Song for ・・・
「チャンってさ、カラオケ好き?」
「え?」
三蔵達と一緒に八戒の美味しい昼食を食べ終えて食後のお茶を飲んでいる時、突然目の前に座っていた悟浄が言い始めた。
「んー別に嫌いって訳じゃないけど・・・」
「んじゃさ、馴染みのヤツにサービス券貰ったんだけど・・・行かねェ?」
ひらひらと目の前でサービス券をちらつかせる悟浄の手からそれを一枚抜き取る。
「んーでも・・・」
悟浄とカラオケボックス=密室に二人きりと言うのはちょっと考えもの。
それでも桃源郷にあるカラオケって言うのも気になる・・・そうなるとここはもう少しカラオケに行ってくれる人を増やす必要がある、よね。
隣に座って今までの話を聞いていた八戒の方を振り向けば、そんなあたしの考えを知っているかのような笑みを携えながら小さく頷いてくれた。
「悟浄、随分沢山サービス券あるんですね。」
「ん?あぁ、道端で配ってたからな。適当に貰ってきた。」
・・・悟浄、それは普通1、2枚貰うものであってそんな風に束で奪ってきちゃいけないんじゃない?
「それだけあるなら僕もご一緒していいですか?」
「え゛ってお前、カラオケ嫌いだろ!?」
「カラオケが嫌いなんじゃなくて歌うのが苦手なだけです。」
「歌わない人間がカラオケ行ってどーすンだよ!」
「可愛い羊さんを狼さんに食べられないように見張るんですよ。」
は、はっ・・・八戒!?確かにあたしは悟浄と密室で二人と言う事に不安を感じたけど、今は二人の間の凍りついた空気が一番怖いよっ!!
そう思いながらも八戒を睨み付けてる悟浄とそれを笑顔で受けてる八戒の間に入るなんてこと出来なくて、どうしようって思ってたらようやく全ての食事を終えた悟空が嬉しそうに机に置いてあったチケットを手に取った。
「わー俺も行く行く!!からおけ!」
「お前もかよっ!!」
「キュー♪」
「ジープも!?」
「あぁそれはいいですね。皆で仲良く初カラオケ、いいんじゃないですか?」
「うあぁぁ〜〜っ」
・・・ジープもカラオケってするんだ。
歌うって言うよりこの場合は・・・鳴く、って事になるんだよね。
そんな風にあたしがジープのカラオケを想像している横では、悟浄ががっくり肩を落としている。
さすがに悟浄が可哀想に思えてきちゃった・・・でも悟浄と二人っきり。
しかも歌とか聞いたら絶対あたしの心臓耐えられないもん!と言うか二人きりの空間は無理!緊張しちゃうっ!!
握り拳を作りながら自分の考えに頷いてたら不意に悟浄と視線がぶつかった。
すると悟浄はちょっと残念そうな顔をしたけど、すぐに悟空の手からカラオケのチケットを奪い返して椅子にかけてあった上着を手に取った。
「っしゃ〜っ!こうなったら全員でチャンと初カラオケに行くとしますか!」
「わ〜いからおけからおけ。」
「キュー♪」
「三蔵はどうします?」
今まで会話に出てこなかったけど、一人ソファーで新聞を読んでいた三蔵は手にしていたタバコを灰皿に押し付けてキッパリ言った。
「誰が行くか。」
「えー三蔵来ねぇの?」
「行かないんですか、三蔵。今日だけは悟浄の奢りですよ?」
「だ〜れがオゴルって言った!」
確か三蔵はカラオケが好きなはず、絶対に行かないって言ってたカラオケボックスにいざ行ってお酒が入ったらマイクを離さなかったって言うのを聞いた事がある。
なのに・・・今日は行かないの?
