White cat







「あ、猫!」

朝早く近隣の説法を終えて八戒の家で朝食を食べていると、悟空が窓の外に何かを見つけ立ち上がった。

「うっわー!!すっげーちっちぇー!」

「食事中に騒ぐんじゃねぇ。」

一応声だけかけて、俺は手に持っていた新聞をめくった。
しかし俺の言った事が聞こえていないのか、悟空の意識は目の前にある食いかけのパンよりも外にいるらしい猫に向いている。
ほっといても問題がないと判断した俺がそれを無視してコーヒーを飲んでいると、八戒が微笑みながらその猫について話し出した。

が可愛がっている猫ですよ。あれは・・・ミミクロ母さんですね。」

「あーいつの間に子供産んだんだ?」

「貴方が夜遊びを一生懸命していた頃ですよ。」

「あっそ・・・」

「なぁ三蔵!猫見てきてもいい?」

「勝手にしろ。」

いちいちそんな事俺に確認すんじゃねぇ。
そう思いながら返事をすると、食べかけのパンを口に押し込みながら慌しく外へ駆け出していった。
これで少しは静かになる。

「ははっどっちが遊んでんだかわかんねェな。」

「そうですね。」

「おい、三蔵も見てみろよ。結構笑えるぜ?」

「煩い。」

サルが猫と戯れる所を見て何が面白い。
面倒くさそうにワザと体勢を窓から反対の方へ変え新聞をめくった。
すると外から悟空の馬鹿でかい声が聞こえてきた。

いてもいなくても煩いな、アイツは・・・。

「なぁ八戒!この猫名前あるの?」

「えぇありますよ、この間が教えてくれました。」

・・・が猫に名前をつけたのか?物好きなヤツだ。

「今悟空が抱いているのが『ブチ』二匹でじゃれてるのが『シロ』『クロ』そしてお母さん猫の側で丸まってるのが・・・
『ハラグロ』です。」

「「は?」」

今・・・何て言った。

「へぇーブチって言うのかお前。あっ本当だ、顔に黒い丸がある!」

悟空は何も疑問に思わなかったようだが、今・・・猫の名前には不似合いな物が混じってなかったか?
その名前がつけられた猫に些か興味を持ち、俺は読んでいた新聞を閉じると窓辺へ近づいた。
同じような疑問を持ったのか、肘を滑らせたまま動きを止めていた悟浄も窓辺へやってきた。

「ちょい待て!何だハラグロって!!」

「猫の名前ですよ。」

あっけらかんと言う八戒に小声で呟く。

「猫には不似合いだろう。」

「でも外見的特徴を良く捉えてるんですよ。ほら・・・」

そう言って八戒が指差す先を見ると、母猫の側で大きく伸びをしている猫の腹は・・・確かに黒かった。
呆気に取られて何も言えずにいると、八戒が急に笑い出したので思い切り不審な目を向けてやると、一つ咳払いをして何かの雑学でも披露するかのように再び喋りだした。

「あの猫達、最初は別の名前だったんですよ。」

「どんな名よ?」

別に聞く気もなかったが、この距離ではいやでも耳に入ってしまう。

「えーっと確か、ミミクロ母さんは同じで『シロ』が八戒、『クロ』が三蔵で『ブチ』が悟空・・・」

・・・俺たちの名前を猫につけたのか!?あいつは!!

「ってオレが『ハラグロ』!?」

「はい。」

「「・・・・・・」」

その時俺は・・・アイツが本当につけた名前が違う事を無意識に悟った。
八戒を目の前にして『ハラグロ』又は『クロ』を八戒だと言うのはいくらでも無理な事だろう。
おおかた口に出しかけてから慌てて河童の名前に言い変えたんだろうな。
何故かそんな光景が目に浮かび自然と頬が緩む。

「一応消去法だったみたいですよ。」

さり気なくフォローしながら肩を落とした悟浄の肩を叩く八戒の向こうから、身支度を整えたの姿が見えた。

「あー!三蔵来てる。」

「悪いか。」

「全然!おはよう、三蔵!」

「・・・あぁ。」

、久しぶりにミミクロ母さんが来てますよ。」

「え?嘘!!」

席に着こうと椅子を引いたが、八戒の声を聞いてが人口密度の高い窓辺へとやって来た。
俺と悟浄の間に割り込むように体を入れて、外を見る。
手に持っていたタバコの火が行かないよう手を上にあげた瞬間が叫んだ。

