桃源郷温泉卓球大会(題字:八戒)
「やっぱ温泉といえばコレでしょv」
そう言って悟浄が持ってきたのは卓球のラケット。
「あーっ!卓球だ!!」
体を使う運動は苦手だけど、卓球くらいなら出来る。多分人並みに。
人間外の三蔵達に敵う敵わないは別として、こういうのは是非一緒に遊んでみたい!
「「やりたいやりたい!!」」
ん?今あたしが言ったはずの言葉に誰かの声が被った?
隣を振り向くとあたしと同じ様に手を上げて目をキラキラ輝かせている人が一人。
「・・・悟空?」
「俺もやりたい!卓球。」
「知ってんのかよ猿。」
「それぐらい知ってるよ!猿って言うなこの温泉河童!」
「あぁ?何なめた事言ってんだ、こっの茹で猿!」
手にしたラケットを武器代わりに暴れ始めた二人を余所に、あたしはマッサージチェアに座って気持ち良さそうに目を閉じている三蔵とビン牛乳の中身を小皿に移してジープに飲ませている八戒の方へ移動した。
「ねぇ八戒と三蔵もやるでしょ?」
一応二人の分のラケットを差し出しながら声をかけてみる。
「却下。」
う゛なんて予想通りの返事。
だよねー三蔵はマッサージしてもらってのんびりしてる方がいいに決まってるもんね。
しょんぼりしているのに気づいたのか、八戒がポンッと肩に手を置いてにっこり微笑んでくれた。
「楽しそうですね、一緒にやりましょうか?」
「「ちょっと待った!!」」
うんって頷こうとした瞬間、さっき迄ギャーギャー言い合っていたはずの二人が肩で息をしながらこっちにやって来た。
何をそんなに慌ててるんだ?
「ここは公正に対戦相手を決めようぜ。」
「うんうん。」
さっき迄喧嘩をしていたはずの悟浄の台詞に悟空が笑顔で頷く。
ホンの一瞬の間にこの二人に何が起きたんだろう。
第一回桃源郷温泉卓球大会(題字:八戒)
と言う垂れ幕をいつの間にか掲げ、簡単なルールも作られた。
その1。トーナメント戦である(敗者復活無)
その2。優勝者は願いを何でも一つだけ叶えて貰える。
その3・・・以外に対しては何をしても構わない。
「・・・ねぇ、その3のルールってこれルール?」
何をしても構わないって・・・何?
一応自分は対象外とされているけど、あたしの考えてる事がこのルールに適用されてたら・・・死人出ちゃうんじゃないの!?
「あぁ、ルールに追加が必要ですね。」
ポンッと手を打った八戒がマジックを手にするとルールその4を書き加え始めた。
その4。相手を死に追いやった場合は反則負け。
「これでも安心ですよね?」
「そ、そだね。」
八戒に返事をする時、どうしても返事が棒読みになってしまったのは・・・しょうがないよね?
と言う訳で、第一試合は八戒と悟空。
第二試合はあたしと悟浄、そして三蔵はシードと言う事であたしと悟浄の勝った方と戦う第三試合に強制的に組み込まれた。
「よーっし!いっくぞぉ〜っ♪」
「お手柔らかにお願いします。」
「キュキュキュ〜♪」
審判がジープってのも凄いよな。
でもジープだったらあの二人の攻撃のとばっちりも食わない・・・かな。
最初は両者とも普通に卓球をしてたんだけど、途中から悟空が如意棒を使って器用にボールを跳ね返したり卓球台を斜めにしたりして問答無用の攻撃をし始めた。
それを笑顔で受けるような八戒じゃない。
いつもと変わらぬにっこり笑顔で話術と気功を器用に使い分け、結局3点差で悟空に勝利した。
「くっそー!やっぱ八戒マジ強ぇ!」
「悟空も中々でしたよ。」
「・・・お、お疲れ様。」
卓球台の周りがやけにボロボロになっちゃってるけどいいの・・・かな?
旅館の人怒らない!?
