The afternoon of caprice
「あ、三蔵」
「あぁ?」
通りすがりに名前を呼ばれた気がして振り向くと、そこには悟浄の家に預けたはずの悟空と・・・がいた。
「・・・何してる。」
「「買い物。」」
これじゃぁ何の為に預けてんだかわかんねぇだろうが!
声を揃えて手にしている紙袋を俺の前に差し出す二人に無言でハリセンを振り下ろす。
スッパーン!!
「「いっつ〜っ」」
「俺が戻るまで大人しくしてろって言っただろうが!こっの馬鹿猿!!」
「だっ、だって八戒に頼まれたんだよ。が一人で買い物に行くのは大変だから荷物持ってあげて下さいねって・・・」
ハリセンで叩かれた頭を擦りながら悟空が小声で呟いた。
「ゴメンね三蔵。悟浄がゴミ当番でいなかったし、八戒は別の用事があって・・・それであたしがお願いしたの。」
同じ様に頭を擦りながらペコリと俺に向かってが頭を下げた。
理由があるなら最初からそう言えば・・・こんな事はしない。
そんな俺の心中など知らないようにと悟空は何か話をしてお互い頷いたかと思うと小さな袋をが持ち、残りの荷物を悟空が抱えると勢い良く俺がこれから向かおうとしていた先に走り出した。
「先帰ってるから!!」
「・・・?」
「悟空がね、先に荷物持って帰るから三蔵とゆっくり来て・・・だって。」
「あぁ?」
「一緒に家、帰っても・・・いい?」
少し距離を開けて俺の様子を伺うように顔を覗きこんでくるは、何処からどう見ても年上とは思えない。
せいぜい悟空より年は上・・・と言った所だろう。
はぁ・・・と大げさにため息をついてから当初の目的地であった家へ足先を向け歩き始めたが、がついてくる気配が無い。
不思議に思って振り返ると先程俺に声をかけた場所で、まるで捨てられた子犬のような顔をしてじっと俺の方を見ていた。
・・・ちっ、全く手のかかる。
「・・・来い。」
一言そう言ってやると、はパッと顔を上げて此方へ向かってきた。
「♪」
さっき迄泣き出しそうな顔をしていたのに、今はすっかり笑顔で走ってくる。
馬鹿みたいに単純なヤツ、だな。
「うわぁっ!」
・・・ついでにおっちょこちょいだ。
両手で抱えるように袋を持っていた所為で足元が見えなかったのか、小さな小石に躓いたが俺に向かって倒れこんできた。
半ば反射的に手を伸ばしての体を受け止める。
見た目よりも細く、小さな体。
「ご、ごめん三蔵。」
「・・・・・・」
パッと体を離して苦笑するの顔が・・・見れない。
手に残っているのは柔らかな感触と温かな人の体温。
「三蔵?」
「今度は気をつけろ。」
「あ、うん。ホントごめん。」
僅かに高鳴る鼓動の意味も分からず、だがそれをに知られないよう先程と同じ様にの先を歩いた。
誰かと一緒に歩く機会が無かったわけじゃない。
悟浄や八戒と関わるようになってから、一人で出歩く事より誰かと出歩く事が増えた。
それ以上にが来てからは・・・他人と過ごす時間が増えた。
悟浄や八戒がを寺に連れてくる事があれば、俺があいつ等の家に悟空を預けに行ってその後一緒に食事をしたりする事もある。
元々静寂を好むはずの俺が、コイツといる時だけはその騒がしさも嫌ではない。
「・・・蔵」
何を話せばいいのかも分からんし、気を使うなんて面倒な事もしたくない。
「さんぞー」
ったく悟空のヤツ、何を考えてやがる・・・。
「三蔵ってば!」
法衣を掴まれた所為で進行を阻まれ、袂を掴んだ人間を振り返ると肩で大きく息をしている姿が目に入った。
何だってコイツはこんなに息を乱している。
「・・・足、速すぎ。」
俺が再び歩き出さないようしっかり法衣を掴んでその間に呼吸を整えている。
いつも一人で歩いているから誰かのペースに合わせるなんて考えた事もなかった。
「ちょっとだけ休ませて・・・」
大分疲れた様子で額の汗を手の甲で拭いながらこちらの様子を伺う。
「もっと早く声をかければよかっただろう。」
「かけたよ・・・でも三蔵何か考え事してたみたいで聞こえてなかったみたいだから・・・」
がそんなに呼んでいたのも聞こえないほど考え込んでいたのか・・・。
「うわっ」
大通りの真ん中で立ち止まった所為で、体格のいい男に背中を押され再びがよろけた。
倒れないようの腕を掴み、人の邪魔にならないような道の端へ移動すると壁を背にを立たせた。
「ここで暫く休め。落ち着いたら行くぞ。」
「うん・・・あ、ありがと・・・」
ふぅ〜っとため息をついてその場にしゃがみ込んだをチラリと眺めてから、俺も気分を落ち着かせるべく袂に入れておいた煙草を取り出しいつものように咥え火をつける。
コイツといるとペースが崩れてしょうがない。
一人ならもう悟浄の家にたどり着いている所だが、まだ距離的に1/3くらいしか進んでいない。
今日は八戒に夕食を進められる前に家を出て、寺に残してきた書類に目を通して・・・あぁ他にも確か各村から説法の依頼やら三仏神からの伝言もたまっていたな。
そんな風にこれからの事を考えている俺の目の前に、何故か半分に割られそこから湯気を上げている肉マンがあった。
・・・何だこれは。
不審に思いながらもそのまま肉マンを持った手をたどっていくと、今まさに肉マンに噛り付こうとしていると目が合った。
俺と目が合ったからか僅かに頬を赤らめながら咳払いをしてそれを誤魔化している。
「・・・おい。」
「ん?」
「何だこれは。」
「肉マン、だけど。」
そんな物見れば分かる!