「あー悟空だけずるい!!」

・・・煩ぇ。
そう呟こうとするよりも先には庭へ続く扉の方へ走っていった。

これ以上この場にいるとガキの声が煩くてしょうがない。
そう思ってタバコを口に銜えて席へ戻ろうとした瞬間、満面の笑みを浮かべ猫と戯れるの姿が視界に入った。
まるでガキのように屈託なく笑い・・・次から次へとまとわりついてくる猫を抱き上げて笑う姿はどこか心を温かくさせる。
タバコを指に持ち変える振りをして口元を手で隠しながら横目で他の二人の様子を見た。
自分の事のように笑顔で見ている悟浄に、いつも以上に柔らかな笑みを浮かべて前を・・・いや、を見ている八戒。

・・・緩みっぱなしだぞ、てめぇら。

「おーおー・・・懐かれてんなぁ〜」

「動物は自分の事を好きだと言ってくれてる人には懐きますからね。」



・・・何故悟空を見たあと俺の方を見ている、八戒。



そんな俺の事などお構い無しに、悟浄が八戒に話しかけた。

「なぁやっぱダメなのか?あの猫飼うの。」

「そうですね・・・」

チャンがあーんなトロけそうな顔して笑ってくれンならオレ、も少し賭場行く回数増やしてもいいゼ?」

「・・・そんなに家計が切迫してるのか。」

「いいえ、そう言う訳じゃないんですが・・・」

苦笑しながら八戒が何かを話し始めようとした瞬間、庭にいたが大慌てで家の中に駆け込んできた。

「ゴメン八戒!シャワー借りますっ!」

「新しいタオル使ってくださいね!」

「はーい!」

「・・・はぁ〜ぁ、やっぱダメか。」

「ダメでしょうね。」

大きなため息をついて二人で勝手に納得してんじゃねぇぞ。
今だあの猫を飼えない理由が分からない俺は八戒の方をにらみつけた。
それに気付いた八戒が先ほど言いかけていた言葉を続ける。

「彼女・・・猫アレルギーなんです。」

猫アレルギー?
ついさっきまで全部の猫を抱き上げて、隣にいた悟空に羨ましがられてたじゃねぇか。
そんなヤツがアレルギーなワケないだろう。

「そんなに極端なものじゃないんですけど、猫についているノミやダニがアレルギーの元なんですよ。この間台風の日に一日だけあの猫たちを家に上げたんですが・・・」

チャンの腕やら足やらが暫くしたらブツブツだらけなっちまったんだよ。」

「・・・!」

「掻いてしまうと痕になってしまうので取り敢えず痒み止めを塗ったんですが、猫と遊ぶたびにその状態になってしまって・・・」

「可哀想だよな、ホント。」

「・・・なるほど。」

庭では相変わらず悟空が猫と戯れていて、先ほどまで母猫の側でのんびりしていた猫も悟空にまとわりついている。
母猫は先ほどと変わりなく陽だまりで目を閉じている。

何処からどう見てもその光景は・・・野良猫と言うよりも家猫といった風情だった。





それから何度かあいつらの家に行った。
いつの間にか庭には柔らかなタオルが引かれたダンボールが置かれるようになっていた。
その中で全員寝ていた子猫も徐々に大きくなり、そのうちの3匹は悟浄の友人に貰われていったらしい。
残りの一匹・・・ハラグロは、後日町内会長の所へ貰われて行ったと悟空が言っていた。





やがて気候が寒くなってくると、母猫のベッドは庭先から玄関口へと移動していた。

「・・・案外高齢だったみたいなんです。」

4匹も子猫を産んだ事と、ここ最近の気温の変化に体がついていかなかったのか、母猫はダンボールの中で丸くなっている事が多かった。
それでもは自分にアレルギーが出る直前まで側で本を読んだり、時折ノドを撫でたりして母猫と一緒にいた。





この間は全員が買い物に出払っていてオレだけが居間でコーヒーを飲んでいると、いつの間にダンボールから抜け出たのか母猫がオレの足元で鳴いていた。

「・・・なんだ。」

「にゃぁー」

最初に見た時より小さくなった体、か細くなった声。
コーヒーカップを机に戻し、猫の方へ手を差し出しかけて・・・止まった。

「らしくねぇな。」

そのまま手を引こうとした瞬間、母猫が俺の手に体を摺り寄せ小さく鳴いた。
妙に柔らかく温かい体。
その時俺は初めて今まで抱こうともしなかった猫に手を伸ばして、その体を抱いた。

