Close to you






「あ・・・」

「え?」

と食後のお茶を楽しんでいる時、彼女が急に立ち上がって窓の外を指差した。

「八戒、雪!」

「雪?」

まさか桜のつぼみも膨らみ始めたこの時期に・・・と思いながら振り返ると、窓の外には白い物がチラホラと舞い降りていた。

「ね、雪!!」

「・・・随分と季節外れですね。」

四季の変化を楽しむ事を知っている彼女は嬉しそうに窓辺に駆け寄ると、降り出したばかりの雪をより楽しもうと窓を開け手を伸ばした。

「八戒、この雪積もるかな?」

まるで初めて雪を見る子供のような顔で振り向いたは、どうしても僕より年上には見えなくて自然と頬が緩む。
でもそれを口に出してしまうと、貴女は眉を寄せてしまうんですよね。
だから僕は何もなかったフリをしてと同じように窓辺に近づくと、同じように空を見上げた。

「さすがに無理じゃないですか?今、3月ですよ?」

「だって今年は雪積もらなかったから皆で遊べなかったでしょう?積もったら雪だるまとか作りたかったのになぁ〜。」

少し頬を膨らませて残念そうに手の平に舞い降りた雪に視線を向けると、それは音も無く静かに溶けた。
それを見つめている彼女の表情がやけに寂しそうに見えて、僕はポンッと手を叩くとわざと明るい声でに声をかけた。

、これから僕といい所に行きませんか?」

「いい所?」

「えぇ、いい所。」

好奇心旺盛な彼女の事ならこう言えば必ず頷いてくれると分かっていてこんな言い方をする僕を・・・貴女はどう思うんでしょうか。

「行く!」

そんな僕の思いを知らないは先程見せた曇りがちな表情を一転させ、笑顔で大きく頷いた。
が寒くないようにと部屋にあった僕のカーディガンを着せ、クリーニングに出してしまった冬コートの代わりに買ったばかりの春コートを羽織らせる。
そして二人で外に出ると、僕らはとある場所を目指して歩き始めた。










目的地まであと少しという所で、僕はに目を瞑るようお願いをしました。
僕を信頼してくれているのか素直に目を瞑ると、彼女は前方を探るように慎重に歩き始めた。
何だか歩き始めたばかりの子供を思い出しますね。
転んでしまうと大変なのでそっとの手を取って誘導する。
最初は恥ずかしがっていただけど、暫くすれば慣れて来たのかそれとも目を瞑って歩く事に集中しているのか素直に手を握って歩きだした。

「ねーまだ目、開けちゃダメなの?」

「まだダメです。」

お楽しみは最後まで、って良く言うじゃないですか。

「あ、足元平気?!」

「大丈夫ですよ。ちゃんと手、握っていて下さいね?」

「・・・う、うん。」

冷たい空気は薄手のコートを羽織った僕らの首を縮ませたけれど、それよりも転ばないようにと言って繋いだ手が温かいから・・・寒さなんて全然気になりません。





目的地にたどり着くと、僕は繋いでいた手を離して一歩後ろに下がるとの肩を叩いて目を開けるよう声をかけた。

「はい、いいですよ。」

「・・・ぁ」

「いかがです?」

そこは以前が悟空と一緒に木登りに来た小高い丘。
人の出入りがあまりない事と、降り出したばかりの雪が一面の草原を真っ白に塗り替えている所為でまるで知らない場所のように思える。



