水辺の戯れ
「暑いねぇ・・・」
「うん、暑い。」
季節はまだ夏になってないはずなんだけど、最近の桃源郷はちょっと湿度が高くて暑い。
日本の梅雨って言うか・・・梅雨明け?肌に貼りつくような暑さが気持ち悪い。
居間で溶けたアイスみたいに悟空と二人で机に突っ伏していた所へ八戒が麦茶を乗せたお盆を持ってやってきた。
「二人とも暑そうですねぇ。」
「八戒・・・暑くない?」
「僕ですか?えぇ、特に・・・」
この暑さでどうして長袖のシャツをキチンと着ていられるんだろう。
あたしですら今日は半袖のシャツ一枚だって言うのに・・・。
良く冷えた麦茶を悟空と二人で一気飲みして一息つくと、目の前の八戒はいつものようににっこり笑ってこう言った。
「それじゃぁ涼しい所へ行きましょうか。」
「んで!どーしてオレまで行かなきゃなんねーンだ?」
「目的地まで着いてきて言う台詞じゃありませんね。」
「有無を言わせなかったのは誰だっつーの・・・」
「八戒〜これも持って行くの?」
「えぇお願いします。ほら悟浄もそこのクーラーボックス持って下さい。」
「・・・あのなぁ。」
あのあと寝ている悟浄も起こして皆で近くの湖へやってきた。
ここは以前あたしがジープを運転して来た所から見えていた湖で、あの時は良く分からなかったけど近くで見ると結構大きい。
荷物を木陰に置いてからひょいっと湖を覗くと小さな魚が泳いでいるのが見えた。
「綺麗だね。」
水面に移った人影に向かって声を掛けると、八戒がにっこり笑いながら手に持っていた帽子をあたしの頭に乗せてくれた。
あ、ちょっと日がかげって涼しい。
「狭い空間にいるよりは外にいた方が気分もいいかと思いまして・・・」
「側に水辺があるだけで随分違うね。何か涼しい気がする。」
「喜んで頂けて何よりです。」
取り敢えず木陰に全員が集まって八戒お手製の軽食を頂いて、お茶を飲んだ。
八戒お勧めのこの場所は以前来た時と同様、全く人気が無く風通しもいい。
最初はぶちぶち文句を言っていた悟浄も今は草の上に寝そべってのんびり過ごしている。
八戒は側の木に寄りかかりながら持ってきた本を読み始め、ジープはその横で丸くなって気持ち良さそうにお昼寝してる。
あれ?悟空は何処行ったんだろう?
キョロキョロ周りを見渡すと、一人じっと湖を見ている悟空を見つけたのでそっと近づいた。
後ろに立っても気付かず、真剣な眼差しで湖を見つめている悟空を見てちょっとしたイタズラ心が沸いてきた。
そっと両手を伸ばして一気に悟空の背中を叩いた。
「・・・わっ!」
「うわぁっ!!」
飛び上がるように驚いた悟空を見て思わず吹き出した。
よ、予想を裏切らない反応!!
