Reason and Reality
「あーノド渇いた〜っ」
ちょっと部屋の掃除をして埃だらけになった体と汗を流すべくシャワーを浴びたら、更に暑くなっちゃった。
ここのシャワーの温度設定って微妙に難しいんだよね。
うう・・・うちのシャワーが懐かしい。
ペタペタ裸足で居間へ行けば、氷の浮かんだピンク色のジュースが机の上に置かれていた。
「あっ、美味しそうv」
ピンク・・・ピンクグレープフルーツ?
お風呂上りでノドがからからだったあたしはそれが誰の物かも考えず、さっさと手を伸ばしてグラスに口をつけた。
「あ゛」
ゴクゴクと喉を鳴らして飲んでいたら、ピーナッツとソーセージを手に持った悟浄が口を大きく開けてあたしを指差してるのに気付いた。
「?」
その様子からこれは悟浄が飲もうとしてた物だって言うのが分かったんだけど、勢いは止まらない。
結局飲み干したグラスを机の上に置いてから悟浄に声をかけようとしたら、心臓が一回大きく跳ねて目の前の悟浄が急にぼやけた。
あれ?あたし・・・この状態知ってる、もしかしてこれ・・・お酒だったの!?
賭場でボロ負けしたヤツから負け金の代わりに珍しい酒を貰った。
いつもなら酒に関してはオレ以上に強い八戒と一緒に飲んだりもするが、今日貰った酒は小さなボトル。
こんなのアイツと飲んだらあっと言う間に無くなって味見も出来なくなっちまう。
だから八戒のヤツが外出してる隙に飲んでやろうと思ったらつまみがない事に気付いた。
折角の珍しい酒、どうせなら美味いつまみと一緒に飲もう・・・と台所をあさって戻ってきたら美味そうに酒を飲むチャンがいた。
「あ゛」
よっぽどノドが渇いてたのかオレの視線を受けながらもゴクゴクと酒を飲み続けている。
けっこーいい飲みっぷり・・・何だよ、チャン飲めるんなら誘えばよかったな。
そう思いながらチャンが飲みきるのを待って、声をかけるタイミングを計ってたら・・・急にチャンの目がグルグル回り始めて顔が一瞬にして真っ赤になった。
そのままフラフラと床に座り込んじまったからオレは慌てて手にしていたつまみの皿をテーブルに置いてしゃがむとチャンの肩を掴んだ。
「おいおい大丈夫かよ。」
「ほ〜ぇえ?」
まさか・・・ナ。
「・・・チャン?」
「ごーじょう〜?」
オレの名前を呼ぶチャンの声はいつもの元気な声じゃない。
何処と無く・・・ろれつが回っていない、たどたどしい言葉。
「あの、チャン?ダイジョ・・・」
オレが心配してチャンの頭をいつものように撫でようとしたら、急に首に手を回されてチャンがギュッと抱きついてきた。
「ごじょーv」
「へ?」
余りに突然の出来事にオレの頭と体は一瞬固まってしまった。
元々チャンは今時珍しいくらい純なオンナの子で、何も言わず抱きしめれば体を硬直させちまうし、手に触れるだけでも顔が真っ赤になっちまう。
それはそれで可愛いし、あまりに珍しい反応だからオレも面白くてチョッカイ出すんだけどたまにやり過ぎて八戒に睨まれる・・・って事が良くある。
でも触れられる事自体はどちらかと言うと好きらしく、頭とか撫でてやるとすっげー可愛い顔して笑うんだよな。
見ているこっちが嬉しくなるくらいに・・・。
ま、そんな照れ屋なチャンだから自分からこうして体を密着させるなんて事は絶対無いはず・・・なんだけど。
「チャン?」
「ごーじょ〜うv」
バランスを崩して床に座り込んだオレの足の間でスリスリと頬をオレの肩口に擦りながら目を細めているチャンは・・・バリ可愛い。
普段のちょっと照れた所もいいけど、こうして甘えてくれるのも結構イイ感じでない?
自然と緩みそうになる口元を必死で堪えながらチャンの体をギュッと抱きしめた。
あの酒って結構アルコール度数高いって書いてあったもンな〜、チャン無茶苦茶酔っってんじゃン♪
邪魔者がいないのをイイ事にチャンの腰をしっかり抱き寄せて体を密着させる。
普段ならジタバタ暴れて逃げようとするのに今日は逆にオレの首にしっかり両手を巻きつけて甘えてくれるチャンがいつもの倍以上可愛く見えて、なんつーの?オレ今死んでもイイくらい幸せってカンジ♪
そんな風に幸せに浸りながら柔らかい体を抱きしめていると、視界にチャンの細い首筋が目に入った。
ついついいつもの習慣でそこへ唇を押し当てようとした瞬間、背中に悪寒が走った。
っ待て!待て待て待てっオレ!!
チャンとこんな事してんの・・・もし、もしも八戒に見つかったらどうする!?
