Lucky mistake?
「なぁ八戒、いつになったら町に着くんだよー。」
「そうですね・・・早くてあと半日ってとこですか・・・」
「ええぇーー!!そんなに?」
砂漠を走り始めて数時間、太陽がちょうど真上に来た頃いつものように悟空が騒ぎ始めた。
「煩い、黙れ。」
「んな事言ったって、暑いし、周り砂ばっかだし・・・退屈退屈退屈―!!」
「まぁ砂漠だから景色に変化もありませんしね。」
走っている場所が砂漠でなければ、景色の変化が見られるので多少の暇つぶしにはなる。
しかし最近ずっと砂漠地帯を走っているため、景色の変化は全くと言っていいほど見られない。
右を見ても、左を見ても、前を見ても、後ろを見ても・・・砂である。
暇がつぶせないとなると次に悟空が言う事はただ1つ。
「なぁ腹減った!」
先程から「ヒマ」「腹減った」の言葉を繰り返す悟空に悟浄は半ば呆れたように言い捨てた。
「うっせェな、何ならその辺の砂でも食ってろ!」
「え?コレ食えるの!?」
思わず車外に手を伸ばして砂を手に取ろうとする悟空を隣に座っていたが慌てて止める。
「ダメだよ悟空!そんなの食べたらお腹壊しちゃう!」
「おサルさんは丈夫だからほっとけって♪」
「またウソ言ったなぁー!!」
「オマエが勝手に信じたんだろ?」
「あっ、そうだ悟空。あたし昨日のパンまだ少しあるよ、食べる?」
この狭い車内で悟空と悟浄のケンカが始まったら確実に車内の温度は上昇する。
はカバンに入っていたパンを取り出すと悟空の前に差し出した。
「え?でも・・・食っていいの?」
「うん、どうぞ。」
「やっり〜♪イッタダキマー・・・」
「の食いもんにまで手ぇ出してんじゃねぇ!!」
今まで口を挟まなかった三蔵が、苛立たしそうに振り返り悟空の頭をハリセンで叩いた。
しかし暑さの為目測が狂ったのか、それとも遠心力によるものか・・・そのハリセンは悟浄の頭も一緒に叩いてしまったようだ。
「「・・・ってぇ〜」」
ちなみに二人の間に座っていた筈のが叩かれなかったのは、運転席の八戒が車を止めると同時にの頭を手で庇い体勢を低くさせた為だと思われる。
「三蔵もう少しのことを考えて武器を使用してください。」
「・・・そうだな。」
懐から銃を取り出すと三蔵はおもむろに弾を詰め始め、それが終ると同時に銃口を悟浄達に向けた。
「コレなら一人一発で済むからな。」
「うっわっ!この距離はカンベン!マジ当たるって!」
「わぁ〜、さんぞぉが切れたぁ〜っっ」
「煩い、死ね。」
何の躊躇いも無く銃の引き金を引く三蔵。
いつもならがいる後部座席に向かって銃を放つ事は無いのだが、やはり砂漠での異常な暑さは三蔵法師の強靭な精神をも蝕んでしまったようだ。
狭い車内に飛び交う銃弾を死ぬ気で避ける悟空と悟浄、そしてそれを追う三蔵。
そうするとどうしても二人の間に座っているは八戒に庇われながらも、時折二人に体を押し流されてしまって大人しく座っている事は出来ない。
の体を支えていた八戒の手が離れた一瞬の隙に、三蔵の攻撃から逃げていた悟空と悟浄の二人がの方へ倒れ掛かり、
そのまま将棋倒しのようにの上に乗っかってしまった。
一瞬とは言え二人の人間の体重を一気に乗せられたは思わず声を上げる。
「お・・・重い・・・」
「、ゴメン!!」
「ワリィ大丈夫か、!」
悟空、悟浄の順にの上から降りると二人とも心配そうにその顔を覗きこんだ。
大丈夫・・・と言って起き上がろうと右手をシートについた瞬間、の顔が苦痛に歪んだ。
しかしそれも一瞬の事でそれを誤魔化すかのように一つ咳払いをすると、いつものようにシートに座り直し心配そうな顔をしている二人に笑顔を見せた。
「うん、平気。」
「ゴメンな。三蔵が銃なんかぶっ放すから・・・」