「何だか・・・悟浄かと思った。」
ほっと胸を撫で下ろした悟空の隣に腰を下ろして、笑いすぎて零れてしまった涙を拭く。
あー面白かった。
「ごめんごめん。で、何見てたの?」
「ん?サカナ。」
「お魚?」
「ほらっ!また来た。」
悟空が水の中を指差したのでじっと見ていると・・・さっきあたしが見たような小さな魚じゃなくて・・・う〜ん・・・いわしくらいのサイズ?が泳いでいるのが見えた。
「あれって食えるのかなぁ?」
「んーどうだろう。でも小さいから食べ甲斐無いかもよ?」
特に悟空の胃袋じゃあの大きさだと・・・何十匹必要なんだろう。
「俺捕まえてみる!は八戒に何か入れるもん貰ってきて!」
「え?」
言うが早いか悟空は上着を脱ぐとそのまま湖の中へ走り出して行った。
「ご、悟空!?」
「待てー!メシー!!」
悟空?湖を泳いでいるのは魚であってご飯じゃないと思うんだけど・・・。
それでも一生懸命魚を追いかける悟空の姿に異常な熱意を感じ、岸辺に投げ出された悟空の上着を取り敢えず拾って、木陰にいる二人の元へ戻った。
「八戒、何か捕まえたお魚を入れる物ある?」
「魚・・・ですか?」
本から視線を上げてあたしの顔を不思議そうに見る八戒。
ごめんね八戒、あたしにはご飯を追いかけて湖に飛び込む悟空を止める力は無かったよ。
「うん。」
「・・・ビニール袋くらいならあるんですけど。」
「それでいいよ。本当に捕まえられるかどうかわかんないし。」
「そうですね。それじゃぁ・・・」
そう言って八戒は荷物の中からビニール袋を取り出すとそれを二重にしてあたしに渡した。
「タオルもいっぱい持ってきていますから、も少しくらいなら中に入っても大丈夫ですよ。」
「ホント?」
悟空が湖に入って行ったのを見ていいなぁ男の子は・・・と思ったんだよね。
足だけでも水に浸けられればだいぶ涼しいし、気分も満足!・・・になるはず。
「タオル1枚持って行きますか?」
「うん!ありがと八戒v」
白いタオルと二重にしてもらったビニール袋を持って岸辺に戻ると、頭からつま先までびっしょり濡れた悟空が悔しそうな顔で岸辺に立っていた。
「あのサカナすっげー泳ぐのはえーよ!」
「まぁ相手はお魚だからねぇ。」
それにしても悟空から逃げるなんて中々根性のある魚だなって思ったのは取り敢えず置いといて・・・あたしは履いていた靴を脱いで岸辺からちょっと離れた所へ置くと湖にそっと足を入れた。
「キモチィ〜v」
一瞬水の冷たさで体が震えたけど、今日は太陽の日差しが強いので、慣れてくればちょうどいい。
目の前にいる悟空はと言うと、大きな目を皿のようにして再び獲物を探している。
「・・・見っけ!!」
「うわっ」
悟空が勢い良く走り出したせいで、少しだけ水が顔にかかった。
苦笑しながら悟空の背中を見つめ、八戒に借りたタオルで顔を拭く。
何か・・・いいなぁこう言うの。
家族で遊びに来てるって感じだよね。
お父さんとお母さんがいて弟がいて・・・ん?そう考えると八戒がお母さんで悟浄がお父さんか・・・言うと怒られそうだから止めよう。
何て考えてる時に悟浄の声が聞こえてビックリしてそっちを振り向いた。
思わずあたしが考えてた事聞こえたんじゃないかと思ったけど、どうも違うみたい。
言った事は聞こえないけど、また何か八戒に言われたのかな?
不安げなあたしに気付いたのか悟浄が手を振ってくれたので、あたしも手を振り返すと再び魚を追いかけて格闘している悟空の方へ視線を向けた。
相変らず悟空は時に走り、時に泳ぎ・・・一生懸命魚を追いかけている。
いい加減教えるべきだろうか、魚は大きな音を立てると逃げると言う事を・・・。
「サカナ捕まったのか?」
「悟浄。」
タバコを咥えた悟浄があたしの隣に腰を下ろしてビニール袋を覗き込んだ。
「・・・ゼロ?」
「うん。」
「ったくアイツ魚の取り方も知らねェのか?」
「三蔵がそんな事教えると思う?」
自分で言ってておかしいと思った。
三蔵が悟空に魚釣りを教える姿なんて悪いけど想像つかない。
悟浄もそう思ったのか、その話題についてはそれで終わりすぐに別の話になった。
「チャンは泳がねェの?」
「さすがにね。」
水着でも着てれば別だけど・・・悟空みたいに簡単に脱いで泳ぐわけにはいかないよ。
これでも一応女の子だしね。
タバコを手に持ち替えた悟浄がニヤリと笑ってあたしの顔を覗きこんだ。
「泳げない・・・とか?」
「誰かさんと違って一応泳げますよ?」
ワザとにっこり笑顔でそう言うと、若干悟浄の頬が引き攣った。
うわっあたし地雷踏んだ!?
