Eyes to me
「そーれにしても毎日暑いな。」
「残暑が長いですね。」
悟浄と何気ない話をしていた時、不意に物が落ちる音が聞こえて視線を向けると、が読んでいた本が床に落ちていて側でジープが申し訳無さそうに頭を垂れていた。
「気にしなくていいですよ。」
「キュ〜」
本を落とした事くらいじゃは怒りませんよ、ジープ。
安心させるようジープの頭を撫でてから、本についた埃を叩いて立ち上がると・・・一枚の紙切れが本から落ちた。
「おい、何か落ちたゼ?」
「しおりでしょうか?」
風に乗って飛んで行った物を拾い上げた悟浄の動きがピタリと止まる。
「悟浄?」
手に持った物を凝視したままピクリとも動かない悟浄を不審に思い、正面から彼の肩を軽く叩いた。
「どうしました?」
暫く無反応だった悟浄の手が、ゆっくり拾い上げた物を指さし震える声でこう言った。
「なぁ・・・コレ、誰だ?」
「悟浄、人の物を勝手に見ちゃいけませんよ。」
「見たくて見たんじゃねェよ!」
そう言って差し出された写真に写っていたのはと・・・
「・・・え?」
僕らより年上と思われる男性だった。
悟浄と顔を見合わせながら、何故か声を潜めながら写真の男性について話す。
「・・・お父さんじゃないですか?」
「似てねェじゃん。」
「じゃぁ親戚の方、とか・・・」
「違うだろ、ん〜・・・あ!兄貴とか?」
「は一人っ子ですよ。」
「「・・・」」
少しはにかみながらも笑みを浮かべ男性に寄り添っているはとても嬉しそうで、隣に立っている男性も少し緊張しているようだが柔らかな笑みを浮かべている。
の向こうの世界の生活を垣間見れたのは嬉しいけれど・・・この人は一体誰なんでしょう?
血縁者?
――― それにしては彼女に似ている所がひとつもない
お友達?
――― 友達にしては年齢差がありすぎますよね
知り合い?
――― 改まって二人で写真を撮る、なんて事ありますか?
上司?
――― の会社の行事・・・じゃありませんよね
様々な憶測が僕の脳裏に浮んでは消える。
チラリと視線を隣に向ければ、悟浄も眉間に皺を寄せて何やら考えているようだ。
貴方も・・・気になってるんですね。
暫く互いに声を発する事無く、食い入るように写真を見ている所へ・・・の声が飛び込んできた。
「あれ?ねぇ、ここに本なかった?」
別に隠すつもりはなかったんですが、悟浄が反射的に持っていた写真を新聞の隙間に挟んだのを見て、僕もそれを隠すように立ち上がりました。
「どうしたんです?」
「んーちょっと探し物。」
「探しモン?」
「ここに本置いてなかった?」
そう言うと先程ジープが落とした本のあった場所を手で示したので、僕は後ろ手に持っていた本をそっと差し出した。
「これですか?」
「そうそれ!ありがとう。」
「ジープの羽に当たって落ちちゃったんです。一応埃は払ったんですけど・・・」
「そんなの気にしなくていいのに。」
あははは、と笑いながら彼女は本の装丁を確かめもせず・・・パラパラとページをめくり、終いには逆さまに振りながら首をかしげた。
それを見ていた悟浄が煙草を手に持ちながらに声をかけた。
「どした?」
「ん〜・・・ちょっとね。」
「ちょっと?ナニ、本探してたんじゃないの?」
――― 分かっているクセに・・・
「・・・えっと、その・・・しおりを、ね。」
「へぇ〜・・・」
悟浄がしおりと言う言葉を聞いて、眉間に皺を寄せた。
「どんなしおり?探すの手伝ってやるよ。」
「あ、だ、大丈夫!!」
途端に顔を真っ赤にして本を背中に隠したを見て、僕の口元が僅かに引きつった。
人間誰しも他人に言えない事のひとつやふたつあるのだから、彼女があれについて語りたくないと言うのであればそれもいいだろう。
それなのに、なんだろう。
胸に込み上げてくる、この不快な想いは・・・
グッと拳を握りしめると同時に、悟浄が新聞に挟んでいた写真をの前に差し出した。
「しおりって・・・これ?」
「あーっっそれ!!」
――― ホッとした表情
それはどう見ても「しおり」を見つけた喜びとは違う。
大切な何かを見つけた時に見せる・・・安堵の表情。
「ありがとう悟浄!」
そう言って彼女が手を伸ばした瞬間、悟浄はその写真を高々と上に掲げた。