「サルがの食いもん取ろうとするからオレも巻き込まれたんだろ!」
「テメェらがうろちょろするからだろうが!!」
「・・・皆さん?」
全員が同時に喋っていたはずなのに、何故か八戒の静かな声は一本の糸のようにピンと張り詰めて皆の耳に届いた。
運転席に座っていた八戒は後ろを振り向く事無く、ミラー越しに語りかけてくる。
「いい加減にしないと・・・そろそろ僕、キレますよ?」
そう言ってミラー越しに、にっこり笑った八戒の笑顔は、さっきまで気温三十五度はあったと思われる車内の空気を一気に零下迄下げるくらいの威力があった。
それから約半日。
町の入り口に到着するまで、悟空や悟浄はおろか三蔵やですら一言も口を開く事は無かった。
「ったぁ〜やっぱり捻っちゃったか・・・。」
食事が終わり同室の八戒が明日のルートを確認する為三蔵達の部屋へ行っている隙には浴室から洗面器を持ち出し、
昼間痛めてしまった手首にタオルを当てて冷やしていた。ただでさえ足手まといだから、皆に余計な心配を掛けたくなくて何事も無いように過ごしてきたが、
一人になって気が緩んでしまったのか今まで僅かな痛みしか感じなかった手首が急に熱くなり、少し動かすだけでも辛くなってしまった。
「うぅ・・・やっぱり食事の時、無理して右手使ったからかなぁ。」
突然左手で食事をする・・・なんて事をしたら勘のいい八戒は勿論、三蔵や悟浄にも気づかれてしまう。
そう考えたは皆に気づかれないよう右手を使って食事をしたが、痛む手で普通に食べられるはずも無く
今日はお腹が空いていないと言って一口ご飯を口にしただけで残りを悟空にあげてしまった。
「無理してでももう少し食べとけば良かったなぁ。」
その通り!とでも言うように、のお腹がグゥ〜ッと情けない音を出していた。
空いているもう片方の手でお腹を擦りながら溜息を付いて手首に掛けていたタオルに触れると、先程変えたばかりなのに、もう温くなってしまっていた。
もう一度タオルを水に浸して、何とか片手で水気を切ろうと洗面器のふちに押し当てて四苦八苦している所を長くて細い腕に遮られた。
「お手伝いしますよ。」
「八戒っ!?」
そこにはいつの間に部屋に戻ってきたのか、何か茶色い小さな包みを持った八戒がにっこり笑顔で立っていた。
包みを机に置くと、すぐにタオルを絞って今だ洗面器の上に放り出していたの手首にそっと掛けた。
そのさり気ない行為を見てはちらりと八戒の顔を覗き見る。
「・・・もしかして気づいてた?」
勿論それはの手首の怪我の事を示している。
「・・・えぇ。でもが一生懸命皆に心配かけまいとして頑張っていたので、僕も気づかないフリ、してました。」
そう言うと八戒は目をつぶって自分の右手をぎゅっと握りしめた。
徐々に柔らかな光が手元に集まり八戒が目を開けると同時に小さな光の球が手の平に乗っていた。
「失礼します。」
少し遠慮がちにの怪我した方の手を取ると、手首に掛けられていたタオルを水の中へ戻し、その部分へ気孔の固まりである光の球をそっと当てた。
光の球は怪我した部分を癒すかのように暫く輝き続けると、次第に小さくなって最後は空気に溶けるかのように消えてしまった。
「ごめんね。八戒も一日運転して疲れてるのに・・・」
がすまなそうに俯いたのを見て、八戒は普段皆といる時より数段穏やかな笑顔を浮かべるとの頭に手を置いた。
「これくらい大丈夫ですよ。」
そのまま机に置いた包みの方へ向うとその中身を次々机に出していく。
「ちょうど宿の前が薬局だったので湿布とか買いましたから、後で手当てしましょうね。」
「あとで?」
「久し振りに宿に泊まれて尚且つお風呂まであるんだから勿論入るでしょう?」
いつも必ず宿に泊まれるなんて事は無く勿論お風呂付の宿に泊まれる事もそうそうあるものでもない。
