天の花、地上の華






「天ちゃん、お願いがあるの。」

「お願い、ですか?」

「うん!」

いつもとはまた少し様子の違う格好で部屋に入ってきたを見て、手に取りかけた本を元の位置に戻す。
歌姫の衣装とも、侍女が着ているような動きやすい格好とも違う。

・・・あぁ、下界にいる人間達が着ている服装に少し似ていますね。

「お願い・・・聞いてくれる?」

上目遣いでじっと見つめられて、に甘い僕が断れるワケ無いじゃないですか。
バリバリと頭をかいてから口に咥えていたタバコをカエルの灰皿に放り込むと、ニッコリ笑顔で取り合えずの願いを聞いてみる事にしました。















「あ!天ちゃんあれ何?あれ何?」

「たこ焼きと書いてありますね。」

「わっあれは?」

「・・・ヤキソバ。」

まさか・・・こんなお願いだとは思いませんでしたよ。

「天ちゃん!見て!あれは?」

隣で楽しそうにはしゃいでいるが示す物の名前を読み上げるだけで、彼女は楽しそうに微笑む。

「イカ焼き。」

「・・・うわっ何か変な形。」

まぁ中には喜ばしい物ばかりではないみたいですが。



に頼まれたのは下界の桜が見たいという些細な願い。
それくらいなら・・・と了承しましたが、まさか見に行く桜の場所まで指定されたのには驚きました。
こんなに人間がいる場所へ行くとは思ってもみませんでしたからね。



「あ、天ちゃん!あれ可愛い!あれ何?」

「・・・リンゴ飴ですね。」

「飴?甘いの?」

「果実のリンゴに色をつけた飴をコーティングしている物ですから、多分甘いと思いますよ。」



まさか、欲しいとか言ったりしませんよね。



下界の物を天界へ持ち込むことは一応禁止されている。
まぁばれないようにすれば持ち込んでも何の問題もありませんがね。
僕の部屋にある物のアンティークな置物は大半が下界の物ですから。
でもこんな風に人間が売っている食べ物を買うと言うのはちょっと・・・。

「天ちゃん・・・あれ・・・」

?ただでさえ僕らが下界に下りてきた事がばれてしまうと大変なんですよ?」

「でもこの場所教えてくれたの菩薩ちゃんだもん。」

「はい?」

の口から思いがけない人物の名前が出て思わずメガネが一瞬ずれた気がした。

「ここの桜は綺麗だから一度見とけ!って言ったのも菩薩ちゃんだもん。」

・・・なるほど、アノ人がに知恵をつけたんですか。
でもあの人もまさか自身が直接下界に下りるとは思わなかったでしょう。
水鏡か何かで下界の様子を見る、と言う意味でこの場所を指定したんでしょうが相手が悪かったですね、観世音菩薩。

でもそれならば問題は解決ですね。
多少の事ならに甘いあの人がどうにかしてくれる。
最悪罰を受けるのは僕だけになりますからね。

口元を緩めると僕はポケットに入れていた下界の古銭を取り出すと屋台に並んでいた小さめなリンゴ飴を一本取り、それと引き換えに古銭を店の人間へ渡した。



案外気に入っていたんですけどね、あの古銭。



「はいどうぞ。」

「え?いいの?」

本当に僕が買うと思ってもいなかったは大きな目を更に大きく広げ目の前に差し出されたリンゴ飴を指差した。

の為に買ったんですから、落とさないで下さいね。」

「ありがとう、天ちゃん。」

こんなに沢山の人間がいる中で、同じ様な格好をしている人は沢山いるのに・・・どうしてはそんなに天女のように輝いて見えるのか不思議ですね。
そんな風に見つめていると好奇心旺盛な彼女はまた別の物に興味を示し、そちらの方へ走り出してしまった。