「・・・へー、誰かサンってダレ?」
「えっ・・・いや、そのっ・・・」
じりじり距離を詰められて、思わず横へ横へと移動していく。
あ゛あ゛っやっぱりこの話題は地雷だったんだ!!
立ち上がって湖の中へ逃げればよかったんだけど、この時のあたしの頭は悟浄から離れる事しか無くて、次第に距離を詰められてついに腕を掴まれた。
「なぁ誰かサンって?」
「あ、あははははっ・・・だ、誰でしょうっ。」
しっかりと両手首を掴まれてしまって振りほどけない。
真っ直ぐあたしを見る悟浄の目はちょっと怒って・・・いや、まて、違うこの目は楽しんでる目だ!
「人の質問に答えない様なワルイ子にはお仕置き、だな。」
「え?」
と思った瞬間、ばしゃっと言う音が聞こえた。
「何しやがるっ!」
「に何してんだよ!このエロ河童!」
「悟空?」
ついさっきまで遠くにいたはずの悟空が膨れ顔ですぐ側に立っていた。
でもそれより気になるのは・・・隣の悟浄。
何でびしょ濡れなの?
その上、頭に空のビニール袋を貼り付けて・・・あー、魚を入れようとして置いてあったビニール袋に水入れて悟浄の頭から水かけたのか、悟空。
だから頭から水滴らせてるんだ。
「てっめーイイ根性してんじゃねェか、あぁ?」
「に触んなよ!このスケベ!」
そう言うと悟空は両手で湖の水を掬って思い切り悟浄に向かって掛けた。
さっきの水攻撃で既に頭はびしょ濡れだった悟浄は、今の攻撃で上半身は完全にずぶ濡れ。
プチッ と言う何かが切れるような音が聞こえたと思った瞬間、悟浄が着ていたシャツを投げ捨てて湖の中へ入って行った。
あ〜あ、悟浄のジーンズ水に濡れて色変わってるよ。
「待ちやがれこの馬鹿ザル!」
「にヘンな事してんのが悪いんだよ!」
「あぁぁ・・・」
目の前で繰り広げられる水かけ合戦。
止める気も参戦する気も無いあたしは、ただ呆然とその様子を眺めていた。
それにしても二人とも凄い勢いで水かけ合ってるなぁ・・・って側でのんびり見ていたのがまずかった。
お互い相手しか見えてなくて側にあたしがいるのをすっかり忘れていたようで、ヤバイと思った時にはすでに水があたしに向かってかけられた後だった。
「うわっ!!」
「「あ゛っ」」
つ・・・冷たい。
突然の事に目を瞑る事も出来ず、事態を把握できないあたしは呆然とそのまま固まってしまった。
今やあたしは全身ずぶぬれ状態だろう・・・多分。
手の甲で顔の水滴を拭いながら目を開けると、前髪から止め処なく水か滴り落ちているのが見える。
足元はさっきと変わらず水の中。
それなのに肩にも膝にも・・・全身で水を感じる事が出来るのは・・・何故?
「!大丈夫ですか?」
後ろから声を掛けられ、かぶっていた帽子の代わりにタオルが頭に乗せられた。
前髪をかきあげて後ろを振り向くと八戒がやけに驚いた顔をしてあたしを見ていた。
ん?八戒何か顔赤いけど、日焼けでもしたのかな?
そう言えば普段ならすぐに心配して来てくれる悟浄も悟空もこっち来ないで、立ち尽くしてるけど・・・何で?
頭にタオルを乗せたまま再び悟浄達の方を振り向くと、悟浄が慌てて悟空の頭を掴んであたしから目を反らさせるかのように180度体を回転させて水の中へ突き飛ばした。
「悟空!」
悟浄突然何してんの!?