二人の使っていたラケットはもう原型を留めていない上、ボールが何個殉職になったかも分からない。
ルールその3に自分が当てはまらない事を心の底から喜ぶあたしだった。
「ほんじゃ次オレとチャンだな?」
「うん。負けないからね!」
「それじゃぁこの試合の審判は僕がやりましょうか?」
「キュ!!」
八戒が審判になろうとしたら、珍しくジープが八戒の前に歩み・・・じゃなくて、飛び出してきて卓球台の側にちょこんと止まった。
「・・・八戒、ジープが審判やりたいみたいだよ?」
「そのようですね。」
「キュッキュキュ〜♪」
卓球は出来ないけど自分もゲームには参加したいのか・・・この試合の審判もジープがやってくれるらしい。
「サーブどっちから?」
「勿論、レディファーストでv」
軽くウィンクをしてボールを投げてくれた悟浄に思わず見惚れる。
そもそも皆が浴衣でいるって事も滅多に無いんだよね・・・あたしも今浴衣だけど。
八戒とか三蔵はキチンと浴衣を着付けてるけど悟空はさっきの卓球の後だからか着崩れてちょっと裾引き摺ってるし・・・悟浄にいたっては胸元肌蹴てるし・・・って見惚れてどうする!!
慌てて頬をペチペチと叩いて気を引き締める。
皆が相手で勝てる見込みは殆ど無いけど・・・ルール3がないだけ可能性は0じゃない。
絶対優勝して・・・この旅館の屋上にあるって言う高級貸し切り露天風呂、借りてもらうんだから!!
「行くよ悟浄!」
「どこからでも。」
久し振りの卓球だったけど、単純なスポーツだからゆっくりやってれば悟浄が打つ球も何とか返す事が出来た。
多分って言うか絶対悟浄が手を抜いてくれてるんだろうけど、今日はその余裕に乗せられたげるからね♪
「キュ〜♪」
声も出さずにぐっと拳を握り締める。
ようやく均衡が崩れ、悟浄を抜いた!!
「・・・チャンけっこーやるじゃん。」
「えへへへぇ〜絶対この勝負勝って、温泉入るんだもん♪」
「チャンの願い事は温泉なんだ。」
「うんv」
「・・・んじゃ、オレも本気だそーカナ。」
ニヤリと笑った悟浄が手に持っていたラケットを右手から左手へと変えた。
ただそれだけの事なのに、さっき迄緩やかだったサーブが恐ろしい速さに変わってしまった。
「キュッ。」
「ええー!嘘っ何で!?さっき迄とれたのに!!」
その時ふとある事を思い出した。
それは単行本についていたおまけ冊子の対談で峰倉先生が語っていた言葉。
“三蔵は両利き、八戒は右利き、悟空は足の指でも箸が持てる。悟浄は・・・”
「左利き・・・だっけ?」
「・・・アタリ。ワリィけどこの勝負、負ける訳にはイかねーのよ・・・オレ。」
火のついてない煙草を口に咥えた悟浄は八戒とは違うけどにっこり笑顔のまま次々ライン際に球を打ってきて・・・ついさっきまでの優しいボールに慣れていたあたしがそれを拾うことなんて出来なくて。
結局利き手に代わった悟浄からは1点も取れずに負けてしまった。
「くーやーしーいぃぃ〜っ!」
「はははっワリィねチャンv」
手に持っていたラケットをブンブン振り回して悟浄に不満をぶつけるけど、当の悟浄は楽しそうに笑ってあたしの頭をいつもと同じ様にポンポン撫でている。
くうぅ〜・・・こうなったら!!
クルリと踵を返して今だマッサージチェアーに座ってのんびりしている三蔵に後ろから飛びかかる。
「三蔵!」
「っ!」
マッサージの背もたれがあるとは言え、突然両肩に経文のように伸びてきたあたしの手に三蔵が一瞬眉を寄せ何か言おうとしたけれど、よっぽど泣きそうな顔をしていたのか体を起こしてあたしの話を聞いてくれた。
「・・・どうした。」
「三蔵!悟浄に勝って!!」
「何の話だ?」
「悟浄に卓球で勝ってぇ〜!!」
三蔵の浴衣を片手で掴んだまま、先程負けた悟浄を指差す。
今にも悔し泣きをしそうなあたしの頭を撫でながら三蔵が悟浄の方を見ると、鼻歌を歌いながら八戒題字のルールが書かれた紙を指差していた。
「高名な三蔵法師サマがこぉ〜んな遊び知ってるわけねェよな♪」
「何だと・・・」
「え?そうなの!?」
三蔵温泉好きそうだから絶対卓球とか強いと思ってた・・・でも違うの?
