A happy day







「お帰りなさい八戒!」

「ただいま戻りました。」

買い物に出ていた八戒が帰ってきたので、抱えていた荷物を受け取ろうと椅子から立ち上がって側に行った。
今日のご飯は何かな〜って言うよこしまな心を抱えながら。

、悟浄はどうしてますか?」

「悟浄?お昼ごはん食べた後、部屋に入って出て来ないから・・・また寝てるんじゃないかなぁ・・・多分。」

「そうですか。」

そう呟くと八戒は手に抱えていた荷物じゃなくて、ポケットに入れていたと思われる可愛らしい封筒をあたしの前に差し出した。

「なあにこれ?」

さえよければ今晩僕と一緒に夕飯を食べに行きませんか?」

「・・・え?」

「今日町内で福引をやってたんです。そこでディナー券が当たったので良かったら一緒にどうかと思って・・・」

「行く!行く行く!!八戒と一緒?」

「えぇ、僕と二人で。」

八戒と二人でお食事なんて夢見たいv思わず自分の頬を思いっきりつねる。

「痛い〜!!」

「夢じゃないですよ。ちゃんと現実です。」

くすくす笑いながらつねって赤くなったあたしの頬を八戒がそっと手で触れた。
あ、八戒のちょっと冷たい手が気持ちいい。

「それじゃぁ僕は買って来た物を片付けてきますから、その間に出かける準備をして待っていて下さいね?」

「え?でもまだ・・・」

あたしは部屋の時計を指差した。
針はまだ3時をさしていて夕飯を食べるにはどうみてもまだ早い。

「まだ3時だよ?」

「少し早めに出て、夕食の時間までその辺見て回りませんか?いつも買い物ばかりで他の物を見たりする余裕ないでしょう。」

「あ、なるほど!」

ポンと手を叩いて納得。八戒と買い物に行く時は必ずと言っていいほど大量に物を買う。
何故かと言うと突然現れる豆台風(またの名を孫悟空と言う)が気持ち良いくらいに家中の食べ物を片付けて帰っていくのだ。
見ている方が呆気にとられてしまうくらいに・・・ね。

でも食事の前のウィンドウショッピングなんて・・・それじゃぁ何だかデートみたい。
な〜んて考えすぎか、取り敢えず出かける準備してこよう。
くるりと踵を返して部屋に向かおうとしたら、何かに思い切り鼻をぶつけた。

「ひたひ(訳:痛い)」

「ふあぁ〜・・・チャンおはよ。」

「悟浄・・・おはよう。」

みぞおちのちょっと上の辺りを手で押さえて目の前に悟浄が立っていた。
大きな欠伸をしながらあたしの頭をいつものようにポンポン撫でる。
何だか撫でられるのは嬉しいんだけど、その都度身長が縮んでいく気がするんだよね。

「おや?お早いお目覚めですね。」

「な〜んか寝つけなくてナ。」

「でもちょうど良かったです。」

八戒の言葉を椅子に座って不思議そうに聞いていた悟浄が急に立ち上がった反動で、大きな音を立てて椅子が倒れた。

何?何が起きたの?

思わず部屋に向かう足を止めて二人の方を振り返る。

「な、何があった!?」

「別に何もありませんよ。いらないんですか?」

八戒が悟浄に差し出しているのは・・・お金。
八戒が悟浄にお金を渡す事ははっきり言ってあまりないと言うか・・・極稀。
そう言えば悟浄は宵越しのお金、持たないからお小遣いを渡すとすぐ使っちゃって困るって八戒が言ってたっけ?

「いや、いるよ!いるいる!!」

あぁぁ物凄い勢いで八戒の手から悟浄がお金を取ってる・・・怒られるんじゃないかなその態度。
何て思って見てたら八戒は満足そうに頷いてる・・・な、何故?

