Moon Talk
「チャン、ちょっと♪」
「ん?」
夕食を食べ終えて食後のお茶をのんびり飲んでいた時、悟浄に肩を叩かれた。
「なぁに?」
「ちょっと庭行かねぇ?」
「・・・何で?」
悟浄が夜に外に連れ出すなんて・・・何か怪しい。
思いっきり不審な目を向けたら悟浄が指で後ろの窓を指差した。
「今日、月綺麗だろ。月見なんてどーよ?」
言われて窓の外に目を向けると、まん丸のお月様が綺麗に光ってた。
家の中から見る月も綺麗だけど、外で見たらもっと綺麗だろうなぁ・・・。
「チャン一人じゃ危ないからオニーサンがついてってやろうかと思ってサ。」
「何か別の意味で危ない気がするけど・・・」
「うっわぁー・・・悟浄ショック!」
ガックリ肩を落とした悟浄を見て慌ててその腕を掴む。
ちょっとした冗談、本気に取るとは思わなかったよっ!
「ご、ごめん悟浄!一緒に月、見に行ってくれる?」
「最初っからそう言えばイーの♪」
パッと顔を上げた悟浄の顔はイタズラに成功した子供のようで・・・騙されたと思いながらも悟浄に手を引っ張られるように庭へ向かった。
「おー、結構明るいな。」
外に出ると空には月だけがぽっかり浮かんでいて、その光を遮るような雲は見当たらなかった。
空を見上げながら手を引かれて裏庭まで行くと、悟浄は手に持っていたラジオを側の木に引っ掛けて何やらチューニングを始めた。
あれ?そう言えば台所で洗い物してた八戒に声掛けてないけどいいのかな?
何も言わないでいるとまた後で悟浄怒られちゃう気がするけど・・・。
頭上の月を見上げながらそんな事を考えていたら何時の間にか雑音交じりだったラジオからは綺麗なピアノの演奏が聞こえてきた。
「オッケー♪」
「ねぇ悟浄、八戒に何も言ってないけどいいの?」
「あ?」
「あたしひと言声掛けてこようか?」
「いーからいーから・・・チャンこっち来いよ。」
そう言われて壁に寄りかかって空を見上げていたあたしは視線を悟浄に向けて首をかしげた。
月明かりを浴びた悟浄の髪は、太陽の下で見るのとはまた少し違ってとっても綺麗だった。
強い赤のはずが月の光の所為で柔らかなピンク色に見える。
「別に取って食ったりしねェから・・・」
「・・・あっ、ごめん。」
思わず悟浄に見惚れちゃって呼ばれたの聞いてなかった。
慌てて駆け寄ると悟浄が急に姿勢を正してゆっくり右手を前に差し出して頭を下げた。
まるでダンスでも踊り始める前の挨拶のように・・・。
「ご、悟浄!?」
「踊ってみたかったんだろ?」
それは昼間悟浄と一緒にテレビを見ていた時の事。
その中でダンスホールで踊る男女の姿を見て思わず言った一言。
「・・・いいなぁ何か、お姫様みたい。」
「はぁ?」
「だってあんなに綺麗な服着て、優雅に踊ってるの見ると憧れない?」
「・・・そぉか?」
「いいなぁ・・・あたしもあんな風に踊ってみたいなぁ・・・」
「・・・待って悟浄っ!た、確かに!確かに踊りたいとは言ったけど、踊れるなんてひとっコトもっっ」
「だーかーら・・・オレに任せろって言ってんの。」
「え?」
そう言ってニヤリと笑った悟浄はオロオロしていたあたしの手を取ると、ギュッと握り締めた。
「踊っていただけますか、お姫サマ?」
ダンスなんてフォークダンスくらいしか知らないあたしだけど、悟浄に微笑まれてこんな風にお願いされて・・・できないから嫌だ、何て言えない。
握られた手をそっと握り返すと心のもやもやを全て吐き出すように大きく息を吐いた。
「・・・足踏んでも知らないよ?」
「大丈夫、オレに全部任せとけってv」
そう言ってウィンクをした悟浄に・・・今は全て任せよう。
とは言え・・・この体勢はかなり恥ずかしいかも。
「チャン・・・もーちっとオレの方に体くっつけてくれる?」
「う、うん」
今でも十分近づいてるつもりだけど、まだ距離が開いてるみたい。
良く考えればダンスをするって言うんだから密着する事くらい考えれば分かるのに、すっかり忘れてたよ。
「右手はオレの左手を・・・んーつり革掴む感じで掴んで・・・そうそう、で動いてる間、もしバランス崩しそうだったら思いっきり握っちゃってイイから。んで・・・」
「きゃぁっ!!」
思わず掴んでいた手を離して後ろへ下がる。
い、今悟浄あたしの腰に手、回した!?