不安げな顔で三蔵を見上げると、ホンのちょっとだけ口元を緩めて笑うとあたしの頭をポンポンッと撫でてあたしが持っていた卓球のラケットを手に悟浄の前に立った。
「お前に負ける訳ねぇだろう。」
「へー・・・やった事あんの?卓球。」
悟浄がポンッと卓球のボールを投げると三蔵が器用にラケットで受け取り、水平にボールをラケットに当ててまるで剣玉の様に扱い始めた。
「生憎俺の師匠は無類の温泉好きでな・・・こう言った事もよく付き合わされた。」
その言葉を合図に三蔵VS悟浄の第三回戦は始まった。
「キュッキュ〜ッ!!」
「ジープ!この試合危ねぇから俺審判代わってやるよっ!」
悟浄の錫杖が卓球台の周りをぐるぐる回り、三蔵がボールを打ち返す合間に昇霊銃を連射する。
側の椅子に止まって審判をしていたジープも最初は軽く避けていたけど、流石にずっと続いていると体力が尽きてしまうのか、今にも銃弾に当たりそうなくらいギリギリで交わしている。
悟空の申し出を受けたジープは安全な観客席である八戒の防護壁の中にいたあたしの腕の中にヨロヨロと飛び込んできた。
「ご苦労様、ジープ。」
「きゅぅ〜」
「それにしても・・・凄い事になってますね、二人の試合。」
「・・・そうだね。」
悟浄の後ろに確か・・・立派な額縁に飾られた絵があったけど、微かに額縁のかけらが残ってるだけになっちゃってるし、三蔵の後ろにあったマッサージチェアーは・・・もう動く事は出来なそう。それに二人の間にあった緑の植木はあっと言う間に悟浄の錫杖に伐採されて根元しか残ってない。
「・・・ねぇ八戒。誰が弁償するの?あれって・・・」
「きっと負けてしまった人でしょうねぇ・・・多分。」
負けた人って言ったけど、一体いつ勝負がつくの?この二人の試合。
命がけで審判をしている悟空は、次から次へと飛んでくる銃弾や錫杖の刃の部分を器用に如意棒ではたき起こしながら白熱した試合の審判と誰にむけているんだか分からない実況を叫んでいた。
第三試合が始まって30分。
二人の試合はまだ終わらない。
「・・・ふあぁっ。」
昼間この辺をお散歩したりしてあちこち歩いたから結構眠いなぁ。
ずっと欠伸をかみ殺していたんだけど、どうしても耐え切れなくて欠伸をしたら・・・それをバッチリ隣にいた八戒に見られてしまった。
「・・・眠いですか?」
「ん・・・ちょっとね。でも二人の勝敗も見たいし、八戒との決勝戦も・・・見たいな。」
気持ちではそう思ってるんだけど、温泉に入って程よく疲れの取れた体は布団を求めている・・・みたい。
閉じかけた瞼を指で広げて今だ戦況が拡大しそうな試合を見ていたら・・・その手を八戒に取られた。
「ほぇ?」
「そんな事したらの可愛い目が痛くなっちゃいますよ。」
「んー・・・」
でもそうでもしないとこのまま寝ちゃいそうなんだよ・・・って言うのも難しいくらい眠い。
八戒が苦笑しながらあたしの頭をそっと撫でてくれて、丈夫そうな大きな柱の影にあたしの体を移動させると柱の正面に防護壁を作ってくれた。
「ジープ、をお願いしますね。」
それが・・・あたしが聞いた最後の八戒の言葉だった。
一瞬の閃光と轟音に驚いて閉じていた瞼を開けると・・・そこには大きな太い柱(一部欠けている)とあたしの体にピッタリ張り付いているジープ。
「・・・え?」
何が起きたのか分からなくて暫く目をぱちくりしていると・・・やがていつもと変わらぬ笑顔で近づく一つの影。
「お目覚めですか?。」
「目・・・は確かに覚めたけど、一体これは・・・どう言う事!?」
確かさっき迄そこで戦っていた・・・じゃなくて卓球勝負をしていた三蔵と悟浄の姿が無い。
ついでに言えば審判をしていたはずの悟空の姿も・・・。
「卓球もなにも無関係の勝負になりかけていてこのままじゃ旅館の方のご迷惑になっちゃうなぁと思って・・・場外乱闘で決着をつけて頂きました。」
・・・場外乱闘?
「一応一瞬止めには入ったんですが聞いていただけなかったので、僕も参戦して・・・」
本気の三蔵と悟浄の間に・・・八戒が参戦?