「それじゃぁ今日の夕飯はその中で遣り繰りして下さいね。」

「1枚2枚3ま・・・は?」

お札の数を数えていた悟浄の手がピタリと止まった。

「僕はと一緒に外で夕飯を食べてきますからv」

「ちょい待ち!オレは?」

「ですからそのお金でご飯を食べて下さいね?」

「何でオレだけ邪魔モン扱いなんだよ!!」

悟浄がお金を握っているのとは逆の手で思い切り机を叩いた。

「別に邪魔者扱いしているわけじゃありませんよ。悟浄に渡したそのお金があれば、僕らと一緒に夕飯を食べる事が出来ますよ?」

「え゛・・・って・・・何処に食べに行かれるんですか?」

お札と八戒を交互に眺めながら問いかける悟浄の声は驚きのあまり裏返り、尚且つ丁寧語。
その様子を噴出さないようソファーに突っ伏して笑いを堪えるのが精一杯のあたし。

「ほら、この間新しく出来たお店ですよ。」

「あ〜!あのバカ高い!!」

「えぇそうです。で、悟浄も一緒に行きますか?」

悟浄も一緒なのかな?皆でご飯食べに行けるとそれはそれで嬉しいんだけど。
じーっと悟浄の背中を見つめてその答えを待つ。
やがて悟浄が出した答えは・・・

「いってらっしゃいv」

「はい、行ってきます。」

さ、さすが八戒・・・悟浄の扱いを心得てる!思わず小さく拍手をしてしまった。

、用意できましたか?」

「あ、ちょっと待って待って!」

二人のやり取りを見ていた所為で準備が出来なかった。
八戒とお食事だもんね、ちょっとは身綺麗にして行きたい・・・それが女心ってもんでしょ!

「もう少し待って貰ってもいい?」

廊下の角から八戒の方を覗いて様子を伺う。

「時間は十分あるのでゆっくりでいいですよ。」

「ありがとー!!」

ごめんなさい、今から超特急で準備します!
八戒の声を聞いて慌てて部屋に駆け込むと、タンスの上に置いてあったブラシで髪を梳かし、サイドを取って後ろにまとめる。
あまり器用とは言えないあたしが出来るのはこんなことくらい・・・情けないけど。
滅多に塗らない口紅なんかもちょっとつけてみたりして(色的には色付リップみたいなものだけど・・・)カバンを手に部屋を出ると、既に準備を終えていた八戒がにっこり笑顔で手を差し伸べてくれた。

「それじゃぁ行きましょうか?」

「うん!!」










八戒と二人で町に出るのは凄く久し振り!
いつも買い物くらいしか一緒に出ないから、こうして何もなしに町を歩くのは凄く新鮮・・・と言うよりちょっと緊張する。
だって一緒に歩いてると、周りの人達の視線が八戒に向いてるのが良く分かる・・・しかもその多くは女性で年齢層はバラバラ。

「何だか凄くいい気分ですね。」

「えっ?」

突然八戒に声を掛けられて驚いたように八戒の方を振り返る。
身長差がある為、八戒の顔を見ようとするとあたしの顔はほぼ上を見上げるような形になる。
そんなあたしの顔を見て八戒はにっこり笑ってこう言った。

のような可愛らしい女性と一緒に歩いてるからですよ。」



・・・て、天然の殺し文句?



一気に体中の血液が沸騰して顔に集まる。
その様子が手に取るように分かるのか、八戒はクスクスと笑い始めた。
くーっこんな風になったのは八戒の所為なんだぞ!!・・・嬉しいけど、凄く。

「皆の事見てるんでしょうね。」

「いや、それは違うと思う。皆八戒を見てるんだよ。」

「僕・・・ですか?」

ピタリと足を止めて少し考えるような仕草で首を捻る。

「僕を見てもいい事なんてないでしょう?」

「それはあたしを見ても同じだと思うんだけど・・・」

「そんな事無いですよ。はこんなに可愛いんですから・・・」

そんな事言ってにっこり笑われたら・・・もう何も言えないって!

「ほら、露店見ませんか?」

「う、うん。」

八戒は人の気持ちを読むのが本当に上手くて・・・今もあたしが照れて困っているのに気付いたからすぐに他の物に目を向けさせてくれる。
でも、八戒と繋いでいたはずの手が何時の間にか自然と肩に回されていた事に気付いてしまったら・・・露店に並べられているアクセサリーが全部同じに見えた。
視界がクラクラしちゃってどれもこれも歪んで見えるんだよぉっ!!










結局あちこちの露店を見て歩いていたら何時の間にか時間が経っていて、半ば急ぎ足で本来の目的地であるお店へと向かった。

ついた先はあたし一人だったら確実に踵を返してしましそうな高そうなお店。
そんなあたしの気持ちを悟った八戒がそっと腕を差し出してくれたので、緊張しながらその腕に自分の腕を絡めてゆっくり店の中に入って行った。

全体的に照明は少なく、大人っぽい雰囲気の店。
テーブルに置かれた小さなランプの光が各テーブルを照らしていて落ち着いた雰囲気を作り出している。
席に案内されると八戒が椅子を引いてくれたので、恐縮しながら席に着くとビシッとした制服を着たウェイターさんがすぐにやってきて八戒と話をしていた。

もうお約束になってるけど、言ってる事は分からない。
八戒がメニューを開いてるから注文してるんだろうケド・・・料理名なんてさっっぱり分かりません。
八戒が注文している間に店の中をキョロキョロ見渡す。
この町にしてはと言うのも失礼だけど、高そうな調度品がいっぱいある気がする。
あぁだからか、悟浄が『あのバカ高い店』って言ったのは・・・。