俺は反射的に振り上げそうになるハリセンを堪え、怒りの為震える指で肉マンを指差した。
「なぜ俺の前にこんな物がある。」
「それは、一人で食べるより二人で食べた方が美味しいから・・・半分こ。」
その答えは如何にも彼女らしい答えだった。
「八戒がね行列の出来る美味しい肉マンのお店があるって教えてくれて、悟空と一緒に買いに行ったんだけどやっぱりこう言うのって温かい方が美味しいから・・・って三蔵?」
・・・コイツは本当に馬鹿だ。
煙草を手にしたまま俯いて零れそうになる笑いを堪える。
そんなもん一人で食えばいいだろう。
人にやらず、一人で味わえばいい。
だがコイツはそれを何のためらいも無く人に分け与える。
「えっと・・・三蔵肉マン嫌い?別のが良かった??あ゛ーしまった!他のヤツ悟空に先に持って帰って貰っちゃったんだ・・・。」
俺がいつまでも肉マンを受け取らないのを不満と取ったのか、手にしていた紙袋の中身をごそごそあさり始めた。
視線が外された今なら・・・俺の今の顔をこいつに見られる事は無いな。
「・・・!」
「・・・・・・」
の手から肉マンを受け取り、持っていた煙草の代わりに口に入れる。
一生懸命冷めないようにしていたのか、それはまだほんのり温かく感じられた。
「美味しい?ねぇ三蔵美味しい?」
「・・・あぁ。」
「えへへっ、良かった。家に帰ったら他の種類もあるから一緒に食べようね。」
「そうだな。」
俺の返事に気を良くしたのか、残り半分の肉マンについていた裏紙を剥がすと大きな口を開けてかぶりついた。
「デカイ口だな。」
「だってお腹空いてるんだもん。三蔵は知らないだろうけどね、ここのお店ほんっっとうに混んでたんだよ!並んでる間中美味しそうな匂いが漂ってて一生懸命我慢してたんだから・・・」
いいじゃん・・・と小声で呟きながらも先ほどより遠慮がちに、肉マンを食べ始めた。
天下の三蔵法師が道端でガキと一緒に肉マンを食べてる図・・・なんてのはお師匠様でも想像できなかっただろう。
道行く人間が時折物珍しそうな視線でこちらを見ているのに気付いたが、別に構わん。
食い終わって顔を上げるとちょうど目の前に小さな屋台があって、そこにある物が目に入った。
「おい、。」
「ん?」
「まだ腹に余裕はあるか。」
「え?」
不思議そうに俺の顔を見上げるに目の前の屋台を指差してそこにある物を教えてやる。
「美味い肉マンの礼だ。好きなもん買ってやる。」
「うっそ−!!!」
「俺は別に嘘でも構わんが?」
口元を緩めニヤリと笑ってやると、は慌てて首を横に振り俺の法衣を掴んだ。
「嘘!嬉しい!!ありがとう三蔵!」
満面の笑みを浮かべまるでエサを前にした悟空のようにはしゃぎながら屋台へ向かうに引き摺られるように歩く。
湯気のたつセイロの中からが選んだのは、普段悟空が頼まないような可愛らしい形をした小さな桃マン。
それと飲み物を二人分買うと、俺は再びと一緒に壁に寄りかかりながらそれらを食した。
「美味しいね三蔵。」
「・・・あぁ。」
「三蔵甘いの結構平気なんだね。知らなかった・・・」
「これくらいならな。」
ここにあいつ等がいればきっと目を丸くした事だろう。
俺がこうして微笑みながら立ち食いをしてる姿なんて見た事ないだろうからな。
食事は一人でするよりも二人で食べた方がいい。
一人で歩くよりも二人一緒にいるほうがいい。
たまにはこういうのも・・・悪くない。
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『三蔵が幸せになる(幸せを感じる?)ようなお話』と言う事でしたが、し・・・幸せ?(誰に確認してる?)
三蔵・・・否、玄奘三蔵法師様立ち食いの図。って通りすがりの人は信じられないでしょうね、きっと(笑)
いや、何となくこう言う日常のほのぼのとしたのって三蔵あまり味わってないんじゃないかなぁと思って書いたんですが、如何ですか!?
さて、10/5が忍さんのお誕生日と言う事でそれに合わせてUPさせて頂きましたvおめでとうございます!!
こんな物がお誕生日祝いになるのかどうか不明ですが、少しでも喜んでいただければ嬉しいです!
忍さん、リクエストありがとうございましたv
少しでも楽しんで頂けると嬉しいです!
また遊びに来て下さいねvvv