「・・・重いぞ。」

「にゃぁ〜」

ゴロゴロとノドを鳴らしながら俺に体を摺り寄せる猫を膝に乗せると、俺はその背を撫でながら再びコーヒーを一口飲んだ。



































そしてその一週間後、いつものように近隣の説法のついでに八戒の家へ向かう途中・・・なんとも言えない悲痛な泣き声が聞こえた。

「な、何!?」

悟空が首を傾げながら声のする方向へ走っていくので、俺も何も言わずあとをついていった。
泣き声は悟浄達の家から聞こえる、しかもどうやら女の声らしい。
てっきり悟浄のヤツが何かやったのかと思って近づくと、庭先で白い塊を膝に乗せたまま天を仰いで泣いている・・・の姿があった。

!!」

慌てて駆け寄ろうとする悟空の首根っこを捕まえて、戸口にたたずんでいた悟浄と八戒の前に行く。
八戒は手にタオルを持ち、悟浄は何故か頬や手に傷を作っていた。

「・・・おい、もっかい行くぞ。」

「平気・・・ですか。」

「こんな傷より、あの声のが・・・痛いっつーの。」

「俺も行く!!」

いつの間にか悟空が俺の手を振り払って、珍しく真面目な顔をしての元へ向かう悟浄のあとを着いて行った。
その間も胸に刺さるようなの泣き声はおさまらない。
庭先で座り込んでいるへ近づいて手を差し伸べようとする悟浄の手を必死に払い、同じように悟空の手すらも払おうとするを苦痛の表情で見ている八戒に声をかける。

「・・・何があった。」

尋常でない様子のと二人を見れば大体の見当はつく。
悲痛な泣き声が微かに擦れているのは・・・ついさっき泣き出したと言う問題じゃない事を物語っている。

「何があった。」

もう一度八戒に問いかけると暗い表情のまま手にしたタオルを見つめ、ゆっくり口を開いた。

「・・・昼頃、ミミクロが息を引き取りました。」

「・・・」

「最近寒い日が続いていて、家の中でもやはり老体に響いたんでしょう。」

「それくらい生き物を飼ってるヤツは覚悟しているだろう。」

「えぇ・・・も覚悟はしていたんですが・・・・・・」

そこまで言うと八戒は手にしていたタオルをきつく握り締め、俯いた。

「今日は気候が落ち着いていたので久しぶりに3人でミミクロを庭に連れて行ったんです。最初は眩しそうに目を細めていましたが、微かに尻尾を振って自分からダンボールを出たんです。」

「・・・」

がそれを見て酷く喜んで、そんなを見て僕らも喜びました。それから暫く3人でミミクロを囲んでのんびりしていたんです。」

「・・・それから何故あんな状態になった。」

八戒も言うようににも覚悟はあったんだろう。
それなのに何故、アイツはあんなふうに泣いてるんだ。

「悟浄がタバコを一服しに、僕がお茶を取りに一旦家に戻ったんです。その時ミミクロはの膝の上で小さく欠伸をしながら、背中を撫でて貰っていました。気持ち良さそうに目を細めている姿を見て、僕も悟浄もホッとしながら取り敢えず家に入って・・・僕がお茶菓子を出そうとしている時、の悲鳴・・・とも思える声が聞こえました。」

「・・・死んだ、か。」

「・・・えぇ。慌てて庭に戻ると・・・さっきまで微かに揺れていた尻尾は垂れ下がり、が必死にミミクロの名を呼んでいました。すぐに悟浄もやってきて、の肩に手を置くと思い切り振り払ってミミクロを抱きしめていました。」

その時ふと悟浄の体にあった傷を思い出した。

「・・・あの傷はか?」

「えぇ・・・悟浄にも、僕にも触れさせてくれないんです。せめてミミクロを包もうと用意したタオルすら・・・渡せません。」

ようやく全てが見えてもう一度庭へ視線を向ければ、必死でを抱きしめようとしている悟浄の姿が見える。
その隣では悟空が必死な表情での名前を呼んでいた。

「あんなに小さな体が苦痛を訴えているのに・・・もう2時間近くあの状態です。」

「2時間・・・だと?」

驚きのあまり声を無くす。



たかが猫一匹にそこまで泣き続ける意味が・・・分からない。
野良猫だと言っていた、そして体質上飼う事も出来ない。
その上毎日世話をしているわけでもない、たかが猫のために何故そこまで泣く。



