花天月地






雲ひとつない夜空に、眩しく輝く・・・月。

月 ――― それは、あたしが気になる誰かを思い出させる。






「・・・眩しい光、だけど目が反らせない。」

宮中に赴くだけで、女性の視線を集める。
・・・それだけじゃない、その華やかな雰囲気は宮中の殺伐とした空気すら和ませる。
きっとこの都で彼の名前を知らない人はいない。

「橘・・・友雅、殿。」

月に向けてそっと手を伸ばす。
こんな風に手を伸ばしても、決して手は届かない・・・そんな人だと思っていた。










日中は随分暖かくなったとは言え、深夜の空気は少し肌寒い。
冷たくなった手に吹きかける息は微かに白く、擦り合わせるようにしながら再び視線を空へ向ける。

「誰もが手に入れたいと望む光・・・」

「それは貴女の事かな、殿?」

突然背中から抱きしめられて一瞬思考が止まる。
夜も更けたこの時間に女房も従えず御簾の外に出たのを悔やんだけれど、その体から香る香に覚えがあった。
安堵とともに緊張をほぐすよう小さく息を吐いて、自分の背後にいる人物の名前を呼ぶ。

「・・・友雅殿。」

「約束の時間に少し遅れてしまったね。」

ぎゅっと抱きしめられ、耳元へ囁かれる声はいつもあたしを溶かす。
幼いあたしの何が気に入ったのかわからないけれど、ここ最近・・・友雅殿はあたしの屋敷に足を運んでいる。

「やれやれ、部屋で待っていれば可愛らしい手を凍えさせる事もなかったろうに・・・」

そう言うと友雅殿の手があたしの手を包み込むように覆った。
まるで、壊れやすい何かを柔らかく包み込むように・・・。
たったそれだけの事なのに、あたしの顔は一気に朱に染まる。

「っっ!」

「ふふっ・・・相変わらず可愛らしいね、殿は。」

「か、からかわないで下さい!」



振り払いたくても振り払えない。
だってあたしは・・・この人に、ずっとずっと憧れていたから・・・。



「からかってなどいないよ。ほら・・・大人しくしていなさい。まだ体がこんなに冷たいじゃないか。」

今まで自分がまとっていた香がなんだったのか、忘れてしまいそうになるほど・・・白檀の香りに包まれる。
どうしてこの人はこんなに・・・優しいんだろう。
後ろから両手を包み込まれたまま、チラリと視線だけを後ろに向けると・・・月明かりを浴びていつも以上に輝きを増している友雅殿がいる。

「・・・何をご所望かな、可愛い姫君。」

「え?」

「そんな風に熱い視線で見つめられては・・・私もどうすればいいか分からないよ。」

「そんな事・・・」

「君のその可愛らしい唇で・・・教えてくれないか、殿。」

包まれていたはずの両手はいつの間にか自由になっていて、
後ろから抱きしめていたはずの友雅さんは、その場に腰を下ろしていて、
あたしは、と言えば・・・いつの間にか友雅さんの腕に閉じ込められていた。

「その眼差しで何を見つめているのかな?」

「それは・・・」

貴方です、と言いたいけれど・・・それはちょっと悔しい。
だからあたしは視線を彼から外して、さっきまで見ていた月へ向ける。

「月を、見ていました。」

「月?」

「はい。月は・・・誰かと違っていつも同じ場所にいて、あたしを見ていてくれますから。」

「・・・」

さっきまで悔しいと思っていたのに、友雅殿の反応がないと気になる。
何かいけない事を言ってしまった気がして、月から視線を動かせずにいると・・・視線を遮るように扇が目の前に開かれた。

