枕投げ大戦争〜in温泉〜







「ふわぁ・・・」

お夜食も食べた所で急に眠気が襲ってきた。
チラリと視線を走らせれば、既に三蔵は部屋の隅で椅子に座りながら新聞を広げてる。
だけどあれって・・・どうみてもゆらゆら体が前後に揺れていてうたた寝しているようにしか見えない。あーあたしも隅に行って目だけ瞑ってようかなぁ。
そんな事を考えていたあたしに気付いたのか、八戒が読んでいた本を閉じて側でカードをやっていた悟浄と悟空に声をかけた。

「さて、そろそろ夜も更けましたし・・・休みましょうか。」

「えー?俺まだ眠くない!」

「まだこんな時間だろ、オコサマかオレらはっ!!」

途端にあがる非難の声。
ちなみに時計の針は夜の11時を指そうとしている所だった。

「でも既に三蔵は夢の世界に行きかけてますし・・・」

「あんなヤツ一人で寝かせときゃいいだろうがっ!折角の宿でこんな早く寝るなんて勿体ねェっつーの!」

「そーだそーだ!!」

も疲れてるんですよ。」

「「え?」」

同時に悟浄と悟空の視線が自分に向いたのを感じて、ボーっとした頭でヒラヒラと手を振ってみる。

「・・・サル以外にもオコサマがいたか。」

「サル言うな!」

「と言う訳で、が帰るまで端の布団で寝て頂く、という事でいいですよね?」

「何で端?」

「あなた方に挟まれて寝たらが危険ですから。」

はっきりキッパリ笑顔で言い切った八戒の言葉に、僅かなトゲを感じたのはあたしだけだろうか。
まぁでも確かに悟空が隣じゃ絶対に蹴られそうだし、悟浄の隣じゃ別の意味で危険だ。
だけどそんなの本人達にとっては意識するような事でもないらしい。

「え?何で何で?俺、の隣がいい!」

「オレだってそうだっつーの!何が悲しくてヤロウの隣で布団くっつけて寝なきゃなんねェんだよ!」

盛り上がっている二人の声をバックミュージックにしながら、既にあたしの意識は半分飛びかけていた。
よろよろ立ち上がり、手探りで柔らかな布団を求めて歩き出し・・・座布団に躓いた倒れた場所が、ちょうど布団だった。



あ〜・・・お布団が気持ちいぃ〜さすが高級旅館のお布団だ。



そのまま気持ちよく夢の世界へ旅立とうとした瞬間、すぐ側で何かが倒れこむ音が聞こえた。

「だーっっ!」
「あー三蔵ずりぃ!!」
「三蔵、待って下さい。」


あれぇおかしいなぁ、さっきまで聞こえてたのは悟浄と悟空の声だと思ったのに、今度は八戒の声も聞こえるぞ?
しっかり閉じていたまぶたを気合で開けた瞬間、視界に飛び込んできたのは・・・長いまつげと細い金髪の隙間から見える額の赤いチャクラ。

「・・・」

「寝ぼけるにしても程があるっつーの!!」

「ずりぃ!」

ボフッッと言う柔らかな音と共に、目の前が真っ白になった。
・・・いや、正しくは綺麗な金髪が枕で隠されてしまった、と言うのが正しいのかな。

ちなみにそれを更に分かりやすくすると ――― 三蔵に枕が当たった ――― と言う事になる。

そう理解するのに時間がかかったのは、至近距離で見た三蔵の寝顔の所為だと思う。
起きてる時はあんなに不機嫌そうなのに、何で目を閉じるだけでどうしてあんな可愛い寝顔になるのか不思議だ。
あと数秒枕が飛んで来るのが遅かったら絶対頭撫でてたよっ!
そんな風にようやく意識を取り戻したあたしが、取り敢えず三蔵と距離を開けるべく起き上がって壁際へ逃げたその瞬間・・・三蔵がゆっくり起き上がり顔に乗っていた枕を手に取った。

「・・・誰がこんなモン投げた。」

「僕じゃありませんよ。」

「三蔵サマってば、寝ぼけて自分がやったコト忘れちゃったんじゃなぁ〜い?」

「三蔵、と一緒に寝るのずりぃよ!!」

「ほぉ・・・そこの馬鹿共かっっ!」

三蔵が持っていた枕を悟空と悟浄の方に向かって思い切り投げた。



・・・が、三蔵の銃弾を避けるのに慣れている所為か、二人が顔に当たる直前でしゃがんだ所為で ――― その枕はなんと八戒の肩に当たった。



「「「「・・・・・・」」」」



一瞬、部屋の空気がピーンと張り詰めた気がした。
あたしは思わず自分の身を守るかのように側にあった枕をギュッと抱きしめ、視界を隠しながらこっそり八戒の様子を探る。

「・・・僕じゃないって、言いましたよね三蔵。」

「お前を狙ったつもりはない。そこの馬鹿共に投げたんだ。」

八戒はいつもと同じ笑顔なんだけど、背後の・・・背後の空気が違う。
さっきまで眠くて眠くて仕方がなかったのに、今は見えない恐怖で体が震える。





張り詰めた空気に耐えかねるように三蔵がいつものように怒声をあげた。

「大体人が静かに寝ようとしているのを邪魔すんじゃねぇ!」

「邪魔したわけじゃありません。ただ、貴方が倒れこんだ場所に問題があったんです。」



――― ふ、二人とも声が怖いよ



カゴの隅で震えるハムスターみたいになっていたあたしの前に、二つの影が近づいたので思わず手を伸ばす。

チャン、大丈夫か?」

、平気?」

「悟浄・・・悟空・・・」

キュッと悟浄のシャツの裾を掴むと安心させるようにポンポンと手を叩いてくれた。
お願いだから、この状況を何とかしてっっ!!