ふいにの泣き声が変わり、二人でそちらへ視線を向けると悟浄が庭の一角・・・日当たりのいい場所を手で掘っている姿と、何処からか綺麗な野花を摘んで手に持っている悟空の姿が見えた。の背中は絶え間なく震えていて、隣にいる悟空が手を伸ばそうとするがどうしてもその手がの肩に触れる事が出来ないでいる。
さっきまで天を仰いでいたの視線は、今度は膝で眠っている猫に釘付けだ。
両手は猫を抱いておらず、力なく地面に落ちている。

「・・・ちっ」

その状態に何も出来ないでいる自分が歯がゆくて、自然と出た舌打ち。
こんな場面、坊主をやってりゃ何度も見てきたクセして・・・何故俺はこんなにもはがゆい思いをしてるんだ。
そこへ両手を真っ黒にした悟浄がゆっくりこっちへやってきた。

「八戒、取り敢えずタオル・・・くれ。」

「随分・・・傷が増えましたね。」

チャンには言うなよ・・・」

「分かってます。これ・・・ミミクロのダンボールに入ってたタオルと、の好きなタオルです。」

「あぁ。」

悟浄は八戒からタオルを受け取ると、それを汚さないよう気遣いながらの元へ戻り、何か声をかけ猫の体をタオルの上に移動させた。
悟空の鼻をすする音が微かに聞こえる。白い猫を悟浄がタオルでくるむ前に悟空が何処からか取ってきた鮮やかな花を少し入れ、その上から花柄のタオルで包む。
そしてもう一度に声をかけ、微かにが頷いたのを確認してからその体を先ほど掘った穴へと移してゆっくり砂をかけ始めた。

「・・・三蔵、お願いがあります。」

「何だ。」

「ミミクロを・・・供養してやって下さい。」

「・・・」

「・・・お願いします。」

それだけ言うと八戒はの元へと向かって行った。
悟浄と同じようにに声をかけると、手が汚れるのも気にせずに白いタオルの上に悟浄と同じように土をかけていく。



の視線は相変わらず下を向いたまま。



ただ、先程までと違い・・・悟浄がの肩を抱くと素直にそれを受け入れた。
交代するように八戒がの体を抱きしめると、まるで人形のように腕の中で静かに泣いていた。

もう、声が出ないのだろう。
あれだけの勢いで泣き続ければ声が出なくなるのも当たり前だ。しゃっくりあげている小さな体が見ていて痛々しい。
小さくため息をついて一歩、また一歩とのいる方へ足を進める。



「俺が経を読むのは・・・」

――― 死んだ者のためじゃない。



そう呟くと俺は袂から数珠を取り出し、経を唱えた。
猫が哀れだとか、頼まれたとか・・・そんな事考えもしなかった。
ただあの震える小さな背中が、声が擦れるほどに泣き続けた・・・アイツの音にならない声が、俺に痛いほど伝わったからだと・・・。



俺の声が聞こえ始めた瞬間、の体がピクリと動いたと思うとそのまま止まった。
それがどうこう言うつもりはないが、確実にの泣き声は・・・無くなった。










短めの読経をすませた俺はやけに嬉しそうな顔をした3馬鹿を無視してとっとと家の中に入った。
家の中は珍しく色々な物が放置された状態で、どれだけ八戒が慌てていたのか手に取るように分かる。
机の上に放り出されている新聞を手に取り、椅子を出して何気なく開くと庭先の声が耳に届いた。

「・・・明日、綺麗な花を買いに行きましょう。」

「・・・ん。」

「ミミクロの好物もな?」

「・・・う・・・ん」

「俺!明日スッゲー綺麗な花、持って来る!!」

「・・・ん。」

微かに反応を返すようになった・・・か。
さっき迄の状態に比べれば幾分マシだな・・・って何で俺がそんなに心配しなきゃならん!
思わず手に取った新聞を握りつぶしてしまい慌てて手を離す。



時間がたつにつれの反応がキチンと返るようになった。
あいつ等の言葉にキチンと反応し、言葉を返すようになった。

「ちょっとあたし・・・ミミクロに渡す物、取ってくる。」

「大丈夫ですか?」

「うん、八戒達はミミクロと待ってて・・・」

「転ぶなよ?」

「大丈夫。」

サクサクと言う音が徐々に近づいてきた。
そして静かに扉が開く音がして顔を上げると、そこには真っ赤に腫れた目をしたが立っていた。
顔全体が真っ赤で、両手には微かに土が付いている。
恐らく涙を拭っていた手が地面についてその手に土が付いたんだろう。

