日は沈み、また昇る






今日は朝目覚めた時から何かが違っていた。

「・・・ほぇ?」

「ナニチャンに抱きついてんだよっ!こっの馬鹿サル!」

「いいじゃん!悟浄はもうに会ったんだろ!!」

「だからってテメェがべったりくっついてる理由になんねェだろうが!」

いつものように目覚めて、着替えを済ませて扉を開けた瞬間・・・悟空の熱烈な体当たりに合い、それを引きはがすように現れた悟浄に背後からしっかり抱え込まれ ――― そのままいつもの口喧嘩が始まってしまった。

「大体テメェはいつもチャンにくっつきすぎなんだよ!」

「いいじゃん!」

チャンの迷惑も考えろってンだよ!」

それを言うなら後ろから悟浄に抱え込まれ尚且つ腰に悟空がくっついているこの状況、嬉しいけど・・・ちょっと動きにくい。
それに悟空がここにいるって事はアノ人もここにいるって事で、こんなに騒いでるといつものあれがそろそろ来る気がするのはあたしの気のせいじゃないよね。
そんなあたしの思いを肯定するような足音がだんだん近づいてきて、あたしが目を閉じた瞬間頭に軽い痛みが走った。

「「「っつっー・・・」」」

「いい加減にしろ!この馬鹿どもがっっ!」

「さ・・・三蔵・・・」

やっぱり三蔵もいた・・・それにしてはいつもよりハリセンが痛くなかった気がするなぁ。
それでもちょっと痛かった頭を撫でていたら、三蔵の怒りの矛先は何時の間にかあたしの背中に隠れている二人に向いていた。
って言うか何時の間にあたしを壁にしてるの?!

「てめぇらもこいつが来たくらいで浮かれてんじゃねぇ!」

「三蔵だって喜んでたじゃん!」

「・・・あぁ?」

が来たってジープが知らせに来たらすぐに悟浄ん家来たじゃん!」

「あっら〜そうだったの?三蔵サマ?」



三蔵何かあたしに用でもあったの?



「三蔵だってに会えて嬉しいんだろ?」

「素直じゃねぇなぁ〜♪」

「・・・おい、どけ。」

「ふ・・・え゛!?

ついさっき迄手に持ってたのはハリセンだったのに、今は・・・昇霊銃に代わってる。
いくら三蔵があたしに当てる気がないのはわかっていても銃口がこっち向いてると怖い。

「ちょっ!待てって!チャンに銃向けンなよ!」

「じゃぁてめぇが離れりゃすむだろうが・・・」

うわっうわわっ・・・シリンダー回ったよ。
蛇に睨まれた蛙宜しく脂汗を流しながら固まっていると悟空と悟浄が同時に三蔵に飛び掛り、そのまま手近の部屋に入って行った。
何を言ってるのかは聞こえないけど、あー・・・銃弾は飛びまくってるね・・・
悟浄の部屋の中で
暫く銃弾とバタバタ走る音が聞こえる悟浄の部屋をじっと見ていたらポンッと肩を叩かれて振り向くと、八戒がニッコリ笑顔で立っていた。

「おはようございます・・・。」

「あ、おはよう八戒。今日は朝から何だか賑やかだね。」

「・・・」

「三蔵と悟空が朝からいるのも珍しいし・・・って、もしかしてあたし起きるの遅かった?」

「・・・いいえ。」

「八戒?どうしたの、じっとあたしの顔見て・・・」



はっ!ひょっとして寝癖がついてるとか?
いや、それともヨダレの跡がついてるとか!?
部屋出た瞬間に悟浄と悟空に捕まったから鏡見てないんだよね。



慌てて顔中を手の甲でゴシゴシ擦り始めたら・・・八戒がくすくす笑いながらあたしの頭を撫で始めた。

「・・・は、八戒?」

「・・・すみません。あぁだなぁって思ったら何だか嬉しくて・・・」

「?」

「やはり貴女がいないと、物足りないですね。」



・・・ニッコリ笑顔でそんな口説き文句を言わないで下さい、お願いします。



思ってはいても八戒相手に口に出せるはずはない。
せめてこの赤い顔を見られないよう熱が引くまで俯いてようと思ったら、コツンと別の手に頭を叩かれた。
八戒の手は頭に乗ったままだし、悟浄は頭を撫で回すはずだから・・・この手は誰だ?
そう考えていたら、答えが頭の上から降ってきた。

「おい、邪魔だ。」

「ほぇ?」



あー、三蔵か・・・って三蔵!?
今、頭をコツンと叩いたのは三蔵なの!?
こっちに来て三蔵にそんな風に頭を叩かれた事あったっけ?
確かあった気もするけどそんなに回数は無かった気がする。

