優しい寝物語







「うわぁ〜・・・懐かしい物発見!」

「何か面白い物でもありましたか?」

「うん、ほら!!」

そう言って彼女が僕に差し出したのは、古びた表紙の絵本。

「・・・随分ボロボロですね。」

「あはは、だってこれしょっちゅう私が天ちゃんの部屋から持ち出してたから。」



――― 初耳ですよ



「僕の部屋の本を持ち出す時はひと声かけて下さいって、いつも言ってるじゃないですか。」

「だからぁ・・・ひと声かけようと思った時に、いつも天ちゃんがいなかったの!」

「まぁなら構いませんけどね。で、どういう話なんです?」

「大した話じゃないんだけど、確か女の子がお月様とお茶をする話だったかな。」

そう言いながらが嬉しそうに絵本を開いた。
すると現れたのは、夜空に浮かぶ大きな月の絵。

「・・・擬人化された話ですか。」

「ん〜・・・そうだね。お月様が1人の人間みたいに書かれてた気がする。」

懐かしむようにパラパラ絵本をめくるの顔が、何だかとても愛しくて・・・不意に抱きしめたい衝動に駆られる。
それを必死で堪え、代わりに伸ばしかけた手を口にくわえていた煙草へと誘う。

「これ、悟空に読んであげた事があってね。読んであげた後、今まで太陽が好きだったけど、月もいいなぁって言ってくれたんだよ。」

「そうなんですか。」

「うん!」



きっとは日の当たる野原で悟空にこの本を読んであげたんでしょうね。



その光景が容易に想像できて、自然と口元が緩む。

「そうだ!天ちゃんにも読んであげようか!!」

「え?」

「天ちゃんはこんな薄い本速読しちゃうでしょ?これって人に読んで貰うとまた印象違うと思うよ。」

「・・・それは構いませんが、ここでですか?」

「うん、思い立ったが吉日って天ちゃん良く言うじゃない。」

「良く覚えてますね。」

「えへへ〜♪」

「それじゃぁせっかくですからお願いしましょうか。」



僕が一番落ち着ける場所で、貴女の声で聞く物語なんて最高ですよ。



とはいえ、片付けの最中で散らかった部屋で座って読む場所なんてありませんよね。
視線を走らせた僕はとある一角に目をつけ、そこに置いてあった本を横に積み上げ腰を下ろす。

「じゃぁここでお願いできますか?」

「え?・・・そこ?」

「えぇ、他の場所じゃ本が傷みかねませんから。」

にっこり笑みを浮かべて示したのは、僕の足の間。
まぁ別に僕の隣にが座ってもいいんですけど、腕の中で僕のためだけに読む図っていうのも中々ない構図だなって思ったんです。

「でも天ちゃん邪魔じゃない?」

「いいえ、寧ろが読んでくれる内容を聞きながら絵も拝見できる一石二鳥な構図だと思ってます。」

「そう言えばそうだね。じゃぁお邪魔します♪」

何の疑いも無く僕の足の間にちょこんと座り込んだの体を、背後から抱きしめる。

「何かソファーに座ってるみたい。」

「少々柔らかさは足りないかもしれませんけどね。」

「あはは、言えてる。でも温かいよ♪」

満足そうに微笑んでいるの腰に回した手に、そっと力を入れる。

「じゃぁ読むけど、あんまり上手じゃないよ?」

「光明歌姫の声で聞ける物語なら最高ですよ。」

「・・・うわぁ、逆に緊張。」

僕の部屋にあったのならば、必ず一度は目を通しているはず。
けれど、目の前でが読んでくれている物語は・・・まるで初めて聞く物語のようだ。




















丘の上に住んでいる少女。
街には沢山の友達がいるのに、いつまでも丘の上から降りてこない。
皆がどんなに声をかけても、少女はただ手を振るだけ。
少女が丘の家から離れないのは理由がある。



それは、夜空にぽっかり浮かんでいるお月さまのため



ひとりぼっちになった少女の側に、今までずっと一緒にいてくれたお月さま。
心の隙間を埋めてくれたお月さまの為に、少女は丘にいる。





だから少女は夜になると、いつも二人分のお茶を用意してお月さまと話をする。
昼間は見えないお月さまに、何があったかを報告するかのように・・・少女はお月さまに語る。





















「何だか寂しげなお話ですね。」

「うん、この辺はね・・・でも変わっていくよ。」

ペラリとめくると、今度は太陽が輝く昼間の絵になっていた。




















ある日、街に下りた少女はあることに気づく。



それは・・・微かに見える、お月さまの姿。



昼間、お月さまは消えているんじゃない。
太陽の輝きで姿が見えにくくなっているだけなんだ。
それに気づいた少女は、大慌てで丘の家に帰る。





そして再び夜が来る。
けれどこの日、初めてお月さまが少女の前から姿を消してしまった。

何処を探しても、何度お月さまを呼んでも姿を現さない。
その代わり、少女の目は・・・夜空いっぱいにひろがる、あるものに気づいた。



そう・・・まるでじゅうたんのように敷きつめられた、眩い星たち。



「あぁ、お月さまにはこんなに沢山のお友達がいたんだ」



そして、少女は気づく。
自分がお月さまを独占している所為で、お月さまがお星さまとお話できないということを・・・





















「翌日から、少女は丘を降りて街に住むようになりました。そしてお月さまとお星さまのお話を邪魔しないよう、まぁるいお月さまが出ている時だけ、街の皆と一緒にお月さまを眺める事にしました・・・おしまい。」



途中から、危ないなぁと思っていたんですが・・・迂闊でした。
歌姫であるの声は、疲れた体には心地よすぎて・・・本を読み終えるまで耳を傾けるのが精一杯です。



僕の為に本を読んでくれたへ礼を言うべく開いた唇は、規則正しい呼吸をする為のものになり、さっきまでを見つめていた瞳は・・・既に固く閉じられてしまった。
全身の力が抜けて、壁に全体重を預けているけれど、を抱きしめている腕だけは固く結ばれたまま。





すみません、
ほんの少しだけ・・・休ませて下さい。

貴女がもう一度その絵本を読み終える頃には、目を覚ましますからね。





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98000hitをゲットされました ゆっこ サンへ 贈呈

『天蓬の部屋でヒロインの好きな絵本がでてきて、それをヒロインが悟空に読んであげる。悟空が帰った後、天蓬にねだられて読んであげるっていうお話』というリクエスト。
え〜っと、リクエストの内容は全て押さえたつもりですが、絵本の内容がしょぼい上、内容がなくてすみません!
何となく思いついて、何となく書いたんです。
だって市販の絵本使う訳にはいかなくて・・・(汗)
という訳で、取り敢えず謝り倒しましょう!ごめんなさーいっ!!
ゆっこさん、リクエストありがとうございましたv
少しでも楽しんで頂けると嬉しいです!
また遊びに来て下さいねvvv