慌てて立ち上がろうとしたあたしの手を八戒が止めたので、その姿勢のまま八戒の方を振り返ると・・・珍しいものを目にした。
「八戒?顔赤いけど・・・大丈夫?」
顔を覗き込もうとすると、八戒は無言で自分が着ていたシャツを脱いであたしの肩に掛けてそのまま後ろを向くと、珍しく小さな声で呟いた。
「あの・・・、服が・・・」
「服?」
言われてからようやく今の自分の格好に気付いて一気に顔が赤くなった。
「きゃぁぁっ!!」
悲鳴と同時に胸元を隠しながら八戒が掛けてくれたシャツで体を隠した。
「やだやだやだっ!エッチー!!」
「見せてんのはチャンの方だろ?」
「違うもんっ、見せてないもん!悟浄のバカ〜っ!!」
ニヤニヤ笑いながら何故か水面に浮いてしまっている悟空の体を掴んでこっちに向かってくる悟浄に水面の水を掬ってそっちに掛ける・・・届く筈無いけど。
さっき悟浄と悟空の水掛合戦に巻き込まれたあたしは、頭から水を浴びてしまった訳で・・・それだけならまだいいんだけど、今日のあたしの格好がまずかった。
暑いからと言って滅多にはかない薄手のスカートに、上は半袖のシャツを一枚着ていただけ。
って事は、嫌でも水に濡れた事で洋服の下が透けてしまったわけで・・・あたしは皆にそんな姿を見られてしまったって事で・・・あぁっ考えただけで恥ずかしいっ!
「、タオルです。」
悟浄と言い争っている間に八戒が大きなバスタオルを持って来てくれてあたしの体に掛けてくれた。
あたしはタオルをぎゅっと握り締めてポツリと呟いた。
「・・・見た?」
「えっ?」
「・・・八戒・・・見た?」
タオルで胸元を隠しながらじーっと八戒の顔を見ると、少し困った顔をして口元に手を持っていったまま視線を反らされた。
「やっぱり見たんだ。」
恥ずかしさのあまり目が潤んできた。
くーっ一生の不覚!って言うか・・・悟浄と悟空の所為よね、絶対。
そんな所へ悟空を小脇に抱えた悟浄が戻ってきて、あたしの耳元にポツリと呟いた。
「白よりもピンクの方がチャンに合っててオレ好み♪」
「悟浄!!」
拳を振り上げて悟浄に向かって行こうとした体を八戒に止められた・・・と言うよりタオルで体を包み込まれた。
「八戒?」
「・・・その・・・見えます。」
珍しく頬を染めてなるべくこっちを見ないようにしてくれている八戒の行為に、自分がどんな状態かを思い出した。
「お、お手数掛けます。」
「いえ。」
あたしは大きなバスタオルで改めて体を包み込むと、まるで貝殻に入ったカタツムリのようにタオルから顔だけ出して時折隣に座っていた八戒の顔を覗き見た。
八戒がこんなに照れるなんて全然思わなかった。
だっていつもあたしの事子ども扱いするから・・・いつも優しいから・・・。
だから恥ずかしいって思ったけど、八戒の意外な一面が見れてちょっと嬉しかった。
少しはあたしの事オンナだと意識してくれてるって思ってもいいのかな。
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9999hitをゲットされました めぐみ サンへ 贈呈
『悟空と一緒に水遊びをし、ヒロインの濡れ姿に動揺する八戒&悟浄』と言うリクエストでした。
動揺したのは八戒と悟空でした!!悟浄は逆にバッチリ見れてラッキーと思う余裕すらあるみたいです、今回は(笑)
ほら、悟空の視線を反らさせる余裕すらありますから(笑)
ってそれじゃリクエスト叶って無いじゃないですかっ!うわぁスミマセン(TT)
と、とりあえず今回はこんな所で許してやって下さいm(_ _;)m
しかしやけに長い上、八戒が偽者のように可愛らしくなってしまいましたが・・・
少しはリクエストに叶っているでしょうか!?ちょっと不安だったりして・・・(苦笑)
めぐみさん、リクエストありがとうございましたv
少しでも楽しんで頂けると嬉しいです!
また遊びに来て下さいねvvv
追記:この話にはオマケがあります。(+αの部分になりますね。)
話の中で悟浄が声を上げていた・・・そのシーンを書いてみましたので、興味のある方はこちらも読んでやって下さい。
物凄く短いですが・・・(苦笑)
