人じゃなくとも、人並みに・・・
「なぁっ!これ落としたらマジやばいんだって!」
「そんなのあたしの知った事じゃないもん!」
「頼む!ノート貸して!!」
「えー!あたしだってようやく終わったのに!?」
は手にしている大学ノートを思わず胸に抱え込む。
いつもならしょうがないなぁと言って貸す所だが、今回の課題は・・・ちょっと違う。
と言うのも提出期限が近かった為、バイトの休憩時間を使ってコツコツと仕上げたものなのだ。
しかも・・・大好きな皆川がつきっきりで教えてくれたと言うノート。
「今度シフト変わってやるから、な?な?」
「う〜〜〜」
「ゴミ捨てもやるから!!」
「んー」
「どしたの?」
「「皆川さん」」
二人の間の影からにょっきり生えてくるように現れた皆川。
相変らずの神出鬼没さに胸を押さえる徳だが、は突然目の前に現れた皆川に頬を染めている。
「あの、徳がノートを貸してくれって言ってて・・・」
「あぁ〜ちゃんがこの間やっていた課題?」
「はい。」
皆川と一緒にやったからノートを貸したくないとはとても言えず、取り敢えずは口元に手を当てている皆川の返事を待った。
「・・・貸してあげたら?」
「「え?」」
それに驚いたのはよりも徳だった。
普段鈍感な徳だが、皆川がを気に入っているのは・・・肌でと言うか野生の勘で感じている。
と言うのも同じ大学の同級生であるにここのバイトを紹介したのは徳で、その関係でが徳に色々話しかけるたびに・・・覚えの無い胸の痛みや不吉な出来事が重なった為、流石の徳でも不用意にに近づくのを一時期控えたほどだ。
そんな訳でまさか皆川がのノートを借りるのに口添えをしてくれるとは全く思っていなかった徳はまさに盆と正月がいっぺんに来るくらいの大きな喜びを感じていた。
「ちゃんには僕がスペシャルデザート、作ってあげるから。」
「え?本当ですか!?」
皆川の事が好きなはそれと同じくらい皆川の作るデザートに惚れている。
皆川は目をキラキラさせているの手からノートを抜き取ると、それを側に立っていた徳に手渡した。
「はい、徳ちゃん。」
「あ、ありがとうございまス!助かりまス!!」
「・・・あんまりちゃんに触れないようにね、徳ちゃん。」
皆川がニヤリと口元を緩め黒い影を見せた事を知っているのは・・・ノートを受け取った徳だけだった。
「はい、本日のデザート。皆川特製まかないスペシャル〜♪」
「うわぁっv」
「ちゃんの好きなチーズケーキもオ・マ・ケ、しておいたからね。」
「嬉しいです!すっごい綺麗〜♪」
どれから食べようか目移りしそうなほど綺麗に盛られた器の前でスプーンを握り締めたを、目の前に座っていた皆川はいつもでは考えられないほど優しい目で見つめていた。
とても、とても愛しそうに・・・。
ようやく最初に食べる物を決めたが今まさにそれをスプーンで掬おうとした所へ、太郎が一冊のファイルを持ってやってきた。
「さん、休憩中すまない。」
「はい?」
今まさに真ん中に置かれているケーキを口に入れようとしたの手がピタリと止まる。
「この間注文してもらった皿の件なんだけど・・・」
「あぁ中皿ですか?」
「うん。さんがデザートの盛り付けを担当するお皿だから好きなのを選んで貰ったろ?」
「はい、周りに緑のラインが入ったお皿を選ばせて貰いました。その方がカスタードのソースが映えるかと思って。」
「そのお皿なんだけど、メーカーが製造を中止したと言う電話がついさっき入ってね。悪いんだけど至急他のお皿を選んでもらってもいいかな?」
「あ、はい。」
「一応カタログ持ってきたけど、これはこの間見たやつかな?」
皆川のデザートの横に持ってきたファイルを置くと、の視線は自然とそちらのファイルへ向く。
二人の視線がファイルへ向いている事をホンの少しつまらなそうに皆川が見ている事を・・・この時の二人は気付かなかった。
やがてファイルをパラパラと開いて確認していたが小さく頷いた。
「えぇこれはこの間見ました。」
「んーそこにはいいの無かったんだよね?」
「えぇ・・・ありきたりのお皿は使いたくないんですよね。折角フェアで使うんですから。」
「そうだな。俺もそう言ったセンスは無いけど、さんが選んだ物は素直にいいなぁって思ったから・・・あのお皿、本当に残念だよ。」
「でもすぐに代わりの物、見つけますよ。この間よりもっといい物を!」
にっこり笑うを見て太郎も自然と笑顔になった。
「期待しているよ。それじゃぁ新しいカタログが事務所に届いていたから持って来ようか。」
机に置いたファイルを手に持って踵を返そうとする太郎のエプロンをが慌てて掴んだ。
