地上で咲く花
「あれ?八戒これなぁに?」
買い物から帰ってきた八戒の荷物を一緒に片付けていた時に見つけた茶色の紙袋。
「あぁ・・・それはにお土産ですよ。」
「お土産?」
「えぇ、いつもよく行くお店の方が下さったんです。」
「・・・開けても、いい?」
「勿論どうぞ。」
八戒から了解を取って茶色い紙袋の口を丁寧に開け、中身を取り出すと・・・それは夏の風物詩とも言える花火だった。
「わぁv」
「こう言うの好きかと思いまして・・・」
「うん!好き!!」
それは夏になると良く売っている花火のセット。
量はそんなに多くないけど、いろいろな種類が少しずつ入っているタイプ。
嬉しそうに花火を眺めていたら、突然耳元で悟浄の声が聞こえた。
「おっ、花火じゃん。」
「うひゃぁっ!」
「んな、驚くなって・・・」
苦笑しながら手に空のグラスを持った悟浄があたしの頭をぐしゃぐしゃと撫で回す。
だって突然耳元で呟かれたら・・・何だか体の力抜けそうになるんだもん、悟浄の声って!!
少しはそういうの自覚して・・・るんだろうな、悟浄は。
分かっててやってるの分かってるのに動揺するあたしがまだまだ修行不足なんだよね。
そんな風にあたしが端っこで考えている間も二人は花火について話をしている。
「オマエが買って来たのか?」
「いいえ。いつも行く雑貨屋さんがオマケにってくれたんです。」
「・・・ほんっとオマエって色々貰ってくるよなぁ。」
「貰ってばかりじゃありませんよ。ちゃーんと買い物もしてますから。」
「オレが行っても何もくんねーゼ?」
「それは・・・やっぱり日頃の行いの所為じゃないですか?」
は、八戒・・・それは言いすぎじゃない!?とか思ったけど、あたしにはそんな事言う勇気はありません!ごめんね悟浄。
「はいはい、どーせオレは日頃の行い悪いですよー」
バタンと音を立てて冷蔵庫の扉を閉めた悟浄は、お替りのアイスコーヒーを持ってちょっぴり肩を落として台所を出て行こうとした。
そのまま悟浄が何処かに出かけてしまう気がして、慌ててシャツの裾を掴んで悟浄に声を掛けた。
「悟浄!」
「っと・・・ナニ?」
「えっと・・・その・・・今日は夜、家にいないの?」
「は?」
後ろの方でバサッて何か落ちる音が聞こえたけど、あたしは目の前の悟浄を引きとめるのに必死で後ろで何が起きてるのか分からなかった。
「だって一緒にやりたいもん。」
「・・・チャン?」
「だから、今日の夜は・・・」
家にいて一緒に花火をやろうね・・・って言おうとしたあたしの口は後ろから伸びてきた手に塞がれた。
その手の主は、勿論八戒。
何故か八戒は視線を目の前の悟浄に固定してあたしの方は見ないようにしている。
「悟浄?貴方が考えているような事、は一切考えていませんよ。」
「へ?」
「ですから貴方が頬を緩めるような事、が言うと思いますか?」
んー?八戒、何言ってるの?
あたしは夜悟浄と八戒と皆で花火やりたいから引き止めてるだけだよ?
