平成24年10月31日(水)スケール、アルペッジョ、面白い遊び

10月も終わりです。今日は、大学でしたが、一日晴れていいお天気でした。
さて、今日は、ピアノを一生懸命学んでいる学生さんが一度は必ず勉強することになる、スケール、アルペッジョについて書きます。

私が、スケールを初めて練習したのは、小学1年生の頃。ピアノの先生から、「音大に行っていても、まともに弾けない子がいるのよー。小さい時からやっておかないとね」。と言われ、真剣に練習したものです。音楽高校、音楽大学目指す人には、受験課題、もしくは入学したのち、いずれにしても、その試験はどこでもあると考えておくとよいと思います。

私は、生徒たちが必要な時期になれば、やらせるようにしています。が、受験にあるから、試験に出るから、それだけの理由以上の大切なことがあるのです。

それは、弾いている曲目のほとんどのパッセージはスケールかアルペッジョで成り立っているので、それをしっかり練習してすらすらと弾ければ、曲の中で出てきたスケールも上手に弾く事が出来るからです。

又、シャープが2つだと何調?と聞いて、D-durということが答えられて、答えられるだけでなく実際にピアノで実践出来るということが大切です。
知識として知るだけでなく、それが、ちゃんと、ピアノですらすらと弾けるかどうか、そして、カデンツもDurを弾いていたのに、mollのカデンツで終わった・・・・なんてことのないように何度も弾いて覚えましょう。

あと、指使い。メチャクチャな指使いは、先が続かなくなっていきますので、楽譜にきちんと書いて、その通り弾けるように正しい指使いで、練習していって下さい。

私は、よく紙に、G−durとか、B−durとか、大きくマジックで書いて、自分で、くじをつくって、それをおみくじみたいに引いて練習というか、遊んでいましたよ。
ハノンとか、スケールとか、いわゆるテクニックの練習は皆おもしろくないとか、嫌いとか聞きますけど、私には小さい時に、遊びのようにとても楽しく感じられました。


第一、テクニックがつけば、あらゆる曲が弾けるようになります。ピアノを弾いている人にとって憧れの曲が弾けるようになる、ピアノが上手くなるということはとても嬉しい事ですから、日々わくわくして練習していました。

ピアノの練習は、とてもクリエイティブです。その時誰も、そばで、こんな風にやってごらん、とか言ってくれる人はいませんけれど、私は何かにつけて一人遊びが大好きだったので、4歳頃からピアノの前で、自分がピアノの先生を演じて、生徒用にお人形を並べて、「○○ちゃん、ここはこうやって、うたいましょうね」。なんて、ピアノの先生を演じていましたよ。(笑)


はたから見ていたら、大笑いものだったと思いますけど、その延長線上に、今の職業があるなあと感じています。

遊びは自分の頭で考えて工夫して、色々に遊べます。ピアノの練習は誰にも邪魔されないで、自分だけの世界で遊べる実にクリエイティブで楽しい時間なのです!!。

もちろん、自分の練習だけでなく、生徒たちを教える時も、毎回色々工夫してレッスンするので、すごく楽しいですよ。練習が面白くない時は自分で面白いようにもっていくのです。そのうちに、どんどん練習方法のアイデアが見つかって、益々クリエイティブになっていきますよ。


平成24年10月26日(金)暗譜の仕方

今日は、暗譜の仕方について書いてみます。暗譜は、何回も弾いていれば、誰でも出来るようになります。
暗譜は、何回も弾いていくうちに自然に身についたというのが、一番楽な方法ですが、そんなに長く時間をかけられないという場合は、頭を使って覚えなくてはなりません。

私が生徒たちによく言うのは、学校のテスト勉強みたいな、理解が出来ていないものでも何でも詰め込む、「丸覚え方式」は絶対にしてはいけないよ、とアドバイスしています。丸覚えは、忘れるのもすぐ忘れてしまうからです。
だから、指だけに頼るのは絶対に駄目。そうでなくて、ここから、調性が変わるなあとか、ハーモニーが暗くなった、明るくなった、とか、何かに関連づけて覚えるのが一番いいのです。ということは、音を何となくボーっと見ているのではなくて、細部にわたって目を皿のようにしてよく観察、耳を開いて一身に「覚えよう!!」という「気」がないと、何回弾いても暗譜出来ないと思います。