一面真っ白な・・・銀世界。



「キレー・・・」

「雪が降り始めたばかりだからちょうど良かったですね。」

視線を少し上に上げれば、空から舞い落ちる雪が何者にも邪魔されず視界に飛び込んでくる。
僕が空を見上げていると、も同じように空を見上げていた。





お互い声もなくただ空から舞い降りる雪を眺めていると、不意にが口を開いた。

「昔ね・・・雪が怖かったんだ。」

空から視線を前に戻して話し始めたの目は、前を見ているようでどこか遠くを眺めているような・・・そんな目をしていた。

「って言ってもちっちゃな頃だけどね。一人で部屋にいた時、急に雪が降り始めて・・・ほら、雪って音も無く降り出して音を吸収するじゃない?」

「えぇ。」

「だからね、自分の周りの音を全部取られちゃったみたいで怖かったんだと思う。」

その頃の自分を思い出したのか、急にクスクス笑い出したはどこか寂しげで・・・。

「さすがに大きくなったら一面銀世界の雪が綺麗だなって思えるようになったけどね。」

「そうなんですか。」

「うん。だから今は・・・ここから見る雪景色が、すっごくキレイだって思えるよ。」

そう言って笑っている彼女の背後に、僕の知らない幼いの姿が見えた気がした。





まだ世の中の事を何も知らない、勿論僕等の事も知らない幼い少女。
雪の白さがその少女の心を表しているかのように純粋な眼差し。
何もかもを見通すように澄んだその目は、ただただ降る雪をじっと眺めていて・・・けれどどこかその瞳の色は、哀しげで・・・





気付けば僕は雪降る中、の体を背後からそっと抱きしめていた。

「はっっ八戒!?」

「今度雪が積もったら、皆で遊びましょう。」

「???」

「皆で雪合戦をして、雪だるまを作って・・・体が冷えたら、皆で温かい飲み物を飲みましょう。」

「八戒?」

こんな事での中にいる寂しげな少女を慰めるなんて事、出来ないって分かっているけれど・・・それでも今の僕にはこれくらいしか思いつかないんです。

「雪、積もるといいですね。」

そう呟くと、前を向いていたが僅かに首を動かして僕の方へ視線を向けた。

「どうしたの八戒?急にそんな寂しそうな顔して・・・」



――― 寂しそうな顔をしたのは、貴女ですよ。



「・・・何でもありませんよ。」

「本当?」

じーっと僕の目を見つめ、その真意を探そうとする今のの瞳には・・・さっき垣間見えた寂しげな少女の瞳の色は見当たらない。
当たり前の事なのに、知らず知らずのうちにホッと胸を撫で下ろす。

「えぇ・・・さ、そろそろ帰りましょうか。あまり長居すると風邪引いちゃいますからね。」

「そうだね・・・は、はくしゅん!」

おやおや、やっぱり春コートじゃ今日は寒かったですね。
僕は寒そうに手を擦り合わせているの手を取ると、そのまま僕のコートのポケットへと招き入れた。

「!?」

「こうすれば手を繋ぐよりも温かいでしょう?」

「あっあのっ!」

「ん?どうかしましたか?」

「いや、その・・・あっあのっ!」

寒さのせいだけではなく彼女が顔を真っ赤に染めて、頭に降り積もった雪が気のせいか一瞬溶けたようにも見える。



恥ずかしがり屋の彼女、けれど本当はその心に寂しげな少女を抱えている。



「家に着いたらちゃんと離してあげますから、ね?」

「・・・う、うん。」

貴女が嫌がっていないのは分かりますからね、拒絶しない限りは離しませんよ。
笑顔で彼女を見つめれば、何を言っても無駄だと分かったのかポケットの中で繋がれている手が、僕の手を遠慮がちに握り返してきた。
その手はさっきまでと違って熱い位で・・・その熱はと手を繋いでいないはずの僕の右手にも、伝わってきました。





願わくば、次に彼女が見る雪も・・・僕と一緒であるように。
決して一人で見る事が無いように・・・

照れくさそうに地面を見て歩くを見つめながら、僕は柄にも無くそんな事を心で呟きました。





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84000hitをゲットされました りどる サンへ 贈呈

『八戒さんのコートのポケットの中で手をつなぐほんわかしたお話』
・・・はい、私ってば思いっきりリクエスト外してますね(苦笑)
ほんわかじゃないじゃん!どっちかって言うとしんみりじゃん!!
唯一クリアしたのはコートのポケットで手を繋ぐ部分だけ・・・くっ頑張って精進します!!
(で、でもヒロイン側から行けば甘い感じかもしんない←言い訳(笑))
待たせに待たせた上・・・今は何月だっ(笑)書いてた時期がばれますね(苦笑)
りどるさん、リクエストありがとうございましたv
少しでも楽しんで頂けると嬉しいです!
また遊びに来て下さいねvvv