片耳だけのウォークマン
「・・・持って来ちゃった。」
朝目覚めた時、枕元にキチンと置いてある物を見て・・・一瞬ここが何処だか分からなくなった。
それはいつも寝る前に・・・と言うか眠れない時に聞いているウォークマン。
音楽を聴いてると自然と心が落ち着いて、緊張している神経も和らいでよく眠れる。
だから眠れない時は聞きながら寝てるんだけど・・・。
「まさかこっちに持って来れるとは思わなかった。」
試しにスイッチを入れてみれば、昨日聞いていたB’zの曲が普通に流れてくる。
「・・・なんか変な感じ。現代で普通に聞いてた曲桃源郷で聞くのって・・・」
苦笑しながらそのまま何気なく曲を聴いていると、ふいに窓辺の光が陰ってすぐ側に綺麗な赤が目に入った。
「オハヨ、チャン♪」
「悟浄!?」
「ナニ?朝から音楽鑑賞?」
「・・・悟浄が音楽鑑賞って言うの何か変な感じ。」
ワザとイタズラっぽく言えば悟浄は口元を緩めながら軽くあたしの額を指でつついた。
「わりぃんかい!」
「ううん。そんな事無い。」
「なぁチャン普段どんな曲聞いてんの?」
そう言いながらベッドに腰掛けて興味深げにイヤホンから流れる曲に耳を傾ける悟浄の横顔がやけに可愛く見えて、あたしは左耳にしていたイヤホンをそのまま悟浄に渡した。
「はい。」
「・・・はい?」
「片方貸したげる。」
何気なく言ったつもりだったのに、何故か悟浄は凄くビックリした顔をしてる。
悟浄イヤホンとか嫌い・・・なのかな?
あっ!ひょっとしてあたしと一つの物を分け合うのがイヤ!?
でも悟浄が動きを止めたのはあたしが考えてるような事じゃなかった。
次第に悟浄の顔が文字通り緩んでいってゆっくりそれを耳にはめたのを見て、ようやく自分がどんな事を言ってしまったか気付いた。
「・・・っ!」
「何だよvチャンってば珍しく大胆じゃん♪」
「ちっちがっっ!」
「ウォークマンのイヤホンって繋がってっから二人で聞くとなるとこ〜するしかねェよな♪」
そう。ベッドに座っていた悟浄に片耳を貸したって事は、もう片方をつけているあたしと自然と悟浄に寄り添う事となる。
しかも悟浄が言うようにウォークマンの紐はそんなに長い物でもないから自然と悟浄に肩を抱き寄せられて密着する形となる。
「ほーら、もうちっと近づいてくんねェと耳に届かねェよ?チャンv」
「・・・ううぅぅ。」
まさに自業自得、別にやましい事悟浄がするって思ってるわけじゃないんだけど・・・自然と体が構えてしまうのはやはり基礎知識がエロ河童と言う名前だからなのかな。
そんな風にあたしが妙に意識している間、悟浄はあたしの肩を抱き寄せるとあとは耳から流れてくる曲に静かに耳を傾けていた。
でもその顔は・・・さっきまでの嬉しそうな顔から眉間に皺が寄ってしまうほど不思議そうな顔に変わっていった。
ボリュームが大きいのかと思って、気持ち音を落とすと悟浄がイヤホンを外してそこから流れる音を指差した。
「・・・コレ、何語?」
「え?日本語だよ?」
「・・・チャン普段こんなの喋ってんの!?」
「うん。」
「・・・すっげェな。」
いや、そんなの感心されても困るけど・・・悟浄たちの喋ってる言葉の方がよっぽど凄い気がするんだけど・・・ってそっか!あたしがこっちに来ると周りの言葉がわかんないのと一緒で、向こうから持ってきたCDの曲は日本語=悟浄には分けのわかんない言葉に聞こえるのか!