「・・・チャン?踊るんだからカラダ、抱かせてね?」
わ、分かっちゃいるんだけど悟浄の右手が背中に回された瞬間、すっごく恥ずかしくて思わず逃げてしまった。
俯きながら再度悟浄の前に立って悟浄の左手にそっと右手を掛けて、そのまま悟浄の顔をチラリと覗き見したら・・・やけに楽しそうに見えたのは気のせい?
「そんでチャンの左手はオレの右腕に添える感じ・・・そ、これが基本のスタイル。ま、ホールドってんだけど取り敢えずここまでOK?」
「う、うん。OK。」
良くテレビやマンガで見るのと同じ体勢なんだけど・・・いざ自分がやってみると、相手が相手だからか物凄く恥ずかしい。
「あとはオレがリードしてやるから、何にも心配しなくていーゼ♪」
「そんな事言って後悔するかもよ?」
「しねェよ。んじゃゆっくり行くからな?」
そう言うと悟浄が言葉どおり曲に合わせてゆっくり動き始めた。
初めはどうしていいのか全然分からなくて、まるで小さな子供が始めてお母さんと手を繋いで歩くような感じだった。
でもその都度悟浄が次に動く方向へ軽く手を引いてくれたり、背中に回している方の手でリズムを取ってくれたり、声を掛けて教えてくれたりするおかげで暫くすると不思議な事にちゃんと動くようになった。
「だいぶ慣れてきたな。」
「な、何とかね。」
それでもまだ足元がおぼつかなくて、中々顔をあげる事が出来ない。
「ん〜でも結構スジいいぜ、チャンv」
「ほ、ホント?」
嬉しくて思わずパッと悟浄の顔を見たら・・・凄く優しい顔をしていて思わず足が止まった。
その瞬間目の前から上がる声。
「ってぇー!!」
「あっ、ああーっ!!ごめんっ!」
悟浄に見惚れて足が止まった瞬間、お約束のように悟浄の足を思い切り踏んでしまった。
「大丈夫悟浄?」
「っつー・・・褒めた矢先にコレかよ。」
「だからゴメンって・・・」
しゃがみ込んで足を押さえてる悟浄の踏んでしまった足をじっとみる。
暗闇で良くわかんないけど、悟浄サンダルだったよね・・・確か。
って事はあたし今、靴履いてるから確実に赤くなっちゃってるよねぇ。
「本当にゴメンね。」
「気にすんなって・・・なぁ、チャンひょっとしてオレに見惚れた?」
「え゛っ!」
「カッコイイだろ?」
至近距離でそんな事言われて赤くならない人がいるわけない!しかも・・・素直にうん何て・・・言えるわけないよぉっ!
そのまま硬直してたらあたしの頭の上に何か綺麗な布がふわりと落ちてきた。
「?」
「何だか楽しそうな事をしてますね。僕も混ぜていただいていいですか?」
「「八戒!」」
渡りに船!
目の前に差し出された八戒の手を何の躊躇いもなく取って立ち上がると、あたしの頭に乗せられていた綺麗な布を八戒が取って、
長さを調節するかのように端の方を少し折った。
「片づけを終えて戻ったら居間に二人の姿が無かったので・・・が悪い狼さんに連れて行かれたのかと思って焦っちゃいましたよ。」
「悪いオオカミ・・・」
悪くは無いけどオオカミって形容はあってる気がする。
「折角チャンと二人で楽しく過ごしてたのにナ。」
「こんな夜遅くを外に連れ出すなんて、非常識もいい所ですよ。」
「外って言っても庭だろ?」
「それでも何があるか分からないじゃないですか。」
あわわっ何だか雲行き怪しくなってきたぞ!!
うーん何とかこの険悪な雰囲気を崩せないか?
そう思った瞬間あたしの口から出てきたのは、コレ。
「えっとねぇ八戒!八戒も一緒に踊ろうよ!」
「僕も・・・ですか?」
「何ぃ!?」
驚きの度合いは違うけど二人ともやけにビックリしてる。
でもすぐに平静を取り戻したのは八戒で、いつものようににっこり笑顔で頷いてくれた。
「光栄ですね。」
「踊れんのかよ、オマエ。」
「誰かサンほどではないですけどね。一応基本くらいは知ってますよ。」
・・・桃源郷では社交ダンスは生活の基本になってるのか?