あまりの事に動揺しているあたしの側では何もないように三蔵が八戒と悟浄達の話をしていた。

「もう終わったんですか?」

「あぁ。」

「随分派手な音がしてましたが・・・」

「まぁな。」

「本棚とか倒れました?」

「あぁ・・・無駄にあいつ等が動いたからな。」

「あはは、悟浄片付け大変そうですね。日頃からマメに片付けるよう言ってるんですが・・・」

ハリセンで叩かれた上、銃口を向けられたらどんな人間でも必死になって逃げると思うけど・・・逃げおおせた上、片付けを余儀なくされている悟浄がちょっと可哀想。
俯いたまま考え事をしていたら再び頭を軽く叩かれて、今度はちゃんと顔をあげた。
そこで見たものは再びあたしを驚かせるものだった。

「・・・いつまでそうしているつもりだ、この馬鹿が。」

言ってる言葉はいつも聞いてる言葉と同じなのに、表情が全然違う。



・・・何?どうしたの三蔵!?
悪い物でも食べた?って言うかこれ夢!?



唖然とした表情で三蔵を見ていたあたしを見て八戒が小さく苦笑しつつ、肩を叩いてくれたのでようやく意識が元に戻った。

み、見慣れないもの見ると心臓に悪い。

「ほらほら二人とも、せっかくの朝食が冷めちゃいますよ。」

「あ、うん。」

「ったく、グズグズすんじゃねぇ。」

とか言いながら八戒も三蔵もあたしが歩き出すまで待っててくれてる。



・・・今日の天気は、雨なんだろうか???

居間へ向かう途中、チラリと窓の外を見たけど空には雲ひとつないきれ〜な青空が広がっていた。















朝食の準備が出来ている。って八戒が言ってたから、いつもの軽食を考えてたのに・・・何故こんなに大量の料理が並んでるんだ?



サラダにスープ、卵料理に肉料理、デザートに沢山のフルーツ。
焼きたてパンにフレンチトースト・・・とにかく目移りしそうなくらいの料理がテーブル狭しと並んでいる。
ちょっとした朝食バイキングに見えなくもない。

「八戒・・・今日は何かパーティでもあるの?」

「・・・まぁそんなとこです。さ、どうぞ座ってください。」

八戒が微妙な回答と共にイスを引いてくれたので席に着くと、自然と三蔵と八戒が隣に座った。
普段だったら三蔵は八戒の真向かいに座るのに・・・珍しいなぁ。

は紅茶ですよね。」

「あ、うん・・・あーっ!フォッションのアップルティーv」

カップに注がれた瞬間甘いリンゴの香りに気付いて声を上げる。

「えぇ、当たりです。これが一番好きですよね。」

「うんvうわぁ〜嬉しい!」

こっちでは中々売ってなくて、よく分からないメーカーのアップルティーを飲んでたんだけどやっぱりこれが一番美味しいよねぇ。
でも何処のお店にあったんだろう?

「八戒これ何処のお店にあったの?今まであちこち探したよね?」

「注文したんですよ。がメーカーの名前を覚えていたくれたので、お店の方もすぐ分かりました。」

「え!?わざわざ注文してくれてたの!?」

「はい。」

「・・・な、何か申し訳ない気が・・・」

「貴女が喜ぶ顔が見たかったんです。」

うわっ至近距離で笑顔っ!
今日は何だか三蔵を初め皆ちょっとおかしくない?
ドキドキしながらいれてもらった紅茶を受け取ると、八戒が席を立って台所へ向かった。



助かった・・・あのまま見つめられたら、イスに崩れ落ちたかもしれない。
――― 半分力抜けてるけど。



でもあたしがイスから落ちるよりも先に小さな台風が二つ居間に現れた。
・・・あ、なんか二人ともちょっと疲れてる。

「あー!!の隣取られた!」

「ちゃっかりしてやがる・・・。」

「悟浄、悟空大丈夫?何だか疲れてるけど・・・」

あたしの前のイスを取り合っている悟浄と悟空の二人に声をかけたんだけど・・・聞こえてないな、これは。

「二人とも、何時までも子供みたいに喧嘩しないで下さい。折角の料理に埃が入るじゃないですか。」

「「八戒・・・」」

「悟空、こちらの席にどうぞ。焼きたてのパン、置いておきますね。」

「おう♪」

さすが八戒、波風立てずに悟空を隣の席に誘導している。
この技を見習わないと、この二人の喧嘩は終わらないし最後には三蔵が出てきちゃうんだよね。










それから皆で遅めの朝食をゆっくり食べて、ようやくあたしは今日皆の様子がおかしい理由を知った。
普段どおりあたしは現代での生活をして寝てこっちにやって来たんだけど、なぜか桃源郷では一ヶ月時間が経ってたらしい。
今まで最長でも三日位しか間が開いた事なかったから、流石に悟浄と八戒の二人があたしに何かあったんじゃないかと三蔵に相談したりしていたと言うのを聞いた。