いつものようにをからかっているのかと思ったが、その表情は珍しく真剣で・・・上に持ち上げたままの状態で彼女に問いかけた。
「ンで、コイツ・・・誰?」
「ほぇ?」
「チャンの何?」
「なっなっ何って・・・何でもないよ?」
「教えてくんなきゃ、返してやンねェ。」
子供のようなイタズラ。
普段であればすぐに悟浄の行為を戒めて、それを彼女に返してまるく収める所ですが・・・今の僕は悟浄と同じ疑問が心を占めていて、そんな余裕がない。
は一生懸命背伸びをして何とか悟浄の手を掴もうとしているが、届かない。
「悟浄〜っイジワルしないでよっ!」
「だぁーから、教えてくれたら返してやるってw」
「何でもないってば!!」
何でもないなら、教えて欲しい・・・
悟浄の背後にそっと近づき、その手に握られていた写真を抜き取る。
「「あ」」
「・・・」
「おい!八戒!!」
「ありがとう八戒!!」
怒鳴る悟浄を無視して、いつものように笑顔で僕に手を差し伸べたの手に、写真ではなく自らの手を乗せしっかりその手を握る。
「は、八戒?」
「・・・正直に答えてくださいね?」
「ほ、ほぇ?」
「この方はどなたですか?」
気になる事は早めに聞いた方が傷は浅くて済む。
が好む笑みを浮かべてそう尋ねれば、さっきまでからかわれていた悟浄に助けを求めるような視線を向けた。
「オレに助け求めてムダだぜ?どっちかっつーと・・・今日は八戒寄りだからな。」
不敵な笑みを浮かべた悟浄がの肩に両手をポンッと乗せると、その耳元に囁くように問いかける。
「な・・・アレ、誰?」
彼女が僕の笑顔と、悟浄の声に弱いと知っていて・・・こんな事をしている。
卑怯としか言いようのない行為。
けれど、どうしても知りたい。
僕らの知らない誰かが、彼女の何なのか。
やがて観念したの口から出た言葉に、僕らは苦笑せざるを得なかった。
写真に写っていた相手は、の憧れの役者 ――― つまり、赤の他人。
「舞台観に行った時、偶然一緒に写真撮れる機会があって・・・それで・・・」
僕らの手にあった写真は、相手が判明した瞬間の手に戻り、今は本の間に折れ曲がらないよう大切に挟まれている。
「ンじゃ最初っからそう言えっての。」
「だって・・・」
「だって?」
「笑われるかと思って・・・」
「どうしてですか?」
「何か二人が凄く真面目な顔してたから・・・こういう写真持ち歩いてるの、子供みたいって思われるかと思って・・・」
終わりの方は殆ど聞こえないくらい小さな声だったけれど、それを聞いた僕と悟浄は思わず顔を見合わせてふきだした。
「だぁーっはっはっはっ!!」
「・・・っっ!」
「あーっやっぱり笑った!ゴメンネ!子供っぽくて!!」
照れ隠しのように写真の入った本を抱えて丸くなったを見て、僕らは再び笑い出した。
僕らが町で女性と話している時・・・が時折眉間に皺を寄せている意味が、ようやく分かったんです。
僕らが今日感じた気持ちと同じだったんですね。
自分の知らない場所で、自分の知らない人といる姿を見る・・・と言うのはあまりいいものじゃないんですね。
特にそれが・・・異性の場合、は。
今後は気をつけます。
が眉間に皺を寄せたら、相手がどういう人か納得がいくまで説明します。
だから、も今度はすぐに教えて下さいね。
そうじゃなきゃ僕らはまたこんな風に貴女を問い詰めなきゃいけなくなりますから・・・ね?
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92000hitをゲットされました 美姫 サンへ 贈呈
二つのリクエストを頂き、こちらの方を選択させて頂きました。
八戒と悟浄が写真一枚に翻弄されている姿が目に浮かべば成功です(笑)
ちなみにネタに使った写真は風見とHさんと参謀香原さんの3ショット写真ですw
今でも大切に飾ってあるので、ふとこのリクエストを見た時にこの写真が頭に浮かびました。
普段町で色々気になってるんだから、たまには彼らにもこちらを意識して貰いたいですよね?
美姫さん、リクエストありがとうございましたv
少しでも楽しんで頂けると嬉しいです!
また遊びに来て下さいねvvv