今回のように砂漠を抜けたりした日には髪は砂と日差しでバサバサ、体についている砂も払いきれてはいないはず。
やはり女性としてはいつでも綺麗にしていたいものである。
まして好きな男性(八戒)の前では尚更・・・。
「その手じゃ不自由でしょうから、宜しければお手伝い・・・しましょうか?」
「・・・ええっ!!」
思わずは部屋の隅まで一気に後ずさってしまった。
いくら恋人とは言え実際に想いが通じたのはつい最近・・・突然の八戒の発言にはただただ顔を赤くするだけだった。
それを見た八戒はの勘違いに気づき、苦笑しながら自分の言動を補足説明した。
「一緒にお風呂に入りましょう・・・と言う意味じゃなくて、片手じゃ髪を洗うのが大変でしょうから僕がお手伝いしますよ。
勿論は服を着ていていいですから・・・と言う事なんですが。」
「あ・・・あぁ、そういう意味・・・。」
なんて勘違いをしてしまったのか、赤くなった顔を手で仰ぎながら意味も無く頷くだった。
「でも片手でも大丈夫だよ。慣れてるから大丈夫v」
「昼間、何度も手助けしたかったんですけど何も出来なかったんです。だからせめて今、の為に何かしたいんです。」
じっと目を見つめて八戒にそう言われて断れるはずは無い。
はこくんと頷いて八戒の服の袖をきゅっと握り締めると小さな声で呟いた。
「じゃぁ・・・お願い・・・します。」
「はい。」
八戒が先に浴室に入り色々と準備をしている間には八戒の予備のシャツを借りて下着の上からそのシャツを身に着けた。
少し緊張しながら浴室の扉を開けると、ズボンの裾を折ってシャツの袖を捲った八戒がシャワーの温度を調節しているところだった。
「それじゃぁこちらに座って下さい。袖口とかは少し濡れちゃうかもしれませんが、体には絶対にかけませんから・・・」
「じゃぁ・・・お願いします。」
浴室においてある小さな丸い椅子に座ると、は頭を八戒の方へペコリと傾け髪の毛を前に流した。
「それじゃぁ髪、濡らしますね。もし温度が熱かったり、お湯が目に入ったりしたらすぐに言って下さい。」
「はい。」
八戒は細心の注意を払っての髪にシャワーの湯をあてて、今日一日の疲れを取り除くかのように優しく髪に触れた。
「大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。」
八戒はの髪を一通り濡らすと一旦シャワーを床に置いて、備え付けのシャンプーを手にしながらに声をかけた。
「それじゃぁ洗いますね。どこか痒い所があれば言って下さい。」
「はーい。」
ポンプを押してシャンプーを手の平に出すとそれをの髪になじませる様全体につけ、ゆっくり髪を泡立て始めた。
毛先から洗い始め、次に地肌をマッサージするよう僅かに力を入れると、すこしだけの体が揺れたのを見て慌てて八戒は手を引いた。
「すみません、力・・・強いですか?」
「ううん、そんな事無い!何だか気持ちよくって、私の力が抜けちゃっただけだから・・・」
顔は俯いているので見えないが、怪我をしていない手をぶんぶんと左右に振りながら答えてくれる姿がやけに可愛らしく八戒の目に映った。
「それじゃぁが眠ってしまう前に手早く済ませましょうね。一度簡単に洗って汚れを落としてからもう一度洗っておきますね。
やはり砂漠の砂が大分髪に入り込んでいるみたいですから・・・」
の髪にシャワーを当てながらこれからの手順について伝えた。
「八戒にお任せします。何だか私が洗うよりも丁寧な気がする・・・。」
「自分の髪を洗うよりも緊張しますね。の髪、思ったより柔らかいって事初めて知りました。」
「そうかなぁ・・・」
「いつも触れているのと触れていないのでは感触が違うんでしょうか?」
何気ない会話をしながら二度目のシャンプーに取り掛かる。