「どうやら残ったのは僕だけみたいですね。」
にっこり微笑む八戒の手には、多分元卓球のラケットだったであろう物が握られていた。
気功の勢いで丸い球を打つ部分は無くなっていたけれど・・・。
「・・・」
何だか現代と比べてあまりにもスケールの大きい“第一回桃源郷温泉卓球大会(題字:八戒)”に・・・あたしの頭はついていけなくなってしまったみたい。
「この場合誰が優勝者でしょうね、ジープ?」
あたしの腕の中で目を回していたジープの頭を指で撫でると、目を覚ましたジープが嬉しそうに八戒の指に顔を擦りつけた。
「キュッキュ〜♪」
「一応審判のジープの判断では僕、と言う事なんですがはいかがですか?」
「・・・ほぇ?」
至近距離で八戒に微笑まれて一気に目の焦点がそこへ集中した。
八戒の背後では倒れた柱や壊れた卓球台が転がっている。
しかも壁には大きな穴も空いてるみたい・・・ここ迄すごい事になってもこの場に残ってるんだもん、どう考えても八戒の勝ち・・・だよね、あのルール3を適用するなら。
その時ふと追加で書かれたルール4の存在を思い出して、慌てて立ち上がると崩れかけた卓球台の側に駆け寄った。
僅かに出ている人の手・・・恐る恐る突付くと、勢い良く瓦礫の中から茶色い頭が出てきた。
「ぷはぁっ!」
「悟空!」
「あ、!」
ニコニコ笑いながら体についた埃を払う悟空。
そしてちょうど卓球台の左右の位置に当たる部分の瓦礫が同時に動き、そこから悟浄と三蔵が姿を現した。
悟浄は埃でゲホゲホ咽てるけど怪我は無さそう。
三蔵はあたしと距離が開いてるはずなのに・・・眉間のシワが肉眼で確認できるほど機嫌が悪い。
・・・と言う事は、ルール4もちゃんと適用されてるから、この場合優勝者は・・・。
くるりと後ろを振り向いてジープを腕に抱いてる八戒を見た。
「・・・八戒が優勝だと思うよ。」
「それじゃぁ優勝商品を頂いてもいいですか?」
にっこり笑顔で悟空の側にしゃがみ込んでいたあたしの前に八戒がすっと手を差し伸べてきた。
その意味が分からなくて、取り敢えず立った方がいいのかなぁと思ってその手を取ると八戒があたしの手をそっと両手で包み込んだ。
「今日はジープと三人で一緒に寝ましょうね。」
「「「「は?」」」」
八戒以外の人間、勿論あたしも含め全員が疑問の声を上げる。
何!?今八戒は何を言ったの!?
「おや、僕はルール2を適用してるだけですよ?」
八戒が壁に貼ってあったルールを悟浄達の目の前で揺らしながら笑顔であたしの手を取った。
「勿論があちらの世界へ帰るまでですけどね。あぁそうだ、その前に埃だらけになった体をサッパリさせましょうか?ちょうど貸し切り露天風呂の予約時間になりましたからv」
「え?」
「それじゃぁ皆さん。後の事はよろしくお願いしますね。」
「キュ〜♪」
「ジープも広いお風呂久し振りで嬉しいですね。」
「・・・えぇ!?」
嬉しそうに屋上に向かう階段を上がる八戒と、嬉しそうな鳴き声を上げながらあたしの袖を掴んで八戒と同じ様に上に上がろうとするジープ。
一体・・・一体あたしはこれからどうなるの!?
追伸:屋上の貸し切り露天風呂はとっても広かったです。
八戒と入る・・・なんて事は無く、ジープと二人で一緒に入ってその後八戒が一人で入りにいきました。
そして同じ部屋で布団をくっつけて、ジープを間に挟んで三人で川の字になって寝る事が・・・八戒の望みだったそうです。
ちなみに他の3人は三蔵が支払い、悟浄と悟空があの散らかった戦闘場の片づけを一晩中していたとか・・・。
やっぱり本気の八戒は一番強い・・・って言うお話。
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44033hitをゲットされました 榊零 サンへ 贈呈
『うたた寝で温泉に行った時にやった恐怖の温泉卓球大会!!(逆ハー)』と言うリクエストで、とにかく何をやってもオッケー!
と言う事だったんですが、さすがに死人が出るとまずいだろうって事で、簡単なルールもつけさせてもらいました(笑)
ま・・・完璧ギャグで遊んでいます(笑)そしてやっぱり八戒は強いねって話(苦笑)
無駄に長い上、こんな風になりましたが如何でしょうか!?(ドキドキ)
零さん、リクエストありがとうございましたv
少しでも楽しんで頂けると嬉しいです!
また遊びに来て下さいねvvv