今や自他共に認める、チャンは八戒のお気に入り。
チャンが呼べば何処からでもやって来るし、その願いは何でも叶えようとする。
そして不用意に彼女に手を出せば、見ているだけで寿命が縮まるような笑顔でこっちを見た後口にするのも恐ろしい事が起きる。
それを少し思い出しただけでぶるるっと体が震え、オレは今だ両手を首に回しているチャンを引き剥がすべく耳元で名前を呼んだ。
「チャン!酔ってンのか?」
「ん〜♪」
ホンの少しだけ体を浮かせてニコニコ楽しそうに笑いながら首を振る姿はいつも以上に幼く見えて男の保護欲を上手い具合に擽ってくれる。
ヤベェ・・・オレ、まずいかも。
そんなオレの苦悩など知ったこっちゃ無いとでも言うように、チャンは首に回していた手を解くと今度はオレの胸に腕を回してさっきと同じ様に抱きついてきた。
「・・・チャンってば、抱きつき魔・・・かよ。」
嬉しいけど嬉しくない。
他のヤツラが来ない事が分かればとっとと部屋に連れて帰ってしっかり抱きしめて、運がよければあーんな事やそーんな事だってやるのに・・・八戒のヤツが三蔵達に会ってんだよな、確か。
はぁぁ〜っとでっかいため息をつくが、チャンは今だオレから離れる様子は無い。
「こ〜ら、一旦離れろって。」
可哀想だけどオレも自分の身の安全は確保したい。
死ぬなら綺麗なおねぇちゃんの膝の上って決めてっからナ。
チャンの肩を掴んで何とかオレから引き剥がすと、さっき迄全開の笑顔だったのが急に不機嫌になった。
ま、当たり前っちゃ当たり前だけど・・・。
「何でぇ」
「あのね、八戒達が帰って来た時見られたらチャンも困るでしょ?」
とか言ってゴメンなさい、一番大切なのは我が身です。
「ううん、困んない。」
プルプルと首を振ってニコリと笑う。
・・・そだね、チャンは困る事無いかもね。
危ないのはオレの命だけだしぃ〜。
ため息をついているオレの視界に真っ直ぐ伸ばされるチャンの腕が目に入って慌てて体を後ろに引いた。
これ以上抱きつかれたらオレ、マジ自信ねぇって!!
「ごじょぉ?」
小首を傾げて不思議そうな顔でオレを見ているチャンの表情は、酔っ払ってるせいかやけにトロンとしてて・・・思わず手が伸びそうになる。
あーもー!んな可愛いカッコすんなって!!
「ごーじょーうv」
そのままの体勢でにっこり微笑まれた瞬間、オレの背後に死神が立って首元に綺麗に光る鎌が当てられた気がしたケド・・・ケド・・・・・・
「は〜い」
「えへへへ〜v」
もー矢でも鉄砲でも持って来いってんだ馬鹿野郎!!
伸ばされた手を取ってそのままグイッと引き寄せる。
こんな可愛い顔されて断れるヤツなんていねーだろうがっ!!
チャンの体が折れそうになるほど力いっぱい抱き寄せその感触を味わう。
あ〜あ、オレ明日の朝日もう拝めねぇンだろうな・・・。
そんな事考えながらも次の行為に進もうとしたオレの耳に・・・イヤ〜な音が聞こえてきた。
スースースー
まぁ〜何て規則正しい寝息・・・・・・って寝てンのかよ!!!
体を離してチャンの顔を覗き込めば、真っ赤な顔をしたままホンの少し口を開いて気持ち良さそうに眠っている。
「・・・爆睡?」
よっと体を反転さえてオレの体にチャンの体を凭れさせて頭を肩へ置く。
そのふくよかな頬を指でつつけば、まるで猫が顔を洗うかのように手で振り払いながら寝返りを打つ。
「きっもちよさそーな顔しちゃって・・・」
ホッとした様な勿体無いような・・・ヘンな感じ、だな。
チラリと扉の方を伺えば、まだ同居人が帰ってくる気配は感じられない。
そんなら今この時だけ、このまま過ごしても・・・イイよな?
アイツが帰ってくる頃には、きっとお前は向こうに帰ってる頃だろうから・・・
次にオレの顔を見て・・・チャンがどんな顔すっか、今から楽しみにしてっからナ♪
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36000hitをゲットされました ひーろ サンへ 贈呈
『悟浄に自分から抱きついて甘える』と言うリクエストで浮かんだのがこの話。別名:悟浄の受難(笑)
流石にシラフで悟浄に抱きつく度胸は無かったので酔っ払ってもらいました。
でも八戒が三蔵達と会ってなくて、暫く帰って来ないのが分かってたら絶対にこの悟浄さんは部屋にお持ち帰りしてそうですよね(苦笑)
とは言え、私の書く話なので必ず八戒がお邪魔に来ると思いますが・・・。
こんな感じで抱きついてみましたが・・・い、如何でしょうか!?
ひーろさん、リクエストありがとうございましたv
少しでも楽しんで頂けると嬉しいです!
また遊びに来て下さいねvvv