今更気付くなよって感じだけど、曲のノリは悟浄の好みに合ったみたいで歌詞の意味は分からなくても微かに体を揺らして楽しんでいるらしい。
時折悟浄が曲のタイトルや内容を聞いてくるからそれに応えながら、ふとよく聞く曲の前奏が流れ自然と笑顔になる。
「まさか悟浄と聞く事になるなんて・・・」
あたしの呟きが聞こえたのか、悟浄がイヤホンを外してあたしの顔を覗き込んだ。
「オレがナニ?」
「ん?この曲ね、向こうで一人で聞いてた時思ったの。」
「何て?」
「・・・何か悟浄達の事歌ってるみたいだなぁって。」
そう言いながら目を閉じて歌詞に耳を傾ける。
あぁやっぱりそうだ。
どうしてもこの曲を聴くと西域へ旅をしているみんなの姿が目に浮かぶ。
旅に出るのはまだ先だけど、皆が集まって何かをしている所がこの曲に重なる。
食事をしている風景だったり、その後悟浄と三蔵が二人でタバコを吸ってる所だったり・・・何気なく過ごしている光景が目に浮かぶ。
その曲が終わると同時にあたしはイヤホンを外して悟浄の方を振り返った。
「血の繋がりとか無くてもさ、居心地のいい関係ってあるよね。」
「はぁ?」
突然ナニを言い出すんだって顔をしてるけど、悟浄はあたしが言った事をちゃんと考えてくれる。
暫く無言だったけど、やがて何か思い当たったのか小さく頷いた。
「――― あぁ、あるな。」
「何の繋がりも無い状態、そこから始まって・・・色んな嬉しいこと楽しいこと、辛いこと悲しいことを一緒に味わうと、何か強い絆が出来る気がしない?」
「チャンとなら作りたいけど、ヤローとはゴメンだな。」
「・・・出来ちゃってる場合はどうすんだろう。」
「はぁ!?」
教えてあげない。
悟浄は既に他の三人と見えない絆で結ばれてるんだって事。
「意味深なセリフだな・・・ナンカ隠してんだろ?」
「ん〜さぁねv」
「こらっ!教えろ!!」
伸びてきた悟浄の手を避けて、ベッドから立ち上がって逃げる。
「いつか自然と分かるよ!この歌の意味が♪」
「言葉分かんねェのに意味が分かるかよ!」
「大丈夫v」
悟浄はもう分かってるから、その歌の意味。
部屋の中で暫く悟浄と鬼ごっことしていたら、朝食の用意が出来たと八戒が呼びに来てくれた。
ウォークマンの電池はまだいっぱいある。
こっちのデッキで曲は聞く事出来るのかな?
もし出来るなら、朝食が終わってから皆で聞こうよ。
行ける所まであたしも一緒に皆と走り続けたいから・・・。
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61000hitをゲットされました Ai サンへ 贈呈
『うたた寝で二人で一緒にウォークマンで音楽を聞く』と言う事で、音楽オンチな私の為に色んな曲を教えてもらったんですが、結局B'zの『RUN』を使わせてもらいました。
本当だったら話の合間合間に歌詞を挟みたいところだったんですが、音楽関係って色々法律がめんどくさそうなので(おいっ)止めました。
私もこの曲は知ってたんですが、話を書くに当たって改めて歌詞を見て「あぁ」と納得しました。
ほぼ話の中で私の思った事は言っちゃいましたけどね(苦笑)知ってるヒトは大体「あーあの辺か?」と思って頂けると嬉しいです。
AIさん、リクエストありがとうございましたv
少しでもあの素敵なイラストのお礼となれば良いのですが・・・楽しんで頂けると嬉しいです!
また遊びに来て下さいねvvv
※歌詞の引用についてJASRACのHPで調べた所、きちんとした手続きをしないと使用できない事判明。
曲のタイトルに関しては著作権は発生しないそうなので使用してもいいらしい。
と、言う訳で内容と照らし合わせたい方は『うたまっぷ』でB'zのRUNを検索する、カラオケで歌う(笑) などして貰えると嬉しい。
皆さんももし歌詞を引用するのならちょっと調べた方がいいかもですね。
いやぁ〜色々とめんどくさい(まとめがそれかよ!)
※コレを見て鵜呑みにしちゃダメですよー、歌詞を使う時は一度自分で調べましょうね?
風見の言う事が絶対正しいなんて思っちゃいけないよ♪風見もまだまだ著作権とかについては勉強しないと細かい事分からないからねv