「?」

その扇はいつも友雅殿が持ち歩いている物で、以前一度持たせてもらった時に意外と重かったのを覚えている。

殿、私も月に負けず劣らず貴女を見ているつもりだが・・・まだ足りないのかな。」

「え?」

予想外の答えに驚いて、反射的に振り向くと・・・すぐ側に友雅殿の顔があった。

「私が殿を慕っていると言う事は、以前にも言ったはずだが・・・はぐらかされたままだったね。」

「だってあれは・・・」

女房が一度だけ友雅殿に引き合わせてくれて、その時友雅殿が言ってくれたけれど・・・それは誰にでも言っているものだと思ったから。










「初めまして殿、お噂は女房の光殿から伺っているよ。」

「え?」

「だがその噂でも・・・このように可愛らしい姿までは想像できなかったな。」

そう言って手の甲にまるで絵巻物に出てくる殿方が姫君にするように・・・接吻をくれた。

「以前より貴女を・・・お慕いしていましたよ、殿。」

身長の低いあたしの顔を覗き込むようにしながら微笑む友雅殿はとても優雅で、素敵な・・・男性だった。











そんな時に言われた言葉を信じるほど、夢を見ているわけじゃない。

「あれは誰にでも言っている事でしょう!?」

「そう取られてしまっても仕方がないかな、今までがそうだったからね。」

「じゃぁ・・・」

「だが、私が殿の元へ通いだしてから・・・一度もそのような言葉を他の女性に向けた事はないよ。」

その言葉に驚いて月に向けていた体をゆっくり、ゆっくりと友雅殿の方へ向ける。
いつにない真剣な顔・・・雲が出始めたのか、時折月がかげり友雅殿の顔が闇にとける。
再び月が出た頃には、私の前に開かれていた扇はいつの間にか閉じられていて、いつものように余裕の笑みを浮かべた友雅殿があたしの方へ手を差し伸べていた。

「・・・おいで、姫君。私の情熱は、君への思いを伝えるためにあるのだよ。」

「・・・う、うそ。」

「それを今から証明して見せよう。私が怖いかい?」

月明かりを浴びて微笑む友雅殿は、怖いくらいに綺麗で・・・一瞬その手を取るのを躊躇ってしまう。

「君が嫌がる事はしないと誓おう・・・おいで、殿。」

それでもその声で、その顔でそんな事を言われたら・・・その手を取らないわけにはいかない。



だってあたしは・・・あたしは、貴方の事がずっとずっと好きだったのだから。



震える手を友雅殿の手に乗せると、今度はまるで逃がさないとでも言うかのようにしっかり握られてしまった。

「キミがこうして私の手を取ってくれるのを、待っていたよ。」

「・・・っ」

「震えているのかい?」

「あ、当たり前・・・」

震えているのは体だけじゃない・・・声も、いつものカラ元気も出せないほど震えている。
あまりにも子供じみた自分の反応が恥ずかしいやら情けないやら・・・いつ、友雅殿に笑われるかと身構えていたのだけれど、一向に笑い声は聞えない。

「笑わ・・・ないの?」

「一体何を笑うというんだい?」

「だって・・・あたし、友雅殿に手を握られただけで震えちゃうほど子供なのに・・・」

「それだけ私の事を思ってくれているのだろう?」

「声だって・・・震えて・・・」

「掠れた声もまた愛らしいよ。」



・・・ダメだ、この人には何を言っても敵わない。



諦めて掴んだ手をギュッと握れば、友雅殿が腰を落としてそっと耳元へ囁いた。

「この言葉は・・・君へ捧げる為だけに存在しているのだよ。」

「・・・」

「愛しているよ、。」





涙が、零れそうだった。
ずっとずっと憧れていた人。
その人は、月のように眩しくて・・・誰もの憧れの人。

だけど今、この腕に抱かれているのは・・・あたしただ一人。



囁かれる言葉は、あたしのためだけの言葉。





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400hitをゲットされました まい サンへ 贈呈

一番最初にキリバンゲットを申告して下さったのに散々待たせた上、リクエスト変更・・・ヘタレ夢書きでホント申し訳ない(TT)
『とにかく友雅さんが口説く』と言うリクエストだったんで、私の愛も込めて頑張ってみました(笑)
あまりに頑張りすぎて、書いている自分の心臓も微妙にやばかったのは内緒です(苦笑)
開設当初から遊びにいらして頂き、今じゃ普通にメールをやり取りする仲になりましたv
今後ともラブラブで遊んで下さいね(←もうコメントじゃなくなってるし(笑)
たいっっっへんお待たせしました!まいさん、リクエストありがとうございましたv
少しでも楽しんで頂けると嬉しいです!
また遊びに・・・と言うか、また遊んで下さいねvvv