・・・逆の立場になって考えてみた。

もしもあたしが一ヶ月、こっちに来れなくて皆にようやく会えたらどうしただろう?
きっと悟空や悟浄に抱きついて、三蔵には怒られても何をされてでも笑顔でいて・・・そして八戒をじっと見つめてしまうかもしれない。
それは相手に好意を抱いているから、皆の事がとても大切だから・・・そういう行動に出るんだよね。





食事を終えても中々皆あたしの側を離れなくて、と言うか何処へ行くにも必ず誰かがついてきた。

台所へ紅茶を入れに行こうとすれば八戒が、
寝ているジープを起こしに行こうとすれば悟空が、
そして驚くべき事に庭の植木に水をやろうとしたら・・・三蔵が煙草を吸いながら一緒に庭に出てきた。
これにはちょっと・・・って言うか、真剣にビックリした。

そして今、日が落ちて肌寒くなってきたので部屋に上着を取りに行こうとしたら悟浄が無言で席を立ってあたしの後ろをついてきた。

「一ヶ月経ったのにまだ寒いんだね。」

チャンがいない時は気温高かったぜ、異常なくらい。」

「そうなの?」

「春が先に来たみたいだったな。」

「へぇー・・・」

何気ない会話をしながらタンスを開けて適当な上着を探していたら、頭の上からバサリとシャツが降ってきた。

「?」

「・・・良かったらドーゾ。」

微かに香る煙草の匂いと色からさっき迄悟浄が着ていたシャツだというのが分かった。



ま、また人の前で上着脱いで・・・!



「悟浄!むやみに服脱がないでって・・・」

頭に乗せられたシャツを手に持ち替えて悟浄の方へ差し出そうとしたら、それよりも先に悟浄に抱きしめられた。

・・・オカエリ。

「ご・・・じょう。」

微かに耳に届いた悟浄の声がやけに真剣で、上着を突っ返そうと振り上げていた手が自然と下に下りる。
そのまま抵抗せずに抱きしめられたままでいたら、悟浄がゆっくり体を離していつもの調子であたしの額を指で突付いた。

「ナーンテナ。やっぱ誰かサンが注意してくんねェと調子がでねェわ♪」

「かっ・・・からかったの!?」

「さぁ〜ねェ〜♪」

ニヤニヤ笑いながら腕を組んでいる悟浄は、いつもと同じあたしが視線のやり場に困るような格好で・・・それを見て顔を赤くしたあたしを見て悟浄がまた楽しそうに笑いながらあたしの頭をぐしゃぐしゃと撫で回した。

「ったく、ホント慣れねェな。」

「・・・っっ!もぉ〜怒った!!はっかーい!悟浄が
セクハラする!

悟浄の上着を羽織って大きな声で八戒の名前を呼ぶ。勿論問題発言付で。

「ちょっちょい待ち!!」

それに驚いた悟浄が慌ててあたしの口元を押さえようとしたから、伸ばされた手をするりと交わし廊下へ出ると・・・あたしの声を聞きつけた三人が不穏な空気をかもし出しながら悟浄の方をじっと眺めていた。





本当はね、悟浄がオカエリって言ってくれて嬉しかったんだよ。
もしもあたしが逆の立場で、皆にひと月ぶりに会えたら絶対そう言ってると思うから。
でも悟浄が突然そんな事言うから、ちょっとビックリしたんだ。



暫く会えなかった事
不意に会えなくなってしまった事を
皆がそんな風に思っていてくれるなんて・・・ちょっと嬉しいって言うと、不謹慎なのかな?





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54000hitをゲットされました ひーろ サンへ 贈呈

『いつものように目覚めたら何故か桃源郷では一ヶ月経過していた』と言うリクエストw
逆ハーで勝者悟浄のはずが、やっぱりあんな事になっちゃうのは・・・すみません(汗)
でも一番書きたかったのは最後の「オカエリ」のシーンです。
上着を上から被せて抱き寄せたのは、ちょっと照れたような恥ずかしいような顔を見せたくないっていう悟浄の照れ隠しですw←すみません、好きなんです(汗)
なんか何時にも増して謝ってばかりだな、あたしってば(苦笑)
ひーろさん、リクエストありがとうございましたv
少しでも楽しんで頂けると嬉しいです!
また遊びに来て下さいねvvv