他に意味なんて・・・。
と、今まで言った事を頭で反芻してから自分の言動の怪しさに気付いた。
「ばっ、バカヤロウ!オレがそんなヘンな事考えると・・・」
「考えてないと言えますか?」
「 あぁ。」
「それじゃぁ今日は外出しないで、ちゃーんと家にいて下さいね。が花火を楽しみにしていますから。」
そう言って悟浄の外出禁止を言い渡す八戒の声は、ほんのちょっぴり・・・冷たい空気を含んでいた気がしたのは気のせいだろうか。
そして夕飯を食べ終わったあたし達は、花火と小さなバケツを持って庭に出た。
昼間の日差しがない分涼しいけど、肌にまとわりつく空気は少し蒸し暑い。
あたしが花火の袋をバリバリ破って開けている側では、八戒が小さな入れ物にろうそくを立ててそこにいつもは煙草に火をつけるはずのライターで悟浄が火をつけていた。
「さて、どれからやりましょうか。」
「線香花火はやっぱり最後だよね。」
「んだよ、打ち上げとかねェの?」
「悟浄、いくらなんでもオマケに打ち上げ花火は入ってないと思うよ。」
「でも今度個別に買ってもいいですよね。」
「仕掛け花火とかナ♪」
縁側に置いた花火を広げながらそれぞれ自分がやる花火を選ぶ。
オマケと言うだけあって色々な種類はあるが、その本数は基本的に少ない。
線香花火だけは一束入ってるから量はあるけど、他のは1本か2本ずつしか入っていない。
「はどれがいいですか?」
「あたしは・・・取り敢えず普通のがいいかな。」
一番スタンダードっぽいヤツを手にして、次に二人が選ぶのを側で待つ。
「悟浄はどうしますか?」
「って、言われても何がどう違うのかわかんねェぞ?」
色々手に取って違いを見比べている悟浄だけど、どうもその見方が怪しい。
だって普通だったら持ち手の部分なんて見ないのに、悟浄ってば持ち手の部分ばっかり見てるんだもん。
「ねぇ悟浄、もしかして・・・こう言う花火って初めて?」
「・・・」
「そうなんですか?」
「・・・わりぃんかい!」
今日は月が時折雲に隠れるから暗くて良くわかんないけど、もしかしたら今悟浄の顔・・・赤いかもしんない。
「オレがガキの頃こんなもんやると思うか?」
「「思わない(思いません)」」
「・・・同時かよ。」
八戒と二人で同時に首を横に降ると、悟浄がガックリ肩を落とした。
そっか・・・悟浄にとって花火って言うと打ち上げ花火になるんだ。
「でもそれなら悟浄にとって、これが初花火だね。」
今だどれを手に取るか悩んでいる悟浄に、あたしは自分とちょっと色違いの花火を手にとって悟浄に差し出した。
悟浄はそれを受け取ると、いつもの不敵な笑みを浮かべながら楽しそうにあたしの目の前でニヤリと笑った。
「だからセンセ。手取り足取り教えてナv」
「っっ!?」
「はいはい、子供でも出来る遊びですから先生は必要ありませんよ。必要なのは・・・保護者だけです。」
気付けばあたしの背後に八戒が立っていて両肩に手が置かれている。
「悟浄が得意な火遊びは、別の女性とお楽しみくださいね。」
「・・・は、はい。」
「それじゃぁロウソクも溶けてしまいますから、早速花火を始めましょうか。」
「うん!」
「それじゃぁ、最初にどうぞ。」
八戒に言われてあたしは手に持っていた花火の先にろうそくの火をつけた。
じじじっと言う音を立てて、紙の部分がじりじり燃えて・・・すぐに火薬の部分に火が燃え移った。
ほんの僅かな時間だけど、手元が明るくなって綺麗な花火が暗闇に咲いていく。
「わぁ〜綺麗!ほらほら、見て!八戒、悟浄!!」
嬉しくてそれを手にしたまま振り向くと、柔らかい笑顔の二人がじっとあたしの方を見つめていて・・・ちょっと照れた。
赤くなりそうな頬を片手で押さえた瞬間、タイミングよく花火が燃え尽きた。
た、助かった・・・今日は顔が赤くなっても外は暗いし、花火の明かりが眩しくてそんなの良くわかんないよね。
「さて、それじゃぁ次は僕がやりましょうか。」
「八戒は何にしたの?」
「この銀色の物にしました。」
「あっ、大きな線香花火みたいなヤツ?」
「えぇ。」
八戒が持っているのは、手元が銀色の花火。
あたしは勝手に大きな線香花火って言ってるけど、バチバチと音を立てて燃えていくこの花火はあたしも大好きな花火だ。
ただ火薬が結構円形に広がって燃えていくタイプなので、小さい頃は自分で持つのがちょっと怖かった覚えがある。
「へー・・・ちっこいクセに結構タイプあるんだな。」
八戒が持っていた花火が終わった時、悟浄が感心したような声を上げた。