・・・あまり顔を見ない方がいいか。

そう思って再び視線を新聞へ戻すと、軽く法衣を掴まれた。

「・・・何だ。」

顔を上げず声をかけたが、から何の反応も返らない。
に聞こえないよう舌打ちしながら顔を上げ、再び声をかけようとした俺の目に・・・の笑顔が映った。

「ありがと・・・さんぞ。」

泣き腫らした目は重そうで、声は擦れて微かな音にしかなっていない。
だけど俺が目にしたのは確かに彼女の笑顔だった。

「・・・ミミクロ、喜んで・・・る。さんぞ・・・に、お経・・・あげて・・・もら・・・っ」

引き攣る笑顔から再び涙が一粒こぼれた。
自然と伸ばした手はの後頭部に当てられ、そのまま小さな体を胸に抱きとめる。

「まだ泣き足りねぇのか。」

「・・・っくぅ・・・えっく・・・」

震える手が俺の法衣の袖の部分をぎゅっと掴んだ。
再び震えだした小さな肩を押さえ込むようにきつく抱いてやる。

「・・・今だけだぞ。」

俺がそう囁くと、は再び泣き出した。



あれだけ泣いてまだ泣けるのか、お前は。
そこまで泣いてくれるヤツがいた・・・ミミクロって奴は幸せだろうな。






どれだけ時間がたったのか、の泣き声が落ち着いたので腕を緩めた途端・・・の体が崩れ落ちた。

「っ!」

慌ててその体を支えると、目じりに涙をためながら規則正しい呼吸で眠りこけていた。

「・・・寝やがった。」

「ようやく寝てくれましたか?」

「っ!」

「あ〜ぁ三ちゃん役得。」

「良かった・・・もう泣いてないね。」

いつの間に全員が家の中に戻っていたのか、俺を囲んで全員がの寝顔を眺めている。

「お前ら何時の間に・・・」

「少し前から、ですよ。」

「三ちゃんが嬉そぉ〜にチャン抱きしめてる時から?」

「三蔵不気味なくらい優しい顔してた。」

プチンと俺の中で何かが切れた音がした。

「ほぉ〜・・・てめぇらずっと傍観してたってワケか?あぁ?」

を落とさないよう片手で支えながら懐から数珠以外のものを取り出す。

「今なら速攻で経を上げてやる!とっとと死ね!!」

「うわっ三蔵!チャンが落ちる!!」

「落とすかっ!!」

右へ逃げる悟浄へ昇霊銃を向ける。

「三蔵!が起きちゃうよ!!」

「ならとっとと死ね!!」

左へ回った悟空へ手近にあった灰皿を投げつける。

「皆さん落ち着いてください!ミミクロが怒りますよ!」

「「「・・・は?」」」

「今日はミミクロの命日なんですから、今日ぐらい大人しくしてください。」

そう言って微笑む八戒の腕には、いつの間に三蔵から奪い取ったのかが気持ち良さそうに目を閉じていて・・・その逆の腕には小さな白い玉が今にもこちらに向けてはなたれる寸前だった。



翌日、寺院の側の花を持った悟空を連れて悟浄の家を訪れた。
ついでに寺院の台所にあった鰹節をに差し出せば、酷く驚いた顔をして受け取った。

「・・・どうもありがとう、三蔵。」

そう言って笑ったの笑顔は、今までと何処か違って見えた。
それが何かと言われても分からないが・・・だが、俺の心に沁み込むような感じがしたのは気のせいではないだろう。





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57000hitをゲットされました なつる サンへ 贈呈

『うたた寝でヒロインを慰める、三蔵読経付?更に全員出演(笑)』と言うリクエストでした。
三蔵が読経するとなると半端な状況じゃないだろうと思っていたら・・・こんなシリアスな話になっちゃいました(TT)
甘い話を期待されていたら大変申し訳ない(汗)
しかも前半は思いっきりギャグですしね(笑)何あの猫の名前!?
八戒もビックリのネーミングセンスですね私ってば(苦笑)
それでもヒロインがどれだけミミクロを大切に思っていたか、そしてそんなヒロインを皆が気遣う空気が少しでも伝われば嬉しいです。
なつるさん、リクエストありがとうございましたv
少しでも楽しんで頂けると嬉しいです!
また遊びに来て下さいねvvv