確かに知らないことを記憶するのは、すごく大変ですね。記憶力のいいというのは、どんな分野でも一番大切かもしれません。「神経衰弱」っていうトランプの遊び、私達の時代によくはやったんですが、あれと同じ感じですね。

さっきめくったあの番号と色、確かあっちにあったんだけどなあ?という感じで探すので、正に神経が衰弱しますね。ピアノ演奏の暗譜もあれと同じなんです。

私の場合は色の変化のような、視覚から覚えられることもすごく多く、「あの楽譜の右側にシミがついてた」とか、「ここは、いつもページをめくるところだ」とか、あるいは、音符を一つの模様みたいに頭の中に叩き込んで、弾きながら、その図面を思い描いて弾いたり色々です。

不思議な事に、人間って興味のあることは、「覚えよう」と意気込んだりしなくても、すぐ覚えられます。好きな人、憧れの人が自分に話しかけてくれた言葉ならすぐ覚える、という風に。だから、興味を持つ、とすごく、細部まで、深く観察するようになるので、記憶出来るのかなと思います。

←好きな情景は覚えようとしなくても視覚から記憶される


私にとって、これまでで、一番、暗譜が大変だったのは、ウイーンで演奏した、メシアンの「鳥のカタログ」。「ダイシャクシギ」という曲を暗譜した時は、結構苦労しました。武満徹や、ウエーベルンやシェーンベルク、ベルクなどは、どうってことなかったんですが・・・・・その鳥のカタログは、何回も同じ事の繰り返しで、どう聴いてもお経を唱えている(笑い)としか思えないような感じで、この音型が8回、これが12回、とか数で覚えていかなくてはならず、大変でした。
あとで、聞くとこの曲は、あまり、暗譜をすることはないようでしたので、暗譜を終えた時は「メグミ、ブラヴォーよくやった!!」と先生から褒めて頂いた思い出の曲です。
だから、自分独特の覚え方を工夫するといいですよ。色でも、数字でもハーモニーの変化やちょっとした音の動きに注意して、

真剣に観察していれば、誰でも、暗譜は簡単にやれるようになります。


平成24年10月24日(水)音が汚くなるのは・・・

10月も瞬く間に終わりに近づき、急に冷え込んできました。私のマンションは、「南国か?」と思うほど、暖かいので、外の気温とまるで違います。
寒くなると、風邪引きさんが増えるので、皆さんお身体お大事に・・・・。

さて、ピアノを練習している学習者の皆さん、指導者の皆さんから、あちこちで、質問をよく受けるもので多いものを今日はとりあげます。
音が固い、音が汚い、という悩みを持つ人は大変多いようです。

まず、音が固くなるのは、手首や、腕や肘などに余計な力が入っているというのが一つ。まず、肉体的な面でいえば、手の広がりが悪い、小さいとやはり固くなるでしょう。又、手や腕等が全体にやせていて骨ばっていても固くなるでしょう。しかし、もし、肉体的な面だけのハンデイなら、まだ救われます。私が考えているのは、これから出そうとする音の予測が出来ていないと、又、頭の中で音がすでに鳴っているようでないと、確実に音は汚くなると思います。

つまり、行き当たりばったりの音が出ている状態だと、音は固く、汚くなるのです。

だから、これから出そうとする音の準備をすることを心がけるように生徒たちにはアドヴァイスしています。

音の質感はやはり肉体を使う事なので、ある程度はその人の持っている肉体独特の音色が出ます。一つここは、遊びと思って、誰かが私に今ここで、目をつぶって、皆同じ曲を弾かせてみて誰が弾いているのか生徒たちの演奏を当てて御覧なさい、と頼まれたとしたら(笑い)生徒1人1人の姿を見なくても、音色で、全て当てる事が出来ますよ。

その人の声を聞けば、ああ、○○さんだというのがすぐわかるように、同じ楽器を弾かせてもそれくらい皆違う音色を出しています。

湖面に太陽の光がキラキラ輝くような音、ピンク色の優しい薔薇のお花のような柔らかい音、氷みたいにクールで冷たい感じの音、セピア色で懐かしい感じのする音、雪の降る夜のような暗くて淋しい音、にぎやかでガチャガチャした音、白黒映画みたいなモノトーンの音、
キラキラと輝きはないけど、ピアノの木のぬくもりの感じられる暖かい音、とにかく派手で、華やかで、気分爽快!!という音、一音弾くたびにいい香りのする音・・・・・などなど、正に30人生徒がいれば、30色の色の違いがあり、一音聴いただけで、「あっ、それは○○ちゃんの音」ってすぐわかります。

