二人でお茶を・・・
「あっ、三蔵だ!!」
目を覚まし、いつものように着替えて居間に行くと三蔵が当たり前のようにテーブルに座り新聞を読んでいた。
テーブルには二人分の朝食が並んでいて、三蔵の前のお皿は既に空になっていた。
三蔵の前の席を引いて座ると、周囲を見渡していつもいるはずの人物を探す。
「そう言えば八戒は?」
悟浄はいつも昼頃まで部屋でぐっすり休んでいるのでいないのは当たり前。
でも八戒は必ず朝の挨拶をしてから行き先を告げて出掛ける。
勿論大体の帰宅時間まで告げていく・・・はっきり言って細かい、悟浄が八戒を口うるさいオフクロと言うのがちょっとだけわかる。
「アイツらには近くの寺まで行ってもらった。」
新聞をバサリと音を立てて閉じると、三蔵は目の前に置いてあったコーヒーを一口飲んだ。
「え?」
「・・・使いにやった。昼過ぎには戻る。」
「アイツ等って事は・・・八戒と悟浄?」
「あぁ、そうだ。ついでに悟空に餌を与えるよう一緒に連れて行かせた。」
「三蔵・・・エサは無いでしょ、エサは。」
「ふん、俺の勝手だ・・・おい。」
八戒の用意してくれた美味しい食事を食べようとフォークを持ったところで三蔵に声を掛けられた。
美味しそうなシーザーサラダまであと少しだったのに・・・。
まぁそれでも三蔵があたしの名前を読んでくれる事はあんまりないから、すぐに返事をする。
・・・ちょっと犬っぽいな。
「何?三蔵。」
「・・・」
あたしの目の前には、さっき三蔵が飲んでいたはずのマグカップが無言で置かれていた。
その中身はすっかり飲み干されて空になっている。
カップから視線を三蔵へ向けると、先程読んでいたのとは別の新聞をのんびり読んでいる。
あ、眼鏡かけてる・・・じゃなくって!
「三蔵!」
「何だ?」
新聞を読むのを邪魔された三蔵はかなり不機嫌そうにこっちを睨む。
うぅっ、逃げちゃダメ。頑張れあたし!
「コレは・・・どういう意味?」
あたしの目の前に置かれた空のカップを手に持って三蔵へ見せる。
「見てわからんか?」
「うん。」
三蔵は小さくため息をついてから当たり前のように言った。
「お替りだ。」
しーん
三蔵の言葉の後、思わずあたしは息をするのを止めてしまった。
確かに三蔵が自分でコーヒーを入れるなんてシーンは原作では一回も見たことが無い・・・と思う。
必ず八戒がお替りを入れていたし、八戒がお伺いしている事の方が多い。
でも、今台所にあるコーヒーメーカーに近いのは三蔵。
無駄だろうと思いながらも三蔵の背後に微かに見えるコーヒーメーカーを指差してみる。
「・・・後ろにコーヒーメーカーあるんだけど。」
「あぁ、それがどうした。」
それだけ言うと三蔵は再び新聞へと視線を戻し、その表情はさっぱり見えなくなった。
こりゃダメだ。
あたしは諦めて三蔵のカップを手に席を立つと、新聞を読んでいる三蔵の後ろを通って台所へと向かった。
台所はまるで使った跡が無いかのように綺麗に片付いていた。
八戒はいつも台所を綺麗に使っている。
洗い物が出ればすぐに片付けて、悟浄が深夜帰ってきて使ったコップなども一生懸命教育して(?)キチンと洗ってからカゴに置くようになっている。
「・・・どうして朝食を作ったあとなのにこんなに台所が綺麗なんだろう。」
不思議な気持ちでコーヒーを注ごうとコーヒーメーカーの前に行くと、既に作り置きは無く空になっていた。
「ありゃりゃ・・・」
八戒がいる時はいつもここにコーヒーが沸いていたのであたしはこれを使ったことが無い。
下手に機械をいじって壊したら大変なので、挽いたコーヒーに熱湯を注いでとりあえず三蔵にはそれで満足しといてもらおう。
多めに作っておけば三蔵がまたお替りを言っても大丈夫だよね。
そう考えてヤカンいっぱいに水を入れてからコンロの火をつけた。
あ、そうだ。またこんな事あると大変だから八戒が帰ってきたらコーヒーメーカーの使い方聞いとかなきゃ・・・。
「三蔵、今お湯沸かしてるからもうちょっと待ってて。」
「あぁ・・・」
あたしはお湯が沸くまで先程食べそびれた朝食を食べていようと思い席に戻った。
結構リラックスできてるな・・・あたし。
初めて三蔵に出会った時は、その威圧感に完璧に飲まれ蛇に睨まれたカエルだった。
外見のカッコよさに見とれてしまう事もよくあって、その都度三蔵に睨まれた。
ジロジロ見てるんじゃねぇ!って・・・。
滅多に2人っきりになる事は無い。
八戒や悟浄と違って同じ家で生活しているわけじゃないから・・・だからこうやってここへきてくれた時だけ、それも皆がいない時だけ・・・二人で過ごす時間がもてる。
「・・・そんなに見てて飽きねぇか。」
大きなため息と同時に三蔵が新聞を弱冠下げて、フォークを口に加えたままのあたしを見た。
無意識にあたしは食事の手を止めて三蔵を見ていたらしい。
慌ててフォークを口から抜いてお皿の上に置くと力なく笑った。
