二つ時 序章

墨を塗りつぶしたような暗い世界の中に、ひとつの明かりがともった。
弱々しく、うっすらと境界線が見える程度の明かり。
それは、かつて生命だったもの。今となってはそれの意識だ。
しかし、もうもとの形をとどめていない。
人間だったのか、猫だったのか、子供だったのか、老人だったのか、もう誰にも区別がつかなかった。
それ本人しかわからないだろう。もしかしたらそれ自身も、自分が誰なのかわからないのかもしれない。

それはさまよっていた。
いきなり目の前に広がったこの世界で、自分以外の人間を探して。
それがこの世界に来たのはつい最近なのか、それとも遠い昔なのかもう誰にもわからない。
とにかく、それがここに来てから、それは暗闇しか見ていなかった。
そしてそれはついに生き物の気配――正確に言えば、意識――を感じた。
その方向へ行ってみて、それは失望した。そこにいたのは、人ではなかった。
それぞれが己の好き勝手な形を形成した、なんとも奇妙な意識体だった。それぞれが淡く輝いてそれを迎えていた。
それは見ている光景を信じられなかった。信じると言うこと、それは、自分も彼らと同じ意識体になっていることを認めることになるからだ。
そのときになって、それは自分と言うものを改めて見てみようとした。手も足もなかった。
それは、見ているものすべてを受け入れざる終えなくなった。そのとき、意識体のひとつが声でない声でそれを迎え入れた。

《ようこそ、我らの世界へ》