「多分悟浄のもあたしがやったのと似てるけど、またちょっと違うと思うよ。」
「んじゃ、初花火といってみますか♪」
気持ちちょっと浮かれているような悟浄がロウソクの火に花火を近づけた。
「あ、悟浄。」
「ンだよ。」
「「逆」」
さっきと同様、八戒と声を揃えて二人で悟浄の手元を指差す。
「へ?」
唖然とした顔の悟浄がロウソクの火に灯していたのは・・・普通なら持ち手となる部分。
あたしは八戒の袖を片手で掴み、もう一方の空いている手で口元を押さえ必死で笑い声を抑えた。
いくら『初花火』とは言え・・・こんなお約束のような事を悟浄がやるとは思ってもみなかった。
「その棒の部分じゃなくて、そちらの紙の部分に火をつけて下さい。」
八戒が言う通り悟浄が持ち手を逆に変えると、火薬に火が燃え移り今までとはまた少し色の違う綺麗な花火が暗闇に咲いた。
初の花火を静かに見ていた悟浄だったけど、燃え尽きるとそれをバケツに放り込みながら八戒に文句を言った。
「やっぱり先生いるじゃねぇかよ!!」
「いや〜、まさか火をつける部分を間違えるなんてお約束、やってくれるとは思わなかったんですよ。」
あたしも何も言わずコクコクと首を縦に振る。
とは言えあたしも小さい頃、どっちに火をつけていいか分からないタイプの花火で、持ち手に火を付けた事あるから何とも言えないけどね。
それから悟浄が選んだ花火は、火をつける部分をあたしと八戒が教えるようになったのは言うまでも無い。
「でもさ、大きな打ち上げ花火もいいけど、こう言うのも何だか家族で楽しむって感じでいいよねv」
新しい花火に火をつけながら何気なく言ったはずの言葉に、目の前の二人が動きを止めた。
それはまるで時間が止まってしまったかのような位、二人、同時に・・・。
「・・・あ、れ?あたし何かヘンな事、言っちゃった?」
あたしってばまた浮かれて調子に乗った事言っちゃったのかな?
二人とも火が消えてる花火持って何でじっとこっち見てるの!?
やがて動きを止めていた二人がお互いに顔を見合わせて同時に笑い始めた。
うわぁ珍しい・・・二人一緒に声出して笑ってるよ。
こんな状態になるなんて滅多にないので、どうすればいいのかオロオロしていたら、八戒が手に持っていた花火をバケツに入れてからいつものような笑顔を見せてくれた。
「打ち上げ花火よりも、と一緒にこうして花火が出来る事が嬉しいですね。」
「そう?」
「えぇ、何だかとても温かい感じがして・・・いいですね。」
そう言って微かな月明かりの下、微笑む八戒はいつも以上に穏やかな空気をまとっていた・・・気がした。
一瞬心臓が跳ねた気がして、微妙に引き攣った笑顔で頷くと今度は悟浄がポンッと頭に手を乗せたので、反射的にそっちを向く。
「花火っつーとでっかいのしか知らなかったけど、こーゆーのも結構いいな。」
「でしょv」
「やっぱ相手がいいから・・・か?」
そう言ってあたしの顔を覗きこんで笑った悟浄の顔は、思わず呼吸をするのも忘れてしまうほど・・・カッコよく見えた。
二人にそんな事言われて顔が赤くならないわけは無い。
瞬時に赤く染まった頬を両手で押さえて少し俯いたら、もう一度二人が声を揃えて笑い出した。
少し落ち着いてから残り数種類の花火を三人で分けて、最後に線香花火をやろうとしたんだけど、花火初心者の悟浄がまとめて束になっている線香花火に一気に火をつけてしまったものだから、情緒を楽しむ間もなく線香花火は終わってしまった。
勿論、後日悟浄があたしと八戒に言われ線香花火を個別に買いに行かされたのは言うまでも無い。
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8593hitをゲットされました みけねこみけ サンへ 贈呈
『八戒と悟浄+1匹でほのぼの』と言うリクエストでしたが、スミマセン・・・一匹消えちゃいました(TT)
本当はクリスマスネタを書こうとしたんですが、そうすると本年のクリスマスの時何書けばいいか私の少ない脳みそでは現在思いつかなかったので、夏の風物詩である花火ネタで書かせて頂きました。
でもほのぼのしているワリには、八戒VS悟浄になっちゃってる気もしますよね・・・ううっ(TT)
何だかちょっとリクエストからずれてしまった気もしますが、どうかお受け取り下さい。
みけねこみけさん、リクエストありがとうございましたv
少しでも楽しんで頂けると嬉しいです!
また遊びに来て下さいねvvv