いや、そうしたら三蔵も悟空も踊れると言う事に・・・
踊るお坊さん。
思わず自分の思考が怖くなってしまって頭を振ってその考えを切り捨てる。
「そうだ、ちょっと失礼しますね。」
馬鹿な事を考えている間に悟浄は壁際へ移動してポケットから煙草を取り出してふてくされた顔して火をつけてた。
そしてあたしの前にいる八戒は、さっき持っていた白地に小さな花の絵が描かれた大きな布をあたしの腰に巻きつけると軽く結んでくれた。
「流石にドレスとまではいきませんが、少しは雰囲気あるでしょう?」
「うわぁ・・・」
嬉しくてその場でくるりと回ると、長いドレスを身につけているかのように巻きつけた布がふわりと踊った。
「ありがとう八戒!!」
「どう致しまして・・・それじゃぁ。次は僕とお願いしますね?」
そう言って微笑むとさっきの悟浄と同じように手を差し出してくれたので、あたしも調子に乗って布の端を両手でちょっと摘むとお姫様のようにお辞儀をした。
「とても可愛らしいですね。」
「ありがとうv」
悟浄に教えられた通り八戒と向き合ってホールドの体勢を作ると、今度は八戒のリードにあわせてゆっくり踊り始めた。
悟浄はどちらかと言うと力強くリードするって感じだけど、八戒は・・・無理なくリードしてるって感じ。
さっきとは若干身長や踊り方が違う事から戸惑っていると、八戒がクスクス笑いながら声を掛けてきた。
「、あまり緊張しないで音楽に集中してください。音楽を聴いてそれに合わせて体を動かして・・・が楽しむ事が一番大切ですよ。」
「・・・わ、わかった。」
八戒に言われたとおり肩の力を抜いて、ラジオから流れてくる音楽に耳を傾ける。
一生懸命八戒の足を踏まないように踊りながら、ちらりと八戒の顔を見たら・・・やっぱり悟浄と同じように凄く楽しそうな顔をしていて・・・それを見たあたしもつられる様に笑顔になってしまった。
「あーっ!疲れたっ!」
「でも随分上手になりましたよ?」
「チャン結構飲み込み早いな。」
「ホント?」
庭先にシートを引いてそこに座って皆で冷たいお茶を飲む。
あの後2人と交代でずっと踊っていたから足が棒みたい。
こんなに動いたの久し振りだよ!
「それにしても二人とも踊れるなんて凄いね。何処で覚えるの?」
「僕は・・・教会にいた頃、でしょうか。」
なるほど・・・教会って色んな事教えるんだなぁ。
それじゃぁ悟浄は何処で覚えたんだろう。
そう思って隣の悟浄の顔を覗きこむと口元に指を当てて内緒のポーズをとった。
「ヒミツv」
・・・悟浄が秘密って言うと何か色んな事考えちゃいそう。
「悟浄は飲み屋さんとか綺麗なお姉さんがいる所で教えていただいたんですよね?」
「バラすなって!!」
「一番得意なのは、やはりチークタイムとかですか?」
「だから言うなっての!!」
やっぱりお酒関係の場所か・・・でもこの場合その事実を知ってる八戒に驚くべきだよね。
暫く悟浄が何処でダンスを覚えたかって話で盛り上がったんだけど、急に悟浄が立ち上がるとあたしの前に手を差し出した。
月明かりが逆光になっていてその表情は良く分からない。
「ラスト、踊ろうゼ。」
「え?あ、うん。」
手にしていたお茶の入ったコップをお盆の上に置いて、悟浄の手を取って立ち上がる。
ホールドの形を取ってラジオの曲が変わった瞬間踊り始めた。
流石に慣れたなぁ・・・何て思いながら今日最後のダンスを踊っていると、悟浄に声を掛けられた。
「チャン。」
「な、何?」
「目線。」
「め、目線?」
「折角綺麗に踊れてンのに目線下がって、その所為で背中曲がってる。」
「え?そうなの?」
そう言われてもやっぱり足元が気になるんだよ。
さっきみたい踏んじゃったら大変だし、暗いから良く見えないし・・・。
何て考えてるの見破られたのか、悟浄があたしの耳元の顔を近づけてそっと呟いた。
「オレだけ見て。」
ビクッと体を震わせてゆっくりゆっくり顔を上げて悟浄を見たら、月明かりの中、珍しく満面の笑みを浮かべた悟浄と目が合った。
そのままあたしのは悟浄の赤い瞳に魅入られてしまったかのようにじっと悟浄を見ていた。
月明かりの中、初めて踊ったダンス
素敵な2人にエスコートされて、あたしは束の間のお姫様となった。
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9229hitをゲットされました 彩花 サンへ 贈呈
『うたた寝で悟浄と月明かりの下でダンス』そしてプチリクエストでVS八戒と言う事でしたので詰め込んでみました(笑)
ダンスのシーン・・・何となくうやむやでごめんなさい(TT)
何とか踊っている雰囲気を出したつもりですが、やはり私自身経験がないのでちょっと難しかったです。
二人と踊っているような空気が少しでも感じられれば嬉しいのですが・・・。
悟浄は俺に任せろ的リードで、八戒は一緒に楽しく踊りましょうってイメージで書きました。
リクエストが悟浄だったのでラストダンスは悟浄にしましたが、如何でしょうか!?
彩花さん、リクエストありがとうございましたv
少しでも楽しんで頂けると嬉しいです!
また遊びに来て下さいねvvv