←私の大好きなザルツブルクの街。美しい景観を誇るザルツブルクはモーツアルトの音楽そのもの。





皆それぞれに素敵なのですが、その中で、音を弾く準備が出来ていれば、決して固く、汚くは聴こえません。

そして、音をダイレクトに弾かない、が鉄則です。打鍵が早いと固く汚くなります。指から先に音を出して、そのあと、手首や腕をゆっくりおろしていき、その間指と手のひらにずっしりと体重をかけながらゆっくりおろしていくと、弾力性のある、たっぷりとした、豊かな広がりのある音が出ますよ。

感触は、王様が眠るような大きなふかふかのベッドに身体が沈み込んでいくような感覚が持てれば最高です!!


平成24年10月19日(金)誕生日

今日は、私の誕生日です。皆さんに支えられて、折り返し地点(笑)プラス1歳の誕生日を無事に迎える事が出来ました。
生徒たちが、すごく気を使ってくれて綺麗なカードや、お花、プレゼント、心のこもったお手紙を送って下さり、とても嬉しかったです。
いくつになっても、誕生日は嬉しいものですね。

私が、以前から、色では、ピンクが好きというのを皆知っていて、「先生のイメージで選びました」とか、「お母さんと一緒にプレゼントを選びに行きました」とか皆さんの温かいお心遣いに心から感謝しています。可愛い手で私のことを思って一生懸命書いてくれたメッセージの数々、全て大切にとってありますよ。
それは、私の宝物です。何十年もとってあるので、今やその宝物の袋は、皆さんのメッセージでパンパンにふくれあがっています。

一人一人の生徒が、私に残してくれるものは全て暖かく、その暖かい命の光で昔も今も私を照らし続けてくれています。その光が途絶えることはありません。私も又、1人1人の生徒たちの毎日が光輝くようにピアノ演奏を通して、生徒たちの心を暖めて命の炎を燃やし続けています。

全ての子供たちは本当に可愛いです。私が、レッスン中、よく、イエスキリストさま、聖母マリアさま、聖書のお話をします。
ヨーロッパの音楽を勉強するために、ピアノ演奏に欠かせないキーワードでもあります。小学3年生の生徒が、「私も将来生徒にマリア様やイエス様の聖書のお話をしてあげたいです」。と日記に書いてあり、とても嬉しく思いました。もっともっと年をとって、私の命がなくなっても、未来を生きてくれる生徒たちには、一つ一つそれが一つの伝説となって脈々と受け継がれて語り継がれていくことが、命が続いていくということであり、職人の世界のように素敵な事だと私は思うからです。

ピアノを初めて練習し始めて、38年の年月がたちます。これからも、命絶えるまで私は好きなピアノの道を迷わず歩み続ける事でしょう。そして、ピアノの道を歩む途中で沢山の生徒たちに出会い、素敵な思い出をこれからも沢山つくっていきたいです。

私は、今日で又1歳の赤ちゃんのように、生まれたてのほやほやの気持ちでピアノに向かっています。毎日、周りの方々からいろんな事を教えて頂き、至らない私を愛して下さっている事に、心から感謝の気持ちで一杯です。

←皆さん、どうも有難う!!










平成24年10月17日(水)YPF課題曲講座

今日は、朝早くから静岡県の三島へ、YPFピアノフェステイバルの課題曲講座へ行ってきました。
朝は良く晴れて、新幹線の中からは綺麗な富士山が。何度見ても感動しますね。
講座の内容は、幼児部門、A部門、B部門、C部門、D部門の演奏と、それに対してどういう風に弾けば、上手く演奏出来るかとか、具体的な演奏法について、弾きながら説明しました。
言葉だけで、ここは、柔らかくとか、脱力をしてなどと説明しても、理解しにくいと思います。ピアノはやはり、実技で、弾いて示すという事が何よりも早く相手に伝わるので、すぐに私は、言葉よりも先に弾いてしまいます。そもそも音楽は言葉を超えたところから、流れ出すものなので、弾いてあげることが一番ですね。