「どうしました?」

「いや・・・何かすっごく高そうなお店で大人っぽい雰囲気だから・・・緊張しちゃって・・・」

「でもたまにはいいでしょう?こういう落ち着いた感じも。」

テーブルの小さなランプの向こうに見える八戒は、何だかいつもの数倍カッコよく見えて・・・あたしの心臓は今更ながらドキドキし始めた。

「このお店はつい最近出来たばかりなんですけど、料理が美味しいって評判なんです。」

「へぇ・・・誰に聞くの?そういう話。」

「そうですねぇ大抵買い物先の方とか・・・町内会長さんの奥さんとかでしょうか。」

さすが八戒、町内井戸端会議で仕入れるとは・・・侮れない人だ。



今日の食事はいわゆるフルコース。
多分・・・フランス料理?って言うのはあたしがちゃんとしたフランス料理を食べた事がないからはっきり言えないだけ。
でも前菜やスープが出て、主食でお肉も出たから・・・コース料理って言うのは確実!
最後に出てきたデザートは、大きなお皿に可愛らしく盛り付けがされていてフォークで崩してしまうのが勿体無い。
何処から食べようかとフォークを持って考えていると、ふと視線を感じて顔をあげたら八戒が机にひじを突いてその上にあごを乗せたままじっとこっちを見ていた。

「・・・八戒?デザート食べないの?」

「勿論あとで頂きますよ。」

「あとで?」

「えぇ、が美味しそうに食べている所を見てからゆっくり・・・」

部屋の照明が落ちている事にこれほど感謝した時はない。
八戒って無意識なのか故意なのか分かんないけど、たまに凄くドキってする事言うんだよね。
かと言って『じゃぁイタダキマス』と言って食べれるほどあたしの心臓は頑丈じゃない。
思わず手にしていたフォークをお皿の上に置いて、少し上目遣いで八戒の方をチラリと見た。

「おや?食べないんですか?」

「そんなにじっと見られたら・・・恥ずかしくて・・・その・・・食べれない。」

「いつも家では美味しそうに食べるじゃないですか。」

「それは・・・その・・・家だから。」

全く説明になっていない。
でも八戒はナルホドと言って小さく頷くと自分もフォークを手にしてデザートの皿に手をつけ始めた。
ホッとして再びフォークを持って自分もデザートを食べ始めた。
物凄く美味しかったけど、八戒が作ってくれるお菓子の方が・・・何だか温かくて美味しい気がした。





「あー美味しかった!」

「満足ですか?」

「もう大満足!」

美味しいご飯も勿論だけど、八戒と一緒にお出掛けしてご飯を食べて他愛無い話をして・・・そんな一日が過ごせた事に大感謝!

「八戒は?楽しかった?」

あたしは思い切り楽しんだけど八戒はどうだったんだろうと思い、家に帰る道すがら尋ねてみる。

「僕もとっても楽しかったですよ。」

「本当?」

「えぇ、可愛らしくお化粧をしたとのんびり町を歩いて、露店をいっぱい見て・・・レストランでちょっと緊張気味のが見れて・・・とても得した気分です。」

物凄く嬉しそうに笑う八戒なんて・・・あんまり見ないよね?

「・・・口紅、似合ってますよ。」

えっ!八戒気付いてくれたの?
殆ど塗ったのが分からないくらいなのに、自分でも落ちたのが分からないくらい薄いのに・・気付いてくれたんだ。

「今日は本当にありがとうございました。また一緒に出かけましょうね?」

「うん!」





そして二人仲良く手を繋いで家に帰ったら、居間のテーブルにカップラーメンの空の容器と大量の缶ビールの空き缶に囲まれた悟浄がぐっすり眠り込んでいた。
勿論翌日八戒に怒られるのは必須で、片付けも勿論やらされてた。
どうやらあのお金は全て賭場で使用して・・・全てすったらしい。
素直にご飯を食べに行くのが悟浄にとっての正解だったみたい。





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9200hitをゲットされました ゆっこ サンへ 贈呈

『うたた寝で八戒さんおいしい一日を過ごす』と言うリクエストでした。
取り敢えず二人きりの時間を作ろうと、突如福引を投入(笑)
八戒の事ですからきっと狙った物は確実に引く気がして・・・それで二人でご飯を食べに行って頂きました。
おいしい一日を八戒が過ごしてくれたかどうか・・・ちょっと謎ですが、如何でしょうか!?
食事のシーンより家にいるシーンの方が長いのがちょっと気になる所ですが、宜しければお受け取り下さい!!
ゆっこさん、リクエストありがとうございましたv
少しでも楽しんで頂けると嬉しいです!
また遊びに来て下さいねvvv






追記:この話にはオマケがあります。
八戒がペアディナー券をゲットする・・・その時のちょっとした小話!?です。
多分誰もが思っている事だと思いますが、宜しければこちらもどうぞ・・・。