「いいですよ!私が取りに行きます。」
「でも休憩中だろ?」
机に置いてある飲み欠けのアイスティーと、まかないには不似合いな豪勢なデザートをチラリと見てから太郎は目の前のを見た。
「私の仕事ですから。」
キッパリと言い切ったの態度に太郎は何も言えなくなり、その代わりに小さなため息をつきながら交代時間になってもやって来ない同僚の名前を口にした。
「・・・真希にもその位責任感があればなぁ。」
「無理じゃないですか?」
それをあっさり否定するに思わず太郎が吹き出した。
「た、太郎さん?」
「いや・・・その、すまない。」
口元を押さえても零れてしまう笑みを隠すように太郎はの頭に手を置いてポンポンと叩いた。
「さんは本当にいい子だね。」
「は?!そ、そうですか?」
「あぁ。本当だよ。」
徳に紹介されてバイトに入った当初から色々指導してくれた先輩である太郎に褒められて喜ばない訳は無い。
は嬉しそうに笑うと太郎と一緒に奥の部屋へ向かい、そこに置いてある新しいカタログを数冊抱えて先程食べようとしていたデザートの前に戻ってきた。
しかしが座ろうとしていた席には何故か皆川がスケを膝に抱いたまま座っていて・・・飲み欠けだったはずのアイスティーは空になっていた。
「あれ?あたし全部飲んだっけ?」
カタログを机に置いてから空のグラスを手にして首を傾げていると、その手を誰かに掴まれた。
「お仕事、終わったの?」
「みっみっ皆川さん!?」
掴まれた右手を拠点にの体がどんどん熱くなっていく。
「お仕事、終わった?」
「あっ、いえ・・・その・・・まだですけ、ど。何か御用ですか!?」
掴まれた手からこの鼓動が聞こえないかと言うくらい緊張しているの手を引いて皆川は隣の席にを座らせた。
力が抜けて皆川のなすがまま状態になっているは取り敢えず席に座ると今だ手を手を離してくれない皆川の方を見つめた。
いつもと同じ表情、だけど何だか少し雰囲気が違う。
がそう思ったと同時に、目の前に小さく切ったケーキが差し出された。
「?」
「あーん。」
「・・・え?」
「ほぉ〜ら、お口開けて。」
「えええっ!?」
椅子から立ち上がるほど驚いたけれど右手をしっかり掴んでいる皆川の手は緩む事が無い。
「ちゃんの為に作ったんだから、ね?」
「あのっそのっ、皆川さん!?」
「あーん。」
「にゃぁー」
皆川の声と同時にスケキヨの鳴き声が聞こえて思わず視線を落とすと、そこには小さな口をまるでにこうしろと言うかのように開けて見せているスケキヨがいた。
一人と一匹にそうされては逃げられるはずも無い。
ましてやその相手はカフェ吉祥寺の最強の人間、皆川ひふみだ・・・そしての想い人。
覚悟を決めて口を開けるとフォークにさしたケーキを皆川がの口へと放り込んだ。
それはの大好きなチーズケーキ。
さっき迄の恥ずかしさは何処へやら、皆川の作る絶品ケーキを食べると自然と笑顔になる。
「それじゃぁもうひと口、あーん。」
「あーん♪」
ケーキの美味しさに騙されて二口三口と皆川に食べさせてもらっていると、やがてその手がピタリと止まり、そこでようやくの視線が正面から皆川の方へと向いた。
「・・・ちゃんは無防備だねぇ。」
「え?」
皆川の視線がの後ろをチラリと見たかと思うと、そのまま唇をの頬に当てた。
「!?」
「太郎ちゃん?いくら可愛くても、を独り占めできるのは僕だけだからね。」
ふふふふ・・・といつもの怪しい笑みをその場に残して席を立った皆川の後に残されたのは、頬を押さえて自分の身に何が起きたのか分からず硬直していると別のカタログをに手渡そうとして声をかけ様とした体勢のまま固まっている太郎の二人だった。
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36436hitをゲットされました はにゃ サンへ 贈呈
『太郎に嫉妬する皆川さんv』と言うリクエストで、ヒロインは徳ちゃんと同じ体育大生ですv
って言うよりこのタイトルに問題ありだと思うのは私だけですか!?
人じゃなくとも→これは皆川さんが人じゃない事、表してるでしょ?
人並みに→これは皆川さんが人間並みに嫉妬してるって事!?
何処をとっても頭を捻る問題。そして・・・不必要に出てくるスケキヨ(笑)←好きですv
私の中で皆川さんはこーんな感じらしいです(苦笑)
でも久し振りに書いたカフェ吉、楽しくかけて嬉しかったですv(徳と太郎ちゃんは不幸だけど)
はにゃさん、リクエストありがとうございましたv
少しでも楽しんで頂けると嬉しいです!
また遊びに来て下さいねvvv