アイザイヤトーマス

 アイザイヤトーマスというと、生粋のジョーダンファンなら好きにはなれないプレイヤーではないでしょうか。なぜなら、トーマスはバッドボーイズと呼ばれるピストンズ黄金時代(89年、90年)の主格であり、ジョーダンルールと呼ばれる非常にタフで時には激しい(汚い!?)プレイでジョーダンを抑え、ジョーダンの優勝をことごとく阻んできたプレイヤーである。最もジョーダンに嫌われている選手の1人でもある。

 しかし、ピストンズの黄金時代は80年代のラリーバードのセルティックス、マジックジョンソンのレイカーズの黄金時代、90年代のマイケルジョーダンのブルズの影に隠れがちである。バッドボーイズとはホームでは最も歓迎されるチームであり、アウェイでは最も嫌われていたチームだった。そのメンバーはガードの主格的存在と呼ばれるアイザイヤトーマス、バッドボーイズの中の唯一のグッドボーイと呼ばれるジョーデュマース、そのプレイぶりから電子レンジとあだ名され、調子に乗り出すとクッキングタイムと騒がれたビニージョンソン、フォワードのジョンサリー、ジェームズエドワーズ、ブルズで2度目の黄金時代を築いているが、ピペンにひじ打ちをくらわし、今でも消えない傷をおわせた根っからの悪(ワル)デニスロドマン、そして、あまりのラフプレイにほとんどのファンから嫌われていた一番の悪ビルレインビア、そんな軍団を巧みにまとめるチャックデイリーらで構成されていた。しかしこのチームの本当にすごいところはそのどんなことをしてでも勝とうとする執念である。例えば、一番の悪といわれるレインビアだが、自分の才能がないことを十分承知していて、NBAで生き残るために進んで悪になったのである。しかしそんなバッドボーイズでも簡単に優勝できたわけではない。80年代のNBAを支えてきたラリーバード率いるセルティックス、マジックジョンソンのレイカーズにことごとく阻まれてきたのだ。

 トーマスは1961年4月30日生まれ、イリノイ州シカゴ出身、身長185cm、体重84kg、インディアナ大卒業。彼は80年代レイカーズのマジックジョンソンと並ぶNBA屈指のPGの1人に数えられる。しかしプレイオフになるとラリーバード率いるセルティックスにファイナル進出を阻まれ続けていた。

89年ついに雪辱を果たし、ファイナルに進出するとマジックジョンソン率いるレイカーズをマジックが怪我で試合に出られなくなったとはいえ、ついに撃破し初優勝を果たす。その時トーマスは「最高の気分だ、まるで天国にいるようだ、天国ってこんな感じなんだろうね。」と語っている。

続く翌年、ピストンズはマジックジョンソンが出られなかったから優勝できたんだと言われていたが、みごとクライドドレクスラー率いるブレイザーズを撃破して、連覇を果たす。本当にピストンズが強いということを証明した。

しかし、続く91年リベンジに燃えるブルズのマイケルジョーダンにプレイオフで4勝0敗と敗れるとそのままバッドボーイズは崩壊していった…。

その後、トーマスはNBA屈指のPGとしてドリームチームTのメンバーの候補になるが、マイケルジョーダンと不仲の噂があり、素性がよくないとの理由から選ばれなかった。さらにドリームチームUの候補にあがるが、今度は怪我のために選ばれなかった。本当に運がなく日のあたるところになかなか出られなかったような気がする。そしてそのままトーマスは引退する。

 その後トロントラプターズのゼネラルマネージャーを務め、デイモンスタダマイヤー、マーカスキャンビーなどの若手を育て、ラプターズ成長の根底を築きその後ラプターズを離れ、TV解説者になった。

また、ラリーバードの跡を継ぎ、ペイサーズのヘッドコーチに就任。ジャーメインオニールやレジーミラー、ジェイレンローズ、ブラッドミラーやロンアーテストなど、ペイサーズの若手移行期に指揮をするもなかなかプレイオフで結果を残すことができず、2003年シーズンの終了とともに、ヘッドコーチを辞任。現在はニューヨークニックスでそのチーム編成の手腕を発揮している。

 こんな伝説がある。トーマスはファイナルの途中、足を怪我するが、抜けるわけにいかないのでプレイを続ける。しかしシュートを打つたびのあまりの痛さに倒れこんでいた。試合終了後なんと足は骨折していたのだ。そんな状態でプレイを続けていたのである。このトーマスやマイケルジョーダンに見られるような勝つための執念を感じないプレーヤーが昨今多い。また、市場が大きくなったせいか、未来への投資という名目で若手が結果をださずとも大金をもらえるケースが多い。そうすると1試合に対する執念が欠けると思う。そうではなく、優勝するという栄冠をめざして、もっとハングリー精神を持って試合に臨んでほしい。バッドボーイズのような執念やはらはらする名勝負を見せてもらいたいと思う。