「折角寝ようとしてたのに・・・悪かったな。」

「大体悟浄が三蔵に枕投げるから悪いんじゃん。」

「てめェがオレに枕なんか手渡すからだろうがっ!」

「・・・それ、同罪じゃない?」

思わず掴んでいた悟浄のシャツを手放す。



ようするに、この状況を作った原因はこの二人・・・って事なのね。



そう納得した瞬間、あたしの方に向かって真っ白な物体が飛んでくるのが見えた。
反射的に持っていた枕で顔をガードすると、悟浄と悟空の頭に見事白い物体が激突した。

「「・・・っつ〜」」

え〜っと、今の・・・枕、だよね?
それにしては何だか音が普通じゃなかったけど・・・ボフ、じゃなくて、ドコッって聞こえたよ?
柔らかい枕じゃなくて固めの枕とかもあったのかな?
恐る恐る持っていた枕から顔を覗かせると、後頭部を抑えた二人の後ろに新たな枕を持った三蔵と八戒が立っていた。

「何をしてるんですか?」

「関係ないフリしてんじゃねぇぞ。」

「ってぇ〜ナニしやがるっ!」

「今のマジで枕!?」



――― こうして枕投げ大会、という名の子供の喧嘩が始まった ―――




















元々枕投げって言うのは、修学旅行の夜に行われるお約束行事みたいなもので、皆が枕を相手に投げつけて遊ぶ・・・という他愛のないものだったと思う。
決して、決して枕らしからぬ音を立てながら他人にぶつけていくものじゃない!

「いい加減死ねっ!」

「そう簡単に死ねるかっつーの!」

「駄目ですよ、逃げちゃ。」

「うわっっ!八戒っ、枕吹っ飛ばすの反則!!」



・・・座布団で寝ていたジープ、早めに抱き上げといて正解だったかも。



腕の中でジープは赤い目をキラキラさせながら枕投げ大戦争の様子を眺めているけど、自分の身を守るので精一杯なあたしは右往左往しながら飛び交う枕を避けている。
・・・避けるっていうか、当たりそうになったら必ず誰かが助けてはくれてるんだけどね。
ちなみにあたしに当たりそうな枕を投げた相手は、必ずと言っていいほど次の瞬間他の三人から集中攻撃されている。
あぁ、守られてるな・・・と喜ぶべきか、この惨劇を止めればすむんじゃないかと思ったりもするけど、でも今のあたしにこの状況を止める手段は思いつかない。

「三蔵、ハリセンはナシだろ?!」

「煩ぇ、構ってられるか!」

「悟浄、灰皿蹴飛ばさないで下さい。」

「てめェこそ、枕の影に隠して鈍器一緒に投げてんじゃねェよ!!死ぬだろうが!」

「たまたま一緒に掴んじゃっただけですよ。」

「悟空!外に落ちた枕拾って来い!」

「え〜?何で?!」

「旅館の備品を失くしたら弁償しなきゃいけませんから、お願いします。」

「って、の影でタバコ吸おうとしてんじゃねぇぞ!このエロ河童!!」

チャンに当たるだろうがっ!!」

「貴方が避けなければ問題ありませんよ。」

「〜〜っざけんなっ!」



旅館の女将さん。
騒がしくてすみません。
備品、沢山壊れちゃってごめんなさい。
あたし、きっと、朝までここにはいれませんから・・・今のうちに謝っておきます。
血の気の多い人達で、ごめんなさい。

でも、こんな皆があたしは大好きなんです。



そんなあたしの懺悔は・・・柔らかいはずの枕が顔に当たった瞬間、遙か遠くの彼方へ飛んでいってしまった。



「ふきゃっ!」

「大丈夫ですか!!」

「あ゛」

「だから避けるなと言ったろうがっ!!」

、大丈夫か!?」

鼻を押さえながら、ずっと掴んでいた枕を近くにいた悟浄に向かって反射的に投げつけた。

「ぐはっ!」

「痛いーっっ!」

すっげーっ!!」

「ほぉ、中々やるな。」

「っつーか、今チャンに投げたのは三蔵だろうがっ!!」

悟浄の声を聞いて、側にあった枕をもう一度掴んで今度は三蔵の方へ体を向ける。

「・・・おい」

「三蔵、動かないでね。」

「・・・っ!八戒、てめぇ何してやがる!」

「いえ、ちょっとに協力しているだけですよ。」

「ふざけんじゃねぇーっっ!!」





夜も更けた、山の中の温泉旅館に響く最高僧の声。
翌朝、ボロボロになった旅館の部屋では、きっちり布団で眠る八戒とジープ。
倒れこむように眠る悟浄と悟空。
そして座椅子に座って眠る三蔵の姿があった。

勿論、紅一点である女性の姿は・・・どこにもなかったとか?





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75000hitをゲットされました めぐみ サンへ 贈呈

『枕投げ大会』という、明確なリクエストでした(笑)
枕投げ大会という事で、過去めぐみさんからリクエスト頂いていた温泉シリーズの締めって感じで、旅館設定を再び使わせて貰いました。
ちなみに投げている枕は一般的な枕ですが、力の入れようでかなり当たると痛い物に変わるみたいです(笑)
この話で一番可哀想なのは、風見の書く話では珍しい最高僧様です。
だってほら、寝ようとしてたら叩き起こされた上、最後に枕くらってますから(笑)ね?不幸でしょ?
めぐみさん、リクエストありがとうございましたv
少しでも楽しんで頂けると嬉しいです!
また遊びに来て下さいねvvv