「・・・やれやれ、保護者も案外大変なんですね。金蝉の苦労がちょっと分かった気がします。」

そう思いながらもが飛び跳ねながら遠くで僕の名前を呼んでいるのも、悪くないなぁと思いながらゆっくりそちらへ足を向けた。



次にが興味を示したのは・・・射的、ですか。



見るからに後ろに何か細工されていて倒れそうもない景品が無造作に並べられている。
それをこの軽いコルク栓で落とさせようなんて・・・あこぎな商売ですね。

「天ちゃん!あれ、あの入れ物綺麗!」

が目を輝かせて指を指したのは上から3段目の端の方にある、何か細かい細工がされた木の箱。何か文献で見た気もする柄なんですけど・・・何でしたかね。

「ね、ね・・・あれ取れる?」

「欲しいんですか?」

「うん!」

しょうがないですねぇ、がそんなに欲しいなら取ってあげましょうか。
数少ない古銭の中から一回分の射的の料金を支払うと、僕は周りの人間が精一杯身を乗り出して照準を合わせている姿を見ながら、その場に真っ直ぐ立ち目的の物へ照準を合わせると―――1発でそれを落とした。

大体後ろに細工してある物が普通にど真ん中を狙って落とせる訳無いじゃないですか。
どんな物にも重心があるんですから、それを崩せば理屈では落ちるんです。

「うわっ1発・・・」

「どうします。まだあと4発残ってますけど、他に欲しい物ありますか?」

それからが示した物を全て狙い落とし、最後の一発は絶対に取れないよう置かれている一番上段に置かれている小判を持って右手を曲げている猫の置物をラクラク落としてその場を後にした。





「あはははっ楽しかったね♪」

「楽しんで貰えて何よりです。」

「色々ありがとね、天ちゃん。今までで一番楽しいお花見だったよv」

「花見?」

「うん!下界の花を見ながらずっとこんな風に遊んでみたかったんだ。」

そう言って振り返ったの背後では、ちょうどライトアップされた綺麗な枝垂桜が揺れていて・・・それを背にしたはまるで桜の精のように見えた。

「・・・」

「天ちゃん?」

、後ろを見てください。」

「後ろ?」

言われてくるりと僕に背中を向けたは、枝垂桜を見て口を大きく開けたままその場に固まってしまった。

「うわぁ〜・・・」

「綺麗、ですね。」

「うん・・・前に捲兄が言ってたけど、下界の桜のほうが綺麗って言うのはこういう意味だったんだね。一生懸命生きて、一生懸命咲いてる・・・凄く綺麗。」

そう呟くの手には、最初に僕が買ったリンゴ飴が握られていて、射的で取ったかんざしを頭に挿し、腕には綺麗な細工がされた腕輪がはめられている。





地上で精一杯生きている人間よりも
その身がいつ滅びるかも分からず、咲き誇っている目の前の桜よりも

・・・何よりも貴女が一番、綺麗ですよ。















それから数日経った僕の部屋には、招き猫と呼ばれる置物と綺麗な寄木細工の箱が机の上に置かれていた。
いつものようにが自分の座れるだけのスペースをキープしたソファーに座って本を読み、僕が窓辺で煙草を吸いながら小声で呟いた。

「またこっそり遊びにきましょうか。」

本を読んでいたはずのが顔をあげて嬉しそうに声を上げた。

「いいの?」

「えぇ、結構射的が楽しかったですからね。」

「あはははっでも天ちゃんあの勢いで全部取れそうだったよね。」

「あからさまに取らせないよう置かれているのを取るのが楽しんですよ、あれは。」

「深いんだねぇ・・・射的って。」

「それ以外のものも同じですけどね。」



取れない物を手に入れる。
手に入らない物を、色々な策略を練って手に入れる。

そうして手に入れた物は、きっと・・・





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777777hitをゲットされました 紗璃夜 サンへ 贈呈

『天ちゃんと花見』そして甘め・・・と言うリクエストだったのに、甘みが足りてるのか(汗)
ちょうど京都で桜を見てきたので、それを頭に浮かべながら書いたんですが・・・えー、今何月でしたっけ?(笑)
射的に関して言ってる事は適当です(おいっ)私はどうやっても出来ない人なのでいつも遠くから見てるだけでしたので、コツも何も知りません(苦笑)
あてにならないと言うか適当な夢書きで申し訳ない(苦笑)
えーちなみに下界から色々持ち帰った彼らですが、勿論観世音菩薩ちゃんへのお土産も買って帰ったので・・・不問です(笑)
紗璃夜さん、リクエストありがとうございましたv
少しでも楽しんで頂けると嬉しいです!
また遊びに来て下さいねvvv