「あはははっ・・・えっと・・・飽きないよ。」
「物好きなヤツだな。」
「だって三蔵あんまり遊びに来てくれないから・・・だからその分見てるの。」
「馬鹿か、オマエ?」
「ひどっ・・・」
ピーーッッ
あたしが三蔵に反論しようとした所でお湯が沸いた。
「あ、お湯沸いた。三蔵もうちょっと待っててね。」
「砂糖はいらんぞ。」
「わかってます。」
台所に入るとヤカンの口がお湯が沸いたことを必死で告げる様に甲高い音を立てていた。
カルキ臭さを抜こうとヤカンのフタを開けて暫く様子を見る。
一分ほど経って火を止めると、さっとヤカンを持った。
「うわっっ・・・」
早くコーヒーを入れようと焦ったのがまずかった。
目いっぱいお湯を入れていたヤカンは予想以上に重く、フタを開けてカルキ臭さを抜いていた所為でヤカンの持ち手はまるで火の様に熱くなっていた。
「あっつ!!」
慌ててヤカンをコンロの上に戻そうとして手が滑った。
あたしがヤカンを押さえるよりも先に、バランスを崩したヤカンは熱湯と共に音を立てて流しの上に倒れてしまった。
「・・・っつ!!」
「おい、何バタバタやって・・・どうした!」
「あ、三蔵ゴメン。お湯こぼしちゃったからコーヒーもうちょっと待って・・・」
「そんな事どうでもいい・・・おい、手をどうした。」
熱くなったヤカンの取っ手を持った事と、倒れそうになったヤカンに手を伸ばしてしまった事であたしの手は少しだけ赤くなってしまった。
いわゆる火傷の初期症状。
でも三蔵に余計な心配をかけたくなくて反射的に両手を後ろに隠した。
「いや、別に、何も!!」
「馬鹿か、さっさと冷やせ。」
そう言うと三蔵は流しに置いてあったヤカンを横に寄せ、真っ赤になったあたしの手を掴んで水道の蛇口を捻った。
「いったー!!」
「ちっ、手間かけさせるんじゃねぇ・・・」
三蔵が背後からあたしの両手を掴んで、あたしの手を冷やしてくれてる。
こんなに近くに三蔵を感じるのは初めてで、自然と鼓動が早くなってくるのがわかる。
悟浄とは違うタバコの匂い。
八戒とは違う・・・細い指。
口は悪くても・・・優しい声。
ふと三蔵の手元を見ると法衣が水で濡れている事に気づいた。
「三蔵!法衣が濡れちゃうよ!」
「気にするな。こんなもん着替えれば済む。」
「でも、大事な物でしょう?」
「今はお前の方が大切だ・・・大人しくしてろ。」
・・・ずるいよ、三蔵。
そんな事言われたら、動けないじゃん。
それから三蔵がどこからか救急箱を持ってきてくれて薬を塗って包帯を巻いてくれた。
嫌って程大げさに巻かれた包帯はちょっと不恰好で、でも三蔵が巻いてくれた事が嬉しくって思わず巻いてもらいながらにやけてしまった。
やがて救急箱を置きに行った三蔵が戻ってくると、その手にあったのは・・・二つのマグカップ。
「砂糖はいるか?」
「三蔵がいれてくれたの!?」
思わず怪我をした両手を机についてしまって三蔵に怒鳴られる。
「怪我した手を悪化させるんじゃねぇ!いるのか、いらねぇのか!!」
「いらないですっ!ミルクだけで!!」
「持てるか?」
「持て・・・ます。」
嬉しい。
今まで色々なコーヒーを飲んだけど、三蔵が初めて入れてくれたコーヒーの味は絶対に忘れない。
そう思うと怪我したことも悪くない・・・って思った。
口にするとまた三蔵に怒られるから、絶対に言わないけど・・・。
戻ってきた悟浄達があたしの怪我に驚いて、三蔵が入れてくれたコーヒーを飲んでいる事に更に驚いて・・・いつもの騒ぎになった所で三蔵のいつもの声が部屋に響いた。
「煩いって言ってんだろうが!まとめて成仏させるぞ!!」
銃を向けられて逃げ惑う悟浄と悟空。
それを苦笑しながら眺めている八戒。
おろおろしながらどうする事も出来ないあたし・・・だけど、その顔はどうしても笑顔になっちゃって・・・。
三蔵の入れたコーヒー美味しかったよ。
また飲みたいなって言ったら・・・入れてくれるかな?
勿論、二人っきりで・・・ね?
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4000hitをゲットされました ヒロ サンへ 贈呈
『うたた寝で八戒さんのように甘いもの希望』と言うリクエストでしたが、如何でしょうか!?
ヒロインが悟浄と八戒の家に住んでいる関係で中々三蔵と二人きりになれないので・・・取りあえず使いに出してみました(笑)
何てご都合主義な・・・。
この話の目玉(?)は、ヒロインの怪我の手当てとその後珈琲を入れてくれる三蔵様です。
怪我の手当てなんて滅多にやらないから八戒のように綺麗なものでなく、ちょっとぐるぐる巻き状態を想像していただけるといいカモ。
それにしても三蔵様ってばどうして悟浄の家の救急箱の在り処・・・知ってるんでしょう?
ヒロさん、リクエストありがとうございましたv
遅くなりましたが少しでも楽しんで頂けると嬉しいです!
また遊びに来て下さいねvvv