「三蔵、カラオケ嫌い?」
「・・・あぁ。」
「じゃぁ今日は一緒に行かないの?」
「・・・行かん。」
ちょっと残念。三蔵の歌、生で聞いてみたかったんだけどな・・・でも無理矢理誘われて行くのは嫌だよね。
「しょうがないですね。三蔵も言い出したら頑固ですから・・・今日の所は4人で行きましょうか。」
「わーい!!」
何処へ行くのかイマイチ良く分かっていないような悟空は嬉しそうに家の中をぴょんぴょん飛び跳ねている。
八戒はテーブルの片付けの続きをして、出掛ける準備をし始めた。
「ンで、チャンの十八番は?」
「十八番って・・・特に無いよ。しかもこっちの歌なんて全然歌えないし・・・」
「最近のカラオケは世界中の曲入ってっから大丈夫だろ♪」
「そっか・・・」
良かった、それなら少しは知ってる曲入ってるかもしれない。
ホッと胸を撫で下ろした瞬間、悟浄に肩を引き寄せられて耳元にポソリと囁かれた。
「ラブソングは是非、オレに向けて・・・」
でもその囁きを最後まで聞くより先に、銃声が部屋に鳴り響いて慌てて耳を両手で塞ぐ。
「ってめェ!この生臭坊主!今マジで狙ったろう!!」
「あぁ・・・でかいハエが飛んでたんでな。」
「真冬にハエが飛ぶか!!」
「の周りを飛ぶでかいハエは春夏秋冬生きているらしくってな。」
「・・・オレかよ!!」
「お前以外この場に誰がいる。」
一触即発の雰囲気を破ったのは最強の笑顔を持つ、八戒。
「お二人とも、そんな事している間にどんどん時間が無くなってしまいますよ。三蔵、夜には寺院に戻らないといけないんでしょう?」
「あぁ。」
「悟空は僕らが連れて行きますから、三蔵は此方でゆっくり休んでいてください。取り敢えず2時間で引き上げてきますから。」
テーブルに新しいカップと既に沸かしてあったコーヒーを置いて八戒はジープを肩へ乗せると、悟空と睨み合いをしていた悟浄の肩をポンポンと叩いた。
「ほら、悟浄も行きますよ。どうせに聞かせたい曲でもあるんでしょう?」
「!?」
「そうなの?悟浄。」
ひょいっと下から悟浄の顔を覗き込むと・・・珍しく視線を反らして口元を手で覆い隠している悟浄がいた。
「――――― っサル!とっとと行くぞ!オマエも初めてなんだろ!!」
「何だよ悟浄・・・顔、赤くねぇ?」
「うっせー!ほら、行くぞ八戒、チャン!!」
「はいはい・・・まったく困った人ですね。」
「でもなんだろう聞かせたい曲って・・・?」
「最近この辺りで流行ってる曲だと思いますよ。」
「八戒は知ってるの?」
「えぇ、一応。」
それってどんな曲?って八戒に訪ねようとしたら、既に外に出ていた悟浄と悟空が二人であたし達の名前を呼んでいるのに気付いた。
「―!はっかぁ〜い!!早く早くっ!!」
「・・・これ以上待たせちゃうと園児が逃亡しかねませんね。」
園児って・・・そっか、八戒保父さんだもんね。
子供から目を離しちゃいけない職業だ♪
「それじゃぁ今度こそ本当に行きましょうか。」
「うん!・・・あーっ!!ちょっと八戒先に行ってて。あたし三蔵に言い忘れた事あったんだ。」
「三蔵に・・・ですか?」
「うん。すぐ追いかけるから。」
「・・・それじゃぁ外で待っていますから、早く来てくださいね?」
「うん。」
八戒だけ先に外へ出てもらって、不機嫌そうに新聞に目を向けている三蔵の側へ足を進める。
「あの、三蔵?」
「何だ。」
うっわぁ ――――― 機嫌悪っ!!
「あの・・・ね。」
「何の用だ。」
怖い・・・声がいつもの数倍低くて、下からこっちを見上げるような視線は・・・すこぶるキツイ。
でも、どうしても今これだけは聞いておかなくちゃ・・・。
「三蔵カラオケ嫌い?」
「・・・そんな事聞く為だけに残ったのか。」
「いや、その・・・一度三蔵とカラオケ行きたいなぁって思って、でも嫌いなら無理強いできないから・・・確認、したかったの。」
やっぱり聞かなきゃ良かった・・・か。
またハリセンで叩かれちゃうんだろうな、馬鹿な質問すんじゃねぇっとか言われながら。
仕方なく目を瞑ってその衝撃を受ける体勢を作っていたら、不意に頭に手が添えられてそのまま三蔵の方へ引き寄せられた。
「・・・ならな。」
「え?」
三蔵の口からこぼれた言葉に驚いて反射的に聞き返す。
「何?三蔵・・・それホント?」
「・・・あぁ。」
「絶対?」
「あぁ・・・だから今日はあいつ等と行って来い。」
「・・・分かった!!絶対約束だからね!!」
満面の笑みを浮かべ元気良く家を出るあたしの背を三蔵に見送られながら、外で待っていた八戒とその先でプロレスごっこをしながら待っていた悟浄と悟空と合流する。
――――――――― お前と二人なら・・・な。
そう言ってくれた三蔵の言葉を信じて、今日は初カラオケを皆と楽しむ事にしよう。
三蔵と二人でカラオケに行く時には、絶対マイクは2本用意してもらわなきゃね♪
三蔵の歌声独り占めっていうのも・・・いいんだけど。
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59000hitをゲットされました 忍 サンへ 贈呈
『八戒・悟浄・ジープ出演の上、三蔵様のほのぼの甘で勝利』と言うリクエストでした・・・が。
いつにも増してリクエストに応えられているのか不安(苦笑)
そもそもこの話を書いたキッカケが最遊記ボーカルアルバム2のカラオケ話ですから(笑)
たいっっっへん長らくお待たせして、出来上がった話がこれで申し訳ない(TT)
ボーカルアルバム2を思い出しつつ楽しんで頂ければ幸いです!
忍さん、リクエストありがとうございましたv
少しでも楽しんで頂けると嬉しいです!
また遊びに来て下さいねvvv