今日の講座を聴きに来て下さった、ピアノの先生方はとても熱心で質問も沢山して頂きました。終演後もホールを出なくてはならないので、ロビーまで、出てこられて、このショパンのワルツはどのように弾けば、気をつけることはありますか?・・・、手首が固いから音が汚い、たたきつけている子にはどのように指導したらよろしいでしょうか?レガートのタッチはどうやって?親指の第1関節がへこむ子がいますが、どうやって直せば?などなど、さまざまな悩みにお答えさせて頂きました。
今日の講座で、少しでも先生方が生徒さんを指導されるときのお役に立てれば幸いです。丹沢楽器店の方々、お世話になり有難うございました。





丹沢楽器店さんには、又、来年2013年度の1月13日、次回はアドヴァイスレッスンで伺います。生徒さん達がどのように日々練習されているのか聴かせていただくのをとても楽しみにしています。


平成24年10月11日(木)目に見えない部分の大切さ

10月がくれば、もう今年もあと2カ月で終わりがきます。私の門下生たちも音楽高校受験生、音大受験生はものすごくよく頑張っています。

音大受験生の子たちは、2次試験の課題曲などは、一回通して弾くと、30〜40分はかかります。当然、この音が違う、あの音が違う、なんて全ての不自然な部分を引っ張り出していたら、きりがないので、全体の総評をコメントしていくという感じになっていきます。

受験の時は、勿論40分間弾き詰めるなんてことはないでしょう。しかし、私は、あえて、生徒たちにレッスンの時、全部40分なら40分、暗譜で最後まで集中力が保てるかどうかを確かめるために、通させます。

通すと、改めて、音楽が曖昧なところ、いい加減になっているところが、はっきりと見えてくるからです。部分的に、あ、弾けた、では駄目で、通した時に、上手く弾けないところが、弾けるようになるまで、完成度をあげていかなくてはならないのです。
最初の方はよくても、段々、時間がたつにつれて、ボロが出てくる演奏では、いけませんので、そのへんを徹底させるようにさせています。

私自身も今でもその練習は欠かさずしていますが、学生の頃は、今よりもっと完璧主義が度を超すほどでしたので、試験や、コンクールなどで、展開部までしか弾かないよとか、友達の噂を聞いても、万が一のことを常に想定して、最初から最後まで、きちんと徹底して仕上げておかないと、気がすまないタイプでした。

又、それよりも、もっと自分の中で大切にしている事があって、試験には出ない部分、目には見えない部分を大切にする事によって、それが私のためになると考えたからでもありました。

コンクールだから、受験だから一生懸命やるとか、何かがある時だけ頑張っている人と、とりたてて何があるわけでもないけれど、他人にはわからない、人目に触れないところで、目に見えない部分をすごく大切にしている子とでは、やはり、その差は歴然と必ず、結果になってあらわれてくる時がきますね。

自分の学生時代を振り返ってみてもああ、あの時に目に見えない部分を努力したから、今日があるなあと、実感として思うことは多々ありますし、何人もの生徒たちを見ていても、すごくそれが大切なんだということが体験上わかります。

不思議な事は、そういった、目に見えない努力をした結果というのは、何年か後、何10年か後、ずっとずっと後になって自分に何らかの形で返ってくるというのがとても不思議です。
それほど、音楽の世界というのは、長いスタンスで見ていかなくてはならないものであり、即物的な考え方では、上手くいかなくなる時が必ず出てくるということです。

私は神様ではないので、一杯欠点があるけれど、目に見えない部分を大事にするという点では、ピアノだけでなく、日頃の生活習慣から気をつけるようにしています。本当は捨ててはいけないところにゴミが捨ててあって、皆が捨てているからいいか、と思って捨てたくなったりしても、そういう時に思いを変えて、ここにゴミを捨てたら、それは何年か後に自分の身体にも影響が出てきて、必ず自分に返ってくる結果になるのだと考えると、捨てることは出来なくなっていきます。

皆がそうしても、私は、しない、そういうことをすごく心がけています。それは、結果になって必ず自分の身にふりかかってくるということを経験として知っているからです。


平成24年10月7日(日)中学生達の成長に感心して・・・・

私のクラスは、今中学生が一番多いのですが、最近の中学生達の大きな成長に感心もし、又、感動しています。人生の中で一番、苦しい時期が中学生時代だと思うのですが、苦しくても跳ね返していける本当にいい時代だという事がよくわかります。苦しくても、体力も一番あって、どれだけでも頑張りがきく年頃なのですね。