今度は先程と違ってすぐに泡立ち、それが髪の汚れをしっかり落とした事を示していた。
「それじゃぁ洗い流しますね。もう少し俯いて貰っていいですか?」
「これくらいでいい?」
普段は髪で隠れているうなじが露になり、八戒は自分の胸の鼓動が一瞬早くなったのを感じた。
「・・・えぇ大丈夫です。」
に気づかれないよう小さく深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、うなじにそっと手を置き襟口からお湯が入らないように気遣いながら泡を落とした。
最後にトリートメントをつけ洗い流そうとした時、ずっと頭を下げているの体を気遣ってなるべく手早く済ませようとして気が焦ったのか、
それとも手についていたトリートメントで滑ってしまったのか、シャワーを取ろうとした手がすべりシャワーの湯が思い切りの顔にかかってしまった。
「きゃっ!」
「!」
慌ててシャワーを止めると側の置いてあったバスタオルを広げての体を包み、別のタオルでお湯のかかってしまったの顔を拭いた。
「本当にすみません・・・大丈夫ですか?」
「全然平気、ちょっと驚いただけだしこの後すぐにお風呂に入るから・・・それよりも八戒は大丈夫?」
「僕は・・・大丈夫です。」
「よかったぁ八戒がびしょ濡れになっちゃったら先にお風呂に入ってもらおうと思っちゃった。」
驚いた拍子に起き上がったことにより、トリートメントしたままの髪がバスタオルの上に広がっている。
は視線を一旦空中へ向けると、目の前に立っていた八戒に顔を拭いたタオルを手渡した。
「?」
「あとは洗い流すだけだからひとりで大丈夫!なるべく早くあがるから、そしたら八戒もお風呂に入ってv」
「でも・・・」
「その代わり、あとで髪乾かすの手伝ってもらえる?ひとりじゃ・・・出来ないから・・・」
まだ何か言おうとしていた八戒はシャワーを取ろうとしていた手をゆっくり戻し、代わりに浴室のドアに手を掛けた。
「それじゃぁ僕は新しいバスタオルを宿の方に頂いてきます。その後、三蔵達の部屋に寄ってきますからゆっくり入っていてください。」
「ありがとう八戒!」
「それじゃぁごゆっくり。」
「はーい」
パタンと言う音を立てて浴室の扉は閉められた。
すぐに浴室からはシャワーの音が再び聞こえ始めたので、八戒はあらかじめ用意してあったタオルを手に部屋を出ると
そのまま壁を背によりかかり誰に言うでもなく言葉を宙に吐き出した。
「・・・まだ夜は・・・長いんですよね。」
目を閉じれば先程一瞬だけ見えてしまったの細い体が視界に焼きついている。
手には彼女の柔らかな髪の感触・・・。
そのまま廊下に座り込んでいるわけにもいかなくて、八戒は先程に言ったとおり宿の人のところで新しいタオルを貰うと、
それを部屋の洗面所へ置いてから気分が落ち着くまで三蔵達の部屋で明日の出発の準備を行った。
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3333hitをゲットされました めぐみ サンへ 贈呈
『八戒さんに髪の毛を洗ってもらう+α』と言うリクエストでした。
一応細かい設定も頂いたので、そちらを前半に入れさせて頂いて後半はメインの洗髪にしたんですが・・・如何でしたでしょうか!?
いや〜結構難しいですね、日常自分がやってる事を文章にするって・・・と思いました。
「髪の毛ってどうやって洗うっけ?」と本気で考えましたもの(笑)
何とか試行錯誤した結果こうなりましたが・・・わ、わかりますか!?(おろおろ)もう少し表現力を身につけたいなぁと思います(TT)
めぐみさん、リクエストありがとうございましたv
遅くなりましたが少しでも楽しんで頂けると嬉しいです!
また遊びに来て下さいねvvv