺は答えた。
「そうなんですか!偶然ですね!」
美鈴は笑顔でそう言った。
俺はその目を見ているのに気まずさと言うのか恥ずかしさと言うのかを感じて目をそらせた。
そして、
「お前仕組んだだろ。」
と八つ当たりにも取れる言葉を言った。
仕組んだとしたら、美鈴の家に近いと思うところにわざわざ働く自分のほうだろうに。
「仕組んでいませんよ、偶然ですよ!」
美鈴の反論…。もちろん俺はそれを無視した。
俺が無視したための腹癒せか、沁也さん酷いんですよ〜っと美鈴は三年も昔のことの話を例のパートさんにしていた。

上がるとき…これも仕組まれたのか、美鈴は俺と同じときに上がることになった。
俺の次にレジを使う人がいなかったので、俺はレジを閉めるため美鈴を少し待たせた。
その後、お金を扱っていない美鈴をまた少し待たせ、レジを閉めるにあたって書かなければならないものなどを書き終わらせた。
それらが終わったあと、着替える前に、美鈴がタイムカードを通すのを見てから俺も通した。
そしてそれぞれのロッカー室へ行った。
先に着替え終わったのは俺だった。
俺は美鈴たちが使うロッカー室の前で待った。
時刻は夜の九時過ぎ…。
結局俺は美鈴を家まで送った。
やはり一人で帰らせるには心配すぎたからだ。

「あの、今日はいろいろとありがとうございました。」
別れ際、美鈴が言った。
「あー、いやいや。…次はいつ来る?」
「えっと…明日ですが…?」
唐突に聞いた質問に戸惑いながらも美鈴は答えた。
「それじゃ、また明日。」
「えっ、あ、はい。また明日、です。」
それから美鈴はにっこりと微笑み「おやすみなさい」と言った。
俺は頬が熱くなるのを感じながら、おやすみ、と言った。
暗くてよかった…と思う。美鈴に知られなくてすんだから。

そして翌日。予想通りというのか、美鈴はまた俺のレジに来た。
そして俺は美鈴にお金の数え方を教えたり、基本的なレジの使い方(受け取り金額の入力方法など。商品登録以外の方面で。)を教えたりした。
美鈴に一人でレジをやらせ、俺は隣でその様子を見たりもした。
こうして徐々に美鈴もレジに慣れてくる…。
そうしたら美鈴と話をする機会も減ってしまうのだろうか、と少し寂しくなった。
…が、どうやらそうでもないらしい。
美鈴にメールアドレスを教えてほしいと言われた。
わからないことがあればいつでも聞けるように、だそうだ。
頼んできた美鈴の頬は真っ赤になっていたが。

どうやら俺のバイト生活も大きく変わったようだ…
なんというか、吹っ切れて、純粋に楽しめるようになった。
そして今日も俺は働く…学校と両立して。


一応五作品目、でしょうか。
構造が出来れば大体書くのは早いです、ハイ。
これは設定が美鈴20歳、沁也22歳です。
女と青年のほうで沁也がバイトを始めたので…
と言うのは言い訳で、はじめからこっちでは沁也がバイトする予定でした。
部門はレジ。なぜなら僕がレジだから。
だからレジしかかけないから。まぁ、細かな描写さえ入れなければいい話なのだが、その他の部門なら(コラ
ちなみに、美鈴が20で沁也が22…というより、美鈴が大学二年生で沁也が大学四年生の話は、これを入れて四つほどあります。
一応時期的には被らないように気をつけています、ハイ。(何
題…仕組んだんなら「罠」ですよね?w

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