身体が大きくなると、頭の中身も急に成長して、理解力が一段と素早くなり、急に色んな曲が弾けるようになってきます。

勉強や部活やいろんなことで、すごく忙しい時代なのに、どの生徒もピアノは一段と上手くなって、さすが中学生だなあと感心しています。

女の子ももちろんですが、男の子は特に、子供子供していた雰囲気が中学1年生から2年生にかけて顔つきが変わってきますね。又、中学3年生は受験生ですので、本人の心構えが全く今までと違ってきます。

バレエの先生が一番上手に、早く上手くなるのが中学生だとおっしゃっているのを聞いたことがありますが、納得です。ピアノも中学生の伸び方は目を見張るものがあるなあと感じている今日この頃です。


平成24年10月5日(金)音楽は海

10月に入り、さわやかな季節となりました。しかし、まだまだ、昼間は暑いのと、特にマンションは気密性が高く、11月頃までノースリーブや半そでで過ごせます。
外の気温とまるで違い、レッスンの時は暑いので、生徒さん達は、レッスン室で半そでになれるように重ね着してくるといいですよ。

さて今日は、ピアノで歌うことについて書きます。ピアノから歌う事を除くと、単なる打楽器になってしまうのは、皆さんもよくご存じの事と思います。
先生から「歌って!!」と注意されると、自分では歌っているつもりなんだけどなあ、と感じる人は多いと思います。

その時に自分の身体をちょっとじっくり観察してみましょう。歌う時に大切なのは、おなかからですが、一番眼で見てよく動いている場所はどこでしょうか?胸の部分です。演奏しながら肺にしっかり酸素がとりこまれて大きく呼吸しているかどうかを見ると一目瞭然ですね。
すごく気持ちが高まるのに、胸はふくらまず、固いままで、さっと次の音に飛び込んだり、長い音符を充分に呼吸しながら伸ばさずに、待っているだけ状態の演奏を見かけます。
歌うというのは、自分からピアノに働きかけなくてはならない能動的な行動であって、ただ、ピアノの音をならして、ピアノがうたってくれるのをじっと待っている受身的な演奏では、ピアノは決して歌ってはくれません。

私は、つくづく音楽は海だなあと感じるのです。いえ、この世のものは全て海から来たなあと、日々感じます。海が大好きだったドビュッシーもそう言っていたと聞いていますが。

海の波は、音楽上のクレッシェンドにすごく似ています。又、波が引いていくのはデクレッシェンドです。砂浜に寄せては返す大きな波、小さな波。

又、人間の感情も海の波を感じる事が出来ます。悲しいことがあったり、あるいは、感動したり、人間の心はいつもさざ波のようにゆれています。1か所にとどまる事を知らないで、常に揺れ動いています。それが、すごく大きな高まりになった時に、人間の心の中にある海のしずくから、涙があふれるように出来ています。涙は舐めると塩辛い。海水も塩辛いから同じなんだなあと。


←フランスのエトルタの断崖の海。



こんなとき、ああ、人間はやはり海で出来ているのだなあと強く感じるのです。ピアノを弾いていて、その「波」や「うねり」が感じられないのは、自分の心が全く揺れ動いていない証拠ともいえます。

よく生徒たちに注意するのが、「今のは、高速道路の演奏ね」。といいます。高速道路は切れ目なしにずーっと変化もなくすーっと運転出来ます。でも、全然おもしろくない。道端に、青い花や黄色い花が咲いているとか、雲の流れが変わって黒くなって雨が降ってきそうだとか、風がさわやかだとか、そういった
ちょっとした変化にも敏感に感じるようにするには、高速道路の一本調子演奏では、おもしろくなく、眠くなってしまいます。

でも、小さな波が来たと思ったら、向こうの方から、特別大きな波が押し寄せてきて、バーンっと白い波しぶきを立てながら盛り上がってくる。。。。。
そう、音楽にこの「盛り上がり」、そして、波が引いていく時の「緩む」、という感情が、歌うためには、とても大切なのです。それが、ひいては音楽にメリハリを与え、歌うことにつながっていきます。

自分が生まれたのは、勿論お母さんのお腹からですが、そのお腹の中も海でした。人間が出来る前は、魚だったといいます。ずっと海で暮らしていたのです。
だから、音楽を聴くと、自分の身体の中に海があるのだなあと強く感じられるのです。人間なら、絶対どんな人でも、歌うことは出来るはず。どんな人も海を自分の中に持っているはずだからです。